400ccクラスネイキッドが盛り上がる中、250ccクラスも少しずつ充実していった90年代にホンダが提案したニューモデル「ホーネット」。
レプリカ系の信頼と実績のCBRエンジンを搭載し、足周りはなんとCBR900RRと同サイズのタイヤを装着することで注目を集めた一台だ。後にも先にもそんなモデルはなく、現在では絶版車としての地位を確立している。

手薄だった250cc市場に旋風を起こす

ゼファーに端を発した90年代ネイキッドブームは各社に飛び火し、400ccクラスのネイキッド、すなわちスタンダードでツーリングにもスポーツにも使える万能モデル、は大変に充実していった。

一方で250ccクラスと言えば、他社がやはり同じネイキッドスタイルでカワサキ・バリオス、ヤマハ・ジール、スズキ・バンディットと健闘していたものの、ホンダとしては上品なJADEがあるぐらいでCB400スーパーフォアのようなヒットは飛ばせていない状況だった。

94年にVT系エンジンを搭載したクルーザーモデル、V-ツインマグナが登場し大変な人気を得ると、ネイキッドカテゴリーにおいても! という機運が高まったのだろう、JADEのどこか大人しい雰囲気から脱皮した、アクティブでヤングなモデルとして、ボリューミーなスタイリングとファットタイヤ、そしてアップマフラーが特徴的なホーネットが96年に登場したのだった。

信頼のエンジンにモノバックボーンフレーム

JADEでも使われていたカムギアトレインのエンジンも特徴ではあるものの、ホーネットをライバルと違うものにしてくれたのはモノバックボーンフレームと、ビッグバイクサイズのラジアルタイヤの採用が大きいだろう。
特にワイドラジアルは当時すでにトレンドとなっていた太足カスタムのムーブメントを取り入れたもので、「メーカーがやってくれちゃうんだ!」というショッキングさがあった。

リア周り

HONDA HORNET250 リア周り
迫力の180幅タイヤを履くリア周りは、ホーネット(スズメバチ)のネーミングの由来ともなったアップタイプマフラーと合わせてダイナミックなスタイリングを実現。リアサスはシンプルなリンクレス構造。

またフレームワークも興味深い。400ccクラスの多くがダブルクレードルと2本ショックという王道スタイルを追求していたのに対し、250クラスはその限りではなかったものの、それにしても背骨を一本持つだけでエンジンは吊り下げているというホーネットのバックボンフレームは特徴的だった。

これのおかげでタンクのボリューム感や細身で足つきの良いシート、そしてコンパクトなエンジン周りなど強弱の付いたスタイリングが得られたと言えるだろう。
もちろん、250ccとしては規格外のワイドラジアルタイヤに対応するための剛性バランス確保など作り込みがされているのは言うまでもない。

タンク

HONDA ホーネット250 タンク
左右にエラが張っているボリューミーなタンクはホーネットのアイデンティティの一つ。ただ転倒するとこのタンクの張り出している部分が凹むことも多い。

軽量で、ビッグバイクに比べれば非力な250ccエンジンでこんなタイヤを履いてまともに走るのか、と懸念する声も当時あったが、エンジン搭載位置を高く設定したりネック位置を遠く設定しフレームのねじれるポイントを見直すなどしたことでこれらの心配は無用なものに。
モビリティリゾートもてぎ(旧ツインリンクもてぎ)のホンダライディングスクールの教習車両に採用されるなど、スポーツライディングを学ぶ場で活躍できるほどの確かなバランスと実力を持っていたのだ。

CBR直系のカムギアトレインエンジン

40馬力を発するエンジンはCBR250Rから派生してきた4気筒・カムギアトレインユニット。CBRでは18000RPMからレッドゾーンとなっていたのに対し、JADEでは16000RPMからとレッドゾーン域を下げられた代わりに日常領域のトルクを重視した設定となっていた。
ホーネットもしかりで同じく16000RPMからレッドゾーンとしつつ、エンジンの味付けとしてはさらにトルクフルな特性を追求し、バルブのオーバーラップ量変更、バルブ径の小径化などが図られた。

とはいえあのカムギアトレインの名機である。かつてレーサーにも採用されていた、より緻密にバルブ駆動を制御するべくカムをチェーンではなくギアで駆動するこのシステムは、独特のメカニカルサウンドでも知られこれに魅力を感じる人も多いだろう。

シュイン!シュイン!という、排気音とは違う、エンジンから聞こえるいかにもホンダらしい緻密な音はアイドリング時から楽しめ、また高回転域になればなるほど「さすがエンジンのホンダ!」とうなる説得力もある。
グラマラスなルックスや極太のタイヤに加え、このエンジンもホーネットの一つの確かな魅力である。

なおこのカムギアトレインユニットはCBRの250と400、VFR系、そしてVTR1000SPといったモデルだけに採用され、実はそう多くは無い。
ドリーム50も2本のカムはギア駆動されホーネットと似たメカニカルサウンドを発していたものの、実はクランクからまずはチェーンで駆動が伝わり、ヘッドに入ってからギアを介してカムを駆動するという、いわばセミカムギアトレインだった。

エンジン

HONDA ホーネット250 エンジン
信頼のCBR系エンジンをJADEよりもさらにトルクフルにチューニング。ミッションも全体的によりショートに振ったことでキビキビ感が増している。横から見てどこにもフレームが見えないことがまたグラマラスに見せている要素だろう。

今はZX25Rが登場したとはいえ、250ccの4気筒という精密機械が各社から出ていたというのはいかに贅沢な時代だったかと思わせられる。
さらにその中でホンダは400ccではCB-1からCB400SFに移行した際にカムチェーン化したにもかかわらず、250はこのコストのかかるカムギアトレインを継続したことで、いま絶版車として(ホーネットだけでなくJADEも含め)他社とは違った魅力を発することができているというのも事実だ。

ただの一度もモデルチェンジせず

1996年に発売され、最後のアップデートが2006年のカラー変更。
ホーネットの歴史はほぼピッタリ10年ということになるが、この間一度も大きなモデルチェンジをしていないというのも特徴だ。
99年の末には排ガス規制対応、03年にシート高を15mm下げたという変更はあったが、その他はほとんど車体やホイールのカラーのバリエーション展開、もしくはミラー形状の変更といった細部のみ。
2000年からはVTRシリーズで展開していたカラーオーダープランもスタートし、各部の色の組み合わせで全28通りから好みの配色を選ぶことができた。

しかしハードの部分では全くと言っていいほど変更がなかったのは、いかに最初のコンセプトが優れていて、長く愛されるデザインと性能を持っていたかの証明だろう。
比較的堅実な商品展開をするホンダにおいて、最初から攻めたコンセプトを打ち出しガッチリと消費者の心を捕え、そしてそれが長く続くというのは割とレアケースにも思える。

ツートンカラー

10年のモデルライフの間ほぼ全くモデルチェンジをしなかったが、年式によってプラグコードが赤くなったり、キャリパーが黒くなったりといったカラーリング上の小変更が加えられた。当初は単色だったが、後にツートンカラーもラインナップ。

なおホーネットの名は海外でも多くのフォロワーを獲得している。排気量違いで600と900が展開され(国内でも販売)、いずれも250同様にCBR600/CBR900のエンジンを転用した同コンセプトのモデル。中でも特に600は欧州で大ヒットし今でもファンは多い上、少しずつ形を変えつつモデルチェンジも果たした。さらに22年末にはミドル(750cc近辺)クラスでパラツインの新型ホーネットが発表され、ホーネットブランドの復活に欧州市場は沸いているようである。

乗って楽しいがタイヤ代に注意

前述したように、ライディングスクール用の車両に採用されたほどなのだから運動性の高さ、楽しさは間違いない。街で・峠で走らせれば1気筒60数ccしかないとは思えない力強い中回転域トルクがあり、タンデム含めた気軽なストリート走行も、元気なワインディング走行も滅法楽しいバイクである。
これだけ太いタイヤを履いていては250ccらしい切れ味は少なめかと勘繰る向きもあるだろうが、車体の軽さのおかげか重心位置が高めのおかげか、はたまた小さ目の16インチフロントホイールのおかげかワインディングでもサーキットでもクリクリと良く曲がり、もっさりするような場面は見当たらない。

フロント周り

HONDA HORNET250 フロント周り
フォークはφ41mmへと大径化され、シングルディスクに対抗4ポッドキャリパーを装着。
タイヤサイズはCBR900RR同様に16インチラジアルを採用した。

エンジンは気持ちよく回り切り、そこに回転の重さや谷のようなものが一切ないのがいかにもホンダらしい。
このおかげで遠慮なく回し切ることに罪悪感が生まれず、常にオイシイゾーンのみを維持して、はしゃいで走らせることがとても楽しいのだ。
取り回しのしやすさや低いシート高、信頼性など全てにおいて妥協なく、カムギアトレイン音を聞きながら走れば「ホンダに乗っている」という充実感も高い。
ただ一点注意したいのは、極太タイヤの交換時コストである。
ワイドラジアルだけに前後交換はブランドによっては5万円を超えることも。よって購入時はタイヤの状態も加味して選ぶことをお薦めする。

ルックスも性能もわりとモダンなホーネットは、まだ良い状態のタマを見かけることもあるいせいか「絶版車」という意識が少ない気がするが、いつの間にか絶版となってから17年、初期型で言えばもはや30年選手になろうかというモデルである。
性能を思いっきり楽しむのももちろん良いが、綺麗なノーマル状態のものがあればそろそろ絶版車としてしっかり愛でてあげたい年式になりつつある。

筆者プロフィール

ノア セレン

絶版車雑誌最大手「ミスターバイクBG」編集部員を経た、フリーランスジャーナリスト。現在も日々絶版車に触れ、現代の目で旧車の魅力を発信する。
青春は90~00年代で、最近になってXJR400カスタムに取り組んだことも! 現在の愛車は油冷バンディット1200。