クラッチはバイクを構成するうえでとても重要なパーツ。
ほとんどのバイクにはクラッレバーがついていて、ライダーが手動で操作します。
一部のバイクにはクラッチレバーがないモデルもありますが、そういういったモデルにもクラッチは搭載されています。

そんなクラッチですが、どんな種類があってどんな仕組みで動いているのかなどは案外知らないもの。
今回はバイク初心者向けにクラッチに関する様々なことを解説していきます!

バイクのクラッチとは

まずはクラッチがどんな役目を持っているのかを説明します。
クラッチはエンジンからの力を後輪に伝えたり切ったりするシステムのことで、主に発進時やギアチェンジ時に操作します。

多くのマニュアル式クラッチバイクでは、クラッチはエンジンの右後ろのカバーの中に入っています。
詳細は後程解説しますが、一般的なバイクは湿式多板というシステムを採用しておりカバーがついているため、外からクラッチを見ることはできません。

バイクのクラッチの種類

バイクのクラッチにはいくつかの種類があります。
それぞれに特徴やメリット、デメリットなどがあります。

湿式クラッチ

バイク用のクラッチとしては最も一般的なのが湿式多板クラッチです。
湿式はクラッチがエンジンオイルの中に浸っていることを意味します。
多板は文字通りクラッチ板がたくさん使われているということ。

つながり方がスムーズで半クラッチがやりやすく、メカノイズも少ないです。
クラッチ板の減りも少ないなど、色々なメリットがあります。

乾式クラッチ

乾式クラッチはレーサーなどに使われる方式です。
クラッチがエンジンの外に出ているのでオイルをかき回す抵抗がなく、つながり方がダイレクト。
その反面、クラッチを切ったときに「シャラシャラ」という音が出るという特徴があり、この音が好きなマニアもいます。

その反面半クラッチがシビアでクラッチ板の減りも多く、カバーがない場合は異物を噛み込む可能性があるというデメリットもあります。

多板クラッチ

多板クラッチは、何枚ものクラッチ板を組み合わせた方式です。
直径を小さくすることができるので、バイクのエンジンをコンパクトにすることができます。

単板クラッチ

モトグッツィやBMWの一部車種では乾式の単板クラッチが使われています。
これはクルマに多く使われている方式でクラッチ板が一枚しかありません。

これらのメーカーは古くからこのメカニズムを使い続けて進化させてきているので、実際に走らせても湿式多板クラッチと変わらないくらいにスムーズなつながり方になっています。

遠心クラッチ

スーパーカブなど一部のマシンやスクーターなどには遠心クラッチが採用されています。
エンジンの回転が上がると遠心力で自動的にクラッチがつながるのでクラッチ操作が必要なく、クラッチレバーもついていません。

スリッパークラッチ

最近のバイクではスリッパークラッチという機構が一般化しています。
速度を落としてシフトダウンをするときに大きなショックがあっても、自動的に力を逃がしてくれます。

急なシフトダウンをすると、そのショックでリアタイヤがバタバタと跳ねるホッピングという症状が起きてしまうこともありますが、スリッパークラッチはこういった現象を防いでくれます。
初心者は慌てるとシフトミスなどをしてしまうこともありますから、スリッパークラッチつきのマシンはおすすめといえるでしょう。

クラッチの仕組み

クラッチの機構は難しいものではありません。
基本的にはエンジンの力を伝えるクラッチ板と、その力を後輪に伝える2種類のクラッチ板があり、この2つをスプリングの力で押し付けているだけです。

イメージしやすいように手で表現してみましょう。
左手がエンジンからの力が伝わったクラッチ板だと考えてください。
右手が後輪に力を伝えるクラッチ板です。

両手を強く押し当てると左手を回転させる力が右手に伝わることになります。
クラッチレバーを離して両方のクラッチ板がスプリングの力で押し付けられている状態です。

これがクラッチレバーを握った状態。
クラッチ板同士が離れて力が伝わらなくなります。

バイクで多く使われている湿式多板クラッチの場合も基本的な考え方は同じ。
クラッチ板の枚数が多くなっているだけです。

このプレート(正式名称はフリクションプレート)がエンジンからの力を伝える役目を果たします。
外側の突起がクラッチ外側のバスケットと言われる部品と噛み合っています。
エンジンが始動するとこのクラッチ板は常に回転しています。

こちらのクラッチ板(正式名称クラッチプレート)が後輪に力を伝達します。
内側の突起がクラッチの内側にあるハブという部品と噛み合っていて、ハブの力はミッションから後輪に伝えられます。

この2種類のクラッチ板がスプリングで押し付けられることでクラッチがつながり、レバーを握ると隙間ができてクラッチが切れる仕組みです。

取り付ける場合はそれぞれのプレートが交互に組み付けられます。
クラッチ板の数が多いことで大きな力にも耐えられるようになり、エンジンのパワーを確実に後輪に伝えることができるのです。

半クラッチとは

クラッチ付きのバイクでスタートするときに必ず使うのが半クラッチという操作方法です。
クラッチが滑りながら少しつながっている状態のことを言います。

先ほどの手で説明すると、左右の手が軽く押し当てられている状態。
左手を回す力(エンジンからの力)は右の手(後輪に伝わる力)を回そうとしますが、力を入れていないので抵抗がありながら滑っているイメージです。
クラッチレバーを離していくと押し付けられる力が強くなって、最後は完全にクラッチがつながった状態になります。

バイクが止まっているとき、いきなりクラッチが完全につながってしまうとエンストしたり、バイクが飛び出してしまうのでスピードがある程度上がってくるまでは半クラッチの状態をキープする必要があります。

ただし半クラッチはクラッチ板を滑らせるので、不用意にたくさん使うとクラッチ板の摩耗を早めることにもなります。
バイクによって半クラッチが必要な量は変わるのですが、乗りながら少しずつ半クラッチの使い方を練習していれば、適切な使い方が身についていくことでしょう。

電子制御クラッチ

最近は技術が進歩してクラッチの電子制御化も進んでいます。
各メーカーが電子制御クラッチを採用したバイクを投入していますが、その多くはビックバイク。
普通二輪免許で乗ることができる電子制御クラッチ付きのバイクは、2025年10月現在の時点ではホンダのレブル250、CL250のみです。

ホンダ Eクラッチ

例としてホンダの電子制御クラッチであるEクラッチについて解説をします。

Eクラッチは発進やシフトチェンジのクラッチ操作を完全に自動で行うシステムです。

エンジンを始動したら、ギアをローに入れてスロットルを開ければ動き出します。
クラッチレバーに触る必要がありません。
発進、停止、シフトチェンジでいつでも最適なクラッチ操作をしてくれるので、クラッチレバーを操作をしなくても走りはスムーズそのものです。

レブル250には通常のマニュアルクラッチとEクラッチがラインナップされていて、違いはクラッチのみ。
外観で違うのは右側のクラッチのカバーの形だけ。
上のEクラッチの写真と下のマニュアルクラッチの写真を見比べていただければクラッチカバーの形が違うことがおわかりかと思います。

Eクラッチにはクラッチレバーがついていて、クラッチレバーを握ったときだけは通常のマニュアルクラッチと同じように操作することができます。

クラッチと免許

二輪免許には小型、普通、大型それぞれにAT限定免許があります。
マニュアルに比べて教習時間が少し短いので、免許取得までの日数や費用を若干抑えることができます。

AT限定免許で乗ることができるのは、基本的にクラッチレバーがないモデル。
代表的なのはスクーターですが、最近はAT限定で乗れるバイクが増えてきましたので、具体的な車種を紹介することにしましょう。
ちなみにレブル250 Eクラッチはクラッチレバーがあるため、AT限定免許で運転することはできません。

ホンダ スーパーカブ

スーパーカブシリーズは自動遠心クラッチでクラッチレバーがないため、AT限定小型二輪免許以上であれば乗ることができます。

クラッチはないけれど、シフト操作の楽しさがあるのがこのバイクの魅力。
他にダックス125などもAT限定免許で乗ることが可能です。

ホンダ アフリカツイン

アフリカツインのDCT(デュアルクラッチ・トランスミッション)仕様はクラッチレバーがないのでAT限定大型二輪免許で乗ることができます。
ホンダ独自の二輪用DCTはマニュアルより楽しいというライダーもいるほど完成されたシステム。

他にはX-ADV、 NT1100、レブル1100、 NC750X、ゴールドウイングなどのDCTモデルであればAT限定大型二輪免許で乗ることが可能です。

BMW R1300GS AST

BMWの自動変速、クラッチシステムのASAを採用しているR1300GSとR1300GSアドベンチャーもAT限定大型二輪免許で乗ることができるバイク。
正確なギアチェンジをしてくれるからライディングに専念することができます。

ヤマハ MT-09 Y-AMT

ヤマハのY-AMTは、スポーツライディングを楽しくするために開発されたクラッチとミッションの自動制御システムです。
ツーリングやストリートはもちろん、ワインディングでも楽しく走ることができる特性になっています。

クラッチのメンテナンス

クラッチは日常の整備をすることで乗りやすくなり、更にはクラッチの寿命を伸ばすことにもつながります。
ここでは初心者でもできる簡単な整備を紹介します。

遊び調整

ワイヤー式のクラッチであれば遊び調整のダイヤルを調整して、自分の好みの位置でクラッチがつながるようにすると乗りやすくなります。
基本的に工具不要でできますが、緩み止めのネジが固くて回らない場合は、ロックしているダイヤルをプライヤーなどで軽くつまんで回すと良いかもしれません。
詳しいやり方は下記のリンクを参考にしてみてください。

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エンジンオイル交換

エンジンオイルにはクラッチ板を保護して滑りを押さえる成分なども含まれています。
交換時期を過ぎて長い期間使い続けていると、こういった成分の効果が薄れてクラッチが滑ったり摩耗したりする原因になる可能性があります。

エンジンオイルの交換はクラッチの寿命にも関係してくるので、正しいタイミングで行うようにしてください。

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クラッチを知ればバイクが楽しくなる

クラッチに関して理解していただくことができましたでしょうか?
マニュアル操作のバイクに乗るのであればクラッチ操作は切り離すことはできません。
もしも半クラッチの使い方に苦手意識がある場合は、先に説明したつながり方をイメージしてみると良いかもしれません。
そしてクラッチの使い方が上手になれば、バイクをもっと楽しく走らせることができるようになることでしょう。

筆者プロフィール

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