2022年10月に開催された政府の税制調査会以降、走行税導入の是非が話題です。
自動車やバイクが環境対応を進めていく中で低燃費化や電動化が進み、ガソリン税の減収が続いているためです。

もともと税負担が重い自動車関連税ですが、さらなる増税になるのかと紛糾しています。
自動車の非ガソリン化はカーボンニュートラル実現に向けて進むと思われますが消費者にとっては頭の痛い話です。

我々バイクユーザーも自分ごととして考えるべき問題です。

走行税とは

走行税は道路を作ったり維持するために使われる予定です。日本では検討段階ですが海外ではすでに実施または実証実験を行っている地域もあります。

走行税(走行距離課税)は走行距離に応じて課税される税金

走行距離税(以降、走行税)とは車両の走行距離に応じて納める税金です。
近年、ハイブリッド車やEV車(電気自動車)といった新しい原動機のクルマが増えてきたことでガソリン税(揮発油税・地方揮発油税)の収入が減ってきています。

新しく道路を作ったり、古い道路をメンテナンスするための財源は、自動車取得税、自動車重量税、ガソリン税が充てられているので、このままだと計画道路が作られなかったりボロボロの道路が増えてしまいます。

カーボンニュートラルの実現が世界的に進む中で、道路の延伸・維持のための代替財源が走行税というわけです。

世界では既に走行税が導入されている国がある

世界に目を向けると、走行税を最も早く導入した国はニュージーランドです。
RUC(Road user charges)と呼ばれる仕組みで和訳だと道路利用者料とされています。
軽油など税金がかけられていない燃料で動く車両、総重量3.5t以上の大型トラックなどが対象となります。

RUC車両には距離レコーダーが取り付けられ、移動距離が正確に記録されます。
料金は1,000kmで5,000円ほど。RUCライセンスの事前購入(オンライン購入可)によって支払われ、助手席側のフロントガラス内側の後ろ等にラベル(下図)を表示しておく義務があります。

ニュージーランドも日本と同じように燃料購入時に税金を支払い、それが道路維持費に使われていますが、軽油を使うディーゼル車や大型車に対してRUCが適用されています。

また、実証実験の事例として広く知られているのはアメリカのオレゴン州です。
走行税「OreGO(オレゴー)」を導入し、こちらも車両にマイレージレポートデバイスという走行距離報告装置を装着して集計、走行距離に応じて1マイル1.9セント(約1.6kmで2.58円、約1,000kmで1,613円 ※2023年3月時点)で徴収されています。ただし燃料税は1ガロン38セントで別途支払います。

また、カリフォルニア、ミネソタ、ワシントンなどの州でも持続可能な道路財源の確保を目指して自動車マイレージ課金の実証実験(パイロットプログラム)が行われています。
ただし、州ごとに制度が異なっており、国法における「移動の自由」が阻害されたり、パッチワーク的な仕組みになることへの懸念もあるようです。

ニュージーランドや日本のような単一国家とアメリカやドイツのような連邦国家では走行税導入での課題も異なるようです。

走行税の導入は日本では検討段階

日本では2018年頃から走行税の議論が続いていますが、いまだに検討段階です。
海外とは法律や税金に対する考え方が違いますから、海外で成功したとしても日本で成功するとは限りません。

自動車メーカー等の集まりである一般社団法人日本自動車工業会では走行税については断固反対の立場です。
2022年11月17日に行われたメディア向けの会見では数々の資料を提示し慎重な議論を求めました。下写真は会見時の豊田章男会長。

走行税が日本で導入検討されてる理由は?

ガソリン税の減収による代替財源案のひとつが走行税です。その背景には、エコカーの普及やクルマを所有しないサービスの拡大といった利用環境の変化もあります。

ハイブリッド車・電気自動車などのエコカーの普及

前述したように、走行税導入検討の背景には、ハイブリッドカーなどの燃費の良いクルマ、電気自動車などガソリンを必要としないクルマが普及してきたことでガソリン税収が減少していることが挙げられます。

道路を延伸・維持していくためには道路財源を補填する必要があります。
自動車からは保有・利用・走行時にそれぞれ課税されていますが、そのうち走行時の揮発油税(国税)と地方揮発油税(地方に全額譲与)はとても大きな財源となっているのです。

自動車離れやカーシェアリングの普及による自動車保有者数の減少

また、いわゆる“クルマ離れ”も加速しつつあります。
カーシェアリングの普及やレンタカーのサブスクリプションといったサービスが、クルマの所有人口を都市部から減らしつつあります。

クルマの維持費は決して安いものではありません。
必要な時に必要なだけクルマを利用したい、自動車税・軽自動車税や各種保険代などの維持負担を避けたいという層は、個人だけでなく法人(事業者)にも広がりを見せています。

日本では走行税はいつから導入される?

走行税はまだまだ検討段階です。2022年10月の税制調査会以降、テレビでも盛んに報道され、11月には日本自動車工業会も断固反対の姿勢を示しました。
早ければ2026年の自動車税制見直しのタイミングでの導入を示唆するメディアもありますが、課題は山積みです。

個人、法人、新車、中古車、EV車のみかハイブリッド車も含めるのかなど、ユーザーからすれば戦々恐々としながら見守ることになりそうです。

EV車への走行税と既存の非EV車両へのガソリン税+走行税が並行した場合は、非EV車両からはガソリン税を後日控除して調整するという形も予測されています。

※論文「EVシフトと道路財源:自動車燃料税から自動車マイレージ税/課金への転換と人権」白鴎大学 石村耕治・2018年1月24日発行 より

走行税のメリット

走行税が導入された場合のメリットについて推測も交えて解説します。
自身がICE(内燃機関)のクルマに乗っているのか、完全に電動化されたクルマ(BEV)に乗っているのかにもよると思います。

走行税が燃料税に置き換わる場合

既存のガソリン、軽油、さらには合成燃料や水素も含めて、走行税が燃料税に置き換わるのであれば、普段あまりクルマに乗らない(走行距離の少ない)ユーザーの税負担は減る可能性があります。
都市部や公共交通の整った郊外に住む方への恩恵は大きいかもしれません。

エコカーのみを対象とする場合

電気自動車(BEV)、ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)など、現在エコカー減税が適用されているクルマのみから徴収する場合。
エコカー減税とは、電気自動車、燃料電池車、プラグインハイブリッド車、天然ガス車等を指し、そのクルマの燃費基準達成レベルにより、初回・2回目車検時の自動車重量税の免除や減税が受けられるというものです。

走行税検討の背景を考えれば、これらエコカーの走行距離に課税することが本来の意義でもあります。公平・中立・簡素という課税の考え方からすれば、その公平性(垂直的公平)が保たれるのであればメリットと考えるべきかもしれません。

走行税のデメリット

走行税にも多くのデメリットが予測されています。
特に、地方在住者などクルマが生活の足となっているユーザーにとっては税負担が増える恐れがあります。
また、運送事業者の車両にも課税されれば、あらゆる物価への影響は避けられません。

燃料税+走行税で負担増

アメリカのオレゴン州では燃料税に加えて走行税が課税されています。
その割合はさておき、クルマが生活の足となっている地方在住者にとってはこれまで以上に課税額が増えて生活を直撃する恐れがあります。

物流業界を直撃し物価高騰にもつながる

走行税は長距離走行を業務とする大型トラックなどを保有する運送事業者にとって深刻な経営ダメージを与える可能性があります。
結果的に物価の高騰につながることでしょう。

バスやタクシーといった交通インフラにも影響

公共交通であるバスやデマンドタクシー、社会福祉車両などにも走行税が適用されれば、運賃や利用料の値上げにつながり高齢者や移動困難者の生活を圧迫する恐れもあります。

カーシェア・レンタルサービスなどにも影響

カーシェアやレンタカーなどクルマを所有しないサービスにも走行税が適用されれば、走行距離に応じて支払額が増えることになります。
新たな課税を受ければ利用者が減る恐れもあります。

サブスクリプションサービスにも影響の可能性

月々の定額支払のみで車両の維持費用が避けられてきたサブスクリプションサービスですが、多くのサービスでは走行距離制限が設定されています。
こうしたサービス内容にも走行税による影響が反映する可能性があります。

プライバシーの保護

車両に装着するGPS機器や走行距離メーターといったものにより、運転者のプライバシーが保護されないのではないかという懸念があります。これは海外でも議論されている問題です。

なお、2019年10月の消費税10%改正時に軽減税率(食品や定期購読新聞など)が適用され、複数税率に対応すべくインボイス制度(適格請求書等保存方式)に向かうなど、自動車税制そのものがさらに複雑化する恐れもあります。
公平・中立・簡素な税制度としてシステムがわかりやすくデザインされることを期待したいものです。

バイクも走行税の対象になる?


バイクが走行税の対象となるかどうかですが、もちろん可能性はあるものの、現状では具体化すべき状況にはないと思われます。
現状では以下の理由からハードルのほうが高いと思われます。

バイクはクルマに比べて保有台数が少ない

四輪車保有台数7,845万3,000台(普通車2,025万6,000台、軽四輪車2,298万8,000台 ※2021年12月末時点)に対して、バイクの保有台数は1,028万7,000台です(2021年3月末時点)。
うち生活の足として使われることの多い原付一種は465万3,000台、原付二種は187万2,000台です。

財源として見た場合、コスト面やハード面から以下の理由など導入障壁が多すぎると考えます。

クルマに比べて電動化率が極端に低い

クルマのサブスクリプションサービスを展開するKINTOが公表した2022年アンケート調査によると、普通車の電気自動車(BEV)保有率は8.2%(昨年比3.7%アップ)、ハイブリッド車の保有率は37.3%(昨年比6.9%アップ)でした。

一方、バイクについては保有率を出せるような状況にありません。
国内バイクメーカー4社で言えば、一般向けのEVバイクはヤマハE-Vino(下写真)しかない状況です。
走行税があらゆる車両に無条件に課税されるのでなければ議論にも上がらないでしょう。

もともと低燃費、非課税モビリティに乗り換えも

バイクはもともと低燃費でエコなモビリティです。
実燃費において原付一種ならリッター50~70km、原付二種でもリッター40~60km、軽二輪クラスでさえリッター30kmオーバーも珍しくありません。
そして、原付一種について言えば、その生活移動圏は半径2km程度と言われています。

距離単価にもよりますが、もし走行税の課税率が一律ならば原付ユーザーの負担が大きくなってモビリティとしての価値を大きく損ない、電動アシスト自転車など非課税モビリティへの乗り換えが促されて、結果、ガソリン税も走行税も減収となりかねません。

パーソナル(マイクロ)モビリティへの走行税は諸刃の剣となり得るのです。

GPS車載器や距離メーターシステムの開発が難しい

ドイツの大型貨物車両にはGPS車載器による走行税が課せられており、アウトバーンや連邦道路を走る貨物車が対象となっています。
走行税を導入するためにはGPS車載器や距離メーターシステムを装備する必要があります。

それが電子機器であればETC車載器同様に「スペースがない」「振動が多い」「全天候性が必要」といった要因から機器の開発に時間がかかり、一律の走行税導入を難しくするほか、価格に転嫁することで導入の障害となることが考えられます。

走行距離の確認が難しいバイクがある

250cc以下の車両に車検がないため、車検時に走行距離を確認するという手段は統一的には使えません。
バイクの中にはオドメーターが9999kmで0kmに戻るものもありますし、そもそもオドメーターがないバイクもあります。走行距離の確認が難しいのです。

電動バイクの普及が進んでから?

国内市場における電動バイクの保有率は、交換式バッテリーを採用したコミューター(原付一種・二種スクーター)の普及率にかかっています。
ハイブリッドバイクにしても、クルマと同じ意味での純粋な電動モーター推進機構を持ったバイクは登場していません。

東京都にはゼロエミッション東京戦略に基づいた「2035年までに都内で販売される新車の二輪車を全て非ガソリン化する」という目標があり、ガチャコを含めたバッテリー交換ステーションの設置が始まったところですが、まだまだこれからです。

「エコカーがガソリン税の減収につながっているから」という理由は、バイクには当てはまりません。

今後数年の間に国内各社からバッテリー交換式コミューターも発売され、EVコミューターの保有率が上がってくるようになれば、クルマと同じように走行税の議論に含まれるのではないかと思います。

政府には、税に対する考え方「公平」について生活の足であるコミューターの実情を配慮した上で検討してほしいものです。

日本の技術を信じつつ、ユーザーも声を届けよう!

2050年カーボンニュートラル実現という政府目標に向かって、メーカー各社も非ガソリン化を進めていますが、それはイコール電動化ではありません。

’23年の全日本ロードレース選手権JSB1000クラスに出走するレーサーマシンにもカーボンニュートラル燃料を使うことが発表されていますが、既存の内燃機関技術を活かしたカーボンニュートラル燃料(合成燃料)の使用や水素エンジン技術といった開発も続いています。

走行税に頼らない“燃料への課税”でこと足りる未来もあり得ます。

日本の強みである内燃機関技術を信じて、走行中についてはクルマとは比べ物にならないくらい低燃費でエコな乗り物であるバイクの実績と権利を主張しつつ、走行税についての意見を政府や自工会、二輪業界団体等に届けていきたいものです。

筆者プロフィール

田中淳磨

二輪専門誌編集長、二輪大手販売店、官公庁系コンサルティング事務所等に勤務ののち二輪業界で活動するコンサルタント。二輪車の利用環境改善や市場創造、若年層向け施策が専門で寄稿誌も多数。