雨の日のバイクは“急”のつく動作は厳禁!ゆとりとリラックスを心がけよう!
公開日:2025.07.02 / 最終更新日:2025.07.02
バイクには暑さや寒さなどの季節や天候の変化を実感できる楽しさがある一方、季節を問わずリスクしかないのが雨天時のライディングです。
たとえ備えが万全であっても、梅雨時で降水確率が明らかに高いことが分かっている時にはバイクに乗らない方が賢明です。
しかし、大気の条件が不安定で出かけたときは晴れていたのに目的地に近づくにつれて天気が崩れて雨に降られたり、反対に雨が降っていても通勤や通学や仕事などでバイクに乗らなくてはならないこともあるかもしれません。
本記事では晴天時と雨天時の道路状況やライディングの注意点を解説し、バイクと雨の関係や注意すべきポイントを解説します。
雨の日にバイクに乗るリスク
路面が滑りやすい
雨天走行時のリスクで最も大きいのは、路面が滑りやすくなることです。
近年、高速道路などで採用例が増えてきた撥水性舗装や高機能舗装は、舗装表面にあえて隙間を作って雨水を排水させる機能を持たせているのが特徴です。
これは、裏を返せば路面の表面に水膜があるとタイヤとの摩擦係数が低下することを証明しています。
その最も顕著な例が、水膜によって路面からタイヤが浮いてしまうハイドロプレーニング現象です。
ハイドロプレーニング現象が発生するような豪雨時以外でも注意が必要です。
雨の降り始めで路面全体が濡れきっていない状況では、ついつい乾燥時と同じような感覚でライディングしがちですが、いわゆる「チョイ濡れ」路面は舗装の隙間に入っているホコリや砂やオイルが浮いてきて、かえって滑りやすくなります。
雨天によって摩擦係数が下がる上に、それらがベアリングのように働いて滑りやすさを倍増させることを知っておきましょう。
制動距離が伸びる
路面が滑りやすくなることでタイヤのグリップ力は低下するため、必然的にブレーキを掛けてから停止するまでの制動距離も長くなります。
ABSを装備していないバイクの場合、ライダーの判断によってブレーキレバーやブレーキペダルを操作する力は晴天時より弱くするはずで、その分ブレーキの利きは弱くなります。
ABSによって制動時のタイヤロックを回避できるようになりましたが、路面乾燥時に比べて雨で濡れた路面はそもそも滑りやすいためABSが積極的に介入し作動します。
タイヤがロックしそうになるとブレーキを解除するのがABSの役目なので、結果的に制動距離は伸びることとなります。
路面の状況や走行速度によって異なりますが、制動距離は1.5倍以上長くなると言われています。
視界が悪い
ライダーに対するリスクとして大きいのは視界の悪化です。
シールドに水滴が付着したり内側が曇ると、併走する車両や対向車、路側を走行する自転車や歩道を歩く歩行者などを見落としがちで、夜間になれば信号や街灯が反射してさらに見えづらくなります。
シールドのないヘルメットを使用している眼鏡ライダーにとっては、レンズに付着する雨水は視力を低下させる要因となるため、いっそうのリスクとなります。
体温が下がる
私たちは普段、平熱である36~37℃の体温を維持していますが、夏場であっても雨天時にバイクに乗ることでライダーの体温は低下します。
強制的に体温を奪われると身体を震わせるなどして体温を維持しようとしますが、その際に体力を使って疲労します。
また、寒さに気を取られることで集中力や判断力の低下にも繋がります。
さらに雨のツーリングでコンスタントに走り続けていると、指先や足首などの関節がこわばり、いざというときに思ったように動かせなくなることもあります。
こうした事象もまた、雨の日にバイクに乗るリスクとなります。
雨の日にバイクに乗る際に注意するポイント
滑りやすい場所に注意する
雨の日は路面の摩擦係数が低下して滑りやすくなることは先に述べた通りですが、路面のコンディションも一定ではなく、さらに滑りやすい部分もあります。
最も危険なのは点在するマンホールと言えるでしょう。
車線の中央や端、さらに交差点内などバイクにとってはまさに地雷原と言っても過言ではありません。
同様に道路と橋梁部の継ぎ目にあるジョイントや工事現場の掘削跡を暫定的に塞ぐ鉄板、路側だけでなく交差点に設置されていることもあるグレーチング(金属製の網)も、スリップの原因となり、停止線や横断歩道の白線の塗料もグリップ力を低下させる要因となります。
このような場所ではブレーキやハンドル操作を避けて、できるだけ車体を立てた状態で通過するよう心がけましょう。
夜間走行時にはマンホールなどの鉄板を見落としがちですが、路面の反射具合の違いや交差点では速度を速度を落とすことを心がけることで危険を回避できます。
急のつく動作をしない
晴天時に比べてタイヤのグリップ力が低下している以上、晴天時と同じような感覚で運転することは避けなくてはいけません。
具体的には「急」のつく動作は控えましょう。
急ブレーキ
ABSが装着されているからといって、滑りやすい路面で転倒を回避できるわけではありません。
急ハンドル
ハンドルを大きく切ったりバイクを深くバンクさせるとスリップしやすくなります。急加速
摩擦係数が低い状態で急加速を行うことでホイールスピンが誘発されて車体の安定性が低下します。
急なシフトチェンジ
シフトチェンジの中でも、特に急なシフトダウンには注意が必要です。
最近はシフトダウン時のショックを軽減するスリッパークラッチを装備するバイクも増えていますが、急なシフトダウンでリヤタイヤの回転数が急激に低下すると、グリップを失って車体の挙動が不安定になることがあります。
普段よりもスピードを抑えて車間距離を長めにとる
晴天時と同じように制限速度を守って走行していても、路面状況が悪く視界も悪いのが雨天走行の特徴です。
そのため制限速度まではスピードを出しても良いと考えるのではなく、すべての動作に時間が掛かる、また情報収集能力も身体の反応も低下していることを自覚して、普段よりも余裕を持って運転することが重要です。
自動車の後ろを走行している際に前で急ブレーキを掛けられて、路面乾燥時と同じ感覚で強くブレーキレバーを握れば、痛い目に遭うのは必ずバイクでしょう。
それを避けるには、晴天時より車間距離を広く確保して走行することが最も有効です。
車体を傾けすぎない
バイクの特性として、コーナリング時には車体を傾けることが必要です。
自動車用タイヤと比べて断面形状が丸いのも、車体を傾けても接地面積が大きく変化しないようにするためです。
しかし、雨天時は路面の摩擦係数が大きく低下し、それにともないグリップ力も低下するためスリップしやすくなり、晴天時と同じ感覚で車体を傾けると転倒するリスクが高まります。
したがってコーナーはなるべくバイクを立てた状態で曲がるようにしましょう。
また、バイクが立った状態ではコーナリングできないのであれば、カーブを通過できるまで速度を落として対処することが重要です。
水たまりに注意する
水たまりにも注意が必要です。水たまりは自社が走行している車線上にあるものと、対向車線にあるものの2パターンで考えます。
自車線にある水たまりを発見したら、できるだけ避けるようにしましょう。
例えば道路端のマンホールが水たまりで隠されていた場合、通過する際にスリップする可能性があります。
また、水たまりの底に石などが沈んでいると、跳ね上げて車体に当たったり乗り上げて転倒する恐れがあります。
さらに水たまりの底にはマンホールなどがあるはずだと思い込んで突っ込んだら蓋がなかった…という危険性もあります。
対向車線に水たまりを確認したときも注意が必要です。
対向車が水たまりに突っ込んで跳ね上げたしぶきによって、一瞬視界が遮られることがあるからです。
走行中は前方の道路状況を注視して、派手な水しぶきが上がっている場合が充分に気をつけながら接近するようにしましょう。
当然ですが、水たまりで急の付く動作を行うことは厳禁です。
高速道路の利用は控える
ツーリングの途中で雨に降られてしまったような場合は致し方ありませんが、雨の日の高速道路走行は控えた方が無難です。
路線によっては高機能舗装の敷設率が高い場所もありますが、通常舗装の路面で速度を上げれば路面とタイヤの間に水膜ができるハイドロプレーニング現象が発生してグリップを失うことになり、滑りやすく制動距離が伸びるのは間違いありません。
速度が上がることで体温低下も進み、視界が悪い中で前方を中止し続けることで疲弊度も増加します。
また、水しぶきによって前車との車間距離が把握しづらくなるとともに、自分のバイクが巻き上げる水しぶきによって後続車両が想像以上に接近して危険な思いをする場合もあります。
そんな中で万が一転倒したことを考えると、出かける前から雨が降っている時は高速道路を使った移動は行わない方が良いでしょう。
雨の日におすすめの装備
バイク用レインウェア
雨の日もバイクに乗るならレインウェアは必須です。
徒歩や自転車と違ってバイクは速度が速い分雨は斜め前方から降り注いでくるので、その点を配慮したバイク用を選ぶようにしましょう。
また、長時間着用していると内部が蒸れてしまいます。
表面の撥水加工はもちろんですが、内側は浸透素材を用いたウェアを選ぶと良いでしょう。
背中側などにベンチレーションを設けている製品もあるので、スペックを確認することをお勧めします。
さらに、襟元や袖口、上着とパンツの形状や処理にも注目したいものです。
バイク専用品はグローブやヘルメット装着時の雨水の浸入対策に力を入れている製品が多く、雨天走行の不快感を解消してくれます。
サイズ的はライディングジャケットなどを着用した上から着ることを考えて選択しましょう。
雨天時でさらに冬となると、可能な限り乗らないことを選択するのが正解ですが、それでもレインウェアを用意しておくのであれば、厚手のウィンタージャケットやオーバーパンツの上から着用できるサイズを選択しましょう。
シールド付きのヘルメット
先に触れたとおり、シールド無しヘルメット+眼鏡ライダーの雨天走行は精神的にも肉体的にもとても辛いので、ジェットタイプでもフルフェイスタイプでも、雨天走行時のヘルメットは是非ともシールド付きを着用したいものです。
さらに、表面には撥水スプレーやコーティングを行うことで、シールドに降り注いだ雨粒ができるだけ残らないようにすることも快適ライディングに大いに役立ちます。
また、シールド内側の曇り止めについては曇り止めケミカルを塗布したり、ピンロックに代表されるような防曇フィルムを取り付けることが有効です。
タイヤ
バイク用タイヤの接地面(トレッド面)には、乾燥時のグリップだけでなく雨天走行時のウェットグリップを重視したものもあります。
タイヤメーカーは同じタイヤサイズでも特性によって複数の製品をリリースしていることが多いので、雨の日もバイクに乗る機会が多いのであれば排水性に優れたトレッドパターンを持つ製品を選ぶのも良いでしょう。
またそれ以前に、タイヤに関しては日常的なメンテナンスが重要です。特に空気圧の管理はウェット性能を左右する要素となります。
パンクしていなくてもタイヤの空気は自然に抜けていき、空気圧が低下した状態ではタイヤの面圧が上がらずウェットグリップが低下します。タイヤの空気圧管理の重要性については以下の記事でも詳しく解説しています。
安全装置
摩擦係数が低い雨天時の路面でスリップしないためには、急の付く動作を避けて速度を控えめに余裕を持って運転することが重要ですが、ライダーの助けになる安全装置が搭載されたモデルを選ぶのも良いことです。
雨天時に限らず有効な安全装置には以下のようなものがあります。
ABS(アンチロックブレーキシステム)
ブレーキ使用時にタイヤがロックする直前で自動的にブレーキを緩めてロックすることを防ぐ。雨天時のスリップダウン防止にも有効。
CBS(コンバインドブレーキシステム)
ブレーキレバーとブレーキペダルを装備しながら、前後のブレーキを連動して利かせることで前後輪に適切な制動力を与える。
TCS(トラクションコントロールシステム)
スロットルを開けた際の後輪のスリップ量を検出し、滑りやすい路面などでは自動的に出力をコントロールして空転を防止させる機能。
雨の後のバイクメンテナンス
水滴のふき取り
雨天走行後に車体が濡れたままバイクカバーを掛けると、エンジンの熱もあってカバー内に湿気がこもって、金属パーツのサビの原因になります。
ブレーキキャリパーピストンやフロントフォークのインナーチューブ、リヤショックのダンパーロッドなどの硬質クロームメッキパーツのサビはリペアに高額の費用が掛かり、また濡れたカバーの内側にカビが生える要因にもなります。
帰宅後も雨が降り続けているなら仕方がありませんが、雨が止んでいる場合はマイクロファイバークロスなどで水分を拭き取り、エンジンの熱がある程度下がってからカバーを掛けるようにしましょう。
ヘルメットやバイクウェアのメンテナンス
雨で濡れたヘルメットやレインウェア、バイクウェアも臭くなったりカビが生えることがあるので、雨を拭き取ったら陰干しでしっかり乾燥させましょう。ヘルメットの内装が外れる場合は、中性タイプのキッチン用洗剤などで洗ってから干すのもおすすめです。
早めに洗車を行う
タイヤが跳ね上げた雨水には砂利やホコリが含まれており、例えばブレーキローターに付着した雨水が乾燥して砂利が残ると、パッドとの隙間に挟まって摩耗の原因となります。
またマフラーに付着した雨水が焼き付くと落ちない汚れの原因になり、カウルやタンクの雨水が乾くと汚れがシミになり、それを擦ると塗装面に傷が付きます。
こうしたダメージを未然に防ぐには、なるべく早く洗車を行うことをおすすめします。
帰宅時に雨が降っていたとしても、バイクの保管場所が屋根付きの駐輪場やカーポートであれば、車体が濡れているうちに一度洗車しておくと汚れや砂利のこびりつきを防止できます。
チェーンメンテナンス
前項とも関連しますが、ホコリや砂利を含む跳ね上げられた雨水はドライブチェーンにも飛散します。
雨水はチェーンルブを流すとともに、スプロケットの歯とチェーンのブッシュ、リンクプレートとOリングの間(シールチェーンの場合)に入り込んだ砂利や汚れが研磨剤のように作用するためやっかいです。
そこで雨天走行後はチェーンの洗浄と注油も行いましょう。
重要なのは注油前の洗浄。チェーンクリーナーを使ってスプロケットやOリングに付着した砂利を落とすことで、チェーンルブの潤滑効果を最大限に引き出すことができます。
さらに詳細なドライブチェーンのメンテナンスに関しては、以下の記事で紹介しています。
ガラスコーティングも有効
洗車時に行うKeePer等のガラスコーティングは雨に強いという特徴があります。
ここまで挙げた砂利やホコリに関してもコーティング表面には付着しづらく、逆に雨によって乾燥時に付着した汚れと一緒に落ちてきれいになることもあります。
必ずしも雨天走行を見越して行うものではありませんが、普段から愛車をきれいに保っておくことで雨天走行時にメリットがあることも知っておくと良いでしょう。
万が一事故を起こしてしまったら
滑りやすい路面と緊張感が求められる雨の日のライディングでは、どれだけ集中して注意していても事故を起こしてしまったり、巻き込まれてしまう可能性がある。
警察庁の統計によれば、晴天時の方が雨天時より事故発生件数自体は多いものの、逆に死亡事故の発生率は雨天時が晴天時の約2倍以上とされています。
自分が第1当事者になるか第2当事者かに関わらず、他車や他人を巻き込む事故が発生した場合、正しい手順でいち早く対応できるよう、あらかじめ知っておくことが重要です。
バイクの事故に関する更に詳しい内容は、以下のリンク先の記事で紹介しています。
雨の日のバイクはリスクがいっぱい。それでも乗るなら慎重第一で。
文頭で結論づけているように、雨の日にバイクに乗ることにはリスクしかない、というのが実情です。
ツーリングで気持ちよくなりたいのに、路面は滑るわ視界は悪いわでは、全く良いところがありません。
実際のところ、ツーリング先で雨に降られてその後の予定を大幅に変更したり、天気予報で降雨の確率が高いことを知って宿泊先のキャンセル料が掛かったとしてもツーリング自体を取りやめにしたというライダーも少なくありません。
一方で通勤通学や仕事など、天候にかかわらずバイクを利用するユーザーにとっては、雨の日の路面状況や注意すべきポイントを把握しておくことが重要です。
毎日同じようなルートを走行するのであれば、晴れの日のうちに交差点内にマンホールが設置してある場所や坂の途中のジョイント、また片側交互通行で道路を掘り起こしている工事現場を把握しておくことで、雨の日ライディングのリスクを軽減できることでしょう。
雨の日のバイクはすべてのライダーにとって不快で、なおかつリスクもあります。
それでも乗るというのなら、準備やメンテナンスまで含めて充分な雨対策を行った上で、安全に配慮してライディングするよう心がけましょう。







