バイクにまつわる『熱』を学ぼう!
公開日:2025.09.25 / 最終更新日:2025.09.25
走り終わったあと、マフラーやエンジンは素手で触れないほど熱くなっている。
うっかり触って『ヤケドした…』という経験をしたことがある人もいるのでは?
実はバイクと熱は切っても切れない関係にある。
この熱が転倒やマシントラブルの原因になることもあるのだ。
たとえば冬場に走り出してすぐにアクセルを全開にして転倒…。
夏場に水温が上がりすぎておバーヒート…。
そこでここでは『バイク』と熱の関係について学んでほしい
熱はバイクライフで重要なファクターだ
上の数値は、筆者が個人的に所有していたカワサキ・ゼファー750を使い、非接触赤外線温度計で各部の温度を測定したものだ。
手順はまず出発前に各部を測定し、その後に首都高速道路を走行。途中のSAで停車して再度測定している。
測定時期は7月ごろ。走行は意識的にエンジンをレッドゾーン付近まで回しながら行なったが、基本的には交通の流れに合わせて走行した。
バイクというものは、適切な温度域に達してこそ性能を発揮できる部分がある。
エンジンまわりはもちろん、ブレーキやタイヤもその一例だ。
下の数値を見てもらえればわかるように、この3点は温度の上昇幅が大きい。
低すぎてもダメ、高すぎてもダメで、適正範囲を外れるとトラブルの原因になることがある。
今回は『上がりすぎ』を中心に話を進めていく。
しかし、バイクと熱の関係を理解しておくことは、安全なバイクライフだけでなく、愛車のコンディション維持にも直結する重要な要素である。しっかりと押さえておいてほしい。
セルボタンを押してすぐにアクセル全開で走り出すのはNG。
1〜3分ほどアイドリングさせてエンジンの暖気をしてから走り出す。
その際も低回転を意識しながら走行し、タイヤやブレーキをじっくり温める。
ある程度走行して各部が馴染んできたら、ようすを見ながら徐々にペースを上げていくのが基本だ。
とくに冬場は、タイヤが十分に温まらないうちに転倒してしまうこともあるので注意が必要である
エンジンに関する『熱』を知る
Point.1 エンジンの冷却方式
エンジンが動いている間は、つねに熱を発していて、回転を上げるほど熱量は増加していく。
実はエンジンが効率よくパワーを発揮するには適正な温度であることが重要で、低すぎても高すぎてもいけない。
エンジンを適正な温度にたもつために不可欠なのが冷却システムである。
この冷却システム通り道を作ったり、ラジエターとはエンジンの高出力化とともに進の間を循環させるポンプをはじめ化してきた歴史がある。
空冷から始まり、水冷や油冷が登場。どの冷却方式を採用するかは、メーカーの開発コンセプトに左右される。
性能を求めるなら水冷一択。しかし、趣味性の高い乗り物であるバイクは性能だけでなく、みた見や数値に現れない味なども重要な要素になってくる。
そのため空冷や油冷が今も存在しているわけだ。各冷却方式の特徴に関しては下記リンク先を参照にしてほしい。
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空冷エンジン
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油冷エンジン
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水冷エンジン
Point.2 エンジンの冷却を考える
内燃機関であるエンジンは、稼働している限り熱が上がる続ける。
それを一定の範囲にとどめておかなければ、最悪エンジンが破損してしまうこともあるのだ。
どんなに高性能なエンジンであっても、それは避けられない。
そのため、エンジンの冷却方式は進化してきたのである。
たとえば水冷エンジンも1980年台に登場した水冷エンジンと、現代の水冷エンジンでは細部が異なるわけだ。
どの冷却方式であっても、エンジンを冷却するためには『走行風』をエンジン、ラジエターやオルクーラーの補器類に当てなければならない。
アイドリングのまま放置すれば、温度が徐々に上がってエンジンにダメージをおよぼす。
車両によっては「長時間のアイドリングはしないこと」の注意文がガソリンタンクに貼られていることもあるほど。
ただ意識的にアイドリング状態で長時間放置するライダーはいないと思うが…。
一方、走り出せば状況は変わってくる。
信号待ちをしたり、渋滞が発生。冷却するための走行風が当たらず、エンジンは稼働し続けるため、とくに夏場は過酷な状況といえる。
補器類にファンが装着されていれば、一定温度になるとファンが回って冷却をうながす。とは言え、それにも限界はある。
夏場に低速走行や停止状態が続くのなら、場合によってはエンジンを停止して温度が下がるのを待つという方法を考えることも必要。
また混雑していない時間帯や道を選ぶことも考えてほしい。
逆に冬部は走行風によって冷却水やエンジンオイルの温度が上がらないことも。
その場合は補器類に目張りなどをして対処しよう。
車種によって「何㎞/h以上なら冷える」と一概には言えないが、渋滞のノロノロ走行ではまず冷却は期待できない。
効率よく冷やすには、一定の速度を維持しながらエンジン回転を抑え、高いギヤで走るのが基本だ。
逆に、同じ速度でも低いギヤで高回転まで回すと、かえって温度が上がることがある
水冷エンジンであれば一部の競技専用車をのぞいてファンが標準装備されている。
水温が一定温度以上になると回ることで、冷却をうながす。
一方、空冷や油冷のオイルクーラーに装備されないことがほとんど。
写真はスズキのジクサー250(油冷)だが、ファンが装備されているのはレアケースになる。
ただファンがあれば、安心というわけではない。
Point.3 メンテナンスをしっかりと行なう(エンジンオイル)
冷却方式を問わず、内燃機関であるエンジンに不可欠なのが『エンジンオイル』だ。
金属パーツで構成されるエンジンの潤滑をはじめ、さまざまな役割を担っている。
使っていれば劣化していき、定期的に交換しないと燃費が低下したりエンジンにダメージを与えてしまう。
そのため車種にもよるが3,000㎞走行、もしくは6ヶ月のどちらか早い方に合わせて交換するのがセオリー。
エンジンオイルは車両メーカーだけでなく、さまざまなサードパーティから、数多くの種類がリリースされている。
自分のマシンや乗り方に合わせ、プロに相談しながら選ぼう。
エンジンオイルの役割
潤滑
エンジンオイルが担う役割の中で認知度が高いのは『潤滑』だろう。
金造同士が触れ合う部分に潜り込んで、金属同士が直に触れ合って摩耗することを最小限に抑えつつ、スムーズに動くようにする。
エンジンオイルの劣化が進んだり、高温な状態が続くとオイルの膜が切れ本来の役割をはたせず、エンジンの破損に結びつくことも。
密閉
ピストンとシリンダーの隙間をカバーするために組み込まれるのがピストンリング。
それでもわずかながらの隙間が生じてしまう。それを防ぐのもエンジンオイルの役割のひとつだ。
隙間があると混合気が燃焼したときにピストンを押し下げる力が逃げてしまう。
冷却
油冷はエンジンオイルを積極的に冷却に使うが、それ以外の方式でも少なからず冷却の役割を担っている。
エンジン内部を循環する際、金属部分の熱を吸収。
そのためエンジンオイルは高すぎず、低すぎない温度であることが理想的だ。
そのためオイルクーラーで冷却するモデルが多いのである。
緩衝
金属部品同士の間に入り込むことで、緩衝材の役割もはたす。
金属部品の表面にキズが入るのを防ぐのと同時にライダーに伝わる衝撃も緩和したり、発生するメカニカルノイズの低減にも影響をおよぼす。
洗浄
混合気にはごく微量の異物が含まれていることもあり、燃焼した際に燃え残りが発生することも。
また金属同士が接触して金属粉も生じる。それらを流してオイルフィルターで絡めとる洗浄も行っているのだ。
エンジンオイルが黒くなっていくのは、この汚れが影響している。
防錆
鉄やアルミは表面が空気と触れているとサビが発生する。
エンジンオイルは、エンジン内部の金属パーツの表面に幕を作ることで、外気や水分を遮断。
サビが発生することを防ぐわけだ。
ただし、長期間放置していると膜がなくなってしまうので、定期的に乗った方がエンジンにとってプラスになる。
Point.4 メンテナンスをしっかりと行なう(冷却水)
水冷エンジン車は冷却水を2年を目安に交換すること。こちらも性能が徐々に低下していく。
とくにここ数年、夏はかなり気温が上昇している。エンジンを守るという意味でも、しっかりと交換しよう。
ちなみに交換するときはロングライフクーラントを使うこと。
水は冬場に凍ってラジエターやエンジンを破損させる原因になるので使用NGだ。
温度と密接のあるパーツを知る
エンジンは稼動しているときに発熱するため、熱に対しての意識を向けやすい。
しかし、それ以外にも熱に影響を受けるパートがバイクの中にはいくつかある。それをここで紹介しよう
Point.1 唯一路面と接する『タイヤ』
タイヤは路面と唯一接する部分であり、コンディション次第では転倒の原因にもなる重要なパーツだ。使用限界を超えるほど摩耗しているのは論外だが、温度も大きな影響を及ぼす。たとえば冬、タイヤが冷えた状態でいきなりアクセルを全開にすれば、グリップを失うことがある。タイヤは適正な温度になってこそ、本来の性能を発揮するからだ。逆に温度が上がりすぎてもグリップを失いやすい。寒い時期や暑い時期は、いきなり攻めずに徐々にペースを上げていくことが大切だ。
夏場のアスファルトは寝転べないほど熱くなっている。この状況はタイヤにとっても不利に働く。
この点を考慮に入れながら、夏場はライディングを楽しんでほしい。
逆に冬場は路面温度は低く、タイヤも温まりにくいので注意すること。
レースではウォーマーを使ってタイヤを温める。これによってスタートからタイヤの本来の性能を引き出すのだ。こうしないとスタートから攻められない。
Point.2 バイクに欠かせない『ガソリン』
エンジンが発する熱の影響でガソリンが吸気システムに到達するまでに気化し、適正な混合気が作れなくなり 、エンストしたり、アクセルを開けているのに前に進まないなどの不具合が生じる。これをパーコレーションと言う。
フューエルインジェクションは装置内が加圧されているので起きにくいが、キャブレターでは起きやすい。
発生したらエンジンを冷やせば再び問題なく走り出せるので焦らないようにしてほしい。
エンジンの熱を遮断するヒートガードをキャブレターに装着することで、パーコレーションが発生するリスクを低減できる
Point.3 止まるを司る『ブレーキ』
MotoGPのナイトレースを観たことがある人は、ローターが赤くなっているのに気づいたことがあるだろう。
パッドとローターが接触することで制動力が生まれるが、その摩擦で熱も発生する。
この熱が過度に高くなると、ブレーキ本来の性能が発揮できなくなるだけでなく、トラブルの原因にもなりかねない。
各車のブレーキシステムは、この熱を考慮して設計されているが、温度が上がりすぎると注意が必要だ。
場合によっては、システムの見直しが求められることもある。
また、逆に温度が低すぎても、本来の性能が発揮されないことを覚えておこう。
ローターは熱を考慮して厚さなどの仕様が決められている。
車両によっては純正ローターが、サーキットでハードブレーキングしたら熱で歪んでしまうことも。
インナーとアウターが分割するのも熱対策の一環だ
ブレーキパッドはライナー(摩擦材)とバックプレートとシンプルな構造になっている。ここも熱がかかる部分。
とくにバックプレートは熱で変形しないように設計さている。
ブレーキレバーを握ると油圧が発生し、フルードを通してキャリパーのピストンを押し出す。
その先にあるパッドがロ ーターに押し付けられ制動力が生まれ、そこで生じる熱がフルードに伝わる。
劣化していたりエア抜きが甘かったりすると気泡が生じ、適正な制動力が生まれなくなってしまう。
そうならないよう、2年を目安に交換すること。
カスタムパーツで熱に対処する
カスタムパーツはパーツによって効果が異なる。
出力をあげたり、軽量化に結びついたり、個性を演出したり。
その中には『熱』に関するアイテムもあるので、ここでその一部を取り上げる
Ponit.1 温度を知る
水冷エンジン搭載車は水温を表示するモデルが増えたが、過去には表示されなかったり、数値で表示されないモデルもある。
油温に関しては純正で表示されるモデルを見た記憶がない(あるかもしれないが)。
水温と油温を数値で 認識できれば、エンジンを止めたりなどの対策をとることができる。
アフターパーツメーカーからリリースされているテンプメーターを取り付ければそれを視覚化できるのだ。
社外のテンプメーターは基本的に汎用品となるため、ハンドル周りの見やすい位置に取り付けるためのステーやセンサーを別途購入する必要がある。注意しておこう。
アナログタイプよりも、デジタルタイプの方が数値を認識しやすい。
エンジンオイルは温度だけでなく、油圧も重要な要素だ。
油圧には適正な数値があり、始動時を除いて、高温時に油圧が適正値から外れると、エンジンを停止させたり、オイルの銘柄や粘度を変更する目安にもなる。
ただし、油圧センサーは高額であることを覚えておこう。
Point.2 冷却システムを強化する
空冷エンジン車の一部にはオイルクーラーが標準装備されていないモデルもあるが、冷却性能を高めるために追加したりもともと装着されているモデルでも大型化することで冷却効率を向上させることができる。
ラジエターも社外品に変更することで冷却効率が向上することが期待できる。
ただし、いずれにしても走行風を当てる必要があるのは変わらない。
また、冬場は大型化したことによって「冷えすぎる」というデメリットもある。
この場合、コアにテープなどで目張りをして対処する。
ラジエターの交換もひとつの手だが、ラジエターキャップを社外品に交換するのもあり。
純正より圧がかけられるモノであれば冷却水の沸点が上がるからだ。













