400ccクラスの絶対王者といえば長らくスーパーフォアだった。
安価で親しみやすいニンジャ400Rがセールス面では一時トップを獲ったこともあったが、やはりスーパーフォア人気は揺らがなかった。
そんな中スズキは、Vツインという贅沢なエンジン形式で参入していた。

SUZUKI GLADIUS400

400ウォーズ後半戦

400ccネイキッドの黄金時代は90年代だろう。
各社から様々な400ccモデルが登場しており、どれもレプリカモデルをルーツに持つ4気筒勢が元気さを見せていた。

しかし2000年代も後半になると大型自動二輪免許が教習所で取得できるようになったこともあって400ccネイキッドブームは落ち着き、同時に各種規制対応という難しさの中、インジェクション化して延命を図った400cc4気筒はスーパーフォアだけだったのだった。

しかし2010年、400ccクラスはもはや終わりか?という寂しさが漂っていた中、スズキがグラディウス400を、翌年にはカワサキがニンジャ400Rを投入。かつてのレプリカベースの4気筒ではなく、輸出仕様の650ccベースの400版2気筒という意味で2台は似ており、そして日本独自の400ccクラスのためにゼロから新規設計するのは難しいという時代背景も映し出した2機種である。
さらに言えばスズキは4気筒でもGSR400というモデルを投入し、2010年代は新時代のエンジンを持った400ウォーズの後半戦へと突入したのだった。

コスト重視のハズが贅沢なVツインを採用

先述したように400cc専用設計が難しい世の中になっていたため、ではなるべくコストも抑えたモデルを投入しようとなりそうなもの。
シリンダーヘッドが二つあるVツインよりも、もろもろコンパクトで部品点数も少なく、コストも抑えやすいパラツインを選んだ方が将来性もありそうなものだが、そこはスズキ、かつてSV400/650で使っていたVツインエンジンを転用。
既に持っているエンジンを大切に熟成させていくというのはスズキの社風だろう。

99年に登場したかつてのSV400も大変元気なモデルだった。
ツインながら4気筒と同等の馬力を誇り、650ccの兄弟車と共通のフレームは贅沢なアルミ製。
ただ99年当時はまだまだ4気筒信仰があったのだろう、一部スキモノやスポーツ重視のエンスーからは支持されたものの、人気車種とはならなかった。

そのSVのエンジンをインジェクション化するなどリファインし、パワーも当時まだ53馬力だったスーパーフォアを超える55馬力を発して登場したのがグラディウス400ABS。
車名にあるようにABSを標準装備していたのも時代である。
フレームはかつてのアルミフレームからスチールへと変更されたが、これもまた兄弟車であるグラディウス650と共通であり、時代に合わせた変更だ。

有機的なデザインとスズキの関係

スズキは有機的な曲線を使った未来的なデザインで大成功を収めたことがある。名車「ハヤブサ」だ。

しかしハヤブサ以外のモデルでのこういったモデルで「大成功」というのはちょっと思い当たらない。
マイナーどころ(失礼)ではGSX750Fがパッと思いついたが、なかなか個性的な曲線の組み合わせをしていて、スズキはこういった曲線の使い方のツボがおさえ切れていないような印象がある。
ハヤブサの成功を思えばほんのわずかな「何か」なのだろうが……

グラディウスもまた、どちらかといえば有機的な曲線を使ったデザインだ。
タンクからサイドに続くカバーやタンデムシートに沿ったタンデムグリップ、ピボット周りのフレームカバーやステッププレートに至るまで流れるようなフォルムが特徴的だし、異形のヘッドライトもまたそれまでの国産ネイキッドでは見られなかった姿だった。

個人的には当時このデザインを新しいものとして受け入れ「おもしろいな」と思ったものだが、中には「ブルターレ(MVアグスタ、F4のネイキッド版)のマネ」などと心無いことを言う人もいたと記憶する。
確かにトラスフレームと楕円でスラントしたヘッドライトはどこかブルターレっぽさもあったかもしれないが、登場時の爽やかなブルーとホワイトのカラーリングはブルターレの意味する「獰猛」とはかけ離れたイメージだった。

SUZUKI グラディウス400
MVアグスタ ブルターレ800

有機的な曲線のスズキといえば、現行型のハヤブサは相変わらずカッコいいし、GSX-8Sも少なくともカクカクしたデザインではなくてやはりカッコいいだろう。
有機的な曲線とスズキの関係は、何だか応援したくなるのだ。

SUZUKI HAYABUSA
SUZUKI GSX-8S

ほぼモデルチェンジなしで6年を駆け抜けた

グラディウスはその後、ほんのわずかなマイナーチェンジをする程度で2015年までラインナップされモデルライフを終えた。
タンクとカバー部の外装色を変えることで様々なバリエーションが生まれ、それによりイメージもずいぶんと変わったりもしたが、基本的な部分は何も変わらなかったというのもまたスズキらしいのかもしれない。

翌年、2016年には今に続くSV650が登場。排気量こそ400ccではなくなったが同系列エンジンは今も現役というわけだ。
ただグラディウスが持っていた個性的なデザインからよりオーソドックスなスタンダードネイキッドスタイルになり、ヘッドライトも丸型になるなど、デザイン面ではグラディウスほどのオモシロさはなくなったのが少し寂しい。

SUZUKI SV650

試乗を振り返る

さて、実際に乗った時の印象を記しておこう。
スタイリングこそ新しかったグラディウスだが、各部の設定はいかにもスズキらしい、なにも奇をてらわない真っすぐなものだった。
シート高は低く、ハンドルはとてもラクチンなアップタイプ。
ステップ位置との3角関係も程よく、とてもリラクシングでありつつもスポーツも許容した。

特に好印象だったのはシートだ。低い代わりにクッションが薄く、乗った瞬間は「こりゃ尻が痛くなるぞ……」と思ったものだったが、当時の開発者に「座面が広いので意外と痛くならないんですよ」と言われ実際に走り込むとその通りだった。

広範囲で尻を支えてくれるため圧が分散するのだろう、長距離でも快適性が損なわれなかったし、加えてタンデムシートの座面も広いためタンデムライダーも快適&荷物の積載性も高いのだ。

フロントには正立式のフロントフォークにピンスライドキャリパーとこれまたベーシックな設定だったのだが、これがしなやかな鉄フレームととても相性が良く、過不足ない感覚が印象的。海外メディアでもそのバランスの高さを絶賛する記事(海外では650版)が多く、「史上最もウイリーがしやすいほどの好バランス」という記述を見たこともある。 

国内仕様は400cc版となるが、これがいい意味で650cc版とあまり変わらない印象で乗れてしまう。
もちろん、15馬力以上の馬力差は現実ではあるものの、400cc版は排気量が少ないおかげでより軽やかに回るし、同排気量の4気筒に比べれば常用域は明らかに太い。
高回転域もスムーズに回って行き、特に日本の交通環境やワインディングにおいて何かが足りないと思うことはなかった。
逆輸入車の650と直接対決で乗り比べたこともあったが、「これなら400で良いじゃん」と本気で思ったのを覚えている。

気になった点といえば右側のバンク角。
特徴的なサイレンサー形状のせいか、ステップの先のバンクセンサーを擦るとほぼ同時にサイレンサーを擦ってしまうということがあった。
サスペンションの設定で回避できるかもしれないし、あるいはせっかくのVツインなのだからサイレンサーを交換して対応してもいいかもしれない。
いずれにせよ元気にスポーツできるバイクなだけに、スポーツマインドが豊かな人はちょっと気を付けたい。

もう一点はリアサスの作動性だろうか。通常は何も問題ないのだが、元気なペースでワインディングを突き進んでいくとお釣りをもらうというか、若干バタつくような挙動が400cc版でも650cc版でも感じられた。
バンク角の問題と共に、リアサスのアップグレードにより両方の問題が解決できそうである。

他とは違う有機的なデザインと、4気筒にはない力強い低回転域、そして高回転域でも400ccクラスとしては十分以上のパンチを持っているグラディウス。
今のSV650がそうであるように特別強いアピールがあるわけではないものの「間違いなく良いバイク」なのである。
足つきに不安がある人にでも、ビギナーにでも、スポーツマインド溢れる人にでも、幅広く薦めることができる一台だ。

フロント周り


正立フォークにピンスライドキャリパーはとてもベーシックな構成にも見えるが、いずれも作動性は良好で車体の性格に良くマッチしている。
フロントホイールは専用のデザインで、サイズは3.5インチ幅の17インチ。ラジアルタイヤが標準だ。

SUZUKI グラディウス400
MVアグスタ ブルターレ800

当時はMVアグスタのブルターレが話題だったため、この異形ヘッドライトから「ブルターレっぽい」と言われたのも致し方ないのかもしれない。
そのライトの上にちょこんと乗るメーターやその横の空間を埋めるカバー類など、かなり力の入ったデザインだったことが伺える。

エンジン


かつてアルミフレームのSV400からボア・ストロークや圧縮比もそのまま引き継いだエンジンの主な変更点はインジェクション化だ。
インジェクション過渡期とも言えた時代だが、少なくともグラディウスにおいてはとてもナチュラルなスロットル操作が可能だった。
フレームは鉄パイプのトラス形状となり、ピボット部近くはカバーで覆われていた。

シート


低く幅のあるシートはクッション薄めだが意外と快適。タンデム部も面積があり荷物の積載でも便利だった。大きなタンデムグリップも備え、タンデムライドも想定していたことがわかる。

テール


有機的な曲線のデザインは支持したいが、テールランプからリアフェンダーはフロント周りの精悍さに比べるとややボッテリしている印象ではないだろうか。
当時はテールランプ一体型のフェンダーレースキットが多く出回り、そうしてテール周りをスッキリさせたグラディウスは(少なくとも筆者としては)とてもカッコ良く見えたものだ。

リア周り


リアホイールは5インチ幅で160サイズのラジアルタイヤを履く。
5インチに160だとややベタっとした接地感となり、いかにもラジアルタイヤを活かしているような操作感を楽しめる。
このサイズ設定のため現代のラジアルタイヤが選び放題で、スポーティに走りたい人はハイグリップも選択可能。

筆者プロフィール

ノア セレン

絶版車雑誌最王手「ミスターバイクBG」編集部員を経たフリーランスジャーナリスト。現在も絶版車に接する機会は多く、現代の目で旧車の魅力を発信する。青春は90~00年代でビッグネイキッドブームど真ん中。そんな懐かしさを満たすバンディット1200を所有する一方で、最近はホンダの名車CB72を入手してご満悦。