多くのバイクが採用するドライブチェーンは、エンジンの駆動力をリヤタイヤに伝達する重要なパーツです。
清掃と注油を定期的に行うのは必須項目ですが、それだけでは不十分です。

正しくメンテナンスを行っていても、金属部品の集合体であるため徐々に摩耗して全長が伸び、前後スプロケット間の「たわみ」が増加します。

本記事では、ドライブチェーンのたわみを適正範囲に保つ張り調整によって、安全かつスムーズな走行を維持し、スプロケットの寿命を延ばすためにも有効であることを解説します。

チェーンのメンテナンスで重要な「張り調整」とは

一部の車種では高強度繊維(ケブラーなど)を使ったベルトドライブや、ドライブシャフトを用いたシャフトドライブといった方式もありますが、スクーターを除く大半のバイクの駆動方式として採用されているのが、金属製チェーンを使用したチェーンドライブです。

ブッシュとピンによって滑らかに回転するドライブチェーン(以下チェーン)は、ブッシュとピンの摩耗により全長が伸びるという宿命があるものの、リンク数の増減による長さ変更が容易なため、一体成形で継ぎ目のないベルトドライブや、金属製シャフトが必要なシャフトドライブよりも利便性が高く多用されています。

そんなチェーンは走行中、常に荷重変動を受けています。
加速時には強く引っ張られ、減速時には逆方向の力がかかり、そのたびに微小な伸びと衝撃が蓄積されます。
一度伸びたチェーンは元には戻らないため、前後スプロケット間のたわみは徐々に大きくなります。

そしてチェーンが伸びるのに合わせてスプロケットと噛み合うローラーピッチも徐々に広がるため、スプロケットの歯先も同時に摩耗します。

また、チェーンは外部に露出しているため、雨水や砂塵の影響を受けます。
スプロケットとチェーンの噛み合い部分に砂利や異物が付着すると、ヤスリのように作用して歯先の摩耗を加速させて、ローラーのピッチ拡大を許容するため伸びの進行を早める要因になります。

定期的な清掃と注油は異物を洗い流すため、スプロケットとローラーが接触する部分の潤滑のために必須ですが、ブッシュとピンの摩耗はチェーンが回転する以上避けられず、たわみは徐々に増えます。これを適正範囲にするのが「チェーンの張り調整」です。

チェーンにとって定期的(チェーンメーカーのHPには500kmごとという表記もある)な洗浄と注油はメンテナンスの必須項目。
だが、メンテナンスを行っていてもリンクピンとブッシュの摩耗によるチェーンの伸びは不可避で、その結果たわみ量が多くなる。

 

スプロケットが摩耗すると歯先が尖るとともに、歯底の幅が広くなる。
これはチェーンが伸びるとローラーのピッチが広がるためで、張り調整とともにチェーン交換の目安となる。

 

過剰なたわみを減らすのは重要だが、張りすぎもトラブルの原因となる

適切にメンテナンスを行っていても、走行距離が増えればチェーンは確実に摩耗して伸びていきます。
そのため定期的にたわみ具合を確認して、必要に応じて調整しなくてはなりません。
「摩耗したチェーンはたわむのだから調整は張りを強くすればよい」というのは、一面を見れば正解ですが、張りすぎると別のトラブルの原因になります。
ここでは張りの強弱がもたらす問題を解説します。

張りが弱すぎる場合

摩耗によってたわみが大きくなると、張りが弱くなります。これを放置すると次のような症状が発生し危険につながります。
1.走行中に上下方向の振れが大きくなり「バタつき」が発生する。
2.スプロケットとの噛み合いが不安定になり、異音や振動の原因となるだけでなく駆動力の伝達効率も低下する。
3.チェーンの遊び分だけ遅れて力が伝わるため、シフトチェンジや加減速時にショックが発生しやすくなる。
4.チェーンのピッチが広がるためスプロケットの歯の摩耗が早まる。
5.たわみが大きくなりすぎるとスプロケットからチェーンが脱落してリヤタイヤに巻き込んでロック、転倒の原因になる上に、切断したチェーンがクランクケースに叩きつけられてエンジンを破損すると修理費用の高額化にもつながる。

張りが強すぎる場合

チェーンの摩耗は伸び方向に進行するので、自然に張りが強くなることはありません。張りが強くなるのは、たわみを調整した際の作業ミスであり人為的なものであることが大半です。たわみがなければ良いわけではなく、張りが強すぎると以下のような不具合の原因となります。
1.チェーンのリンクに過大な張力が加わりスムーズな動きが阻害される。
2.過大な張力によりピンとブッシュのダイレクトコンタクト(チェーンルブの潤滑成分が行き届かない金属同士の直接接触)状態となり摩耗が促進される。
3.リヤサスペンションがストロークする際に動きが悪くなり、チェーンをさらに強く引く力が生じる。最悪の場合はチェーンの切断につながるリスクがある。

スイングアームに貼付されたステッカーに記載されたチェーンのたわみ(たるみ)例。
たるみが20~30mmになるよう調整し、調整した結果チェーンアジャスターの目印が交換時期を示す範囲に達したら新品に交換するよう指定している(ホンダCBR250Rの例)。

張り調整のタイミングは走行距離だけでなく状況によって判断しよう

チェーン調整の時期は走行距離や期間ではなく、「状態」によって判断します。
例えば新品チェーンは初期伸びが発生しやすく、装着後数百kmでたわみ量に明確な変化が現れることがあります。
またサーキットでスポーツ走行を行うなど、公道よりも加速やエンジンブレーキを強く行う場合もたわみが大きくなります。

一方で清掃と注油を頻繁に行い、国道を主体に一定速度でツーリングするような使い方、つまり加減速のショックがチェーンに伝わりづらいような走行パターンであれば、伸びの発生が穏やかになるため調整までの走行距離が長くなることもあります。

使用環境による影響もあります。
雨天走行が多い場合、チェーンルブが流されやすく、未舗装路を走る機会が多い場合は砂粒が研磨剤のように作用し、チェーンの伸びを加速させます。
また速度の変化が少なくても、高速道路主体の走行では高負荷状態が続くため、伸びの要因となります。
このように、同じ距離を走行しても条件によってチェーンの状態は大きく異なるため、一律の距離基準では管理しきれないのが実態です。

実践的な管理方法としては、「清掃と注油と同時に張りも確認する」「休日メインで乗るライダーなら乗る前に軽くチェックする」といった決め事を作るのが有効です。
点検自体は数分で済むため、それほど面倒ではなく、異常が出てから対処するよりも予防的に調整するほうが、作業も簡単でリスクも低く済みます。

ヤマハトリッカー250の標準チェーンたわみ量は40~45mm。

 

ヤマハYZF-R25(2017年モデル)の標準チェーンたわみ量は35~45mm。

 

前後スプロケットの中間あたりでチェーンを上下に揺すってたわみを確認する

チェーンの張りを調整するには、チェーンのたわみ量を知ることが重要です。
一般的にはドライブスプロケットとドリブンスプロケットの中間あたりのチェーンを上下に動かして、最も上がった位置と下がった位置の差を測定します。
たわみ量はオンロードモデルで20~30mm、オフロードモデルで30~40mmなどとされることが多いようですが、詳しくは愛車の取扱説明書やサービスマニュアル、または車体に貼付されたステッカーに記載されていることもあるので適正値をチェックしておきましょう。

測定方法も車種ごとの指定に従うことが重要です。
サイドスタンドのみ装着されたバイクではサイドスタンドで測定しますが、センタースタンド付きの車両はセンタースタンドとサイドスタンドでは測定値が異なることもあるので、取扱説明書に記載された正しい方法で行うことが大切です。

また、たわみ量はチェーンの複数箇所で測定することも重要です。
チェーンの伸びは全周で均等に進むとは限りません。
急加速や急減速を頻繁に行うことでリンクによって伸び方にムラができる「偏伸び」と呼ばれる症状が発生することがあります。

たわみ具合にムラがあった時は、最もたわみが小さい場所で張り具合を調整します。
顕著な偏伸びが生じたチェーンをたわみが大きな場所を基準に調整すると、元々適正なたわみ部分の張りが過度になり摩耗や破損のリスクが高まるからです。

たわみ量を確認する際は、同時にチェーン全体の状態も確認しておきましょう。
具体的には錆の発生、リンクの固着、Oリングの欠損、異常な偏伸びなどが見られる場合は、調整では対応できない可能性があります。
特に注意したいのが一部のリンクの動きが固いキンクと呼ばれる症状を呈している場合です。
これはチェーン寿命のサインであり、インジケーター上は使用限度に達していなくてもなるべく早く交換しましょう。

ヤマハSR400(2001年モデル)はメインスタンド付きで、取扱説明書にはチェーンのたわみ測定はメインスタンドで立てた状態で行うよう記載されている。標準チェーンたわみ量は35~45mm。

 

前後スプロケットの中間でチェーンを上下に動かしてたわみ量を測定する。上に動かした状態で、メジャーで測定しているリンクピンの位置は75mm。

 

メジャーの位置を変更せずチェーンを押し下げた時にピンの位置は105mmなので、たわみは40mmと判断できる。このたわみ量なら調整不要だ。

 

チェーンの張り調整はアクスルナットの緩め量を最低限にして行う

たわみ量が規定量より大きくチェーンの張り調整を行う場合に必要な工具と具体的な調整例は以下の通りです。

チェーン調整に必要な工具

1.アクスルナットを回すメガネレンチ
アクスルナットの締め付けトルクは強いので、スパナやモンキーレンチではなくメガネレンチを使用する。
2.チェーンアジャスターナットを回すレンチ
チェーンアジャスターがナットで締め付けられている車種の場合、このナットを緩めるレンチが必要。
ここではメガネレンチ、スパナのいずれでも良い。トレールモデルで採用されていることがあるスネイルカム式アジャスターの場合、アジャスターナットはないのでレンチも不要。
どちらのレンチも愛車のナットに適合するサイズを用意しておく。
また車種によっては、車載工具の中にアクスルナット用レンチが入っている場合もある。

リヤアクスルナットはサイズが大きく締め付けトルクも強いので、回す工具はスパナやモンキーレンチではなくメガネレンチやソケットレンチなど、ナットをしっかり保持できる工具が必要。

 

チェーンアジャスターのロックナットやアジャストナットの締め付けトルクはさほど強くないので、スパナでも回すことができる。

 

チェーン張り調整の手順

チェーンの張り調整は以下の順序で行います
1.たわみ量の測定(タイヤを回しながら数カ所で行う)。
2.リヤアクスルナットを緩める。
3.チェーンアジャスターのロックナットを緩める。
4.スイングアーム左右のアジャストナットを均等に回す。
5.チェーンのたわみ量が適正になった状態で、スイングアーム左右のアジャストプレートの刻み線とスイングアームの目盛を合わせる。
6.アクスルナットを仮締めしてタイヤを回転させてチェーンの複数箇所でたわみ量を再確認して、問題がなければ規定トルクで本締めする。
7.チェーンアジャスターのナットを固定してロックナットを締め付ける。

以上が標準的な手順ですが、チェーンアジャスター部分の構造や、アジャストプレートとスイングアームの刻み線や目盛りは車種によって異なるため、すべてが上記に当てはまるとは限りません。
また、左右のスイングアームやチェーンアジャスターに目盛りがある場合でも、アクスルナットやアジャスターナットを緩めてガタのある状態では左右の誤差が全く無い状態で合わせることが難しい場合もあります。
調整時のガタを最小限に抑えるには、アクスルナットの緩め量を最小限にしてアクスルシャフトに締め付けトルクが残った状態で作業するのが有効です。
ナットを盛大に緩めれば、アクスルシャフトは簡単に前後にスライドできますが、チェーンアジャスターの遊びが増えると目盛りを正確に合わせるのが難しくなります。
また、アクスルシャフトとチェーンアジャスター間のガタを最小限にするには、スプロケットとチェーンの間にウエスを巻き込ませてタイヤを回して、アクスルシャフトを車体前方に押し出す力を加えるのも効果的です。

ヤマハSR400の作業例。回り止めのためアクスルシャフト左側を固定して、アクスルナット(セルフロッキングナット)を緩める。
ここでは車載工具のメガネレンチ+エクステンションを使用した。

 

ホンダCRF250Lの作業例。アクスルシャフトの延長線上に干渉物がない場合は、アクスルシャフトをソケットレンチで回しても良い。
スパナやモンキーレンチはナットと2点でしか接しないので、強い力を加えるとナットをナメるリスクが高くなるのでおすすめできない。

 

ヤマハSR400の作業例。アジャスターに接しているロックナットを緩めてから後部のボルトを締め込むと、アジャスターが後方にスライドするため、アジャスターに挿入されたアクスルシャフトも後方に引っ張られてチェーンのたわみが減少する。

 

アジャスターのV字の切り込みをスイングアームの目盛を参考に(画像の場合は左から3個目の目盛)、左右の引き量を同じ位置に合わせる。
アクスルナットを仮締めしてたわみ量を測定し、規定値内にあれば本締めする。

 

ヤマハYZF-R25(2017年モデル)の場合、スイングアームの楕円の穴の縁と内側のアジャスターの刻み目盛を参照して左右の引き量を合わせる。

 

ヤマハトリッカー250のチェーン調整部。トレールモデルの場合、偏心プレートによって張り具合を調整する、画像のようなスネイルカム式アジャスターを採用してる車種もある。

 

GPZ900Rやゼファー750などのカワサキ車に採用されたエキセントリックアジャスター。
アクスルシャフトは円柱形の偏心カムに挿入されており、スイングアーム後端のクランプボルトを緩めてカムを回転させることでチェーンの張りを調整できるのが特徴。

 

アクスルナットを回せるメガネレンチがなければプロに任せよう

チェーンの張り調整は比較的難易度の低い整備作業に分類されますが、リヤタイヤを支えるアクスルシャフトやチェーンは安全性に直結するため、左右のチェーンアジャスター間を合わせるなど作業精度が求められる分野でもあります。

分水嶺としてはアクスルナットを回せる工具(それもメガネレンチ)の有無で判断するのが良いでしょう。
さまざまなバイクいじりを実践していれば、必然的に手持ちの工具の種類も多いでしょう。

アクスルナットのサイズは車種によって異なりますが、23mmや24mm、27mmということもあります。
こうしたサイズのメガネレンチを所有していないのなら、工具ショップやホームセンターに買いに出かけて自分で行おうとせず、ショップに依頼した方が無難です。

バイクのチェーン調整をプロにお願いした場合、工賃設定は店舗によってまちまちですが、2,000~3,000円程度のところが多いようです。
また、工具があってたわみ調整もDIYでできても、チェーンとスプロケットの摩耗状態を正しく評価して交換時期を判断できるか否かも重要です。

張り調整を何度か行い、歯先が偏摩耗している場合は交換が必要であり、単なる調整では解決しません。この判断ができない場合も、プロに任せたほうが安全です。

工具さえあれば作業ができるというわけではないが、少なくともアクスルナットを回せるメガネレンチ(画像の場合は22mm)が手元になければショップに依頼して、できれば作業手順を観察して学んでからDIYで行うことを考えた方が良いだろう。

筆者プロフィール

栗田晃

バイク雑誌編集・制作・写真撮影・動画撮影・web媒体での記事執筆などを行うフリーランスライター。現在はサンデーメカニック向けのバイクいじり雑誌「モトメカニック」の編集スタッフとして活動中。1976年式カワサキKZ900LTDをはじめ絶版車を数台所有する一方で、現行車にも興味津々。