販売店などでバイクを購入する際、店頭のプライスカードに書かれた「車両本体価格」に「諸費用」が加算された「乗り出し価格」が支払いの総額となることが一般的です。

販売店毎の諸費用設定金額の違いや車両の排気量によって金額は異なりますが、思った以上に高額だと感じることもあるのではないでしょうか。

そんな時に魅力的に感じるのが「現状販売」の四文字です。
本記事では中古バイクの販売における現状販売の実態や注意すべきポイントなどを解説します。

バイクの現状販売とは

中古車として販売されるバイクは、同じ車種でも年式や走行距離によってコンディションは1台ごとに異なるため、一般的な販売形態では新たなユーザーの手に渡る前に販売店で点検や整備、必要に応じて部品交換などを行います。
ナンバープレートを取り付けるためには登録証の発行など書類関係の手続きも行う必要があります。

そのためユーザーは車両本体価格に発生する諸費用を支払うことが一般的です。

一方、現状販売とは現状渡しと呼ばれることもある販売方法で、文字通りバイクを現状(現在の状態)のままユーザーに販売します。

オークションサイトやフリマサイト、SNSを通じて行われる多くの個人売買の他、現状販売はバイク販売店においても行われることもあり、一般社団法人中古二輪自動車流通協会(https://umda.or.jp/)によれば、バイクの現状販売に関するトラブル相談件数は増加傾向にあり、同サイト内のブログでも頻繁に注意喚起の記事が投稿されています。

引用元:一般社団法人中古二輪自動車流通協会

ただ、あらゆる点で現状販売が怪しく危険で、忌避すべき販売方法というわけではありません。
現状販売に関する内容を正しく理解して、自分自身にとって利用する価値があるか否かを判断することが重要です。

どのようなバイクが現状販売される?

個人売買では現状販売が一般的なのに対して、バイクショップでは「現状販売をまったく行わない販売店」もあれば、「現状販売しか行わない販売店」もあります。
さらに「基本的には現状販売を行わないが特定の車両については現状販売を行う販売店」もあります。

納車整備費用の有無によって乗り出しの金額が変わるため、表面的には現状販売のほうがユーザーの財布には優しいように感じるかもしれません。

ここでは最後のケースを想定して、整備付き車両の販売が中心の販売店でどのようなバイクが現状販売されることが多いかを解説します。

旧車や特殊な車両

バイクは走行距離が伸びたり生産からの年数が経過することで各部の消耗・摩耗・劣化が進行します。
新車で販売されてから長い年月を経過した中古車は、当然ながら新車から1年しか経過していない中古車に比べて潜在的なトラブルの可能性が増える傾向にあるため納車整備を行う際の時間やコストも増加する傾向にあります。
旧車と呼ばれるような生産からの年数が経過している車両は整備・点検する箇所が多いため多くのコストや手間がかかります。

また、旧車や絶版車の中には、一般的な整備に関する知識や経験とは別に、車種固有のノウハウや経験値が求められる場合もあります。
販売店の中にはそうして掛かる手間やコストを考慮した際に、整備をせずにそのままの状態で販売する方がベターであると判断した場合に現状販売を選択するケースも考えられます。

パーツの入手が難しい車両

前項に関連する内容ですが、販売終了から長い年月を経ることで補修用のメーカー純正パーツが販売終了となることがあります。
ユーザーの立場であれば、中古パーツや社外品で対応することもできますが、これから販売しようとする車両にとってパーツの欠品は致命傷です。

また国内流通台数が少ない一部の外車や正規販売が行われなかった並行輸入車両などは、年式にかかわらずパーツの入手が難しいケースもあります。
このような場合にも、手間やコストを考慮して現状販売を選択することが考えられます。

修理箇所が多い車両

中古車のコンディションが1台ごとに異なるのは冒頭で触れた通りです。
車両によっては納車整備にあたり多くの消耗品類の交換をする必要が出てくるケースもあるでしょう。

また、販売店が整備を行って販売する場合は保安基準に適合させる必要があります。
本来であれば構造変更届が必要なカスタムがしてあるのに変更届を行っておらず純正状態に戻すための部品も無いなど、以前の所有者の改造が保安基準から大きく逸脱する場合、販売できる状態にするための時間やコストが掛かる場合もあります。

バイクの現状販売のメリット

整備付き車両販売が基本の販売店における現状販売車には、どうしても「いわく付き」というイメージがつきまといがちです。
前段の内容を見ても、「現状販売車両は販売店からすると一般的なユーザーには売りづらい車両」という印象を受ける方もいるでしょう。
ですが、現状販売にはメリットもあります。
ユーザーによっては「現状販売だからこそ楽しめるバイクライフがある」のも事実です。

車体を安く購入することができる

整備付きの中古車を購入するには、車両本体価格に加えて納車整備費用や登録代行費用などの諸費用が必要です。これに対して現状販売の場合、諸費用がカットされるため車体を安く購入できるのが最大のメリットです。

ただし、車体本体の価格のみで売買を行うため、購入した車両を販売店から移動する手段もユーザー自身で手配しなくてはなりません。
ナンバー登録に関しては原付や車検のない250cc以下の軽二輪なら市区町村の役所や住所地を管轄する運輸支局または自動車検査登録事務所でナンバープレートを取得できますが、251cc以上の車検対応排気量帯のバイクで車検が切れている場合、継続検査を通すまでは公道を走行できないので、トランスポーターなどで運搬するか役所で仮ナンバーを取らなくてはならない点には注意しましょう。

また、目先の金額だけで購入を決めてしまうと修理や部品交換で後から多大な出費が発生する可能性もあることも覚悟しておく必要があります。

自分でバイクを仕上げる事ができる

バイクを趣味とする人の中には「乗るよりいじる方が好き」という方もいます。
整備やレストアなど手間や時間をかけて1台のバイクとじっくり付き合うには、気に入った車両が現状販売で売られているならそれを選ぶという手段もあります。

ただ、「自分で直せば安く上がる」という安易な発想なら手を出さない方が無難です。
作業内容にもよりますが、バイクの整備には知識や技術はもちろん工具や設備も不可欠です。

必要に応じて工具やケミカルを買い足すことで出費が増えてしまうかもしれません。
現状販売のメリットを実感するには、あくまで整備やレストアといった作業に主眼を置くことが重要です。

欲しいカスタムパーツを複数入手できることもある

旧車や絶版車を整備付きで販売する際、カギを握るのが部品の入手であることは先に述べた通りです。
これを逆手に取れば、カスタム済みの中古車を現状販売として安価に入手できる可能性があります。

自分が所有する愛車と同じモデルがカスタム済みで現状販売になっていれば、部品取り車として価値がある場合もあります。
ブレーキキャリパーやサスペンション、キャブレターやスイングアームまで交換されているようなら、個々のパーツを揃えていくより、丸ごと1台で購入した方が総額で見てお買い得になるケースもあるかもしれません。
ただ、それらのパーツがポン付けで使えるか否かの見極めは必要です。

バイクの現状販売のデメリット

マニアックな視点で捉えればメリットもある現状販売ですが、納車後はすぐにツーリングや街乗りに出かけたいという一般的なライダーにとっては一筋縄ではいかない部分もあります。
そもそも現状販売車はメンテナンスや整備(車両によっては車検)のない状態で納車されるので、公道で安全安心に走行するには入念な点検から始めなくてはなりません。

バイク全体の点検・整備が必須

パッと見はきれいな印象を受ける車両でも、ブレーキパッドが摩耗限度以下まで摩耗していたり、エンジンオイルが規定量入っていないかもしれない可能性があるのが現状販売車両です。

その程度は販売店が確認しておくべきだという意見もあるかもしれませんが、どこをチェックして何を省略するかは販売店の判断次第なので、点検や整備は基本的に車両を購入したユーザーの責任で行わなくてはなりません。
これが現状渡しと呼ばれる所以でもあります。

キャブレター車でもフューエルインジェクション車でも、放置期間が長くなるとガソリンのワニスなどな詰まって始動しなくことがあります。
その場合、始動未確認という状態で販売されることもありますが、その状況を告知した上で販売される以上、ユーザーはそれを受け入れることが必要です。
車体は安く購入できても整備費用が高くついてしまったというのは、典型的な現状販売あるあるとも言えるでしょう。

保証が付かない

現状販売は文字通り現状で販売を行うため、整備もなければ保証も付かないことが一般的でしょう。
基本的に現状販売車はあらゆる不具合にもすべてユーザー自身で対処しなくてはなりません。
そういった万が一の事態を想定した際に保証が付いているという事は心強い安心材料となります。

現状販売とは真逆になりますが、販売する車両の品質に自信を持っているバイク販売店ほど保証は手厚くなる傾向にあるため、バイクを購入する際には保証内容にも注目してみると良いでしょう。

登録も自分で行う必要がある

点検や整備だけでなく、登録手続きもユーザー自身が行う必要があります。販売店に頼めば登録代行をしてくれる場合もありますが、当然その際は代行費用が発生します。

とにかく安価に済ませたいという理由で現状販売を選択した場合、ナンバープレートを取るには平日の日中に役所や運輸局に自ら出向かなくてはなりません。
先に説明しましたが、車検付きのバイクであれば中古新規登録時と同時に車検を受けるのが一般的なので、購入したバイクを陸運支局や自動車検査登録事務所まで運ばなくてはなりません。

購入時の配送を手配する必要がある

車両本体価格だけで購入できる現状販売車両に納車整備はなく、登録もしていない状態で納車されます。
未整備かつナンバープレートも付いていない状態なので原則そのまま乗って帰ることはできません。

125cc以下の原付の場合は、販売店から発行された販売証明書があれば市区町村の役所で登録でき、ナンバープレートがもらえます。
125cc~250ccまでの軽二輪車の場合も、販売店から渡される軽自動車届出済証返納証明書と譲渡証明書があればナンバープレートを取得できるので、自賠責保険に加入した上で販売店にナンバーを持って行けば、理屈としては乗って帰ることも可能です。
また、251cc以上の車検排気量帯のバイクも、市区町村の役所で仮ナンバー(自動車臨時運行許可番号標)を発行すれば公道を走行することは可能です。

しかし、前提条件として、現状販売される車両は点検や整備を行っていないため安全安心に走行できるとは限りません。
販売時に重要な部品が欠品している場合もあり得ます。
そのため現状販売でバイクを購入した場合、乗って帰ろうとはせずに自宅まで運ぶ手段を手配しなくてはならないのです。

車両の状態は自分で判断する必要がある

購入後の点検や整備を自ら行うのが現状販売の大原則ですが、それ以前に購入時に車両の状態を確認することも重要です。
SNSやオークションサイトによる個人売買では「異音なし」「不具合はありません」といった出品コメントに接する機会が多いですが、これはあくまで売り主の主観なので鵜呑みしてはいけません。

現車確認で車体各部の損傷や交換部品をチェックしたり、定期点検記録簿によるメンテナンス履歴を確認して状態を判断することが重要です。

バイク販売店の現状販売車両についても、スタッフの話だけでなく自分の目で車両を確認して、整備付き販売になっていない理由を把握することが重要です。

購入後に交換が必要な消耗部品や修理が必要な部分をあらかじめ確認して、車両本体価格に加えて必要な手間や費用を想定することで、現状販売で購入するメリットがあるか否かの検討材料になります。

バイク販売店で通常購入するより高く付く事もある。

ここまで挙げてきた5つの項目を総合的に考慮すると、整備済みの中古車を販売店から通常購入した方が結局安くついたということも十分に考えられるでしょう。

購入した現状販売車両にトラブルが発生するか否かは誰にも予想はつきません。
販売店の方針によって異なりますが、現状販売される車両には相応の理由があることが多いものの、摩耗した消耗品をあれこれ交換したり調整することで多額の費用が発生したり、登録して乗り始めた途端に大きなトラブルで乗れなくなることもあり得ます。

現状販売にはそうしたリスクもあることを理解した上で選択するのであれば良いですが、その一方で納車整備や登録代行などを販売店に依頼できるのであれば、手間やコストやリスクをよく考えた上で通常販売と現状販売のどちらがお得かを判断することをおすすめします。

十分な整備が行われていないバイクで公道走行を行うリスク

つい先日まで誰かが乗っていたとしても、整備や点検が行われていない状態で公道を走行するのはユーザー自身はもちろん他人の命を危険にさらす重大なリスクがあるため、未整備での走行は厳禁です。

車検付きのバイクの場合、ひとまず2年に一度の継続検査が関門となるため、保安基準に適合させるため最低限の手入れがされていることが想定できますが、250cc以下のバイクの整備は完全にユーザーや販売店に委ねられています。

整備不良による不具合は「走らない」「止まらない」に大別されますが、より危険度が高いのは後者です。

エンジンの始動不良や加速不良、突然のエンストは自分だけが残念な思いをすれば済むことが多いです。

しかし、50km/hで走行している時にブレーキトラブルで止まれなくなった場合、自分ひとりの事故では済まない場合もあります。
このような場合でも現状販売で未整備の場合、責任はユーザー自身にあります。

バイクにはタイヤやブレーキ、ドライブチェーンやサスペンションなど数多くの重要保安部品があり、車両購入時に問題なかったからといって明日も大丈夫とは限りません。

販売店で行う納車整備は、こうしたリスクの芽を事前に摘み取る重要な作業です。
単純に支払う費用が安くなるという理由だけで、整備や点検に対するコスト意識が抜け落ちているのであれば、現状販売を選択するべきではありません。

現状販売で購入したバイクの整備ができなかったら

目先の車両本体価格につられて、あるいは通常の中古車情報サイトではまず見かけない憧れの車種だったという理由で現状販売のバイクを購入したものの、自分の知識と経験では整備ができず困ってしまった……というケースもあるかもしれません。

そのような場合は近隣のバイク販売店や用品店に法定24ヶ月点検の相談をしてみましょう。
これは道路運送車両法に基づく法定点検で、新車であれば購入後24ヶ月後に行う事が義務づけられている点検です。
スパークプラグやエアークリーナーエレメントの状態、水冷エンジンなら冷却水の漏れや量、クラッチの作用や前後ブレーキのパッドやシューの摩耗、タイヤの溝の深さや亀裂の有無、バッテリーや灯火類に至るまで、点検項目は多岐にわたります。

店舗や排気量にもよりますが、中古バイクを納車整備付きで購入する場合の納車整備は法定24ヶ月点検をベースとしていることが多いためです。

購入時に掛かる費用と、納車後に販売店や用品店に依頼する際の費用には差があるかもしれませんが、いずれにせよ自分で満足いく点検ができないのであればプロの整備士に任せるのが賢明です。

ただ、車両のコンディションによっては、交換が必要な部品店数が多くなったり、エンジン本体の修理や必要になるなど想定外の費用が発生する可能性もあります。

販売時の状態があまりにもひどい、虚偽の情報に基づいて販売されたなどの場合、販売店にクレーム対応を求めることができることもありますが、ユーザーはそうした状態をも含めて現状販売であることを覚悟しておいた方がよいでしょう。

大前提として、バイクのプロが仕入れてチェックした上で現状販売扱いとした中古車にはそれなりの理由があると理解しておくべきです。

不調が続いても「どうしてもこのバイクじゃなきゃ嫌だ」という強い意志があるならともかく、雲行きが怪しく安物買いの銭失いになりそうであれば、深追いせずそのバイクは一度手放し、気持ちも新たに別のバイクを再購入するという手もあります。

痛い出費になりますが、大きなトラブルや事故を起こす前なら勉強代と考えるのが得策です。
また、「不動車再生が趣味」というようなディープなバイク好きでなければ、次に購入するバイクは必ず納車整備付きの車両を選びましょう。

長所と短所がある現状販売。バイクに乗って楽しみたいユーザーには納車整備付き車両がおすすめ

「納車整備付きより現状販売の方がバイクを安く買える。」
この部分だけを取り上げれば誰もが現状販売に興味を持つでしょう。
昨今のバイクはそう簡単に壊れないという根拠のない信頼も後押しになるかもしれません。

しかし、中古車を購入する際に前のユーザーがバイクをどのように扱ってきたかはなかなか分かりません。

実際の作業はバイク用品店に依頼するとしても、チェーンの伸びやスプロケットの尖り具合、ブレーキパッドの摩耗やバッテリーの充電確認といった点検や整備の心得があるユーザーにとっては、整備や登録を省略した現状販売は都合の良い選択肢かもしれません。

目先の支払金額だけで現状販売でバイクを購入することは、これまで説明したさまざまな理由から避けた方が良いでしょう。
スマホやファッションにもお金を使いたいライトユーザーにとって、車検が切れた400ccクラスのバイクだと10万円前後になることもある納車整備費用や登録代行費用などの諸費用は軽視できない金額です。

とはいえ現状販売車両を点検整備する期間、そのバイクには乗ることができません。
交換が必要な部品を購入するまでにさらにお小遣いを貯める必要があるかもしれません。

車両購入を現金一括でするなら諸費用を省きたい気持ちも理解できますが、分割で支払うのなら総支払額がいくらか高くなっても納車整備や登録を販売店に依頼した方がストレスなく安心・安全にバイクを楽しめるはずです。

筆者プロフィール

栗田晃

バイク雑誌編集・制作・写真撮影・動画撮影・web媒体での記事執筆などを行うフリーランスライター。現在はサンデーメカニック向けのバイクいじり雑誌「モトメカニック」の編集スタッフとして活動中。1976年式カワサキKZ900LTDをはじめ絶版車を数台所有する一方で、現行車にも興味津々。