中古バイクを探しているときや、古いバイクの資料を見ていると、
「あれ? このバイク同じメーカーなのに、今のバイクとロゴやエンブレムが違うぞ?」
と感じることはありませんか?

たとえば、カワサキの伝説的な名車である「Z1」、「Z2」のタンクには「KAWASAKI」とすべて大文字で表記されていますが、現在の多くの現行モデルでは「Kawasaki」と頭文字のみ大文字で表記されています。

なぜこのような違いが生まれるのでしょうか?

今回は、国産バイクメーカー4社のワードマーク(ロゴ)やコーポレートマーク(エンブレム)の変遷について調査!
各メーカーのコーポレートマークの歴史について解説します。

年式によってバイクのロゴやマークが違う


▲1973年に登場したカワサキ「750 RS(Z2)」のタンク。現代のカワサキ車に使用される「Kawasaki」ではなく、大文字の「KAWASAKI」エンブレムが使用されています。

メーカーのワードマークやコーポレートマークは固定されたものではなく、時代の流れの中で進化しています。
自動車メーカーを含め、多くの企業が数十年のスパンでロゴの細部を調整したり、まったく新しいデザインに刷新したりしています。

バイクメーカーも例にもれず、その象徴的なマークには創業者や企業理念の熱い思いが込められています。

そして、デジタル環境での視認性を高めるため、あるいはブランドの若返りを図るために、デザインが変わることは珍しくありません。

そのため、古いバイクと新しいバイクとで、同じメーカーでもマークが異なっているという現象が起こるのです。

コーポレートマークやワードマークの変化をたどることは、そのメーカーの歴史や、時代ごとの企業戦略を知ることにもつながります。

創業当時から一貫して熱い想いが込められたホンダの「ウィングマーク」

ホンダのシンボルと言えば、勝利の女神「サモトラケのニケ」や鳥の王である鷲の翼に、「世界に羽ばたく」という創業者・本田宗一郎氏の熱い思いが込められた「ウィングマーク」です。

ですが、このウィングマークも歴史を辿っていくと、現在とはかなり異なるデザインでした。


▲1949年に登場した「ホンダ ドリーム D型」。エンブレムには「HONDA」のロゴと飛翔する人の意匠が施されています。

ホンダのロゴの歴史は非常に古く、設立前の自転車用補助エンジン「A型」(1947年)のタンクマークに飛翔する人をイメージしたマークが採用されていて、黎明期(1940年代後半〜1950年代初頭)では飛翔する人や鳥が両翼を広げたリアルなデザインでした。

そして、現在の「一枚翼」のルーツは1955年頃。


▲1955年の「ドリームSA」から使用された一枚羽のウィングマークの原型。写真は1960年の「スポーツカブ」に装着されたもの。

「ドリームSA型」で「一枚の翼マーク」が進行方向に合わせてタンクの左右に付けられるようになり、これが現在のウィングマークの原型となります。


▲月刊「オートバイ」1961年5月号の裏表紙の広告。「HM」と一枚羽を組み合わせたマークが使われています。

 

1968年~2000年までの間は基本デザインは変えず直線的でシンプルなデザインにリニューアルしながら、ウィングマークが正式に会社の社標として使用されました。


▲ホンダ「CBR400RR」の1987年モデル(左)と1992年モデル(右)。1988年にウィングマークは現在のデザインとなっています。

そして2001年にコーポレートカラーとして「ホンダレッド」が定められ、現在の赤字のウィングマークに統一されました。

数多くの変遷を経てきたウィングマークですが、「世界へ飛躍する」という本質的な願いは一貫して受け継がれています。


▲1960年代の「Honda」ワードマーク。

また、「ウィングマーク」と同じく「HONDA」ワードマークも年代ごとに進化を重ねています。

1960年代半ばまで筆記体調の「Honda」で、いくつかのバリエーションがりました。

1965年からは「力強さ、安定感、信頼感」を感じさせるワードマークとして大文字の「HONDA」に変更。


▲2000年まで使用されたワードマーク(上)と、2001年にディテールが変更され、色も「ホンダレッド」が指定となったワードマーク(下)。

そして2001年、その思いを継承しながら「先進性・スピード感・洗練さ」というイメージを追加し、現在の「HONDA」ワードマークが完成しました。

ヤマハは創立70周年を記念して27年ぶりにコーポレートマークを更新!

ヤマハのシンボルと言えば、おなじみの「音叉(おんさ)マーク」です。

これはヤマハ発動機の前身である「日本楽器製造株式会社」が楽器の調律などに使う「音叉」を社章としたことに由来し、3本の音叉は「技術」「製造」「販売」の3部門の強い協力体制と「メロディー」「ハーモニー」「リズム」の調和を表しています。


▲1955年にヤマハがはじめて手掛けたバイク「YA-1」。タンクには音叉マークの立体エンブレムがみられます。

音叉マークは、1955年に発売されたヤマハ発動機の第1号機「YA-1」のタンクにしっかりとそのエンブレムが取り付けられていて、概ね現在のマークと同じデザインです。


▲1957年3月号の月刊「オートバイ」の広告。50年代からヤマハはこの音叉マークを長く使用し続けています。

実際に販売された車両には「音叉マーク」か「YAMAHA」のワードマークの立体エンブレム、もしくはその両方が採用されていたようです。

その後1998年に、立体的な3Dデザインの音叉マークが制定。
2024年までの間、コーポレートマークとして使用されていました。


▲1998年に制定されたコーポレートマーク。立体的な音叉のエンブレムと大文字のYAMAHAで構成されていました。

そして2025年、創立70周年を迎えたヤマハは27年ぶりに企業ロゴを変更。

新しいロゴではデジタル環境での視認性を意識し、従来の立体的なデザインからシンプルで洗練された2D(平面)デザインの音叉マークが採用されました。


▲2025年に新しく制定されたコーポレートマーク。より二次元的なデザインになりました。

また、ワードマーク(YAMAHAの文字)自体は1987年に社名が「ヤマハ株式会社」に変更された際などにも調整されていて、1998年より前のものを含めて変遷を重ねています。

こちらが最初に制定されたワードマーク。
Mのカタチをはじめとした細部に違いがみられ、現代のものとは雰囲気が異なりますね。

ちなみに楽器などを製造するヤマハ株式会社と二輪車などを製造するヤマハ発動機株式会社は別会社ですが、どちらも音叉マークを受け継いでいます。

発動機のロゴは、音叉の先が外円に触れず、文字の「M」の中央部分が下に付いているなど、楽器のヤマハのロゴとは似て非なるデザインになっているので、気になる方はぜひ調べてみてくださいね。

マークのルーツはカワサキの「リバーマーク」が最古か……?


▲現代のカワサキのバイクに用いられる「Kawasaki」のワードマーク。頭文字が大文字でそれ以外は小文字で形成されています。

カワサキのバイクに用いられたエンブレムも時代の流れの中で移ろってきました。

冒頭で触れたカワサキのバイクに用いられるワードマークが「Kawasaki」に変更されたのは遡ること1970年代。

人気の絶版車「900 SUPER4(Z1)」や「750RS(Z2)」、「750SSマッハⅣ」のエンブレムには全て大文字の「KAWASAKI」ワードマークが使用されていますが、1979年の「Z400LTD」「Z400FX」からは頭文字だけ大文字の「Kawasaki」が使用されています。

変更されたハッキリとした理由までは調査できませんでしたが、「Z1」の成功をはじめとする世界へ向けた販売戦略の一環だったのかもしれません。

また、近年使用されているモデルは見られなくなりましたが、カワサキといえば「フライングK」も馴染み深いマークですよね。


▲「250TR」2004年モデル。

こちらはカワサキがバイクの生産を始めた1960年代に誕生し、モーターサイクル&エンジン部門が独自の商標として使用しはじめたもの。


▲月刊「オートバイ」1973年11月号における「650RS(W3)」と「750RS(Z2)」の広告。この頃すでに「フライングK」が使わていて、長い歴史を持つことがわかります。

そんな「フライングK」と「Kawasaki」を組み合わせたプロダクトブランドマークが徐々に全社で使用されるようになり、2001年に2つを上下に組み合わせたマークが全社ブランドマークとして正式に制定されました。

現在カワサキモータースジャパンのホームページでこの「フライングK」マークは使用されていませんが、川崎重工では現在も「フライングK」と「Kawasaki」を組み合わせたブランドマークが使用されていますね。


▲2022年モデル「ニンジャ H2 SX」のフロントマスクに装着された「リバーマーク」エンブレム。

そしてカワサキのロゴやマークを語る上で忘れてはいけないのが「リバーマーク」。

2014年に登場したカワサキ初のスーパーチャージャー搭載モデル「Ninja H2」のエンブレムに使用され、2022年登場の「Ninja H2 SX」など一部のモデルで使用されているこのマーク。

あまりに洗練されたデザインから新しいものと思いきや、実はこのマークが誕生したのはカワサキの創業者である川崎正蔵氏が「川崎築地造船所(カワサキの前身)」を設立した1878年。……よりさらに前の1875年から1876年頃!

川崎氏自身で「川」の字を図案化した旗を作り、回漕業を行っていた際の所有船に使用していたそうです。


▲1966年に登場した「650-W1」のタンク。旗とリバーマークの意匠が特長的なデザインで、この頃のカワサキ車に見られるエンブレム。

このマークは上記で紹介した「フライングK」が登場するまで使用されていました。

2014年「Ninja H2」で使用された際にリファインされたリバーマークですが、現在はカワサキの系列会社の中でカワサキモータースのみで使用されています。

また、カワサキ航空機工業が目黒製作所と業務提携していた1960年代後半、「メグロK2」など一部のモデルのエンブレムには、目黒製作所とカワサキのマークが合体したデザインのエンブレムもありました。

デジタル時代に合わせて「S」マーク&「SUZUKI」ロゴをアジャスト!

スズキのシンボルは1958年に制定された「Sマーク」です。
スズキのクルマにも採用されているので、バイクに乗らない方でも見慣れたマークなのではないでしょうか。

このマークが制定されたのは1958年。東京芸術大学の学生による公募からこの象徴的な「Sマーク」が誕生しました。


▲月刊オートバイの1957年7月号(左)と1958年11月号(右)のスズキの広告。制定された1958年の11月号以降から「S」マークが使われはじめ、それ以前は「SJK」のマークがみられます。

時代に合わせて細かな調整を加えながらもその基本的なデザインに変化はなく、「SUZUKI」というワードマークの組み合わせがCI(コーポレート・アイデンティティ)として長く使われてきました。

ちなみに、1958年に「S」マークが制定される以前は「SJK」を丸で囲んだマークが使われています。
1990年に「スズキ株式会社」へ社名変更される前の社名「鈴木自動車工業株式会社」からとったもののようです。

そして、スズキは2025年4月に、このCIを約39年ぶりに刷新しました。

 

SマークとSUZUKIロゴの線を細くし、隙間を広く調整。
これはデジタル環境での視認性向上を主な目的としていて、小さいサイズでも文字やマークが潰れずよりはっきり見えるようにデザインがアジャストされたのです。

さらに、製品に取り付けられるエンブレムのデザインも22年ぶりに更新されることが発表されています。

新しいエンブレムはデジタル時代に適応したフラットデザインを採用し、環境負荷の低減を目指して従来のクロームメッキを高輝度シルバー塗装にあらためるなど新しい時代への変化を表現しています。

国産バイクのロゴの変遷からメーカーの歴史と進化を読み解いてみよう!

国産バイクメーカーのロゴやエンブレムの変遷は単なるデザインの変更ではなく、その時代ごとの企業の思いや戦略を反映しています。

ホンダの「ウィング」に込められた世界への飛躍、ヤマハの「音叉」が表す技術と調和、カワサキの「リバーマーク」に隠されたメーカーのルーツ、そしてスズキの「Sマーク」がデジタル時代に合わせて進化していく姿。

これらのコーポレートマークには、それぞれのメーカーが歩んできた歴史と未来に向けた強い意志が詰まっています。

中古バイクショップなどで昔のバイクを見かけた際は、エンブレムやワードマークからそのバイクが生まれた時代を予想してみるのも面白いかもしれませんね。

筆者プロフィール

webオートバイ×BikeLifeLab

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