バイクのキャブレターとは?構造やメリットとデメリットまで徹底解説
公開日:2023.11.30 / 最終更新日:2023.11.30
少し前のバイクにはキャブレターが使われているのをご存知の方も多いことでしょう。
ガソリンと空気を理想的な状態でエンジンに送り込むには、キャブレターが重要な役割を担っていました。
中古車を探す場合、価格や欲しいモデルによってはキャブレターのバイクしかないということもあるでしょう。
旧車に乗りたいのであればもちろん例外なくキャブレターです。
でも中には「キャブレターのバイクが扱えるのか」なんて心配している人がいるかもしれません。
そこで今回はキャブレターについて詳しく解説していくことにしましょう。
キャブレターとは
キャブレター(carburetor)は日本語で気化器という意味です。
ガソリンを霧状にして空気と混ぜ合わせ、エンジンに送り込む燃料供給装置のことです。
排気ガス規制が年々厳しくなってきたことから、日本国内で2008年以降発売されるバイクはほぼ全てのバイクがインジェクションとなりました。
どんなときも正確に制御できるインジェクションが排ガス対策に必要だったからです。
性能や扱いやすさ、環境性能などでキャブレターはインジェクションにかないません。
しかし現在でもキャブレター車の方が良いというライダーは少なくありません。
それは右手の動きにダイレクトに反応してくれるからです。
極端なことを書いてしまうとインジェクションは、誰がどのようにスロットルを開けても同じようにパワーを発揮します。
それに対してキャブレターは、右手の動きに直結して動くのでスロットルワークが大事になります
だからライダーによってはキャブレターの方がバイクを操る楽しさが大きいと考えるのです。
また、高年式のキャブレター式バイクであれば、インジェクションとほとんど変わらないくらい扱いやすいバイクも少なくありません。
キャブレターの仕組み
キャブレターは本体下にあるフロートチャンバーに溜まったガソリンを吸い上げ、空気と混ぜて混合気を作ります。
ガソリンを吸い上げる力は、エンジンの吸気によって空気がキャブレターの内部を流れるときに発生する負圧。
霧状に噴出したガソリンは空気と混ざり合い、シリンダーに送られていきます。
このとき、ガソリンの粒子は細ければ細かいほど燃焼効率が良くなります。
ガソリンが吸い出される通路にはジェットという部品が取り付けられていて、ガソリンの量を調整し、空気とガソリンの混合比が最適な状態になるようにしています。
では各部品とその役割をもう少し詳しく見ていくことにしましょう。
フロートの役目
ガソリンを最適な量だけ吸い出すためには、フロートチャンバーに溜まっているガソリンの量を常に一定にしておく必要があります。
これを調整するのがフロート。
文字通りガソリンの浮きです。
ガソリンが溜まってくるとフロートが持ち上がってアームを押し上げ、最適な量になったところでフロートバルブがガソリンの通路を遮断。
(バイクに取り付けたときは写真と上下が逆になります)
足りなくなるとフロートが下がってバルブが開き、ガソリンがタンクから落ちてきます。
スロットルバルブ
空気の量を調整するのがスロットルバルブです。
スロットルバルブがスロットルを開けるとスロットルバルブが持ち上がり、空気の量が増えます。
この写真はエンジンがアイドリングしている状態です。
スロットルを閉じているときは、スロットルバルブが下まで降りていて、下に開いた隙間からだけ空気が吸われています。
ジェット
吸い出されるガソリンの量はジェットで調整されます。
ジェットを交換することでキャブレターはセッティングを変更することができます。
中心にあるのはメインジェットで、これは中開度から高開度を担当します。
レースなどでセッティングをするときに交換するのは、主にこのメインジェットです。
メインジェットから吸い上げられたガソリンはノズルを通ってベンチュリー(空気の通路)まで上がっていきます。
ノズルの吹き出し口にはジェットニードルというテーパーのついた針のような部品が差し込まれていて、このニードルはスロットルバルブと一緒に動いています。
ニードルがノズルの中を流れていくガソリンの量を調整して、中開度のときに適切なガソリンの量を調整しています。
ニードルはテーパーになっているので、スロットル開度によって吹き出すガソリンの量を変化させ、どの開度でも最適な猟に調整しています。
低開度のガソリンの量を決めるのはスロージェット(メーカーによってはパイロットジェットと言います)。
スロットル開けはじめのスロットルのツキに影響します。
キャブレターボディの横についているのがエアスクリュー。
スロットルが全閉になっているとき、微妙な空気の量を調整します。
エアスクリューが関係するのはぼアイドリング付近のみ。
スロットルが開きはじめてしまうとほとんど関係なくなってしまいます。
ホディサイドにある大きな調整ネジはアイドリングストップスクリュー。
このネジを締め込むとアイドリングの回転が上がり、緩めると回転が下がります。
多気筒エンジンのアイドリングストップスクリューは、キャブレター同士を連結しているリンク部分などに取り付けられています。
開度によって担当するジェットが異なるのは、ジェットが一つだと空気の速度によって微妙な調整ができないからです。
ここまで説明したのは2ストロークバイクや70年代の4ストロークに採用されている強制開閉式キャブレターの場合。
FCRやTMRといったチューニング用の高性能キャブレターも強制開閉式です。
対して80年代以降の4ストロークバイクの多くに採用されているのが負圧式(CV)キャブレター。
基本的なキャブレターの構造は同じですが、大きな違いはスロットルバルブの動かし方。
強制開閉の場合、ライダーの操作に直結してスロットルバルブが動きますが、負圧式キャブレターの場合は空気の負圧によって自動的にスロットルバルの開閉が行われます。
ダイレクトなレスポンスという点では強制開閉に劣りますが、非常に扱いやすいのでビックバイクを中心に多くの4ストロークマシンに採用されるようになりました。
キャブレター車の特徴
実際にキャブレター車とインジェクション車を乗り比べた場合、どのように違うのでしょう?
2ストロークや70年代の強制開閉式のバイクでは、エンジンの回転に応じてスロットルを開けるような操作をする必要があります。
低回転からいきなりスロットルを全開にしてしまうとエンジンがついてきません。
しかし90年代から2000年代にかけてのキャブレター車であれば、乗りやすさに関してはインジェクションと大差ないでしょう。
大きな違いがあるとしたら始動時の操作とガソリンコックの操作。
エンジンが冷えているときはガソリンが気化しにくいのでガソリンの量を濃くする必要があります。
インジェクションは自動で混合気を調整してくれますが、キャブレター車の場合は自分でチョークを引いてからエンジンを始動し、暖気が終わったらチョークを戻します。
ガソリンタンクには燃料コックがあるので、メインタンクとリザーブの切り替えは自分で行います。
もしも手動でオフにするタイプだとしたら、エンジンを止めて駐車するときはコックをオフにするようにしてください。
セッティングしやすい
インジェクションのバイクと比較してキャブレターは交換が簡単です。
サイズや取り付け部の形状が合致すれば、高性能なキャブレターなどに交換するようなカスタムを楽しむことができます。
セッティングの変更もジェットを交換するだけです。
ただ、インジェクションのバイクも車種によってはサブコントローラーを使用して簡単にセッティングの変更ができるものがあります。
キャブレターを外す必要がないので、マルチエンジンなどでは圧倒的にセッティング時間が早くなります。
キャブレターは電子部品ではないので分解することができます。
内部パーツが販売されているキャブレターであれば、不調になったとしても修理することが可能なのです。
押しがけをすることができる
キャブレター式のバイクは、スリッパークラッチ(バックトルクリミッター)などが採用されている一部のバイクをのぞけば、バッテリーが弱くなったときでも押しがけができます。
インジェクションのバイクに関しては、車種によって押しがけしてもエンジンを始動ささせられないバイクも存在します。
天候や標高によって安定しなくなることがある
エンジンを快調に回すためには、ガソリンと空気中の酸素の比率が正しいことが絶対条件です。
ところが酸素の量は気圧、気温、湿度、標高などで変化してしまいます。
インジェクションはどんなときも自動的に補正してくれますが、キャブレターはジェットでガソリンの量が決まっているので、天候や季節によっては調子を崩してしまう場合があります。
ツーリング中、極端に標高の高い場所を走ったときもガソリンが濃い症状となり、エンジンの回り方が重くなったりします。
純正のキャブレターであればこういった変化はそれほど大きくありませんが、高性能キャブレターなどを使っている場合はセッティングがシビアになる傾向になり、夏と冬でジェットを変えている人もいます。
フューエルインジェクションと比較して燃費が悪い
インジェクションは混合比が常に最適であることに加えて混合気中のガソリンの粒子が細かくなるので、燃焼効率が高く結果として燃費も良くなります。
キャブレターの場合はその逆になるので燃費はインジェクションバイクに比べると悪くなる傾向にあります。
定期的なメンテナンスが必要
古いキャブレター式のバイクは、内部が傷んでいたりゴミなどが詰まっていることもあり、こうなるとアイドリングが不安定になったり、オーバーフローといってガソリンが漏れたりします。
こういう症状が出た場合は調整やオーバーホール(分解清掃)が必要になります。
特に長期間放置されていたバイクの場合、分解清掃は必須になるでしょう。
ただし、キャブレターのバイクだから必ず定期的な整備が必要というわけではありません。
90年以降などの比較的高年式のバイクであれば、キャブレター式であってもメンテナンスせずに長く乗り続けているというオーナーは少なくありません。
年式や保管状態によってメンテナンスが必要になる場合があるというくらいに覚えておくと良いでしょう。
また、はじめてキャブレターのバイクに乗った人は、何かトラブルがあるとキャブが不調になったせいだと考えてしまいがちですが、キャブレター以外に問題がある場合も多いので、良くわからない場合はショップに依頼することをオススメします。
キャブレターのオーバーホールは正しい知識を持ち、適切な工具があれば決して難しいものではありませんが、知識のない人が分解するべきではありません。
フロートのアームが簡単に曲がりやすく、ここを曲げてしまうとキャブレターは大きく調子を崩してしまうことになります。
バイクのメンテナンスに自信がない場合、キャブレターは自分でいじらずにバイクショップに整備を依頼するのが賢明です。
正しく理解すればキャブレターのバイクは楽しい
性能で言えばキャブレターはインジェクションにかないませんが、性能と楽しさは別問題です。
最初に説明したように乗ったときの面白さはキャブレターの方が上だというライダーは少なくないのです。
バイクはすべてイージーに動かせる方が良いというのなら別ですが、キャブレターのバイクも実用上はまったく問題ないレベルにあります。
もしもバイクに趣味性を求めていて、キャブレターのバイクに興味があるのであれば、ぜひ店頭でエンジンをかけてみてください。
キャブレター特有のダイレクトなレスポンスの虜になってしまうかもしれません。