【バイクの歴史を振り返る】1970年代編『スーパーバイク時代の幕開け』
公開日:2023.10.03 / 最終更新日:2024.03.06
「絶版車」というくくりは非常に大きい。今も人気車種として取引され続けているモデルの多くは70年代以降に生まれたものが多いが、しかしそれより以前から国産バイクはたくさんあったのも事実だし、70年代以降も歴史は現代までつながっている。
新テーマ2回目は日本車が本格的に世界を席巻したその70年代を取り上げ、「スーパーバイク時代」を幕開けたバイクを追う。
本格的な「ナナハン」が揃い、日本車が君臨する
60年代末にはホンダがCB750フォアを発売したおかげで、日本車は一気に大型スポーツバイクの生産が本格化した。スズキは71年に2スト水冷3気筒のGT750、カワサキも500SSに続いて同年に750版の750SS(空冷)を投入。
ヤマハは1年遅れてパラツインのTX750で対抗し、これで一応各社「ナナハン」が揃った。世界はCB750フォアに続いて日本車各社が相次いでこういったモデルに着手し、その勢いに驚いたことだろう。
しかしさらにそれを決定づけたのは72年に登場した900ccの900SUPER FOUR「Z1」、そして国内ではそれの750cc版、750RS「Z2」で、CB750フォアに続いて世界的大ヒットモデルとなる。
特に900cc版は文句なしの性能と存在感で、世界最速のスポーツバイクという世界観を牽引することとなっただけでなく、750cc版は国内の様々な漫画などでも描かれ、多くのライダーを刺激したバイクである。
このZ2を研究し、さらに良いものを作ろうとスズキがかなり遅れて76年に出したのはGS750。2ストメーカーだったスズキの渾身の4ストローク車は、後出しだからこその高い完成度を誇っていた。
この頃にはヤマハも3気筒のGX750があり、カワサキに至ってはパラツインのZ750Tというバリエーションモデルまで展開。まさに「ナナハン」という言葉が席巻し、日本車は国内外の市場の興奮に支えられ大きな成長を果たした時期だった。
リッタークラスの登場
750ccを上限と定めた国内市場には、当時は今ほど逆輸入も一般的ではなったためほとんど縁のなかった話ではあるが、海外市場ではZ1に引っ張られるようにリッタークラスのモデルも多く発売された。
直列4気筒で他社の一歩先を行ったホンダは、この頃には海外でZ1の人気に押され気味だったのも事実だろう。
しかしこういった大排気量バイクでの次の一手として、スポーツ性能よりもより長距離を快適に走れるモデルの提案として、ホンダは水冷の水平対向4気筒のGL1000を74年に投入した。世の流れに対してまた違ったアプローチにチャレンジするのもホンダらしい。
しかし70年代も後半になると、スズキからはGS750の拡大版の1000、ヤマハはシャフトドライブではあったもののやはりスポーツモデルとしてXS1100と、空冷の4気筒でそれぞれのメーカーが張り合うことになっていき、結果としてGL1000は、実はスポーツバイクとしても十分な性能を併せ持ってはいたものの、異端な存在となってしまった。しかしGLはその後も進化を重ね、ツアラーとして大成していくのはご存知の通りである。
「チューメン」の登場と400ccの躍進
ナナハンが国内外で勢いを見せていた一方で、国内では大排気量車による事故や暴走族問題などから、400ccで免許制度を区切ろうという動きが起きた。
ホンダのCB350フォアやCB400フォアといったバイクがあったことがその排気量区切りである「400」という数値に繋がったかと思われる。
中型二輪免許制度(今の普通二輪免許)が施行されたのは75年のことで、これにより多くのライダーは現実的に400ccまでしか乗れないということになっていった。
当然、メーカーサイドも魅力的な400ccモデルを投入し始める。ホンダは先行して発売されていたCB400フォアが408ccだったため、免許制度に合わせた398cc版を投入。
さらにパラツインのホークシリーズの展開や、スズキは既に存在していたGT380に加え4ストのGS400、ヤマハはRD350をこの免許制度に合わせてストロークアップさせたRD400を発売したりしてこのクラスは花形となっていったのだった。
400ccクラスの人気を更に押し上げたのはカワサキが79年に発売したZ400FX。
現在も絶版車市場で大変な人気だが、このZ400FXが登場したころには既にCB400フォアはなくこのクラスはツインが主流。
そんな中改めてDOHCのインラインフォアの登場に市場はますます沸いたのだった。
80年代へと繋がる「F」の登場
70年代後半は大排気量空冷四気筒の熟成と400ccクラスの充実が進んだが、次の10年、80年代へと繋がるエポックメイキングな一台と言えば79年登場のCB750Fだろう。
セパハンやトリプルディスクブレーキ、プリロードに加え減衰力も調整できるアジャスタブルショック、そしてDOHCだけではなく4バルブというハイスペックエンジン、そして何よりもタンクからサイドカバー、テールへと繋がる「インテグレーテッド」デザインが、それまでの70年代車にはなかった新鮮さを提案し、爆発的ヒットモデルとなっていった。
「エフ」の登場は、10年前にCB750フォアがそうしたように、時代の歯車を一つ進めたと言って良いだろう。80年代はこのFを指標に始まっていくのだ。
始まった「スーパーバイク時代」
60年代の最後に登場したCB750フォアは確かに衝撃的だったが、Z1の登場もまた、世界を確かに驚かせた。海外にもこれら70年代の日本車マニアが多くいるが、そこで聞かれた言葉を紹介しよう。
「CBは新たな時代の到来のシンボル、でも本当のスーパーバイクはZ1だ。Z1の登場で欧州車は完全に突き放されたんだ」
確かにその通りだろう。CBは日本車がここまで来たのか! ということを世界に認識させただろうし、その後は耐久レースなどでも活躍し確かに定着した。
しかしZ1はさらに大衆に浸透し、ちょっとヤンチャなモデルとして大成功した。
文句のない高性能、レースにでも出られるポテンシャル、それでいて誰でも買えて誰でも乗れる……。現代へと続くスーパーバイク時代の幕開けだったのである。
主要モデルピックアップ
世界にその存在感を示し、大排気量においても確固たる地位を確立した70年代の国産車たち。
主要モデルをピックアップしつつ、ミニ試乗記もお届けしよう。
ご存知の通り、Z1と言えば絶版車のキングである。今でも色褪せることないスタイリング、そして今の目で見ても決して侮れない走りを持つことはもちろんのこと、変わらぬ人気が続いてきたことでアフターパーツ/リプロパーツが充実し、実は最も安心して走り続けられる絶版車という意味でもキングである。
専門店も多く、完調で走らせるノウハウが知れ渡り、発売から50年以上経った今でも多くのライダーを魅了し、楽しませている。
また発売当初は特に北米を意識した商品だったため、十分な排気量からくる十分なトルクと日常域での余裕を持たされたわけだが、それだけでなく1200cc程度までのボアアップにも耐えるような徹底した耐久性を持たせたことで、チューニングの楽しみやレース参戦といった「購入した後の発展性」という意味でも大いに魅力がある。
これだけ旧いモデルでも完調なものが多いのはこういった背景があるため。
完調のものに乗れば50年の月日を感じさせない感動的な乗り味を持っている。無理のないポジションと細いタイヤによるヒラヒラとした運動性、トレール量が少なくとても軽快ながら、鉄リムのホイールが重たくドッシリと路面を捕えているため、荒れた路面もものともしない万能性も備えている。エンジンは全回転域においてトルクフルで、振動を伴いながらも高回転域でも息切れせずに200km/h付近までしっかりと加速するのだから驚く。
唯一現代的な交通事情にマッチしにくいと感じるのはブレーキ性能だろうか。純正のシングルディスクでも、アフターのダブルディスクにしても、今の基準でギュッと止まるのは難しい。
のんびり走るだけでなく、現代的な感覚でワインディングも高速道路も積極的に走りたいと思うライダーはブレーキ性能だけは強化すると良いかもしれないが、逆に言えば他に不満はないはずだ。
高価なバイクではあるが、パーツ供給やショップのノウハウ的に不安なく乗り続けられる絶版車という意味でもナンバーワンのZ1(そしてZ2)。気になるなら一度は所有したい。
なおモデルチェンジ後のZ900やZ1000もいくらか雰囲気は異なるもののZワールドは健在であり、変わらず魅力的だ。
だたその後のZ1000J系となるとまた違った乗り物となるため、やはり70年代のカワサキ4気筒は独自のフィーリングがあったと思う。
現在再び人気に火が付いているZ400FXは、ライバルのホークやGS、CB400フォアに対して一回り大きいイメージがあり、19インチのフロントホイールからくるカワサキらしい大らかなハンドリングが魅力的だ。
今の感覚で乗ると「別段速くもない」とうそぶく人もいるが、普通に走っている分に遅いと感じることはなく、スムーズな4気筒はカワサキらしい全回転域トルクを持っていて回転域に関わらずスルスルと速度を載せてくれる。
特にワインディングにおいては大アップハンドルとドシッとしたハンドリングのおかげで、路面状況に関わらずズイズイと進める安心感があるのだ。また兄弟車で550が存在することもあって、カスタムを楽しむ向きも多い。
CB750フォアで4気筒の市場を切り開いたホンダは、350ccのCB350フォアを発売したものの、排気量の少なさゆえに750のような迫力がなかったためか、はたまた安定志向の車体が実用的過ぎたのかもう一つ人気を得られないでいた。
これを挽回しようと74年に登場したのが、スマートなタンクや4in1マフラーなどカフェレーサー的なデザインを纏った、CB400フォアだった。
37馬力までパワーは向上し、最高速は170キロに届いたとされる。なおサイドカバーがタンク同色なのが408ccモデル、サイドカバーが黒なのが新免許制度に対応しストロークを1.2mm減らした398モデルである。
乗るとタンクに書いてある「SUPER SPORT」は伊達ではないと実感する。
エンジンはOHCながら高回転域がとても気持ち良く回り、CB350フォアが持っていたトルク重視の特性とはまるで違う。
6速ミッションを駆使しパワーバンドを外さない走りが滅法楽しいのだ。
また足周りが純スポーツである。ストロークが短く感じるサスペンションは地面とライダーが近い感覚を生み、コーナーの切り返しなどでは高いダイレクト感を生む。
このハンドリングと操舵性がリンクした時の何とも言えない高揚感はヤミツキだ。
忘れてはならないのは空冷6気筒のCBXだ。
文中にエポックメイキングだと書いたCB750Fよりも先に出ており、吊り下げ式のエンジンや4バルブヘッドなど先鋭的なモデルだった。
なんといっても6気筒エンジン、とてもスムーズで扱いやすく、それでいて105馬力を発するのだから当然速い。
CBXというとフレーム剛性的に難がありスポーツするには難しかった、などと言われることもあるが、必ずしもそうとは感じない。
これだけ旧いバイクでは何でも同じだが、しっかりと整備がなされていれば公道で楽しく走り回るレベルには十分対応してくれるし、そこには確かなスポーツもある。
ただツアラー化した後記モデル(モノショックのタイプ)の方が、車体にしっかり感が出ているのは事実だろう。
歴史的価値で言えばもちろん前期型だが、空冷6気筒でスポーツしたい、あるいはカスタムも楽しみたいというのならば、価格的にもより手の出しやすい後期型を選ぶというのも良いように思う。
絶版車界では当然高価ではあるものの、カワサキの人気絶版車に比べればまだ良心的なイメージもある。
なんといってもこのエンジンは唯一無二なのだから。
※画像はGS400
2ストロークメーカーだったスズキは各社4スト4気筒ナナハンを展開する中で水冷のGT750で戦っていたが、これがまたGT(グランドツアラー)の名に恥じないドッシリとした乗り味を持っている。
3気筒ながらマフラーは4本出しとするなどルックスからしてもドッシリとしているが、走っても大変安定感が高く誰でも気兼ねなく走れる構成だ。それでいてハンドリングは重たくなく、ワインディングもスイスイとこなすのは素晴らしい。
そしてエンジンもまた魅力的。2ストロークはピーキーで高回転型というイメージの人もいるかもしれないが、GTのエンジンは低回転域のトルクがとても太く、2ストだからと言って神経質な部分は皆無。750と550はセルスターターも装備するなど、現代もグランドツアラーとして魅力がある。
そんなスズキが初めての4ストロークとして投入したのがGSの750と400だ。750はカワサキなどライバルを徹底的に研究し尽くして作られただけに死角なしの完成度を誇っている。
エンジンのスムーズさや素直さは後に出る4バルブのGSXにも勝るとも劣らないものを持っていて、まさに「洗練されたZ2」というイメージ。
ある意味70年代らしくないほどの完成度であり、その点でちょっとプレーンに感じてしまう人もいるかもしれない。
400もまた、750と同じフィーリングだ。本当に70年代車? と疑いたくなるほどナチュラルで、現代のスズキ車に通じる万能さを感じさせてくれる。
180°クランクのエンジンがまた常用域では力強く、高回転域では元気。現在現行車としてラインナップされているVストローム250もまた180°クランクのパラツインだが、驚くほどその雰囲気は似ているのだ。
数ある絶版車の中で誰にでも薦められる一台として、筆者は特にお気に入りである。
ヤマハはTX750というパラツインで750市場に参入したものの、世の中的には大排気量車=多気筒という雰囲気となっていた中、当時も目立たなかっただろうが現在の絶版車界の中でも少し隠れてしまっていると言えるかもしれない。
そんな中、70年に登場した名車XS650は進化を重ね、ディスクブレーキとセルがついたXS650Eへと発展した。
登場時から既に非常に洗練されていたXSにさらに利便性がプラスされたXS650E及びその後継車であるTX650は名車と呼ぶにふさわしいテイスティなモデルである。
ただ、一般的に絶版車は初期型が高価になる傾向にある中、XSに関してはセル付のEの方が高値ということもままあるようだ。
後に出るRZ350がよりスポーツにフォーカスしているのに対し、RDはどこか実用車的な付き合いやすさが残されており、排気量が大きいこともあり低回転域のトルクも豊か。
俊足と名高い350 RXの血筋なのだから、回していけば2ストらしい元気な加速も見せてくれるし、そして何よりも他社に比べて爽やかでしゃれたデザイン&カラーリングをしているというのもRDシリーズ、そしてヤマハの魅力であった。