長い年月の中、バイクは劇的な進化を遂げてきました。

排気量の拡大、車体技術の革新、そして電子制御の進化。

その高まる性能の中には「スピード」の追求がありました。

今回は、バイクの進化を象徴する「最高速」の歴史について、数々の記録とモデルを紹介しながら辿ります。

本記事はバイクの歴史の最高速度の部分に焦点をあてて解説するものであり、公道での速度超過や危険走行を助長する意図は一切ありません。
公道では制限速度が定められています。速度超過は重大な事故や法令違反につながるため、絶対に行わないでください。
ライダーの皆様は制限速度および交通ルールを厳守し、安全運転でバイクライフを楽しんでください。

量産バイクではじめて200km/hを記録したホンダ「ドリームCB750FOUR」

ホンダ「ドリームCB750 FOUR」(1969)

1960年代後半、バイクメーカーは高性能化への競争を繰り広げ、ヤマハ「YDS-3」やスズキの「T500」、カワサキの「500SSマッハⅢ」などのモデルが次々と誕生しました。

そんな中、量産バイクの歴史における大きな節目となったのが、1969年に登場したホンダの「ドリームCB750FOUR」。

それまで主流だった2気筒エンジンに対し、CB750FOURは量産車としては世界初のSOHC直列4気筒エンジンを搭載。
この革新的なパッケージングにより、量産バイクとして初めて最高速度200km/hの壁を突破しました。

この記録は、当時の世界のバイク市場に衝撃を与え、「ナナハン」という新たなカテゴリーを確立。
日本のバイク産業が世界をリードするきっかけとなりました。

カワサキ「900スーパーフォア(Z1)」(1972)

ホンダの成功に触発され、カワサキの「900 Super Four(Z1)」、スズキの「GS750」など、他メーカーも追随するように高性能な大型モデルを投入し、次々と200km/hオーバーを達成。

ここに、日本のバイク黄金時代が到来します。

市販車の200km/h到達は、さらに30年前に遡る

ちなみに、「量産車」という定義を離れ「市販車」というより広い定義に置き換えると、はじめて200km/hの大台に到達したバイクは、さらに時代を遡ります。

それは、ホンダ「ドリームCB750 FOUR」の登場より遥か30年も前、1948年にイギリスのバイクメーカー・ヴィンセントから登場した「ブラックシャドウ」です。

ヴィンセント「ブラックシャドウ」は、1000ccの空冷Vツインエンジンを搭載し、当時の技術水準では考えられない200km/h超の最高速をマーク。その驚異的な性能から「世界最速」の称号を得ました。
このバイクが登場した時点で、すでに200km/hを発揮するエンジンの開発は可能だったのです。

しかし、製造技術の難しさや高コストのため、販売された数年間での製造台数は約1800台と極めて少なく、現在でも世界中のコレクターの間で取引される希少なモデルとなっています。

時代は300km/h競争時代へ! 王座を手にしたのは……?

カワサキ「ZZR1100」(1990)

1990年代に入ると、バイクの最高速競争は新たな局面を迎えます。
次の目標となったのは、当時誰もが不可能と考えていた「300km/h」という大台です。

この熾烈な開発競争の口火を切ったのは、1990年にカワサキが投入したメガスポーツツアラー「ZZR1100」でした。
ラムエア加圧システムを導入したZZR1100は、最高速競争の先頭に立ち、一時は「世界最速」の座に君臨します。

ホンダ「CB1100XX スーパーブラックバード」(1996)

しかし、その王座は長く続きません。1996年にはホンダが超音速偵察機にちなんだペットネームを持つ「CBR1100XX Super Blackbird(スーパーブラックバード)」を投入。ZZR1100を上回る最高速を記録し、世界最速の座を奪取します。

そして、この競争に終止符を打ったのが、1999年にスズキが投入した「GSX1300R Hayabusa(ハヤブサ)」です。

スズキ「Hayabusa(GSX1300R)」(1999)

「公道における、究極のスポーツバイク(アルティメットスポーツ)」をコンセプトに開発されたハヤブサは、その独特な空力特性を突き詰めたフォルムと強力なエンジンにより、実測で300km/hを大きく上回る最高速を叩き出しました。

カワサキも負けじと、2000年には革新的なモノコックフレームを採用した「Ninja ZX-12R」を投入し、最高速奪還を目指します。

カワサキ「ZX-12R」(2000)

しかしハヤブサ登場の直後、あまりに過熱する最高速競争に対して各国政府やメーカー間で自主規制の動きが高まりました。

これを受けて、2001年以降のモデルには最高速が299km/hに制限されるリミッターが装着されることとなり、ハヤブサが記録した速度が、この時代の公道市販車の事実上の「最高速」として歴史に刻まれることになったのです。

300km/hに迫るモデルが続々と登場

自主規制により最高速の数字上の争いは一旦終息しましたが、300km/hオーバーのポテンシャルを持つモデルの開発はその後も続きました。

2000年以降、ヤマハの「YZF-R1」やホンダの「CBR1000RR」、カワサキの「ZX-10R」、スズキの「GSX-R1000」といった各社のフラッグシップモデルは、年を追うごとに高性能化が進みました。

これらリッタークラスのスーパースポーツはレースでの勝利を目的としたサーキット志向が強く、運動性能を重視した設計がなされていますが、その多くが300km/hに迫る、あるいはリミッターを解除すれば超える性能を秘めています。

カワサキ「ZZR1400」(2006)

また、カワサキはメガスポーツツアラーの系譜を「ZZR1400(ZX-14)」へと進化させ、その超絶的な加速性能と最高速ポテンシャルを維持し続けました。

さらに、スズキのハヤブサも2021年に3代目へとフルモデルチェンジを果たし、数々の電子制御で武装。
「アルティメットスポーツ」としての存在感を放ち続けています。

400km/hへの道-カワサキ「Ninja H2R」が市販車の壁を破壊

カワサキ「Ninja H2R」(2016)

300km/hの自主規制の壁が存在する中、カワサキは究極の挑戦を試みます。

2014年に発表された「Ninja H2R」は、「市販車」の枠組みながら「クローズドコース専用車」として登場。
スーパーチャージャーを搭載した998ccの並列4気筒エンジンは、市販バイクとしては異例の300馬力を超える出力を誇ります。

そして2016年、スーパースポーツ世界選手権で活躍したトルコの英雄的レーサーであるケナン・ソフォーグル選手が、この「Ninja H2R」で400km/hに挑戦。

母国トルコにあるオスマンガジ橋の上を、静止状態からメーター読み400km/hまでわずか26秒という驚異的なタイムで走り抜け、公の場で市販車ベースのバイクによる地上最速記録を樹立しました。

H2Rは公道走行不可という特殊なモデルではありますが、市販車ベースのポテンシャルとして400km/hという数字を叩き出し、バイクが持つスピードの限界値を新たな次元へと押し上げたのです。

内燃機関をも凌駕するEVバイクの誕生

近年、電動バイク(EV)の技術革新も目覚ましいものがあります。
内燃機関とは異なり、停止状態から最大トルクを瞬時に発生できる電動モーターは特に加速性能において驚異的な力を発揮します。

市販電動バイクの最高速も急速に進化しており、リッタースーパースポーツに匹敵あるいは凌駕するモデルも登場しています。

例えば、アメリカのライトニングモーターサイクルが販売する「LS-218」は、車名の由来となる時速218mph、キロメートル換算で351km/hという驚異的な最高速を誇ります。

同じくアメリカの電動バイクメーカーであるZero Motorcyclesや、イタリアのEnergicaといったブランドのフラッグシップモデルは内燃機関のトップモデルに匹敵する最高速を達成し、電動バイクが単なるコミューターではなく究極のスポーツマシンとしても進化していることを証明しています。

レース世界の最高速は?MotoGPの極限記録

市販車の最高速競争と並行して、バイク技術の最先端を走るロードレースの世界でも最高速の記録更新が続いています。

世界最高峰の二輪ロードレースであるMotoGPでは、安全性が重視される中で最高速が年々上昇しており、その技術力の高さを物語っています。
2023年6月に行われたイタリアGPの舞台、ムジェロ・サーキットのロングストレートでは、KTMのファクトリーライダー、ブラッド・ビンダー選手が366.1km/hという驚異的なスピードを記録し、MotoGP史上最高速を更新しました。

この記録は、世界最高峰のライダーの技術、MotoGPマシンに採用される最新の空力デバイス、そしてエンジンパワーの極限の進化が結実した結果であり、レースの世界におけるスピード追求の終わりのない戦いを象徴しています。

進化するバイクと最高速

200km/hの壁を打ち破ったホンダ「ドリームCB750 FOUR」の登場から300km/hを巡るメガスポーツの激闘、そして400km/hを現実のものとした「Ninja H2R」に至るまで、メーカーのプライやライダーの持つ「より速く走りたい」という熱意がバイク技術の進化を牽引してきました。

そして現在、電動化という新たな波の中で、最高速の定義も変わりつつあります。
しかし、どれだけ時代が変わろうともライダーが追い求める「スピード」への魅力が失われることはないでしょう。

もちろん、公道における“乗り物”としてのバイクは、スピードだけに価値があるわけではありません。
交通社会の中では安全運転を第一に、法規制に従ってきちんと速度を守ることが求められます。

バイクの楽しみ方も多様化した現代において、さしてスピードに興味のないライダーも多いかもしれませんが、バイクに関わる技術はこれからも進化を続け、私たちに新たな最高速の世界を見せてくれるでしょう。

筆者プロフィール

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