加速や減速、コーナリングなど、バイクのすべての動きを路面に伝えているのが前後のタイヤです。
オンやオフ、スーパースポーツやビジネスモデルなどカテゴリーや車種によって使用されるタイヤの特徴や個性はあるものの、最も重要なパーツのひとつであることは間違いなく、その性能を最大限に発揮させるには定期的なメンテナンスが必要です。
本記事ではタイヤ管理の基本である空気圧について解説します。

バイクのタイヤの空気圧とは

バイクのタイヤにはチューブタイヤとチューブレスタイヤの2種類があり、どちらもタイヤの内部に空気が入っています。ゴムであるタイヤの内部に大気圧より高い空気を注入することで、車両の重量を支えたり路面からの衝撃を緩和しています。

バイク用タイヤの場合、一般的に路面の接触面積はわずか名刺一枚分程度とされており、内部の空気に支えられたタイヤの適度な弾性変形が駆動力や制動力、コーナリング時のバイクの向き変えにも重要な役割を果たしています。

もしバイクのタイヤが、荷物を運ぶ台車のキャスターに使用されているような空気の入っていないソリッドゴムだったら、サスペンションがあったとしても路面からのショックがダイレクトに伝わり、駆動力や制動力もまったく期待できないでしょう。

タイヤの空気圧は、かつてはkg/cm²という単位で表示されていましたが、1999年に計量法が改正されて以降は国際単位のkPa(キロパスカル)が世界標準となっています。
ただし日常生活ではPSiやbarといった単位系も引き続き使われているため、後述する空気圧測定の場面では複数の単位が併記されることもあります。

走行中に道路上の釘や異物を踏んでパンクした経験のあるライダーなら分かると思いますが、タイヤの空気圧が低下すると操縦性や乗り心地が顕著に変化します。
しかしタイヤの空気は一気に抜けるだけでなく、自然に抜けていくという特性もあります。
一般財団法人 日本自動車タイヤ協会JATMA調べのデータによれば、タイヤの空気圧は1か月で5%ほど低下すると言われています。
空気圧は高すぎても低すぎても悪影響が生じるため、常に適正値に管理することが重要です。

適正な空気圧とは

タイヤにとって空気圧が重要なのは前記の通りですが、適正値は車種ごとに異なりバイクメーカーが車両性能とタイヤ性能を考慮した上で指定圧を決めています。

指定空気圧はスイングアームやチェーンガードにステッカーが貼ってあることが多く、車種によっては1名乗車時と2名乗車時で異なる空気圧(2名乗車時は後輪の空気圧が高く設定されている)が表示されている場合もあります。

もし車体にステッカーがない場合は、取扱説明書やサービスマニュアル、バイクメーカーのホームページなどで確認して把握しておきましょう。

空気圧の確認方法

タイヤの空気圧はエアゲージと呼ばれる工具で測定します。
エアゲージには測定専用タイプと、測定と充塡が可能なタイプがあります。
後者はエアコンプレッサーに接続して使用するタイプなので、自宅やガレージにコンプレッサーがあることが条件となりますが、空気圧チェックと調整を小まめに行う際には重宝します。

エアゲージの価格は1000円以下で購入できるものから1万円を超える物までピンキリです。
価格だけに吊られて安価なノーブランド品に手を出すと測定値が信用できないこともあるので注意が必要です。

また、エアゲージは測定可能な最大圧力によって自動車やトラックまで測定できる製品と、主に乗用車やバイクを対象とした製品に分類できます。
前者は最大1000kPa以上の圧力まで測定できる半面、最大でも300kPa程度のバイク用タイヤの測定時に指針が読みづらいと面があります。
一方後者は最大600kPa程度であることが多いため、200~300kPa程度の圧力が読み取りやすく、微調整がしやすい利点があります。
そのため、エアゲージを購入する際には最大圧力を確認することをおすすめします。

空気圧が低すぎるとどうなる?

ゴムの分子に比べて空気の分子は非常に小さいため、パンクやエアバルブの損傷といったトラブルがなくても、タイヤ内部の空気は自然に抜けていきます。
時間の経過と共に徐々に空気圧が低下する場合、ライダーが気づきづらい面もありますが、さまざまなリスクが高まるため注意が必要です。

トラブルリスクが高まる

直進走行時とコーナリング時では形状が変化するものの、タイヤはホイールリムとタイヤ内面の空間の空気によって形状が保たれています。
そのため空気圧が低下して内部空間の支えを失うとタイヤ本体の変形が大きくなり、大きな変形が継続することで過大な発熱につながりパンクやバーストのリスクが高まります。

偏摩耗が発生しやすくなる

前後タイヤと路面の接地面積は名刺一枚分程度しかないことは先に述べた通りで、バイク用タイヤはそれを前提に直進時とコーナリング時で接地面積が大きく変化しないよう設計されています。
そのため空気圧が低下すると、設計時に想定しない本来とは異なる部分が接地することでトレッド面の偏摩耗が進行してしまいます。

燃費が悪くなる傾向にある

空気圧が低下して接地面積が増えれば抵抗になり、その抵抗に打ち勝って走行することでエンジンの負荷が大きくなり燃費悪化の要因になります。
小排気量車に比べてエンジンパワーが大きいビッグバイクは負荷の増加に気がつきづらい側面がありますが、同じ速度を維持するためにスロットル開度が大きくなればガソリン消費量も増加します。

取り回しが重くなる

ビッグバイクで顕著に分かるのが押し歩き時の取り回しの重さの増加です。
空気圧が低下して潰れたタイヤは動き出しが重くなるため、まっすぐ押し歩くだけでも余計な力が必要ですが、駐車場で向きを変える際などにハンドルを切って押すと、接地面積の多さが抵抗となっていっそう重さを感じるようになります。

空気圧が高すぎるとどうなる?

空気圧が低いとさまざまなトラブルの要因になりますが、逆に高すぎてもリスクがあります。
時間の経過と共に自然と空気が抜けるのは避けられませんが、だからといってそれを見越して多めに入れておくというのは、タイヤ性能をスポイルする原因となるため避けましょう。

グリップ力の低下

空気圧を既定値より高めることでタイヤは変形しづらくなり、接地面積は少なくなっていきます。
空気圧が低下して接地面積が増えると単位面積あたりの荷重が低下するデメリットがありますが、逆に空気圧が高すぎると接地面積自体が減少してグリップ力の低下につながります。

制動距離が伸びる

空気圧が高いとトレッド面の変形も少なくなるため、ブレーキを掛けた際にタイヤが潰れず接地面積が増えないため制動距離が長くなります。
また、タイヤが潰れず早期にロックすればABSが作動し、それもまた制動距離増加につながります。

衝撃吸収性能の低下

空気圧が高くなると外部から受けた衝撃を和らげる働きが低下します。
空気は目に見えませんが、タイヤ内部で剛体となることで衝撃吸収性が低下してサスペンションの突き上げが大きくなり乗り心地の悪化につながります。

空気圧のメンテナンス方法

パンクしていなくても自然に減少していくタイヤの空気圧のメンテナンス項目は、「測定」と「充塡」の2点です。
空気の体積は温度によって増減するため、メンテナンスは冷間時に行うのが基本です。
出先でメンテナンスする場合は、そこまでの移動や測定タイミングを配慮することで、温度上昇の影響を緩和できることもあります。

自宅

エアゲージがあれば自宅で空気圧を測定できます。さらにエアコンプレッサーがあれば充塡も可能です。
エアコンプレッサーは設置場所が必要なので誰もが所有できるとは限りませんが、最近では充電池で作動する携帯タイプのポンプも普及しています。
それらの中にはエアゲージを備え、あらかじめ充塡圧力をプリセットできる製品もあるので、そうしたポンプを購入すれば指定空気圧を確認する手間も省略できます。

バイク販売店やバイク用品店

バイクを購入した店舗でスタッフに一声掛ければ、ドライブチェーンのたわみ確認などと合わせてタイヤの空気圧調整を行ってくれることも多いでしょう。

また購入店以外のバイク販売店やバイク用品店であっても、バイク用のエアゲージを無料で貸し出ししているところが多いです。
その場合、エアゲージを使った測定や充塡は自分で行う事が多いですが、バイク販売店やバイク用品店のスタッフはバイクに関する知識を持っていることがほとんどなので、分からないことがあっても気軽に聞ける安心感があります。

そのため自分で空気圧調整を行うのであれば、最初のうちはバイク用品店やバイク販売店で行い、その後ガソリンスタンドに行くのがおすすめです。

ガソリンスタンド

セルフ式でもフルサービス式でも、ガソリンスタンドは多くの店舗にユーザーが使用できるエアゲージが備えてあります。
ただし、エアホース先端のチャックが自動車用エアバルブに対応したストレートタイプであることが多く、その場合はバイクのタイヤには使いにくい(前輪ならブレーキローター、後輪ならドライブチェーンやブレーキローターに干渉しがち)面もあります。
同様の理由から、バイクでのエアゲージの使用を禁止しているガソリンスタンドもあります。

バイクでの使用が可能で、なおかつ自動車用エアチャックが使いづらいと言う問題を解消するために便利なのが、コンパクトなL字型のエクステンションです。
これをバイクのエアバルブに装着することで、ストレートタイプのエアチャックでも空気圧測定や充塡が楽にできるようになります。

なお、セルフスタンドでは夜間スタッフがいない時間、可搬式エアゲージは事務所内などに収納されている場合もあるので、初めて利用する際はスタッフが居る時間帯に行くのがおすすめです。
またガソリンスタンドによって方針は異なりますが、給油をせずに空気圧調整だけ行うのはマナー的に良くないという声もあります。
給油とセットで行えば問題ありませんが、その際もスタッフにバイクで利用して良いかどうか確認してから作業するのが良いでしょう。

タイヤ空気圧センサーの使用がおすすめ

1か月に一度、エアゲージで測定するだけでは不安というライダーには、エアバルブキャップ部分に取り付けるタイヤ空気圧センサーがおすすめです。
これを使用すれば冷間時と温間時の空気圧の差が分かり、車体に装着できるスマートモニターが空気圧センサー対応タイプなら空気圧が急激に低回するパンクなどのアクシデントも走行中に把握できます。

窒素

酸素よりも分子量が大きい窒素はゴムの透過率が低いため空気が抜けにくく、タイヤ内部温度変化による圧力変化も少ないというメリットがあります。
そのため長期間に渡りタイヤ性能を維持でき、さらに酸素に比べて酸化しづらいためホイールが錆びづらいという利点もあります。
ただし通常の空気に比べて、バイク販売店やバイク用品店で充塡する際に費用が発生し、窒素といえども徐々に抜けていくため過信は禁物です。

空気圧のメンテナンスタイミング

コンプレッサーやエアゲージ、あるいはポータブルタイプのポンプを所有していたとしても、毎日のように空気圧測定を行うほど神経質になる必要はありません。
とはいえ、気がついたら3か月過ぎていた……というのでは宝の持ち腐れです。
空気圧のメンテナンスをいつ、どのタイミングで行うのが良いかいくつか事例を挙げるので、取り入れやすいもので習慣づけると良いでしょう。

タイヤが冷えている状態で行う

空気圧測定は走行前、タイヤが冷えた状態で行うのが前提です。
気温5℃と35℃では厳密にいえばタイヤ内圧は異なりますが、走行時の路面との摩擦やゴムの変形による発熱による温度変化よりは影響が小さいので、走行前に行うことを意識すれば大丈夫です。
ただ、走行前といっても、真夏の炎天下に屋外に置いた場合は空気圧が相当上昇することも考えられるので、日陰に置くなどの配慮をした方が良いでしょう。

走行後にチェックを行う場合は、車両停止後に充分に時間を空けてから測定するようにしましょう。
ガソリンスタンドを利用する際は自宅の最寄りのスタンドまでゆっくり走行する、バイク用品店のエアゲージを借りる際は来店直後ではなく、帰宅直前に測定することでほんの僅かでも温度の影響を軽減できます。

高速道路を走行をする前

空気圧が極端に低くタイヤが大きくたわむような状態で高速走行を続けると、操縦安定性が悪く違和感があるだけでなく、変形による発熱を原因としたパンクやバーストを引き起こすリスクがあります。
より重大な事態につながるのは後者で、高速道路走行前の空気圧チェックが最善の予防策となります。
高速道路を利用してツーリングを行う際は、前日までに空気圧の測定と充塡、トレッド面に異物が突き刺さっていないことを確認しておきましょう。

定期的に行う

ツーリングなどのイベント前とは別に、「この前空気圧のメンテナンスをしたのはいつだっけ?」を忘れてしまわないために、月初や月末など日程を決めて定期的にメンテナンスを行うのも有効です。
ガソリンスタンドのエアゲージを借りる場合も、その月の最初か最後の給油と合わせて行うことで、何ヶ月もノーチェックだった……という事態を避けられます。

1か月で5%ほど低下することを考慮すれば、通勤・通学などでほぼ毎日乗る場合は2週間に1回、休日しか乗らないという場合でも最低でも月に1回は調整する事が理想的です。

季節が変わるタイミングに注意

意外に思うかもしれませんが、空気圧の変化と空気中の水分(湿度)にも関連があります。
湿度の高い夏場は乾燥した冬場に比べて、タイヤの温度が上昇すると空気圧の変動がより大きくなる傾向にあります。

夏から秋や冬にかけて気温が下がったタイミングで調整を行うのがおすすめですが、空気中の水分に注目するのであれば、成分中にほとんど水分を含まない窒素ガスを利用するのも有効と考えられます。

ただし前提としては、上記も考慮し最低でも月に1回は空気圧の調整を行うことが重要です。

タンデム(2人乗り)を行う際

タンデム走行時は単純に後輪への荷重が大きくなります。
車種によっては1人乗車時と2人乗車時で適正空気圧が異なることもありますが、その場合は後輪の空気圧を高くするのが一般的です。
スイングアームやチェーンガードのステッカーにタンデム時の指定空気圧について記載があれば、それに従って充塡を行いましょう。

空気圧の減りが早い場合

エアゲージで適正空気圧に合わせても不自然に減りが早い場合、タイヤやホイール、エアバルブにまつわる故障やトラブルが原因となっている可能性があります。
その場合は早めにバイク販売店やバイク用品店で点検を依頼しましょう。

以下、空気圧減少の原因として多い状況を列挙します。

タイヤのパンク

最も疑わしいのは異物が刺さることによるパンクです。
チューブタイヤの場合、チューブに穴が空くと一気に空気が抜けてしまうので原因は明白ですが、チューブレスタイヤは刺さった異物が取れるまで勢いよく漏れないこともあります。

タイヤのひび割れ

主に経年劣化によってトレッドやサイドウォールがひび割れると、その部分のゴムの厚みが減少するので内部の空気が漏れやすくなります。
ひび割れた状態ではタイヤ自体の強度が低下するため、早急な交換が必要です。

バルブコア(ムシ)の劣化・破損

チューブレスタイヤもチューブタイヤも、タイヤバルブの内部にムシと呼ばれるバルブコアが内蔵されています。
バルブコアはエアを充塡する際は開き、タイヤ内部の空気は外に漏らさない一方通行の弁ですが、劣化や破損で閉じなくなると、徐々に空気漏れが発生するようになります。

ホイールとタイヤに隙間が空いている

チューブレスタイヤはビード部がホイールリムに密着することでタイヤ内部の空気を密封しています。
リムに傷が付いていたり、古いタイヤのビードゴムがリムに付着したまま新たなタイヤを組み付けると両者が密着せず空気が漏れることがあります。

ホイールの変形

上記と同様の原因として、段差などに衝突した際にリムを強く打ったことで変形し、タイヤのビード部がリム全体に密着していないため空気が漏れることがあります。

定期的な空気圧チェックでタイヤ性能を引き出そう

車種によって幅や直径はまちまちですが、タイヤの性能を引き出すために空気圧管理が最も簡単かつ重要な要素であることは間違いありません。
路面からのショックを和らげて駆動力を伝え、車体を傾けてコーナリングするバイクならではの動きもタイヤと空気圧がうまくマッチすることではじめて本領が発揮されるからです。

タイヤの性能やバイクの性能を最大限に発揮させるために遵守すべきは、「指定空気圧を守る」ことです。
ソフトな乗り心地のために空気圧を下げたい、シャープな動きのために指定値より入れたいという好みもあるかもしれませんが、低すぎても高すぎてもデメリットが生じるのは先に述べた通りです。

数少ない例外として、オフロードバイクやアドベンチャーバイクで林道走行を行う際に空気圧を低くしてグリップ力を高める場合がありますが、その際も林道を抜けて舗装路に戻ったところで指定空気圧まで充塡しなければなりません。

空気圧を管理するのはエアゲージやコンプレッサーが必要ですが、バイク販売店や用品店、ガソリンスタンドを上手く活用することで、必ずしも自前で揃えなくてはならないわけではありません。
また空気圧管理とともに、タイヤの摩耗具合や表面のひび割れ、釘や異物が刺さっていないことを確認することで、通勤や通学、ツーリング中のトラブルを未然に防ぐこともできます。

まずは愛車の指定空気圧を確認して、最低でも1か月に一度の空気圧測定と充塡を忘れずに行うようにしましょう。 

筆者プロフィール

栗田晃

バイク雑誌編集・制作・写真撮影・動画撮影・web媒体での記事執筆などを行うフリーランスライター。現在はサンデーメカニック向けのバイクいじり雑誌「モトメカニック」の編集スタッフとして活動中。1976年式カワサキKZ900LTDをはじめ絶版車を数台所有する一方で、現行車にも興味津々。