ネジやボルトやナットは部品同士をつなぎ合わせる締結素材として多用されています。
ドライバーやスパナ、メガネレンチやソケットレンチなどで回して締めたり緩めたりしますが、さまざまな理由で“ナメて”しまうことがあります。
メンテナンス作業中にプラスネジの十字溝が潰れたり六角ボルトの角がナメると、工具が掛からずまさに絶体絶命。

本記事ではナメたネジの回し方や、そもそもなぜネジをなめるのか、ナメずに作業するにはどのような点に注意すれば良いのかも含めて解説します。

ネジやボルトが“ナメる”とはどういうこと?

ネジやボルトやナットはあらゆる製品を組み立てる際に欠かせない固着具であり、日用品から工業製品、航空宇宙産業に至るまで世界中で使用されています。
素材同士を恒久的につなぎ合わせる溶接と違って、ネジやボルトで締結された部品は必要に応じて分解や取り外しできるのが特長で、メンテナンスが必要な部品の固定で重宝されています。

そんなネジやボルトは世界中で誰もが使えるよう、ドライバーやスパナ、メガネレンチやソケットレンチといった汎用工具で回せるよう規格化されているためネジに適合した工具を使用すれば着脱できます。

しかし、場合によっては工具が掛からず回せなくなることもありこれを“ネジをなめた”と表現します。
具体的には
「プラスネジの十字溝が摩耗してドライバーが掛からず回せない」
「ボルトやナットの六角部の頂点が摩耗して丸くなりスパナやメガネレンチが掛からない」
といった状態を指します。
ボルトにはヘキサゴンレンチで回す六角穴付きボルト=キャップボルトもありますが、この場合も六角穴の角が丸くなってレンチが掛からなければ“ナメた”状態となります。
ネジもボルトも一度ナメてしまうと緩めることも締めることもできなくなるため、その理由を考察してナメないようにする事前の対策が重要です。

錆びたボルトの頭がナメた例。各頂点が丸く摩耗しているのが分かる。

ネジがナメる原因を知ればナメないための対策ができる

ネジやボルトは回す工具の選択と使用方法を誤らなければ、本来そう簡単にナメることはありません。
それにも関わらず十字溝が潰れたり六角頭の角が落ちてしまうには相応の理由と必然性があります。
ここではそれらをいくつかの観点から解説します。

ネジやボルトの汚れやサビ

プラスネジの十字溝に泥が詰まったままプラスドライバーを当てても、十字溝とプラスビットが密着しません。
キャップボルトの六角穴が錆びたり汚れが詰まっていても同様で、ヘキサゴンレンチが六角穴の奥まで到達せず掛かりが浅くなります。

サビによるネジ山の固着

ネジやボルトの頭だけでなく、雄ネジと雌ネジそのものが錆びて固着していると通常の緩めトルクでは回らず、工具に無理な力を加えることでネジやボルトをナメる原因となります。
力が過大な場合、ネジやボルトの頭だけが折れてしまうこともあります。

工具サイズの選定ミス

二面幅10mmのボルトやナットには10mmのスパナやメガネレンチしか合わないように、ボルトを回す際にレンチのサイズを誤ることは少ないでしょう。
10mmのボルトに11mmのスパナを当てると隙間が大きいながら回せそうな雰囲気もありますが、ガタが大きいと感じたら1サイズ下のスパナを当ててみればどちらが正解か分かるはずです。

これに対して、プラスネジとプラスドライバーの組み合わせでは選定ミスによる十字溝のナメが発生しがちです。
プラスドライバーの先端(ビット)には1~3番(一部4もあります)と呼ばれるサイズがあります。
このサイズはボルトやナットにおける二面幅の距離といった寸法とは異なります。
そしてプラスネジの十字溝もまた1~3番に相当するサイズ違いがあり、1の十字溝には1番のドライバー、3番の十字溝には3番のドライバーを使用するのが大原則です。

十字溝をナメるトラブルは、十字溝に対してビットが小さなドライバーを使用した場合。例えば3番相当の十字溝を2番のドライバーで回そうとした時に発生しがちです。

グリップのPH1、PH2、PH3がプラスドライバーのビットサイズを示す表記となる。
3番のプラスネジに3番のドライバーを当てるとぴったりフィットする。
2番のドライバーでも回せなくはないが、十字溝に対して遊びが大きくナメやすくなる。

プラスネジならではの「カムアウト」

プラスネジの十字溝とプラスドライバーのビットは、噛み合わせをスムーズにするため互いに先端が細いテーパー形状となっています。
これは二面幅が平行なボルトやキャップボルトとは異なる形状です。

このテーパー形状ゆえ、プラスビスとドライバーとの間に発生するのが「カムアウト」という現象です。
これは十字溝に接したビットが、回転と共にテーパーに沿って溝から浮き上がろうとする(離れようとする)作用です。

ビット先端にさまざまな表面処理を行って浮き上がりを抑制している工具ブランドもありますが、テーパー形状である以上カムアウトを完全に防止することはできず、十字溝とビットの噛み合いが浅くなって状態で回転トルクを加えることで、十字溝がナメる原因となります。

強いトルクで締まったボルトやナットをスパナで回そうとした

ボルトやナットを緩める工具の代表であるスパナとメガネレンチの決定的な違いは「接点の数」です。
メガネレンチは六角ボルトの頂点6カ所に接しますが、スパナとボルトは2カ所でしか触れていないのです。

スパナはボルトやナットの対向した二辺に接していると思われがちですが、両者の間には適切な隙間があり、スパナに力を加えると実際の接点は2点となります。

そのため、メガネレンチとスパナを同じ力で回すと、接点の数が3分の1のスパナとボルトの接触部分にはメガネレンチの3倍の力が加わり、トルクが大きくなるほどボルトの角部が摩耗する傾向が高まります。

ナメないために注意すべきポイント

たかがネジを回すぐらいで……と思うかもしれませんが、構造や特性を知らずに作業すると、思わぬところで十字溝や六角頭をナメて痛い目に遭う場合もあります。
そうしたトラブルを防ぐためにはどのようなことに注意すべきなのでしょうか。

サビや汚れはあらかじめ除去しておく

「外したネジはどうせ新品に交換するから」と汚れやサビが付いたまま外そうとせず、ワイヤーブラシなどで取り除くことで工具の滑りがなくなりナメるリスクが低減します。

錆びたネジやボルトには浸透潤滑剤をスプレーしておく

雄ネジと雌ネジがサビで固着しているネジはフリクションが増大してナメやすいので、緩める前に浸透潤滑剤をたっぷりスプレーしておきましょう。
スプレーした部分を一気に冷却して温度差によって雄ネジと雌ネジに隙間を作りそこに潤滑成分を浸透させる製品もあるので、こうしたケミカルも有効です。

ボルトやナットを緩める際はあらかじめ浸透潤滑剤をスプレーしておこう。

プラスドライバーはネジにしっかり押しつけながら回す

プラスネジとドライバービットの間に発生するカムアウトを防ぐには、ドライバーをネジにしっかり押しつけるのが有効です。
感覚的には、10の力のうち7~8を押しつけに、3~2を回転に分配するとビットの浮き上がりを抑止できます。

グリップ後部に手を当てて、ドライバー全体をプラスネジに押しつけるよう意識しながら回す。

緩めトルクは一気に加える

ネジでもボルトでも、緩める際に長い時間をかけて工具にジワジワと力を加えるとナメるリスクが高まります。
これを防ぐにはドライバーやメガネレンチを回す瞬間にグッと力を加えることが有効です。
一気に力を加えるという点では、緩め作業にインパクトレンチを使うのも効果的です。

締め作業はオーバートルクを慎む

ボルトやネジを締める際、緩みを避けたいばかりに力一杯締め付けるとネジをナメたり、次に緩める際にナメる原因となります。
締め付けトルクはボルトサイズ(太さ)によって目安があるので、過大な力で締めないようにしましょう。

諦めるのはまだ早い。ナメたネジの対処方法を紹介

ネジやボルトを回す際の注意ポイントを頭に入れたつもりでもうっかりナメてしまったり、すでにナメそうになっているボルトを無事に取り外すにはいくつかの方法があります。
焦ったり慌てたりすることなく状況を観察して適切な手段でネジを回すことが重要です。

工具とネジの隙間にゴムやウエスを挟み込む(ネジ・ボルト両方)

プラスネジの十字溝やボルトの角部が完全にナメきっておらずガタがありながらも工具が掛かるようなら、ネジと工具の間に輪ゴムやウエスを挟むことでガタが減って摩擦が増えるためネジが回る可能性があります。

工具とネジの間に輪ゴムやウエスを挟むことで摩擦が増えて、ナメたボルトが緩みやすくなる。

プラスネジの十字溝をハンマーで叩く(ネジ)

プラスネジがカムアウトでナメる過程で、変形した十字溝が残っているうちにネジの頭をハンマーで叩くことで溝を復元できる場合があります。
頭部が平らなサラネジの場合、平ポンチやT型ハンドルの柄などを使うと狭い範囲で修正できます。

サラネジがナメそうな場合、T型ハンドルの柄などで上面を叩くことで十字溝を修正できる場合がある。

ショックドライバーを使用する(ネジ・ボルト両方)

プラスネジを緩める際に重要な押す力に特化した工具がショックドライバーです。
カム構造を内蔵したグリップ後端をハンマーで打撃することで、ビットに瞬間的に大きな回転力が発生します。
一般的なドライバーで緩む気がしないネジに対して十字溝が完全にナメる前に使用します。
ピットは交換式で、ソケットが差し込めるアダプターが付いた製品もあります。

グリップに左回りの力を加えながらネジに押し当て、後部を力強くハンマーで打撃することでビットに強い緩み方向の力が発生するのがショックドライバーの特徴。

ロッキングプライヤーを使用する(ネジ・ボルト両方)

ネジやボルトを掴むアゴ部分を強力にロックすることで回す作業だけに集中できるのがロッキングプライヤーの特長です。
一般的なプライヤーできつく締まったボルトを回そうとすると、どうしてもグリップが開いてしまいますが、これならガッチリロックして回すことができます。

ナメたボルトやネジだけでなく、組み立てや溶接などで部品を保持する際に重宝するつかみ工具だ。
アゴの先端につかみ部分があり、プライヤーを立てて使える製品もある。

エキストラクターを使用する(ネジ)

ネジの周囲に他の部品などがあってロッキングプライヤーが使えない場面で、ネジの頭に食い込ませて回すのがエキストラクターと呼ばれる工具です。
テーパー形状の先端部分のらせんは左回りで食い込む逆ネジ形状で、ネジの中心にドリルで明けた下穴に挿入して左に回すことでネジに食い込み、ネジ自体が左に回って抜けてきます。
これは六角穴がナメたキャップボルトを抜き取る作業でも使用できます。

エキストラクターを使用する際はビットの太さに応じた下穴をドリルで明ける。
左ねじのエキストラクターを締め付けると、エキストラクターがボルトに食いつくと同時に緩み始める。
六角穴をナメたボタンヘッドのキャップボルトを取り外すことができた。

特殊ソケットを使用する(ボルト)

六角頭のボルトの角部が丸くナメてメガネレンチもソケットも引っ掛からず、ロッキングプライヤーも使いづらい場面で役に立つのがナメたボルトやナット専用の特殊ソケットです。
このソケットは内面がらせん形状や鋭いエッジ形状となっていて、ボルトやナットに叩き込んで食い込ませて使用します。
螺旋形状は左に回すほど強く食い込むようデザインされているので、ナメたボルトに有効です

六角形の各辺から板が突き出したような特殊なソケットは、ナメたボルトに食い込ませるようにして使用する。
ハンマーでボルトやナットに叩き込む。
開口部がボルトに食い込むようらせん形状にデザインされたソケットもある。(右)

ネジやボルトはナメるとやっかい。ナメる前の工具選びや作業手順が重要

プラスネジの十字溝やボルトの頭は緩め作業でナメることが多く、ほんの僅か気の緩みや手抜きが取り返しのつかないトラブルにつながります。
ナメたネジやボルトは再使用することなく破壊してでも抜けば良いのですが、それ以前にナメないことが重要です。

プラスネジは構造上カムアウトが必ず発生すること、スパナとメガネレンチでは接触部分に掛かる力が異なることなど、普段から使用している工具の特性を理解することで注意すべきポイントが明確になるはずです。

ネジやボルトを緩める際は
「正しい工具を選択し」
「力の加え方を意識し」
「適正トルクで一気に緩める」
ことを意識しながら、必要に応じて浸透潤滑剤などを併用しましょう。

また、「このまま無理をすればナメそうだ」と勘が働いたときは強行しようとせず、一旦立ち止まって挽回できる方法を考えることも重要です。
ドライバーをネジに当てて力を加えて、簡単に緩みそうもなければ使用する工具をショックドライバーに変更するのも有効です。

残念なことに一度ナメたネジやボルトは元には戻りません。
ナメたネジを緩めるにはいくつもの方法があるので、ネジの場所や工具と相談して最適なやり方で取り外しましょう。

筆者プロフィール

栗田晃

バイク雑誌編集・制作・写真撮影・動画撮影・web媒体での記事執筆などを行うフリーランスライター。現在はサンデーメカニック向けのバイクいじり雑誌「モトメカニック」の編集スタッフとして活動中。1976年式カワサキKZ900LTDをはじめ絶版車を数台所有する一方で、現行車にも興味津々。