バイク運転中の死亡重傷事故を類型別に見ると、右直事故、出会い頭事故、単独事故の3つが多くなっています。
また、対車両(事故の相手)を見るとそのほとんどが四輪車(普通車)です。

交通事故の多くは相手があって起こるものです。事故にあわないためには自分が“かもしれない運転”をすることが大切ですが「相手は何を考えているのか、自分がどう見えているのか」も知っておくことが危険予測運転にとって重要です。
右直事故に焦点を当てて説明します。

バイクの右直事故とは?

一般的に「バイクの右直事故」という場合は、交差点内で、直進しているバイクと右折しているクルマが衝突することを言います。
バイク運転中の死亡重傷事故では、右直事故によるケースが多くなっています。
警察による分析データを見てみましょう。

バイク運転中の死亡事故では右直事故が多い

警察庁によると、バイク運転中の交通死亡事故に関する車両相互事故類型では「出会い頭」事故についで「右直(右折対直進)」の割合が多くなっています。
また、大半の右直事故ではバイクが直進側だったことがわかります。

警察庁サイト「各部局から/交通局/交通安全のための情報/二輪車の安全利用の促進」ページより引用

なお、警視庁によると、東京都内の場合は「単独」事故が最も多くなっていますが、次に多いのが右直事故です。
下記円グラフの中では「右折時」と書かれていますが、これは右直事故のことです。
バイクが直進側の場合も右折側の場合も含まれていますが、その大半は二輪車が直進側となります。

警視庁サイト「交通安全/交通事故防止/二輪車の交通事故防止/二輪車の交通死亡事故統計(2023年中)」ページより引用

このように、全国で見ても東京都内だけで見ても、バイクの死亡事故では右直事故の割合がとても多いことがわかります。

自工会二輪車委員会は啓発映像を制作

交通事故総合分析センター「ITARDA(イタルダ)」の二輪車死亡重傷事故分析(2016~2020年)によると、右直事故の96%が四輪車との事故で、そのうち79%が乗用車との事故でした。
また、右直死亡重傷事故の70%は信号のある交差点で起きていました。

自工会二輪車委員会では、二輪車死亡重傷事故で多く発生している右直事故、出会い頭事故、車両単独事故を防ぐための啓発映像「梅本まどかと宮城光のセーフティライディング!」を制作しています。

この映像の中では、右直・出会い頭事故の相手車両となっている四輪車からの視点による事故防止についても分析・再現されています。
「四輪車からはバイクがどう見えているのか、見えていないのか」を知り、“かもしれない”の予測運転に活かしましょう。

サンキュー事故

サンキュー事故とは、一方が他方に「お先にどうぞ」と先に行くことをゆずることによって発生する事故を言います。
このような事故なので、本来は優先権のある車両がそうではない車両に先に行かせるケースが多く、右直事故の原因のひとつにもなっています。

バイクがサンキュー事故にあうケースは、交差点の先が詰まっているなどの理由で直進車両が停止している際に、対向の右折車両にパッシングなどで合図を送って先に行かそうとしたら、直進車両の左を走ってきたバイクと衝突してしまうというものです。
片側1車線の狭い道路の場合は、すり抜け中のバイクが事故にあうこともあります。

広い道路でも狭い道路でも起こりうる事故なので、渋滞気味の交差点を直進する際などは特に注意が必要です。

右直事故の過失割合

交差点では基本的に直進車両が優先されます。右直事故に対する責任(不注意や過失)の割合もこの原則に基づいています。

交差点での右直事故の場合、基本的な過失割合は直進車が2割、右折車が8割(右折車のほうが責任が重い)と言われていますが、直進側だったとしても速度超過で交差点に進入していた場合など事故状況によっては過失割合が大きく変化します。あくまでも目安と考えましょう。

なお、基本的な過失割合がこのように定められている理由は、交差点内の優先順位が進行方向によって、直線(最優先)、左折、右折の順番と決められているからです。
これに従わないと事故の要因になってしまうほか、交差点優先車妨害という交通違反で取り締まりを受ける恐れもあります。

違反行為の種別 違反点数 反則金
二輪車 原付
交差点優先車妨害違反 1※ 6,000円 5,000円

※酒気帯び運転の場合は点数が増加

優先道路での過失割合

優先道路とは車線(センターライン)が引かれている道路または優先道路の標識・表示のある道路で、たいていは交差する道路より広い道路や幹線道路などがそれにあたります。
優先道路を走っている直進車が交差する非優先道路から出てきた右折車と事故になった場合、過失割合の基本は直進車が1割、右折車が9割と言われています。

なお、交差する道路のどちらにも車線がなく、どちらが優先道路かわからない場合は「左方優先」の原則(道路交通法36条1項1号)により左側から来る車両を先に行かせます。

信号機のない交差点では直進車と右左折車による出会い頭事故も多くなります。優先道路を走っているときでも交差点では安全確認と徐行を忘れずに行いましょう。

バイクの右直事故の原因は?


バイクが右直事故を起こす場合の相手車両はほぼ四輪車です。その原因には四輪車から見た二輪車の誤った認識や錯覚があります。
バイクが他車と右直事故を起こしやすい原因として以下があげられます。

バイクが認識されておらず事故が発生する場合

直進してくるバイクが周囲のクルマなどに隠れてしまい対向車線の右折車の死角となり、右折車からは直進バイクが認識されていない、発見が遅れてしまうこと。

バイクが認識されているのに事故が発生する場合

右折車は対向車線からバイクが来ていることを認識していますが「バイクはまだ遠くにいる」「速度が遅いので、まだ時間がかかる」と判断して右折を始めてしまうこと。
クルマのドライバーがこのように判断した原因は“遠近錯視”と呼ばれる脳のはたらきのためです。

遠近錯視の実験映像

遠くに見えているトラックとスクーターがこちらに向かってきています。どちらが「遠くに」「遅く」見えるでしょうか?

スクーターのほうが、トラックよりも遠くにいるように、遅く走っているように見えますが…。


実は、トラックもスクーターも同じ速度で並走していました。大きなものほど速く近くに見え、小さなものほど遅く遠くに見えてしまう。これが遠近錯視という現象です。

対向車がクルマの場合は「右折するのを待とう」と思いますが、小さなバイクの場合は錯覚により「行けるだろう」と右折を始めてしまうのです。ライダーもドライバーもこのことを頭に入れておき、交差点での危険予測をする必要があります。

※本項の画像は「梅本まどかと宮城光のセーフティライディング!」より引用

バイクの右直事故対策は?


右直事故を防ぐための対策はどれも基礎的で簡単なことですが、急いでいるなど心に余裕がない時はついおろそかにしがちです。

バイクの特性を理解する

四輪ドライバーから見るバイクは「小さく、遠く、スピードが遅く」見えるという特性を理解して、「前方の右折車からは自分が見えていないかもしれない」という“かもしれない運転”を心がけましょう。

ゆとりを持った運転をする

交差点進入時には「速度を落とす」「車間距離を広げる」「右前方のクルマの視覚に入らない」といった物理的かつ心理的なゆとりを持てる運転状態とし、万が一の時の認知・判断にも余裕を持たせておきましょう。

また、ツーリングからの帰宅時など疲れている時は無理をせず、つらさや眠さを感じる前にサービスエリアやコンビニなどで休憩を取るようにしましょう。
ガソリンスタンドでの給油時でもサービスルームの椅子に座っての小休憩をお勧めします。

すり抜けをしない


交差点に直進するバイクが右直事故にあう場合、その可能性を最も高めてしまうのがすり抜け走行です。すり抜け中のバイクは右折車から見えず、バイクからも右折車が見えにくい状況となります。

すり抜けは、通勤・通学車両が多い朝・夕に増えますが、右直事故もその時間帯に多発しています。
すり抜け走行をしても数分間ほどの差にしかなりませんから、すり抜けで時間短縮をするのではなく、ナビアプリなどを上手に使って渋滞をさけるようなルートを選びましょう。

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速度を出しすぎない


幹線道路にある大きな交差点などでは周囲のクルマの流れにまかせて速度が上がった状態で通過することもあると思います。
しかし、これではとっさの時に認知・判断ができずブレーキなどの操作が間に合いません。

クルマの流れが速いときは、交差点に進入する前にブレーキランプを光らせ(ブレーキランプが点灯する程度に軽くペダルを踏むなど)、後続車に減速を促しつつ自車の速度も落として、前走車・後続車との車間距離を少しでも広げておきましょう。
これだけで、万が一他車と衝突しそうになった場合でも一瞬の減速や回避行動が取れる場合があります。

事故時にライダーが体に受ける衝撃は速度に比例し、60km/hだとビルの5階(約14m)からの落下、40km/hでもビルの2階(約6m)からの落下に匹敵すると言われています。

普段からライディングレッスンなどに参加し、急制動(急ブレーキ)時でもタイヤをロックさせずに減速させられるブレーキ操作を身につけておくと安心ですよ。

しっかりした装備で身を守る


万が一右直事故にあってしまった場合でも、プロテクターなどの安全装備を身に着けていれば衝突時の衝撃をやわらげ、体へのダメージを軽減させられることがわかっています。
ヘルメットのあごひもを正しく締め、胸部プロテクターをはじめとしたプロテクター類を着用しましょう。

グローブをはめる、長袖・長ズボン、くるぶしの隠れる靴をはくといった基本的な装備も重要です。
夏場だからといって半袖半ズボンで走ってしまうと太陽光によって体が熱を持ち、逆に疲れが生じやすくなります。
プロテクターを装備したメッシュジャケットを着るなどして安全性と快適性を両立させましょう。

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バイクの右直事故は“心得”で防ぐ


右直事故は渋滞時のサンキュー事故やすり抜けなどパターン化されており、遠近錯視などの要因も分析されています。
それでも右直事故が高い割合で発生しているのは、ライダーとドライバーへの周知が足りていないこと、また頭ではわかっていても「いつもの道だから」と油断があるからでしょう。

毎日の通勤・通学を同じルートで繰り返していれば油断しやすくもなるでしょうが、そうしたことを防ごうと地域の警察も二輪車ストップ作戦(走行車両を停止させて安全運転を啓発)などを定期的に実施しています。

交差点に入る前には減速と安全確認が必要です。流れにまかせて走っていたり周囲が渋滞している時にはこの基本がおろそかになりがちです。
周りに流されず、自分自身の認知・判断を機能させられるような思考(車間距離を開けよう等)と運転操作を身につけましょう。
そうした“心得”を持つことが事故防止に必要なことではないでしょうか。

筆者プロフィール

田中淳磨

二輪専門誌編集長、二輪大手販売店、官公庁系コンサルティング事務所等に勤務ののち二輪業界で活動するコンサルタント。二輪車の利用環境改善や市場創造、若年層向け施策が専門で寄稿誌も多数。