みなさん、こんにちは。バイク未来総研所長 宮城 光です。
今回、ドゥカティの2気筒スポーツセグメント「パニガーレV2ベイリス1stチャンピオンシップ20周年記念モデル」に試乗するとともに、基本設計から10年という節目にこのバイクの持つ魅力について、改めて考察してみました。


まず、“パニガーレ”と言う名は、ドゥカティの生産工場のあるボローニャ地方ボルゴ・パニガーレ地区が由来であり、その名を冠した製品に、如何にドゥカティ社の思い入れがあるかが伝わってくる。
つまり、このマシンが「メイド・イン・イタリー」である事を世界中に示している。

そして、そのマシンは今までにないアプローチで車体を構成している。

永きに渡り、ドゥカティのスタンダードと言えばパイプワークから成るトレリスフレームで、その素晴らしいハンドリングとアイコニックなビジュアルで多くのファンを持ち、ドゥカティがドゥカティらしさを保って来た究極のエンジニアリングであった。とは言え、パイプを幾つも用意し、職人技が必要な溶接精度も上げ、美しいペイントを行うコスト高な面も払拭はできなかった。

そこで、新しいー顧客への訴求や、MotoGPでの技術的フィードバックなどへの取り組みを行う事での販売力強化を狙ったのが2012年より採用されている小型モノコック構造のフレーム持つパニガーレシリーズだ。


これは、フレームとエアクリーナーボックスとの共用デザインで、MotoGPで培われたノウハウ。
しかもイタリアお得意の鋳造技術と追い加工精度技術のお陰で部品単体としても前段のトレリスフレームに比べて一気に生産効率の向上を図った。

それだけではない。

モノコックフレームの採用で、車体全体を他車に比べて細く・軽く・コンパクトにデザインが可能となった。
さらには、生産ラインでは最もシンプルでミニマムな仕事量でマシンが仕上がって行く事も特筆すべき点だ。

パニガーレの場合、エンジンが生産ラインで流れて来れば、V型2気筒エンジンの前シリンダーと後ろシリンダーを繋ぐ様な形で上からモノコックフレームを下げ、そのまま前後シリンダーヘッドにボルト留め結合される。

その間、エンジンとフレームは何ら干渉する事がないので、一般的なアルミツインスパーフレームや、鉄パイプダブルクレードルフレームに向けて、まるで知恵の輪の様にエンジンをフレーム内に収める、といった作業にはならない。

結果的には傷対策等の修正ポイントやヒューマンエラーが減少、生産ラインのタイムキープへ貢献する訳だ。

エンジンとフレームが結合されれば、モノコック前部に有るヘッドセットステム&フォークAssyが取り付けられ、リヤ周りはピポットレスのお陰で、これまたリヤフォークAssy&リヤホイールSetを一気に取り付けが可能。
この段階で、エンジンに対して3つのモジュール(モノコック、フロントAssy、リヤフォークAssy)を取り付ける事で車体が完成と成るわけだ。
加えて言えば、シートレールは後ろバンクにボルト留めで、残すは補機類にボディーワークでマシンの完成となる。


さて、パニガーレと言えば、2012年に発売されたV2(2気筒エンジン)搭載の1199パニガーレSが印象的では有るが、2017年7月には1299パニガーレRファイナルエディションへ進化し、ドゥカティの2気筒ファンを大いに唸らせた。

一方、ワールドスーパーバイクへの完全制覇を目指したマシンとして、2018年にはV4(4気筒エンジン)搭載のパニガーレV4へ、それまでのフラッグシップモデルとしての座を明け渡して行く事となった。

しかしながら、永きに渡るドゥカティのL型2気筒(現在はV型2気筒と表示)から受け継ぐ他の何者でもないドゥカティらしさのエンジンフィーリングを望むユーザーも多く、スーパークワドロエンジンを、より扱い易い設定にしたマシンとして959パニガーレとしてリリース、その正常進化版が今回の「パニガーレV2ベイリス1stチャンピオンシップ20周年記念モデル」となる。


ネーミングの由来で有るトロイ・ベイリス選手はドゥカティワークスライダーとしてワールドスーパーバイク選手権で2001年、2006年、2008年と3度の世界タイトルを獲得したレジェンド。

そんな、ベイリス選手の名が付けられたマシン、まず目を引かれるのが美しくトリコローレにペイントされたグラフィックと彼の愛したゼッケン21に目が行くだろう。

排気量は955ccで出力は155馬力10,750回転の2気筒エンジンは永きに渡ってドゥカティストを魅了してきたエンジンキャラクターそのものだ。最高パフォーマンスこそ、4気筒220馬力を誇るパニガーレV4へ譲るものの、扱いやすいエンジン特性と相まって、レギューレーションで参加可能(気筒数によって排気量が異なる)な世界選手権スーパースポーツ600クラスでは表彰台も獲得する性能。とは言え、決して難しいマシンではない。

実際のところ、このマシンがV4で有った場合、圧倒的なピークパワー(220馬力オーバー)で、ライダーの多くが実際に100%のスロットル開度でマシンを走らせる事へ躊躇する事になるだろう。

それは、最新の電子デバイスが的確に顧客の指示通りに作動したとしても、ハンドルにしがみつくのが精一杯のV4に対して、このパニガーレV2であれば、955cc 155馬力は比較的扱いやすく、満足度の高い時間を手に入れられる筈だ。


マシンを目にして改めて感じるのは、その美しい柔和な曲線を多用したデザインだ。V4とは明確にその違いを示し、流行りの付加価値的エアロパーツを敢えて装着しないところに、本来の造形が引き立つ。
他メーカーに比べ、いかにコンパクトにマシンを作り込むか?生産性との戦いでもあるテーマー、超小型モノコックフレームと言うシャーシデザインだからこそなし得た技術力がある。

跨って目に飛び込んで来るのは、左右ハンドルの間に有る機能部品アルミビレット加工されたトップブリッジで、レーザー加工されたベイリスの名とシリアルナンバーが刻印されている。



シートには特別な刺繍が施されており、嫌が上にも興奮を覚える事になる。


このマシンにはオーリンズ製コンポーネントを採用、フロントにはNX30(左コンプレッション、右リバウンドに加えプリロードは左右で夫々調整可能)、リヤにはスポーツモデルの定番とも言えるTTX36フルアジャスタブル仕様。


フロント320mmブレンボのブレーキセットにリヤ245mmに不満は無く、装着されたピレリ・ディアブロ・ロッソコルサⅡとのマッチングもセンスの良さが伺える。

付け加えるならリチウムイオンバッテリーの採用、シングルシート(パッセンジャーシート&フットペグは同梱)、新型サイレンサーの採用でスタンダードモデルに対して3kg軽量化も達成するなど、記念モデルとしてのステイタスも達成している。

この辺りは、パニガーレV2のスタンダードモデルに比べての付加価値要素も高く、実際に顧客が追加で前後オーリンズサスペンションやこのマシンの為に特別に用意されたプレミアムパーツをドゥカティ純正パーツとして追加購入するより遥かに安い価格設定となっている。


メインキーをオンにすると、排気デバイス等の作動音が賑やかだ。
キルスイッチ一体型のセルボタンで、個気味良いV2サウンドが聞こえてくる。走り出す瞬間にドライウエイト174.5kgと言う軽さを感じる。

スポーツモデルとしては以外な程の足つき性の良さと、軽量コンパクト、GPマシン並に少々幅広のハンドルのお陰で、街乗りでの違和感も全く無い。

何時もの試乗コースにあるUターンポイントでも以外な程の使い易さで安心感が増してくる。
都心部では、持て余してしまいそうなビジュアルだが、ドライバビリティーは高く4速50km/hで3500rpmでトコトコとリズミカルに走ってくれる。


高速道路では6速80km/hで3000rpmと、高速巡航も優れたカウルデザインに助けられ、何処までも走りたくなる気持ちの良さが印象的。


エンジンパワーは最新のハイスペックモデルとは違う味付けで、扱いやすさに重点を置いているだけに、ドゥカティならではのエンジンフィーリングを堪能できる。
エンジンマップは3段階で、ストリート・スポーツ・レースと切り替え可能。あわせてトラクションコントロールに前後ABSの介入度も変更できるので、ライダーの最も適した選択が可能だ。


シフターはアップダウン共に作動がデフオルトだが、これも任意で設定変更が可能。このマシンは正に2気筒ドゥカティの真髄とも言える鼓動を体感できる。


何より、このパニガーレ、乗ってみたくなる圧倒的に美しいシルエットである。
ライダーはマシンに近づくにつれて、高揚感を抑えきれないだろう。それこそが、ドゥカティの持つ情熱で、魂とも言えるのが永きに渡り基本理念を変えずに来た伝統の2気筒エンジンと言う訳だ。
基本設計から10年の時を重ねて、正常進化した最新型プレミアムモデル。
様々な時代を乗り越え、独自の世界観を創り込むエンジニアの情熱を感じずにはいられないマシンだ。

ドゥカティ パニガーレV2 べイリス 1s tチャンピオンシップ 20周年記念モデル
価格は¥2,650,000-(税込)

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筆者プロフィール

宮城光

1962年生まれ。2輪・4輪において輝かしい実績を持つレーサーとして名を馳せ、現在ではモータージャーナリストとしてMotoGPの解説など多方面で活躍中。2022年、バイク未来総研所長就任。