名絶版車といえば1970年代や1980年代のアイコニックな車両が多く浮かぶかもしれないが、今や絶版車のボリュームゾーンは1990年代に移っているのは、前号・前々号の2回にわたる1990年代編でお伝えした内容からお察しいただけるだろう。

ではその後の2000年代はどうなっていったのだろうか。
最近の話のような気もするが、21世紀になったのはもう20年以上前の話である。
立派に「絶版車」と捉えうる車両も多くある。

前回記事

【バイクの歴史を振り返る】1990年代編 『熟成した技術を、多方面に活かした90年代』PART2

次回記事

【バイクの歴史を振り返る】2000年代 番外編 『80年代から続くエンジンが天寿を全う。そして新ニンジャの登場』

大きいバイクはよりハイパフォーマンスに、そしてミニバイクの充実

スーパースポーツとエイプが同時に流行る

2000年代の大きな特徴は、CBR900RRやZX-9R、そしてYZF-R1が盛り上がりを極めてきたスーパースポーツカテゴリーの本格的な開花だろう。

それまでは750ccと1100ccという二つのGSX-Rを展開していたスズキが、01年には新たなGSX-Rの系譜、GSX-R1000を投入したのだ。
170kgの重量に160馬力のエンジンは世界中に衝撃を与え、YZF-R1の登場で形成されつつあったこのカテゴリーに完全に火がついたといえよう。

これらSSモデルが各社から登場するに従い、こういったモデルをもっと日常的に乗りたいという人が現れ、カウルを剥ぎ取ってアップハンドルをつけるカスタムが流行。
これに応えるようにメーカー純正でSSモデルをプラットフォームとしたネイキッドモデル「ストリートファイター」というジャンルも出現した。

1990年代に盛り上がりを見せたビッグネイキッド群もまだまだ元気で、各社共に排気量を増大させた後継機種が登場。また90年代のムーブメントだった最高速競争もスズキとカワサキによって継続されていた。
ハヤブサに対してカワサキがZX-12RやZZR1400を投入し、ハヤブサもモデルチェンジし、そのジャンルもますます極まっていた。

大型免許が教習所で取れるようになったこともあり、大排気量バイクが一般化していた00年代だが、それは同時にバイクが高価な趣味になっていったという側面も持っていた。

その反動か、小排気量もまた盛り上がりを見せた。
モンキーなど伝統的なラインナップに加えエイプの登場がその盛り上がりのきっかけを作ったようで、90年代後半から出始めていたオシャレで魅力的な原付が注目されるように。
またもう一つのムーブメントとしては気軽に乗れてスポーツも楽しめるモタードの登場もあった。

逆に徐々に衰退していったのは400ccクラス。
趣味でバイクに乗る人は大型へと移行し、そこまでの思い入れのない人は車検の負担がない250ccまでで十分……といった空気感があったのもまた2000年代だろう。
1990年代までに比べるとライダーも二極化していったのかもしれない。

極まるスーパースポーツ

スーパースポーツの席巻は世界を巻き込んだ

1998年にヤマハのYZF-R1が登場し、それまでは誰が決めたわけでもなく900ccクラスが大排気量スポーツの定番だったのが1000ccへと移行した。
ホンダやカワサキは「え? 900で勝負しないの?」といった衝撃だっただろう。
これに応じたのがスズキで、750ccをベースとした988ccのGSX-R1000を2001年に投入。
世界中にカルチャーショックを与え、かつてCBR900RRがもたらした以来の大排気量スポーツバイクの新基準を確立した。

R1とGSX-Rがコレだけのヒットとなったため、ホンダとカワサキもライバル機種を投入。
ホンダはCBR900RRを929ccとしたCBR929RRをGSX-Rよりも1年早く登場させていたが、排気量による不利は隠せず、2002年にはさらに排気量を954ccとしたCBR954RRを投入。

カワサキは熟成を重ねてきたZX-9Rから一新、04年に175馬力も発するZX-10Rで世界を驚かせ、ホンダも同年にとうとうCBRをリッター化。この2台の登場で各社からリッターのスーパースポーツが出そろったわけだ。

この流れと並行して、ワールドスーパーバイク選手権もそれまでは4気筒は750ccとしていたレギュレーションを変更し、4気筒も1000ccまでとなったため、これらモデルはレースでも活躍を見せ、そして皮肉なことに公道で楽しむためのスポーツバイクだったものがモデルチェンジをするたびにサーキット/レースにフォーカスした変更を重ねていくことになってしまうのだ。

2000年代はGSX-Rの10年

各社のスーパースポーツがそれぞれしのぎを削り、2010年にはBMWも同じ直列4気筒のスーパースポーツS1000RRを発売するなど盛り上がりを見せたこのクラスだが、しかしその中でもGSX-Rブランドは一つの指標であり続けただろう。
R1がこのカテゴリーの出発点だったかもしれないが、本格的にこのムーブメントを牽引したのはいつもGSX-Rだったように思う。
速いというだけでなく、公道でもサーキットでも扱いやすく、またGSX-Rカップなどのレース活動が盛んだったこともあり多くの人がGSX-Rを選んでスポーツライディングを楽しんだ。

中でも05/06年モデルは今でも「名車」と名高く、現行車のGSX-S1000などもこの時のGSX-Rのエンジンをベースにしているし、BMWがS1000RRを開発するにあたり参考にしたのもまた、この年式のGSX-Rだったという。
2000年代はかつての750/1100から新たな章に突入した1000ccのGSX-Rが席巻したと言っても良いように思う。

ネイキッドはストリートファイターというニュージャンルへ

ハイパワーを日常的に使いたい

SSモデルは大変に速く楽しいわけだが、しかしストリートで乗るには幾分ハードルが高いのもまた事実。
そこでヨーロッパを中心にこれらSSモデルをカウルレス&アップハンにカスタムする「ストリートファイター化」が流行。
これを受けてか、それともメーカーもSSというハイパフォーマンスモデルをもう少しストリートで扱いやすくしようと取り組んだのか、今にも続く「ストリートファイター」あるは「ハイパーネイキッド」なるジャンルが登場したのもまた2000年代だ。

2001年にはR1ベースのエンジンを搭載したFZS1000フェーザーが登場。
ハーフカウルがついてはいたものの、143馬力のエンジンを鉄フレームに搭載したスポーティな成り立ちはそれまでのビッグネイキッド群とは違ったアプローチだった。
カワサキは2004年にZX-9R系のエンジンを搭載したZ1000を発売。
FZS以上にスパルタンで、ヒットモデルとなっていった。
この2ブランドに比べると弱いが、ホンダは2001年のホーネット900から2007年のCB1000Rへと繋げ、スズキはハヤブサのネイキッド版、B-KINGでやはりこのジャンルに参入していた。

ビッグネイキッドは完熟へ

これらストリートファイター系が浸透する一方で、ビッグネイキッドたちも熟成を重ねていた。
ホンダはX4ベースゆえにかなり大柄&重量級になっていたCB1300SFを再びスポーティにシェイプアップし、カウル付のボルドールも展開。
スズキもGSFをバンディットへと進化させ、こちらもカウル付のSモデルがメインとなり、さらには2007年には水冷化も果たす。

ただストリートファイター系が一般化したことにより、ビッグネイキッドは徐々に時代に取り残され始めていたのと、またそれぞれエンジンの基本設計が古いがゆえに各種環境規制に対応するのが難しいという問題も抱え、2000年代終盤にはその熟成度合いとは反比例するように市場のメインストリームではなくなっていっていた。

ボリス・シャンボンの衝撃とモタードの来日

オフ車にモタード仕様はつきものだった

大排気量スポーツ車が100馬力台も後半に入り、平気で300キロという速度が出るようになってきていた一方で、2000年代はスーパーモタードという競技も注目を集めていた。

1990年代後半には既にレースの世界ではオフロード車をベースにオンロード用ホイールサイズに変更した「スーパーバイカーズ」あるいは「ターミネーターズ」なる競技が行われていたが、本場ヨーロッパからスーパーモタードのスターライダー:ボリス・シャンボン選手が来日し、ハスクバーナで迫力のドリフト走行を見せた衝撃は大きかった。
にわかに「モタードってカッコイイ!」となったわけである。

これにより、モタードはそれまでの一部のレース愛好家の間でのものではなく、一般ライダーも興味を示し、1998年にはカワサキが一歩先にDトラッカーを出していたこともあってブームがスタートした。
モタードの人気が本格化する中で、ホンダもオフロード車XR250にロードタイヤを履かせたXRモタードを、スズキは400ccクラスにDRZ400SMを、さらにホンダもXR400モタードを展開。
ヤマハは2006年にはセローのモタード版XT250Xを、そして2007年に本格オフローダーWR250Rのモタード版、WR250Xも発売した。

一般ライダーがモタードライダーやモタードレースのような本格的なウイリーやスライドを習得するのは容易ではなく、そういったことをするライダーが増えたわけではないものの、ベースとなるオフ車よりも足つきが良く、ロードタイヤゆえストリートを走るには都合も良いということで、00年代はオフ車とそれのモタード版はもはやセットとして展開されていた。

ミニバイクの充実は2000年代の意外な魅力

大きな役割を果たした「エイプ」

1990年代後半には既にヤマハのYB50をオシャレにしたYB-1やスズキのK50をスクランブラーテイストに仕上げたコレダスクランブラーといった、愛くるしい原付モデルがあったのだが、2000年代に入ってもそれは続き、ホンダからはズーマーやバイト、スズキからはGS50やチョイノリ、ヤマハはスポークホイールのRZ50、そしてカワサキはかつてのKSRを4スト化したKSR110などを展開しオシャレで楽しいジャンルが形成されていった。

この原付クラスの盛り上がりはなかなかのもので、2000年代を象徴する一つのムーブメントだったとすら思える。
特に2001年に登場したエイプ及びそれの100cc版は、ストリートでもレースでも大変に愛され、走らせるだけでなくカスタムやチューニングという意味でもユーザーを楽しませショップを潤わせたモデルだった。

縦型のシンプルなエンジンと、あらゆるパーツにアクセスがしやすい車体構成など、現在の複雑化した原付と比べても「アソビ」の部分がとても大きかったエイプ。これは本当に名車だっただろう。

「絶版車元年」を考える

この「年代を追う」シリーズもこの2000年代編でひとまず一区切りとなる。
2010年代となると、もちろん今後「絶版車」としてのステータスを得て大切にされていく名車も多く生まれているものの、まだまだ元気な中古車として流通しているものがほとんどだ。

生産が中止されていればもうそれは絶版車なのか……というのは難しい議論だが、筆者が一つのガイドラインとして考えているのが、生産されてから15年経過時である。
15年落ちのバイクまでは、一般的に「中古車」としてまだまだ活躍できる状態であることが多い、という考えからだ。

逆に15年を過ぎると、タイヤやブレーキパッドといった当たり前の消耗品からもう一歩踏み込んだ整備が必要になると考える。
例えばステムベアリングやピボットベアリングのグリスが切れて、分解、清掃、場合によっては交換が必要になったりすることもあるだろう。
前後のサスペンションもOH時期となっていることも考えられる。

グリップやステップ、もしくはインシュレーターといったゴム部品も硬化が始まり、当初のタッチが失われたり、何かが漏れたりするのもこの15年経過時のあたりであることが多い。
簡単な納車整備でユーザーに渡せなくなってくる年式、ということだ。

このタイミングで、ではそれらの一般整備よりももう一歩踏み込んだ整備をして、その価格上昇分も納得してユーザーが買っていくかどうか、で、絶版車としてステータスを得ていくのか、それともどこかの倉庫で眠ったり、もしくは海外に輸出されるか、といったことの分かれ道になっていくように思う。

記事執筆時点での15年前は2009年ということになる。ここまで紹介してきた各車両はほぼみな、ステータスを得ているかどうかは別としても、絶版車として愛でてあげなければ安全に乗るのは難しくなってきている年式なのだ。
旧いバイクに乗る/維持する難しさも含めて、絶版車という楽しい世界を満喫してほしい。

ピックアップ試乗記

GSX-R1000

GSX-R1000

2001年登場のGSX-R1000は衝撃的だった。
R1で既にCBR900RRを時代遅れに感じさせるスポーツ性を持っていたが、GSX-Rはさらに「速いのに優しい」ような包容力を持っていて、スポーツバイク好きの人がそれまでの900ccクラスからスムーズに移行できたというのも魅力だっただろう。

特に初期型の01/02年モデルは海外の高速道路を法外な速度で駆け巡る動画が出回ったこともあって、その圧倒的なパフォーマンスが世界に知られ、愛されることになった。

ただこの初期型となるとさすがに旧くなっている個体が多く、各部の立て付けのガタやフォークのコーティングのすり減りなど、実物を見ると旧さを感じさせるものが多い。

03/04年型となると今でもそれなりに綺麗な個体が見られるように思う。
この型までは988ccのエンジンで、公道でのパフォーマンスを重視しているためかフレーム剛性が高いようで、高速道路でビシーッと走るにはとても気持ちが良い。

05/06年型はGSX-Rの中でも名車と名高い年式。排気量もフルサイズになり、車体もしなやかになり、サーキットでもポンとタイムが出るライダーが多かった。今に続くスーパースポーツモデルの一つのマイルストーンだろう。

筆者は2004年型でレース出場の経験から、今絶版GSX-Rを買うなら敢えて思い入れがありかつフレームもビシッとした2004年型を選びたいが、特に思い入れがないのならば05/06年型を入手するのが正しい絶版GSX-Rの楽しみ方だろう。

CBR954RR

CBR954RR

1000cc化が他車に遅れた感のあるホンダは、CBR900RRを排気量929、954と微増していった。
語られることは多くないが、929はフロントをそれまでの16インチから17インチに換え、倒立フォークも採用。
インジェクション化し、パワーも150馬力へと一気にアップした大きなチェンジだった。

しかもピボットレスフレームを採用したことによりしなやかな運動性を持っていて、特に公道で乗るにはとても接しやすいモデルだ。
また929までは逆輸入車しか存在しないため、購入時に「フルパワーですか? 国内ベースのセミフルパワーですか? 逆車ですか??」といった確認が必要ないのが良い。

954は、ファイヤーブレードシリーズを最初から開発してきた名エンジニア、馬場さんが関わった最後のファイヤーブレードとして価値のあるものだろう。
軽さにこだわった馬場さんは954でとうとう乾燥重量168kgを達成。今でもファイヤーブレードシリーズ最軽量の数値である。
それでいてタンデムシート下には小物入れを確保するなど、あくまで公道で乗るためのスポーツバイクであることを貫き通したのである。

954は国内仕様が存在するため、購入時にはその車両がどのようなものなのかを良く良く把握しておきたいが、ファイヤーブレードシリーズの中でも所有する価値のある一台だと思う。

ZX-10R

ZX-10R

ZX-9Rが大変に良いオールラウンダーであり、公道で活きるトルキーな特性を持っているところなどとてもカワサキらしいモデルだと思っていたのに対し、ZX-10Rはもっとガムシャラにパフォーマンスを求めたバイクというイメージだ。
ZX-9Rに比べると硬質なエンジンフィールやヤル気のポジションなど、かなりスパルタンなイメージだし、エンジンは本当に速く、ZX-9Rからは完全に次世代のユニットに進化したと感じさせられた。

4メーカー中最後発だったということもあってカワサキはかなり気合を入れたのだろう。
ラム圧がかかったフルブーストでは185馬力を発するとされ、少なくとも公道で乗った感覚ではCBR954やR1よりも一回り速く感じられた。

今見るとルックスも絶妙に渋く、今こそこの初期型テンアールに乗るのはカッコ良く思う。

Z1000

Z1000

登場はFZSよりも後だが、ストリートファイターの始発点/代名詞的にとらえられることの多いZ1000。ZX-9R系のエンジンを搭載し、ネイキッドスタイルらしい扱いやすさが与えられつつ、さらにカウルが無くては厳しい最高速も涼しい顔で達成する実力を持つ。
03年の初期型は特にじゃじゃ馬とされ、また4本出しのマフラーなどルックス的に特徴的で面白い。絶版車的な面白さで選ぶならばこの初期型がいいだろうが、07年にモデルチェンジした2型は洗練されていて非常に扱いやすい。手放して褒め、かつ薦められる「良いバイク」である。排気量を感じさせない優しさがあり、それでいてその気になれば非常に速い。「何か良いバイクないかなー」と探している人に真っ先に挙げる一台だ。

エイプ

エイプ100

2000年代にはエイプが本当に溢れていた。みんなどこに行ってしまったのだろう……。
筆者ものべ3台所有したが、とにかく気軽に乗れ、気軽にイジッて、可愛らしい姿はステッカーでも貼って愛でるのに最高だった。

ミニバイクコースに持っていけばタイムに関係なく楽しくかつその気になれば本格的にスポーツもでき……そういえば耐久レースにも参加したっけ。
何にでも使える、楽しいミニバイクという意味では今のグロム以上の資質を感じる。

ただバッテリーレスであるため、夜の幹線道路でエンストすると追突される危険があったことや、転倒するとフォークを保持する三つ又がねじれたり、ハンドルストッパーがいとも簡単にとれてしまったりといったこともあり、割とベーシックな作りであったことは否めない。
走りを積極的に楽しもうと思うと、前後のドラムブレーキも心許なかったが、それは後の前後ディスク装備のタイプDや、バリエーション機種のXR100モタードを選べば済むことだ。

エイプは絶版車という感じではないだろう。15年以上が経過していても、あくまで中古車として遊び倒したい乗り物だ。

筆者プロフィール

ノア セレン

絶版車雑誌最大手「ミスターバイクBG」編集部員を経た、フリーランスジャーナリスト。現在も日々絶版車に触れ、現代の目で旧車の魅力を発信する。
青春は90~00年代で、最近になってXJR400カスタムに取り組んだことも! 現在の愛車は油冷バンディット1200。