数多くの部品で構成されているバイクには、走行距離によって消耗したり摩耗する部品があります。
また一定の年数によって交換が必要な部品もあります。
バイクの使用者には、車両を保安基準に適合する状態に維持するため、必要な点検・整備を行う義務があります。

しかし誰もがメンテナンスが得意なわけではありません。
そこで覚えておきたいのが「ブタと燃料」です。

ちょっとユニークなフレーズですが、実はここに日常点検のエッセンスが詰まっているのです。
本記事では「ブタと燃料」というキーワードを通じて、日常点検の重要性について解説します。

「ブタと燃料」はすべてのバイクにとって重要な日常点検

「今日、何のトラブルもなく安全に帰宅できたから、明日も快調に走行できるだろう」「これまで長くバイクに乗ってきて、重大なトラブルに遭遇した経験はただの一度もない」というライダーは、実に運が良いと言えるでしょう。
なぜならバイクが安全に走行するには、日常的な点検と整備が不可欠だからです。

普段は意識することがないかも知れませんが、タイヤやブレーキは走行距離を重ねることで確実に摩耗します。
急加速や急減速など一切せず、つとめて穏やかに大人しくライディングしていても、必ず減っていくものです。

そのためバイクのユーザーには、日常点検と整備の法律上の義務が課せられています。
法律上の義務というと大げさな表現のように聞こえるでしょうが、公道を走行するバイクを保安基準に適合する状態で維持するのはユーザーの責任であり、これを実現するには点検と整備が不可欠なのです。

「私はメカ音痴なので点検も整備もできない」というライダーは、プロメカニックに作業を依頼するのも良いでしょう。
しかし、チェックする項目を絞り込めば、ビギナーでも愛車の点検をすることが可能です。

その際のキーワードが「ブタと燃料」です。
どこかふざけているようなフレーズですが、この語呂合わせに日常点検の極意があります。
ツーリングに出掛ける前に「ブタと燃料」と唱えながら、愛車の周囲をグルッと一回りしてみましょう。

「ブタと燃料」が示す点検項目を詳しく解説

昭和時代からバイクに乗り続けてきたベテランライダーの中には「ネンオシャチエブクトウバシメ」という合い言葉を覚えている人もいるでしょう。
ネンは燃料、オはオイルなどバイクのチェック項目を細かくリストアップしたものです。

昭和でも令和でも、バイクを安全に走らせるための確認事項には大きな違いはありません。
ただし現代のバイクに使用されている部品の中には、昔より耐久性が向上してライフが長くなっているものもあり、その分点検項目の削減が可能となり、今では教習所や安全運転講習でも「ブタと燃料」という合い言葉が普及しているのです。

では以下に、それぞれの文字と点検項目を説明していきましょう。

ブ:ブレーキ

走行前にブレーキレバーやペダルを操作して、ディスクブレーキ車ならフワフワした握り心地ではないか、ドラムブレーキ車なら遊びが大きすぎないかを確認しよう。
マスターシリンダーのリザーバータンクの点検窓で液量を点検し、減少していたらブレーキパッドの残量が減っている可能性が高い。
ブレーキパッドの残量確認方法は車種によってまちまちなので、取扱説明書やサービスマニュアルで確認しよう。キャリパー後方や下部から目視確認できる車種が多い。
パッド残量はLEDライトなどで照らすと確認しやすい。ブレーキパッドはライニングとバックプレートの二層構造で、多くのライニングに摩耗限度を示す溝が入っている。
参考までにフロントフォークからキャリパーを取り外すと、パッドの摩耗を示すライニングの溝がよく見える。残量確認だけならキャリパーを取り外す必要はない。

 

エンジン不調や灯火類の故障も深刻なダメージですが、バイクにとって最も危険なのは、「走れない」ことよりも「止まれない」ことです。
つまりダイレクトに重大事故に直結するブレーキトラブルを未然に防止することが何よりも重要です。

最近のバイクのほとんどが装備するディスクブレーキの場合、まず初めにブレーキパッドの残量を確認します。
多くのパッドには摩耗限界を示す溝があり、溝が消えかけている場合は交換時期です。
パッドが減りすぎると制動力低下だけでなく、ディスクローターまで傷める恐れがあります。

同時にフロントブレーキレバーとリアブレーキペダルの操作感を確認します。
レバーを握った際にスポンジのような柔らかい感触があったり、いつもより深く握り込めたりする場合は、ブレーキフルード不足やエアー混入の可能性があります。
フルード不足やエアー噛みはある日突然発生することは稀ですが、ブレーキパッドの摩耗、摩耗によるブレーキング時の温度上昇がベーパーロックを引き起こす可能性もあるので要注意です。

ちなみに、ディスクブレーキ車のマスターシリンダーのリザーバータンクのフルード量が低下した際は、フルードを補充する前にブレーキパッドの残量を確認しましょう。
ディスクブレーキはブレーキパッドの摩耗に伴いブレーキキャリパーピストンがせり出すため、パッド残量が減少するとリザーバータンクの液量が低下するようになっているからです。

従って、点検窓の液面低下を確認したら、キャリパーに注目してパッドの残量を点検することが先決です。

一方、絶版車や旧車に多いドラムブレーキは、ブレーキロッドやワイヤーの遊びを確認します。
遊びが大きすぎると制動力が立ち上がるまでに時間がかかり、小さすぎると引きずりの原因になります。

点検のコツは「押し歩き」です。
エンジン始動前に車体を押しながら前後ブレーキをかけてみると、効き具合や引きずりの有無が分かります。
普段から操作感を覚えておけば、わずかな変化にも気付きやすくなります。

タ:タイヤ

走行前にバイクを押してタイヤを一周させて、トレッド面に傷がないか、異物が刺さっていないかを確認する。チューブレスタイヤの場合、針金や釘などが刺さっていても、空気が抜けない(時間を掛けてゆっくり抜けていく)こともあるので、目視確認が重要。
タイヤ側面の△マークは、摩耗チェックを行うウェアインジケーター。このインジケーターのあるトレッド面は他の部分より溝が浅い。タイヤが摩耗してインジケーターが露出したらタイヤ交換時期となる。
センタースタンドがある車種なら、リアタイヤを浮かせて回して異物の有無やウェアインジケーター部分のチェックを行おう。
最低でも1か月に一度確認したいのがタイヤの空気圧。規定の空気圧はチェーンカバーやフェンダーの内側、ステップボードなど車体のどこかにステッカーが貼ってあるはず。タンデムツーリングに出掛ける前は2名乗車時の空気圧に調整しておこう。
アナログ、デジタルのどちらでも構わないので、1個は持っておきたいエアーゲージ。タイヤの空気は時間を掛けて徐々に低下するので、20~30%低下しても気づかないライダーもいる。
以前は足踏み式ポンプが一般的だったが、最近ではハンディタイプのコードレスポンプもリーズナブルな価格で購入できるようになっている。そうしたアイテムを購入することで、空気圧に対する意識もいっそう高まるはずだ。

 

バイクの走る・曲がる・止まるのすべてに関わる唯一にして最も重要と言っても過言ではない部品がタイヤです。
どれだけエンジンが高性能でも、タイヤの状態が悪ければ本来の性能は発揮できません。

最も重要なのは空気圧です。
空気圧不足になるとハンドリングが重くなり、燃費悪化や偏摩耗を招きます。
また高速走行時には発熱が増え、バーストの危険性も高まります。

タイヤはパンクしていなくても、自然に空気が抜けていきます。
そのため定期的な空気圧測定が必要です。

理想は最低でも1ヶ月に1回以上、エアーゲージで測定することですが、運転前には目視で異常な潰れがないか確認するだけでも効果があります。
エアーゲージやエアーポンプ、エアーコンプレッサーが自宅になければ、ガソリンスタンドで測定や注入することもできます。
全てのガソリンスタンドに設置されているとは限らず、車専用の貸し出しとなっているケースもあるため、近隣のガソリンスタンドに設置されているものがバイクで使用できるかチェックしておくとよいでしょう。

次に溝の深さを確認します。
スリップサインが露出していれば交換時期です。
特に雨天時は排水性能が低下し、グリップ力が大きく落ちます。

さらにタイヤ表面のひび割れや異物の刺さり込みも点検します。
長期間使用したタイヤは溝が残っていてもゴムが硬化し、本来の性能を発揮できません。

タイヤの鮮度を判断する指針のひとつがタイヤ製造年です。
これはサイドウォールの表示から、製造年と製造週を読み取ることができます。
5~6年以上経過したタイヤは、バイクショップのメカニックに相談し、使用状況に応じて交換を検討した方が良いでしょう。

タイヤ交換のタイミングは溝の深さ、ひび割れ、製造年など様々なポイントをチェックしたうえで、余裕を持って交換するようにしましょう。

と:灯火類

夜間走行時の照明としての役割はもちろん、昼間でも対向車や周囲の車両に自車の存在を知らせるために重要なヘッドライト。バルブ切れの有無だけではなく、ライトレンズの汚れやひび割れのチェックもしておこう。
原付スクータークラスの車体サイズなら、テールランプに手をかざしながらブレーキ操作を行うこともできるだろう。前後ブレーキそれぞれのスイッチが正常に作動している事を確認する。
電球タイプのテール/ブレーキランプが不点灯の場合、バルブを点検する。
テール/ブレーキランプのバルブには2本のフィラメントがあり、どちらか一方が切断していたらバルブ交換となる。

 

混合交通の中では、右左折や停止などの意思を周囲に確実に知らせる必要があります。
併走している自動車がウインカーなしで車線変更してきたら驚くとともに怒りを覚えますが、もし自分のバイクのウインカーが点滅しなければ、他人に同じ思いをさせることになります。
そのためヘッドライト、テールランプ、ブレーキランプ、ウインカー、ナンバー灯などの灯火類の点検が重要なのです。

ヘッドライトは点灯するだけでなく、明るさや照射状態も確認しましょう。
特に気をつけなくてはならないのが光軸です。

転倒などでカウルやヘッドライトの照射方向が変わり、ロービームの光軸が高くなりすぎると対向車を幻惑し、交通トラブルを引き起こす原因にもなります。
また最近のバイクでポピュラーなLEDヘッドライトは、発光素子の一部が不点灯になることがあり、故障に気づきにくい場合もあります。

ブレーキランプは前後どちらのブレーキ操作でも点灯するかを確認します。
意外と一方のスイッチだけ故障しているケースがあります。

またテールランプとブレーキランプがどちらも作動していることも確認しておきましょう。
日中だとテールランプの作動状態に気づきづらいこともあるので、夜間に確認するのもおすすめです。
夜間ならテールランプとブレーキランプの光量差をはっきり認識できるはずです。

ウインカーは点灯だけでなく点滅速度も重要です。
極端に速いハイフラ状態や点灯しっぱなしの状態は球切れや配線異常のサインです。

ブレーキランプやウインカーの点検のコツは、壁やガレージシャッターを利用することです。
後方に回らなくても光の反射で点灯状態を確認できます。

また、レンズの汚れも意外と侮れません。
泥やホコリ、意外なところではマフラー出口でススが付着して光量が低下すると視認性が悪化します。
洗車時だけでなく、出発前に軽く拭くだけでも効果があります。

灯火類は突然切れてしまうこともあるので、夜間走行が多い場合は予備バルブやヒューズを携行しておくと安心です。

燃料

フューエルインジェクション車のガソリンタンクは燃料コックがないのが一般的で、その代わりに燃料計が装備されている。針式でもLCD式でも、満タンから空になるまで何キロ走行できるかを把握しておきたい。
LCDの点灯個数が減るたびにドキドキが増してくる。目的地には到着できてもその近所にガソリンスタンドがなかった時のことを想定して、土地勘のないツーリングの際は早めに給油しておくと安心だ。
キャブレター車の場合、燃料コックONでガス欠してもRES(リザーブ)に切り替えてさらに走行できる。だがONに比べてRESの走行距離は短いので、RESポジションでの走行距離を把握しておき、できるだけ速やかに給油したい。

 

「ブ」「タ」「と」が安全に関わる点検項目であるのに対して、燃料はバイクが走行するために不可欠で最も基本的な確認項目です。
「ガソリンなんて入っているのが当たり前」というライダーが多い半面、ロードサービスを利用するトラブルの上位にガス欠が入るというのは、残量を軽視しているライダーも多いことの証明と言えるでしょう。

多くのインジェクション車やキャブレター車で燃料計を装備しているバイクの場合、燃料計だけを信用せず、トリップメーターで走行距離を管理する習慣を付けると良いでしょう。
燃料計の無いバイクならなおさら、例えば「200km走ったらガソリンスタンドに行く」といった給油ルーティンを作っておくことをおすすめします。

ツーリングに出掛ける場合、トリップメーターでの管理に加えて、目的地までの距離やその周辺のガソリンスタンド事情も事前にリサーチして、ギリギリではなく早め早めに給油することでガス欠を予防できます。
地方都市ではガソリンスタンドの数が減少している場所もあり「目的地まで到達できたのは良いが帰りの残ガスがヤバいかも……」ということもあるので、余裕を持った給油計画を立てることが重要です。

日常点検の重要性を再認識して、たった数分でできる「ブタと燃料」を励行しよう

日常点検と整備はユーザーの義務と言われても、現代のバイクはそう簡単に壊れるものではありません。
しかしひとたびトラブルが発生すれば、自分だけではなく見ず知らずの他人を巻き込むリスクもあり、決して疎かにしてはいけません。

バイクいじりが趣味だというライダーにとって「ブタと燃料」はほんの序の口に過ぎないかも知れませんが、「メンテナンスは先月やったから大丈夫」ではなく、今日走り出す直前に行うことが重要です。
もちろん、ビギナーライダーやメカに自信の無い人も同様です。

もし不安があるなら、バイクショップや用品店で12ヶ月点検や24ヶ月点検をプロに依頼し、その際に日常点検の勘どころを聞いておくのも良いでしょう。
その際にブレーキパッド残量やタイヤの交換時期のアドバイスを得られるかもしれません。

「ブタと燃料」は数分で実施できる簡易的な点検ですが、事故や重大故障を未然に防ぐ効果はとても大きいものです。
走行前の習慣にするとともに、長距離ツーリング前や久しぶりに乗る際は、ひとつひとつ丁寧に確認することをおすすめします。

筆者プロフィール

栗田晃

バイク雑誌編集・制作・写真撮影・動画撮影・web媒体での記事執筆などを行うフリーランスライター。現在はサンデーメカニック向けのバイクいじり雑誌「モトメカニック」の編集スタッフとして活動中。1976年式カワサキKZ900LTDをはじめ絶版車を数台所有する一方で、現行車にも興味津々。