誰でも知っているビッグネームはそう多くない。
Z、CB、ニンジャ、カタナ…… そしてVMAXもまたそんな名車と並んで人々の記憶に刻まれていることだろう。
デビューはなんと85年。そこから基本設計を変えずに20年以上を駆け抜けた、ヤマハのアイコン的モデルである。

YAMAHA VMAX (2LT)

完全なる「新しいもの」

デビューしてから20年以上、基本的なカタチを変えることなく走り抜けてきたVMAX。
直接的なライバルもいなかったし、常に孤高の存在であり続けたがゆえか、絶版車界ではあまり話題に上ることが多くない。
しかしVMAXは強烈なデビュー後、ずっと強烈であり続けた。

初登場したのは85年のこと。同級生と言えばFZ750やGSX-R750、まだ輸出車しかなかった大排気量で言えばGPZ900RニンジャやGSX1100Sカタナが1コ先輩であり、GPZ1000RXや1200cc化したFJが1コ後輩だ。
ここに挙げたバイク達がなんとも旧さを感じさせるのに対し、VMAXは07年ごろまで作り続けられていたおかげが、今の感覚でさえ旧さを感じさせないのが面白い。
ということは、当時はとてつもなく先鋭的に映ったことだろう。

それまで大排気量車と言えばツアラーが一般的。
スポーツバイク然としていても、大きなタンクや快適なシートはマストの装備であり、大排気量パワーの余裕を感じながら長距離を走るというのが前提としてあっただろう。
それに対してVMAXはなんとタンク容量15L。遠出を前提に設計されたオーバーリッターモデルの多くはワンタンク200キロ以上の航続距離は当然のように備えていた中、VMAXは完全に割り切った設計だ。

エンジンもまた同様。大排気量車はトルクフルさを武器に淡々と走るのが是とされていた中、Vブースト機構を採用して高回転域のパワーを追求。
当時最強の145馬力を達成し、254kgもの車重がありながらゼロヨン10秒台前半を誇った。

これはもう、完全にカルチャーショックだっただろう。
大排気量なのに長距離は想定せず、ドラッグレースを楽しんだり、あるいはタイヤスモークを上げて突進する圧倒的パワーを満喫する大排気量車……。

大排気量バイクはオトナなライダーが優雅に長距離を走るためのもの、であったものを、もっと日常的に、気軽に「遊ぶ」ということ提案してみせ、それはその後の大排気量車のコンセプトそのものに大きな影響を与えたといえよう。

登場の背景

VMAX以前はヤマハもまた大排気量≒ツアラーもしくはクルーザーという意識はあった。
スポーツツアラーという意味ではFJ1100がそうだし、そしてラグジュアリークルーザーとしてはベンチャーロイヤルが83年にデビューしていた。
VMAXのエンジンがこのベンチャーロイヤルのものをベースにしているというのは有名な話だ。

しかしベンチャーロイヤルからわずか2年後にはこのVMAXがデビューしていると考えると、ベンチャーロイヤルを作った時点でこの水冷DOHCエンジンの可能性をヤマハは模索していたと考えるのが自然だろう。
ツアラーばかりの大排気量の世界に何か新しい提案をしてやろうじゃないか、大きなマーケットである北米に対してショッキングな何かをぶつけてみようじゃないか、と。

さらに言えば、このエンジンには小排気量版もあったのだった。国内では400、海外では550(カウル付のDは国内仕様も有)があったXZである。
2気筒ではあるものの同じ70°のVバンクを持つDOHCの水冷ユニットにはVMAX同様のダウンドラフトキャブ、加えてシャフトドライブも採用している。
V型エンジンと言えばVTやVFの成功によりホンダのイメージもあるように思うが、実はこのXZ400は82年の登場であることからも、ヤマハもまた80年代前半から水冷V型の可能性を追求していたことがわかる。

VMAXはその独創的なルックスや145馬力という最高出力、これまでなかったジャンルの提案をするなどショッキングな存在だったからこそ「いきなり出てきた!」感があるが、実はいろいろな布石があったのだ。

馬力の上下と国内仕様

145馬力という数値は初期型のものであり、その後VMAXの最高出力数値は色々と変わっていく。
国内の750規制がなくなり、90年にはVMAXも国内仕様が登場。

これは6000RPM辺りを境に気筒あたり実質ツインキャブとなるVブーストシステムを搭載せず、出力値は97馬力とされていた。
しかしあのVMAXがやっと国内で正規に乗れるとファンは喜びカスタム文化もさらに加速。
国内仕様をベースにVブースト化を含めたフルパワー化はもちろん、低回転から常時ツインキャブとなるようなチューニングも行われ、90年代のVMAX文化はカスタム文化と連動して盛り上がっていった。

大きな変化は93年のモデルチェンジ。
フロントフォークが太くなり、ブレーキも4ポッドとなったのだが、それ以外にも細かな煮詰めが行われたのだろう、エンジンの発する強烈さはそのままにグッとモダンな乗り物になり、ますます多くのライダーに愛されるバイクになっていった。

国内仕様は00年ごろに生産を終えるのだが、その後も主にカナダ仕様が逆輸入車として販売され続け、カラーリングなど小変更はありつつもやはり大きく姿を変えることなく07年ごろまで存在した。

これらは逆輸入車としてフルパワーだったわけだが、この頃には各種規制対応などでその数値は135PSとなっていた。

08年、長らく愛されたVMAX(1200)の後継機として、完全新設計のVMAX(1700)がデビュー。
1679cc、200PSのエンジンをアルミフレームに搭載した新世代の怪物……なのだが、このVMAXについて語るのはもう少し時代が進んでからにしておこう。

VMAX(1700)

試乗を振り返る

さて、長らく売られていたこと、またカスタムも非常に盛んだったことなどから、VMAXに試乗する機会はかなり多かった。

93年以前のモデルの印象は「かなり旧い」というものになる。
確かにエンジンは強烈だが、それでも例えば初期型のGPZ900Rに乗った時のような、隠しきれない旧さやヤレ感が存在するし、頼りないサスペンションやブレーキ性能もまた、145馬力を思いっきり味わってやろうという気にさせてくれない。
当時嬉々として初期型VMAXでヤンチャな走りを楽しんでいたライダーはかなり骨太だったんじゃないかと想像する。

対する93年以降のモデルは今の感覚でも乗れてしまう。
フォークやブレーキがグレードアップしているだけではなく、車体全体、そしてエンジンも含めて、わざわざ発表する程のことではない細かなアップデートが為されているように感じ(そしてシンプルにヤレが進んでいないということもあるだろうが)、ちゃんとその性能を満喫してやろう!という気にさせてくれアクセル開度も自然と増える。

排気量があるとはいえツインではなく4気筒のため、アイドリングから発せられる「ゴボゴボゴボ!」というトルクフルな排気音に反して「回してこそ速い」のがVMAXの意外な特徴だ。
アイドリングのままクラッチを繋ぐというよりは、ちゃんとアクセルを開けて意図的にグイッと加速させるイメージ。
そのまま回していくとVブーストがかかってくるあたりからはワープ的に加速度が強まる。
この時にシャフトドライブの特徴もあり、車体がフワッと持ち上がってくるような感覚があるのが面白い。
軽くはない車体をエンジンパワーが強引に重力から解放させているさまと、このフワリと重心が高くなるような感覚がリンクして途端にスポーツバイク的な感覚になる。

重量があるためフル加速しても途端にフロントが持ち上がってきてしまうということはないが、伏せて全開にしていると知らずうちにリアタイヤがホイールスピンしているということはあった。
しかしそれでも途端にコントロールを失ってしまうということはなく、しなやかで安定した車体はそんな挙動もみんな飲み込んでくれるのだ。
ABSもトラコンもなかった時代、VMAXは大パワーを楽しませるために絶妙なバランスの上に成り立っていたと感じる。

「VMAXは直線は良いがコーナーが……」という意見も聞かれるが、しかし93年以降のモデルならばコーナーもそれなりに楽しめる。
スポーツバイクのように切れ味鋭く、というわけにはいかないが、それでもバンク角が許す限りヒラヒラとコーナーをこなし、直線になればガオッとアクセルを開けるような乗り方をすれば、侮れないペースでワインディングを楽しむことも十分可能。
確かにフレームがヨレヨレするような感覚もなくはないが、それも含めてコントロール下に置いておくことができるのである。

カスタム文化

試乗経験には多くのカスタム車も含まれていた。
シンプルに吸排気系のカスタムから、前後17インチ化&チェーンドライブ化といったヘビーカスタム、さらにはターボやスーパーチャージャー搭載など、VMAXのカスタムは多岐にわたっていた。

当時のカスタムショップ取材で印象に残っているのは「VMAXはとにかく丈夫で、チューニングに耐えてくれる」という話だ。
排気量アップはもちろん、過給機による大幅パワーアップも許容するのだという。
確かに、ベースモデルとなったベンチャーロイヤルもモデルチェンジで排気量アップしていることを思えば、ヤマハとしてはかなり余裕を持って設計したエンジンなのだろう。そのおかげでカスタム文化が花開くというのは、空冷Z系やGPZ900Rニンジャ系と共通する魅力なのかもしれない。

ちなみにこういったヘビーカスタムにも試乗してきたが、もはやアクセルをちゃんと開けるのは困難なほどパワーが出ているものも多かった。
ヘビーカスタムによるゴテゴテのルックスと独特の排気音は強烈な個性を放っていて、誰が見ても「すげえ!」となる個体が多かったが、そのパワーを味わえるのはドラッグレース場などに限られるように思えるほどだった。
トラコンやウイリーコントロール等のライダーエイドが皆無のVMAXでこのハイパワー、自然とライダーには羨望と尊敬のまなざしを向けたものだ。
ただ、ノーマルのままでも既に公道で楽しむにはいい意味で「過ぎた」性能だったのも事実。
VMAXはあらゆるライダーに対しあらゆる楽しみ方をさせてくれるモデルだったのだ。

意外な後継「ロイヤルスター」

絶版車としてVMAXを見ると、今こそが「買い」なモデルだろうと筆者は思う。
価格は絶版車的プレミアム価格と言えるほどは高騰していないし、最終型に近いものを選べば状態もまだまだ良いはず。
そのままきれいに磨いて乗れば注目を集めることだろうし、カスタムがしたければ中古パーツもまだまだ発掘されるはず。
ドラッグレースに参戦すれば今でも十分VMAXの実力を楽しめることだろう。

VMAXは後継機の1700へとバトンタッチしたわけだが、あちらはVMAXのネーミングこそ継承したものの中身は完全なる新作。
対して意外なVMAX後継機はクルーザーのロイヤルスターだ。
ルックスはドラッグスター的な、いわゆるアメリカンタイプモデルなのだが、その心臓部はまさにVMAX系の水冷V4。
パワーはだいぶ抑えられているためVMAXの興奮が味わえないだろうが、しかしヤマハ70°V4のゴボゴボ感は健在のはずだ。一度は乗ってみたいモデルである。

ロイヤルスターツアークラシック
フロント周り

フロントは18インチのホイールで、初期型のみ細身の5本スポークホイール。
後にスポーク幅が広い、よりアメリカンドラッガー的なデザインとなった。
ブレーキは93年のモデルチェンジで4ポッドに進化。
フォークもφ43mmへと大径化され車体全体がかなりシャキッとした。


ビラーゴシリーズなども同じような小ぶりのヘッドライトを採用していたが、その出発点はVMAXではないだろうか。
三つ又部にめり込むような小さなヘッドライトとその上に鎮座する1眼メーターがまたドラッグイメージだった。

タンク

小ぶりに見えるタンク部はカバーのみで、実際のタンクはシート下。
VMAXの特徴でもあるインテークはデザインアイコンであり、キャブへと吸気を導く演出としての役割だ。
タンク上に配置される小ぶりのタコメーターも個性的だが、VMAXで本気の加速をしている時にはタンクに目を落としている余裕はないため、実際はあまり見ることはなかった。

シート


ドカッと腰を下ろし、尻をしっかりとストッパーに当てて強烈加速に耐える。
ニーグリップはしにくいのだが尻で乗ることを理解すれば直線加速だけでなくコーナーも軽やかに走ることが可能だ。
そのシートストッパーを跳ね上げると給油口が現れ、15Lのタンクへとアクセスできる。

リア周り


15インチという小径ホイールにはハイトの高いタイヤが組み合わされ、これまたドラッグのテイストだ。
リアブレーキは良く効き、街乗りでも扱いやすい。
車体が汚れにくく、かつほぼメンテフリーのシャフトドライブ採用もVMAXの魅力であり特徴だ。

筆者プロフィール

ノア セレン

絶版車雑誌最王手「ミスターバイクBG」編集部員を経たフリーランスジャーナリスト。現在も絶版車に接する機会は多く、現代の目で旧車の魅力を発信する。青春は90~00年代でビッグネイキッドブームど真ん中。そんな懐かしさを満たすバンディット1200を所有する一方で、最近はホンダの名車CB72を入手してご満悦。