バイクが好きな方の中には、往年の名車に憧れるライダーも少なくないでしょう。すでに購入を検討しているライダーもいるかもしれません。

当時を知らない若年層ライダーにとって、ベテランライダーたちが語る「昔のバイクはよかった」という言葉には、ある種の魔力が宿っています。

しかし、中古バイク市場で高騰を続ける絶版車を、単なる「古い中古車」として選ぶのはリスクを伴うこともあります。

憧れの一台を手に入れた後で「こんなはずじゃなかった」と後悔しないために。今回は絶版車オーナーを楽しむために必要な「覚悟」と、知っておくべき現実について解説します。

絶版車を選ぶなら覚悟が必要?

現在、1970年代から90年代にかけてのバイクは「ネオクラシック」ブームや、供給不足に伴う中古価格の上昇により、空前の人気となっています。

しかし、これら数十年前のバイクは、最新のバイクとは全く異なる乗り物だと考えるべきです。

もちろん、当時のエンジニアが心血を注いだメカニズムや、現代にはない美しい造形美は唯一無二の魅力に違いありません。

しかし、その魅力を維持するためには、相応の知識、時間、そして資金が必要になります。「走る・曲がる・止まる」という当たり前の動作ひとつをとっても、現代の最新バイクの基準とは大きく異なることを知っておかなくてはなりません。

1:今のバイクに比べて性能のトータルバランスは控えめ

 

よく「昔のバイクの方がパワーがあった」という話を聞きますよね。確かに、馬力の自主規制前に生産されたモデルは過激なパワーを備えているものも少なくありません。しかし、トータルバランスで見れば、現代のバイクの方が圧倒的に高性能といえるでしょう。

エンジンの扱いやすさ

現代のバイクはインジェクション(電子制御燃料噴射装置)により、気温や標高を問わずスタータースイッチを押せば一発でエンジンがかかり、アイドリングも安定します。対して、キャブレター仕様の絶版車は、冬場の始動にコツが必要だったり、長期間乗らないと燃料が詰まったりと、機嫌を伺う必要があります。

また、セッティングが合わないとうまく性能を発揮できないだけでなく、出先で具合が悪くなるなんてこともしばしばです。さらに、現代モデルに比べ燃費が良くないという点も覚えておくべきでしょう。

シャーシとタイヤ

現代のバイクはフレーム剛性が最適化され、タイヤの進化も目覚ましいものがあります。古いバイクは「フレームがしなる」と言えば聞こえはいいですが、高速域での安定性やコーナリングの安心感では、最新モデルに遠く及びません。

「速さ」や「快適さ」を求めるなら、最新のスポーツバイクを選んだ方が満足度は高いでしょう。絶版車に求めるべきは、効率ではなく「味わい」や「趣」といった「感性」なのです。

2:ABSなど先進的な保安部品がない

安全性能に関する点が、絶版車と現行車で最も大きな差が出るポイントです。

電子制御の不在

現在のバイクでは当たり前となったABS(アンチロック・ブレーキ・システム)や、加速時のスリップを抑えるトラクションコントロールは、当然ながら装備されていません。

ブレーキ性能

古い設計のディスクブレーキやドラムブレーキは、現在のものに比べて制動力が弱く、コントロール性もシビアです。パニックブレーキ時にタイヤがロックしやすく、転倒に繋がるリスクもあります。

灯火類

現代で一般化しているLEDに比べ、ハロゲンバルブのヘッドライトは夜間の視認性が低く、暗い夜道では心細さを感じるかもしれません。

このように、絶版車は現代のバイクに比べ、ライダーのスキルで補うべき部分が多くあります。現行モデル以上に慎重な運転を心がけるのはもちろん、万が一の際の「セーフティネット」がないことは、常に意識しておく必要があります。

3:故障の可能性

 

2000年発売のバイクであっても、現在(2025年)から考えればすでに四半世紀(25年)もの年月が経過しています。それよりも古い80年代、90年代の絶版車ともなれば、あちこちに劣化が出てくるのも仕方のないことです。

絶版車は、金属の疲労だけでなく、ゴム類(ホース、シール、パッキン)や電装系の劣化が確実に進んでいます。昨日まで絶好調だったのに、ツーリング先で突然エンジンがかからなくなる、あるいは走行中にオイル漏れが発生するといったトラブルに見舞われることもあるでしょう。

新車の現行モデルを買っていればまず起きない場面に遭遇するのが、絶版車オーナーでもあります。トラブルに見舞われないよう定期的に点検することはもちろんですが、故障してしまった際には「これも味だ」と余裕をもって愛車に向き合える心構えが必要です。

「古いのだから壊れるのは当たり前」なんて言われることもありますが、日ごろからエンジンをかけ、定期的なメンテナンスを心がけていれば、大きなトラブルは未然に防ぎやすくなります。

4:維持費の問題

 

燃費の悪さ

現代の技術進歩とインジェクションによって管理された燃焼効率が良いエンジンに比べ、古いバイクは燃費が良くない傾向にあります。特に2ストローク車はオイル代もかさみます。4ストローク車であっても、現行車に比べオイルはこまめに交換したほうが良いでしょう。

重なる重整備

購入時に「整備済み」と謳われていても、年式の古い絶版車は乗り続けるうちにどこかにガタが出てくるものです。フロントフォークのオーバーホール、キャブレターの洗浄、電装系の引き直しなど、数万円〜数十万円単位の出費が発生する場合もあります。

もちろん、大きな故障に見舞われない個体もありますが、「安く買って楽しもう」という考えは絶版車においては通用しません。むしろ「お金をかけてコンディションを維持することを楽しむ」というスタンスが必要になってきます。

5:補修パーツ・消耗品の減少

これが絶版車維持における最大の壁といえるでしょう。メーカーによる純正部品の供給には期限があります。

純正部品の廃盤

多くのメーカーは生産終了から10年〜20年程度で部品の供給を打ち切ります。重要なエンジン内部のパーツや、外装カウルなどが手に入らなくなると、修理そのものが不可能になるケースもあります。

中古・社外品への依存

純正がない場合、オークションで中古パーツを探すか、高価な社外リプレイス品を頼るしかありません。場合によっては、他車種の部品を加工して流用するような「職人芸」的な修理が必要になることもあります。

パーツリストとにらめっこし、必要な部品をストックしておくといった、執念に近い努力が求められることもあるのです。

6:盗難の心配

皮肉なことに、絶版車の価値が上がれば上がるほど、窃盗団のターゲットになりやすくなるのも悲しい現実です。

狙われる希少車

現代のバイクと違い、古いバイクはイモビライザーなどの盗難防止装置が標準装備されていません。ハンドルロックも構造が単純なため、プロにかかれば数十秒で無効化されてしまいます。

保管環境の重要性

屋外への駐輪は厳禁と言っても過言ではありません。シャッター付きのガレージ、あるいは強固なロックとカバー、さらにはGPSトラッカーの設置など、徹底した防犯対策が必要です。

「手に入れたはいいが、盗まれるのが怖くて出先で目を離せない」という心理的負担を感じるオーナーも少なくありません。絶版車を選ぶにあたっては、車両も自分も安心できる保管環境の準備が不可欠です。

絶版車という選択

ここまで、絶版車を選ぶ際の厳しい現実を並べてきました。 性能では最新型に負け、安全性は低く、よく壊れ、お金がかかり、パーツ探しに奔走し、常に盗難に怯える。客観的に見れば、絶版車を選ぶ合理的な理由はないようにも思えます。

しかし、それでもなお、多くのライダーが絶版車に惹かれるのは、過去の名車にそれだけの「価値」と「魅力」があるからに他なりません。

デジタルでは割り切れない「生命感」。五感を刺激するエンジンの振動、独特の排気音、そして手をかければかけるほど応えてくれる機械としての素直さ。乗り越える苦労と同じくらい、絶版車に向き合う中で得られる喜びも大きいものです。

実際に筆者も1987年モデルのヤマハ「FZR750」を所有していますが、故障すれば純正パーツは見当たらず流用品を探し、出先ではエンジンが止まり、季節によって機嫌も変わる……と苦労の連続です。それでも、このバイクからしか得られない経験や感動は格別で、長く乗り続けていきたいと思わされます。

もし、上記のデメリットを理解した上で、なお「あの一台に乗らなければ後悔する」と思えるなら、きっと愛車とともに最高の絶版車ライフを楽しむことができるでしょう。

バイク王「絶版車館」で安心な絶版車ライフを!

バイク王が展開する「絶版車館」では、絶版車を中心とした中古バイクを専門に販売しています。豊富な在庫はもちろん、絶版車に精通したメカニックが揃っており、安心して乗り始めるためのサポート体制が整っています。

不安も付きものの絶版車ですが、それ以上の喜びが待っています。興味のある方は、ぜひ一度バイク王「絶版車館」に足を運んでみてくださいね。

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筆者プロフィール

webオートバイ×BikeLifeLab

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