バイクメーカーは独自にいろいろなメカニズムを開発しているので、バイクについて調べていると、聞き慣れない言葉を目にすることがあるでしょう。

その一つにVブーストがあります。
ヤマハの初代VMAXに採用され、Vブーストが作動すると強烈な加速力を発揮しました。

そんな超絶メカニズム、Vブーストはどんなシステムなのか。
時代背景などを含め、バイク初心者にもわかりやすく解説していきたいと思います。

Vブーストが生まれたのはバイク黄金期

まずはVブーストが登場した1980年代のことを説明しておきましょう。
この頃は「バイク黄金期」と言われ、ピークだった1982年の国内新車出荷台数は約328万台。

現在と比べると、およそ9倍に達していました。
欧米でもバイク人気が高まっていました。

各メーカーの技術競争も加速し、ラジアルタイヤやアルミフレーム、ターボなど新技術の採用が相次ぎ、水冷エンジンやフルカウルも一般化していったのが1980年代です。

そんな技術競争の中でVブーストを搭載したVMAXが登場しました。

加速命のVMAX

スポーツバイクやレーサーレプリカが人気だったこの頃、VMAXはとても個性的なバイクでした。

1197ccの水冷4ストロークDOHC・V型4気筒エンジンを搭載し、海外仕様は当時としては驚異的な最高出力145PSを発揮。

アメリカのドラッグレースから着想を得て、圧倒的な直線加速を追求した、マッチョなバイクだったのです。

この強力なパワーを発揮させる秘密の一つがVブーストでした。

Vブーストは1気筒で2つのキャブを使う

ではVブーストとはどんな装置なのでしょう?

VMAXのエンジンはV型4気筒で、通常は1気筒あたり1つのキャブレターから混合気を取り込んでいます。

ここまでは他の多くのバイクと変わりません。
しかし回転数が上がってVブーストが作動すると、1つのシリンダーが2つのキャブレターから混合気を取り込めるようになります。

もちろん、実際にキャブレターの数が増えるわけではありません。
なぜそんなことができるのでしょう?

(参考出典:ヤマハ発動機『技報 No.3』(1987年1月)「最近の二輪車の設計動向」水谷昌司、木下利男)

V型4気筒の4ストロークエンジンでは、4つのシリンダーがそれぞれ異なるタイミングで吸気・圧縮・燃焼・排気を行っています。

Vブーストでペアになる前後2気筒を見ると、片方のシリンダーが吸気しているとき、もう片方は吸気行程ではありません。

だったら、吸気していないシリンダーにつながるキャブレターも利用すれば、より多くの混合気を取り込むことができます。
これがVブーストのざっくりとした考え方です。

低回転は1気筒1キャブ

これはVブーストのイメージを表したイラストです。
このイラストは低回転でシリンダー#1が吸気しているところ。

前側と後ろ側のシリンダーの吸気マニホールド(混合気の通り道)はつながっていますが、ストリートなどを普通に走っているような低中回転域ではVブーストのバルブが閉じているため、1気筒に対して1個のキャブレターという一般的な状態で動いています。

この状態では、とても扱いやすいエンジン特性です。

高回転では1気筒あたり2つのキャブレター

このイラストは高回転でVブーストが作動したときのイメージです。

エンジン回転数が5,750rpmに達すると、吸気マニホールドを連結しているVブーストバルブが開き始め、前後2つの吸気通路がつながります。
(シリンダー#1とシリンダー#2は交互に吸気するので、イラストのようにシリンダー#1が吸気しているとき、シリンダー#2は吸気していません)

するとシリンダー#1は、キャブレター#1に加え、キャブレター#2からも混合気を取り込めるようになり、高回転域の吸気能力が高まります。

シリンダー#2が吸気するときも、同じようにキャブレター#1、キャブレター#2から吸気します。

Vブーストバルブはエンジン回転数の上昇に合わせて徐々に開き、8,000rpmで全開になります。
そのためライダーからすると、回転数の上昇とともに力強さが増し、さらに加速が伸びていくようなフィーリングになります。

Vブーストの効果は、単に1気筒で2つのキャブレターを使えるようになるだけではありませんでした。
「吸気脈動」と呼ばれる現象も利用して、吸入効率を高めていたのです。

エンジンの吸気は、ずっと一定に流れているわけではありません。
吸気バルブが開くとシリンダーに混合気が吸い込まれ、バルブが閉じると混合気の流れがせき止められます。

しかし、それまで勢いよく流れていた混合気が瞬間的に止まるわけではありません。

そのため吸気通路の中では、圧力が高くなったり低くなったりします。
これが吸気脈動です。

Vブーストでは前後2気筒の吸気通路をつなぐことで、この圧力の変化も利用しています。

シリンダーが混合気を吸い込むタイミングで、もう片方の吸気通路の圧力が高くなれば、混合気をシリンダー側へ押し込む力が働くからです。

ヤマハの資料によると、こうしたVブーストの効果によって、最高出力を約10%向上させることができたとされています。

VMAXに乗ってみたら

VMAXは実際に乗ってみてもド迫力なバイクでした。
V型4気筒1197ccエンジンは、アイドリングからドスの効いた排気音を響かせました。

低回転ではトルクフルで乗りやすく、回転を上げなくてもキビキビと走ることができたので、この回転数であればロングツーリングなどでもまったく疲れない性格だったのです。

ところが回転を上げていき、タコメーターの針が6,000rpmに差し掛かろうとするあたりから性格が変わります。

回転の上がり方が俄然シャープになり、回転が上がればさらにパワーが出てきます。

加速Gでライダーのお尻はシートストッパーに押し付けられ、ハンドルに必死でしがみつくような豪快な加速感で、多くのファンを作り出したのです。

国内仕様はVブーストなし?

1980年代までは国内メーカーの自主規制により、国内向けモデルの排気量は750ccを上限としていました。
そのためVMAXに乗りたい人は、海外仕様の逆輸入車を購入するしかありませんでした。

ところが1988年にこの自主規制が撤廃され、750ccを超える大排気量車も国内向けモデルとして販売できるようになります。

そしてヤマハが1990年、国内向けに販売した最初のリッターバイクがVMAXでした。

ただ、国内仕様は日本の交通環境に合わせて海外仕様よりもパワーを抑えられ、最高出力は97PS。
Vブーストは採用されていませんでした。

2代目VMAXにVブーストは?

2009年に日本で発売された2代目VMAXは、初代の1197ccから1679ccへ排気量を拡大し、燃料供給もキャブレターからフューエルインジェクションへ変更されました。

このモデルではVブーストは採用されていません。

その代わりに「YCC-I(ヤマハ電子制御インテーク)」と「YCC-T(ヤマハ電子制御スロットル)」という電子制御技術が採用されています。

YCC-Iはエンジン回転数に応じて吸気ファンネルの長さを切り替えることで吸気特性を変化させる仕組みで、YCC-Tはスロットルバルブを電子制御します。

ヤマハは2代目VMAXについて、これらの技術による加速性能を「全域Vブースト」とも表現しています。

2代目VMAXは、乗ってみるとあらゆる点で初代を大きく超えていました。
加速性能、扱いやすさは向上し、直進安定性重視だったハンドリングにいたっては、スポーティーな走りにも対応できるまでに進化していたのです。

VブーストはVMAXだけの装備?

結局、ヤマハの市販バイクでVブーストが採用されたのは初代VMAXだけでした。
その後はフューエルインジェクションや可変吸気、電子制御スロットルなど、別の方法で幅広い回転域の性能を両立できるようになりました。

こうした技術の進化も、Vブーストが初代限りとなった背景の一つと考えられます。

ただ、こうしたギミックはメカ好きなライダーの心をくすぐることも確かです。

少し古いマシンの中には、Vブースト以外にも個性的なメカニズムを採用しているものがあります。
興味があるようでしたら、中古車の中から探してみるのも面白いかもしれません。

筆者プロフィール

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