バイクいじりが得意なライダーはもちろん機械が苦手な人にとっても、「レンチ」と呼ばれる工具にはいろんな種類があることはご存じでしょう。
ボルトやナットを回すためだけに、形状やディティールが異なるレンチがあるのは何故なのか?
どんなボルトも回せるオールマイティなレンチは存在しないのか?
スパナとレンチは何が違うのか?

など、本記事ではハンドツールの代表的アイテムであるレンチについて様々な角度から解説します。

工具箱に揃えておくと重宝するレンチの種類と特徴

イグニッションキーで着脱できるシートや、フレームのゴムグロメットにピンを差し込んで留めるサイドカバーもありますが、バイクに取り付けられている部品の大半はビスやボルトやナットで固定されています。
このうち、ボルトやナットなど六角頭の締結部品の着脱に必要な工具がレンチです。

ホームセンターでも購入できるポピュラーなハンドツールですが、さまざまな種類があってそれぞれ得意な作業が異なり、場合によっては「この工具でなければ回せない」というものもあります。

それゆえ、メンテナンスやカスタムで部品の交換や着脱を行う機会が増えるほど必要なレンチのバリエーションも増え、手持ちのレンチが増えれば対応力も向上します。
ここでは代表的なレンチの種類と、どのような作業で重宝するのかを紹介していきます。

メガネレンチ

スパナよりメガネが優先。ボルトやナットを回す代表的工具

持ち手の両端にリングが付いた形状がメガネのよう見えることから命名されたのがメガネレンチです。
海外ではボックスレンチと呼ばれるのが一般的で、ボルトやナットに接する部分が円形で閉じているのが特徴です。

メガネレンチと並んでポピュラーなスパナとの違いは、ボルトやナットとの接点の数です。
詳しくは後述しますが、スパナの接点が2点なのに対してメガネレンチは6点で接触するため、ボルトやナットを回す際のトルクが均等に加わりしっかり締め付けることができ、その際に六角部を傷めづらいことも特長です。

また、ボルトやナットと工具の接触位置についても、最近のメガネレンチは六角部の頂点を避ける面接触を採用していることが多いので、締め付けトルクが強いボルトやナットを回す際は、スパナよりメガネレンチで作業することを心がけましょう。
ドライブチェーンのたるみを調整するため24mmや27mmといった二面幅が大きなアクスルナットを回す際は、メガネレンチ一択と言っても過言ではありません。

メガネレンチのサイズとフォルムに注目すると、メガネ部分のサイズは8×10mm、12×14mmと両端で異なり、形状はメガネ部分から持ち手が曲がったオフセットタイプが一般的です。
オフセットタイプは平らな面に取り付けられたボルトやナットに対して手が入りやすいのが利点ですが、その一方でメガネ部分と持ち手がずれるという特性があります。
そのような場面ではオフセット量が少ないタイプや、オフセットがまったくないストレート形状のメガネレンチが重宝します。

また、メガネ部分のサイズが同じでも、狭い場所で使い勝手の良いショートタイプや、強い力で締め付けできるロングタイプもあるので、長さが異なるレンチを用意しておくと様々なシーンに対応できます。

ただ、メガネレンチはボルトやナットに着脱する際にレンチ自体を持ち上げなくてはならないため、天地方向に余裕がない場所では六角頭の横から差し込めるスパナの方が使い勝手が良いこともあります。

メガネレンチのリング部分は6角(6ポイント)または12角(12ポイント)で、後者の方が狭い場所でも使いやすい。

 

メガネレンチは六角頭の6点に接することで荷重が分散し、スパナよりもボルトやナットに対する負荷を軽減できる。

コンビネーションレンチ(ギヤレンチタイプ)

スパナ側で早回し、メガネ側で本締めができる二刀流

天地に余裕のない場所でも掛け替えが容易なスパナと、強いトルクを伝えるのに適したメガネレンチの利点を持ち合わせているのがコンビネーションレンチです。

スパナ部とメガネ部のサイズは同じで、早回しをスパナで行った後にメガネで本締めをするという使い方ができます。
メガネレンチの場合、10×12mmのように両端のメガネで2種類のサイズに対応できますが、コンビネーションレンチは1本1サイズなので10mmと12mmを1本ずつ購入しなくてはなりません。
ただし、10mmと12mmのコンビネーションレンチは10×12mmのスパナとメガネレンチと同じ働きをするので、必ずしも工具の数が2倍必要というわけではありません。
むしろ、メガネレンチが入らないボルトやナットに対して、即座にスパナが使えるのはコンビレンチならではの強みと言って良いでしょう。

ここではメガネ側にラチェット機構を持つギヤレンチを紹介していますが、ラチェット機構のないコンビネーションレンチが一般的です。

スパナやメガネレンチは持ち手の両端でサイズが異なるが、コンビネーションレンチはスパナ側とメガネ側のサイズが同一だ。

 

このような場所にあるボルトならスパナ側でもメガネ側でも同様に回すことができる。

 

メガネ側にラチェット機構を組み込んでいるのがギヤラチェットレンチ。ラチェットの回転方向はレバーで切り替えるタイプ(上)と本体の裏表で切り替える(下)タイプがある。

 

ギヤレンチならボルトやナットからメガネ部分を外すことなく、持ち手の往復運動だけで連続的に回すことができる。

 

モンキーレンチ

開口幅を任意に調整してミリでもインチでも使えるのが特徴

メガネレンチやコンビネーションレンチは工具とボルトやナットが一対一で対応するため、10mm頭のボルトを12mmのメガネレンチで回すことはできません。
これに対してらせんネジのウォームで開口幅を無段階で調整できるモンキーレンチは、1本でさまざまなサイズのボルトやナットに対応できる汎用性の高さが特徴です。

レンチの全長によって開口幅のバリエーションはまちまちですが、最大開口幅が大きくなるほど強いトルクに耐えられるようヘッド部分が大きくなるため、小さなボルトが取り付けられている狭い場所で使いづらい傾向があります。

また、ウォームによって動く下アゴがボルトやナットに密着していない状態でレンチを回すと六角頭を傷める原因となります。さらに下アゴが動くという構造上、ボルトやナットを挟んだ際のクリアランス(ガタ)はスパナより大きい場合もあるので、強いトルクを加える際にはメガネレンチを使用する方が安全です。

ヘッド部分のウォームを回すことで開口幅を無段階で調整できるモンキーレンチ。スパナやメガネレンチはミリ用とインチ用工具が別だが、モンキーレンチは区別なく使える。スパナと同じ2点接触なので、締め付けトルクが大きくなるとボルトやナットへのストレスが大きくなる。

 

ソケットレンチ

ハンドルを振るだけで連続的に締め方向や緩め方向に回せる便利工具

ヘッド部分のラチェット機構により、工具を外すことなくボルトやナットを回すことができるのがソケットレンチの最大の特長です。
ラチェット機構とはギヤの歯車と爪の組み合わせにより回転を一方向のみに限定するもので、自転車のペダルを踏んだときに駆動力が進行方向だけに加わるフリーハブに使われている仕組みで喩えることもできます。

スパナでもメガネレンチでも、工具が回転する範囲内に他の部品などがあれば持ち手の振り角は制限されるため、ボルトやナットの頭部に対して掛け替えなければなりません。

しかし、ソケットレンチのラチェットハンドルであれば、一定の角度でハンドルを往復するだけでヘッドに取り付けたソケットは常に同一方向に回り続けるため、掛け替え動作が不要で連続して回せるため作業効率が大幅に向上します。

このラチェット機構の使い勝手を左右するのがギヤの歯数です。歯車の山が爪を乗り越えながら回転する際に、歯車の歯数が多ければ多いほど爪を乗り越えるために必要な角度は小さくなります。
歯数が24なら爪を超えるために必要な回転角は15°ですが、72歯なら5°で済むため、ハンドルが大きく振れないような場所でもボルトやナットを回すことができます。

ラチェットハンドルと並んで重要なのがソケットやビットなどの先端工具です。
ラチェットヘッドには差込角と呼ばれる四角い凸があり、ソケットやビットの凹に差し込むことで工具として機能します。

この差込角の一辺の長さは工具メーカーや国を問わず共通で、バイクや自動車のメンテナンスでは1/4インチ(6.35mm)、3/8インチ(9.5mm)、1/2インチ(12.7mm)のいずれかを用いることが多いようです。
中でも1/4インチは隙間の狭いバイクいじりにおいてアクセス性の良さが魅力です。

ただし、差込角が小さいラチェットハンドルは大きいものより機械的な強度が低いため、過大なトルクを加える作業には不向きです。
それを見越して差込角1/4インチ用ソケットの最大サイズは14mm程度となっているため、それより大きなボルトやナットに対しては必然的に3/8、1/2インチのラチェットハンドルを用いることになります。

ボルトやナットなどの六角頭に対応するソケットには、メガネレンチと同様に8、10、12,14mm……とサイズがあります。ボルトやナットの取付場所に応じて、深い場所にある場合は全長が長いディープソケットや軸部分を延長するエクステンションバー、ラチェットハンドルとソケットが傾いた状態で回せるユニバーサルジョイントなどのアクセサリーも豊富です。
ラチェットハンドル1本で多彩なサイスのボルトやナットに対応できるのが、ソケットレンチの大きな特徴であり魅力です。

ラチェットハンドルの差込角の凸と、ソケットやビットなどの凹の寸法が同じなら、工具メーカーを問わず組み合わせできるのがソケットレンチの特徴。画像は凸の一辺が3/8インチの工具類。

 

メガネレンチではボルト周囲の部品に干渉するため細かく掛け替えなければならないが、ソケットレンチならハンドルを一定角で往復させるだけでボルトが一方向に回り続ける。締め方向と緩め方向はラチェットヘッドのレバーで切り替える。

 

トルクレンチ

締め付けトルクを測定するためのレンチ

バイク各部のボルトやナットには、太さや強度、使用される部品などに応じて最適な(設定された)締め付け力が設定されています。
その中でも性能や安全性を左右するエンジンやブレーキ、サスペンションなどに使用されているボルトやナットの中には、締め付けトルクが指定されているものもあります。
そのような場面で使用するのがトルクレンチです。トルクレンチはボルトやナットを締めたり緩めたりするための工具ではなく、測定工具の一種です。
トルクレンチについては別の記事で詳しく解説しているので、以下のリンクから確認してみてください。

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トルクレンチはボルトやナットの締め付けトルクを測定する工具で、その数値はあらかじめトルクレンチ本体に設定する(プリセット式トルクレンチの場合)。そのため、該当するボルトの指定トルクを知ることが必要。

 

トルクレンチを一定速度で締め付け方向に回して、設定トルクに達するとレンチ内部で「カチッ」という音がする。レンチに勢いをつけて回したり、カチッという音を複数回鳴らすと正確なトルクにならないので要注意。

 

六角レンチ(ヘキサゴンレンチ)

レンチ自体を傾けて使えるボールポイントが便利

六角レンチは六角穴付きボルト(キャップボルト)を回すための工具です。
一般的なボルトのような六角頭ではなく六角穴とすることで、ボルトの頭部がスリムになり、外側にメガネレンチやソケットレンチを掛けるスペースが不要となるため機械をコンパクトに設計できる利点があります。

最もポピュラーな六角レンチは長軸と短軸のあるL字形と呼ばれるタイプで、短軸側をボルトに差し込み長軸をハンドル代わりに握ることで強いトルクを掛けることができ、長軸側をボルトに差し込んで指で摘まんで回すことでドライバーのように素早く回すことができます。

また、長軸側の先端部分が球状になったボールポイント式六角レンチは、六角穴に対して斜めからボルトを回すことができるため、ストレート軸の六角レンチが干渉する場所で便利です。

六角レンチを使用する場合、あらかじめボルトの六角穴に詰まった砂利や油汚れを取り除いておくことが重要です。
穴の内部が詰まった状態ではレンチの掛かりが浅く、六角穴をなめる原因になります。

また、ボールポイント部分はくびれ部分の強度が低いため、きつく締まったボルトを緩める初期段階や締め付け時の最後で強い力を加えると破損のリスクがあるので、あくまで中間部分の早回し作業に限定して使うようにしましょう。
 

六角レンチのボールポイント側は先端近くにくびれがあり、軸が倒れた状態でも六角穴にフィットする。早回しには便利だが、くびれ部分の強度は低いため本締めには使用しないこと。

 

通常の六角軸(上)に対してボールポイントタイプ(下)は軸が傾いた状態でも使えるため、ボルトの周辺に干渉物があってもスムーズに回せる。締まったボルトを緩める際や本締めでは短軸側をボルトに差し込み、長軸をハンドルにすることで大きなトルクを加えることができる。

 

エキゾーストパイプのフランジボルトが六角穴付きタイプの場合、フレームなどとの干渉を避けるためにボールポイントタイプのL字形レンチが重宝する。

 

締め付けトルクが必要な場面では短軸側に差し替える。軸の長さはレンチによってまちまちなので、作業内容に応じて使い分けたい。

 

インパクトレンチ

高トルクで締まったホルトやナットを一撃で緩める

ドライブスプロケット固定用のロックナットやフライホイールの固定部分など、容易に外れないよう強いトルクで締め付けられたボルトやナットを緩める際に頼りになるのがインパクトレンチです。

がっちり締まったネジを緩めるには、超ロングタイプのメガネレンチやブレーカーバーと呼ばれる延長ハンドルを使ったソケットレンチなど、できるだけ長い柄を使うのが効果的です。
しかし、柄の長い工具を使えるだけの作業スペースがない場合は、エアーコンプレッサーの高圧空気や電動モーターの回転力を利用して強力な回転力を発生するインパクトレンチを使用するのが効果的です。

その名の通り、インパクトレンチが発生するトルクは衝撃となって伝わります。
そのため、組み合わせるソケットはインパクトレンチ専用品を使用します。
通常のハンドツール用ソケットを流用すると表面のメッキが剥離したり、ソケット自体が割れることもあるので注意が必要です。

インパクトレンチは固着したボルトやナットにも有効ですが、完全にさび付いた部分に使用すると緩む前にボルトが折れることもあるため、あらかじめ浸透潤滑剤をスプレーしたり、ヒートガンで加熱してから使うようにしましょう。

また、通常トルクで締め付けられたボルトやナットに対しても、インパクトレンチは分解時の作業時間短縮に有効ですが、締め付け時に使用するとオーバートルクでネジや部品を傷める原因になるので注意しましょう。
特にM5、M6クラスの細い径のボルトを連続的に取り付ける際に勢いが付きすぎるとオーバートルクになりがちです。

インパクトレンチの動力源はエアー式とモーター式があり、かつてはエアー式レンチが一般的でした。
しかし現在では高電圧の高性能充電式インパクトレンチが普及しており、モーターならではのトルクの立ち上がりの早さもあって多くのユーザーに愛用されています。

インパクトレンチはソケットレンチと同様、ソケット差込角が規格で決まっている。右の3/8インチは小径ボルトやナット向けで、左の1/2インチはサイズが大きなボルトやナットに対応する。

 

締め付けトルクが強いドライブスプロケットのロックナットを緩める際、インパクトレンチを使うとスピーディに作業できる。締め付けトルクが強い場合だけでなく、多数のボルトで固定されていることが多いクランクケースカバーなどを外す際も重宝する。

 

プラグレンチ

ディープソケットにはないプラグ保持機能がミソ

キャブレターで混合気を作る旧車や絶版車にとって、キャブセッティング確認に重要なスパークプラグ。
現代のインジェクション車ではプラグ着脱だけで苦労することも多いですが、走行距離によって交換が必要な部品であることに違いはありません。
設計が新しいエンジンほどバルブ挟み角が狭く、それにつれて深くなるプラグホールに対して重要性が増しているのがプラグレンチです。

外観上ディープソケットと大差なく見えるプラグレンチは、シリンダーヘッドから抜き取ったプラグが落下しないよう、ソケット内側に磁石やゴムや金属バネなどの保持機構が組み込まれているのが大きな特徴です。
同時に、陶器製のガイシ部分にソケットが当たって損傷しないよう、ソケット素材より柔らかい真鍮製ガイドを挿入したソケットもあります。

また、スパークプラグの六角部分には主に3種類のサイズ(16、18、20.8mm)があるので、ソケットを求める際は愛車のプラグ品番を把握しておきましょう。

画像では外からプラグ本体が見える空冷エンジンでの使用例を紹介していますが、水冷エンジンでは長いエクステンションバーを接続したソケットをプラグホールに挿入して着脱することが大半なので、ラチェットハンドルとプラグソケットだけでなく、プラグホールの深さに応じたエクステンションバーも必須となります。

ソケット六角部の奥の磁石がプラグの金属部分に張り付く。プラグの保持は磁石やゴム、金属スプリングなどいくつかの方法がある。

 

スパークプラグが露出している空冷エンジンは、ラチェットハンドルにソケットを付けるだけで着脱できることが多い。一方、現行エンジンで一般的なプラグホールが深いタイプは、エクステンションバーをつながないとプラグに届かない。

 

プラグが下向きのまま引き上げても落下しない。エンジンに装着する際は、ネジがしっかり噛み合うまではラチェットハンドルを使わずソケット(またはエクステンションバー)を指で回して締める。

 

オイルフィルターレンチ

オイルフィルターのサイズに応じたカップタイプのレンチを選ぶ

4ストロークエンジン内部を循環するエンジンオイルの汚れを取り除くフィルターは、濾紙部分が露出したオイルエレメントと金属製のケースに収まったオイルフィルターに分類できます。

機能的にはどちらも同じですが、オイルフィルターはそれ自体に雌ネジがあり、クランクケースに取り付けられたフィルターボス(中空の雄ネジ)にねじ込んで固定しており、エンジンの合わせ面からオイルが漏れないよう適度なトルクで締め付けることが重要です。

フィルターの底部にはゴム製のOリングがありシール性が発揮されますが、潰れたOリングが抵抗となって簡単には緩みません。
そこで役に立つのがオイルフィルターレンチです。

オイルフィルター上部には8面、12面、14面など製品ごとに角面があり、カップ形状にフィルターレンチもまた直径と角面によって製品が分類されています。
汎用タイプのフィルターレンチを利用する場合、愛車のフィルターの直径と角面の数を確認した上で、それに適合するレンチを購入することで、ラチェットハンドルを取り付けて容易に着脱できるようになります。

フィルターレンチにはラチェットハンドルをセットできる四角凹、またはメガネレンチなどを掛けられる六角頭があり、工具で緩めることができる。

 

オイルフィルター用のカップレンチは直径と角面の数でサイズが決まっている。サイズ違いのレンチを転用するとフィルターの角部をナメて空回りしてしまい、その後正しいレンチを用意しても噛み合わなくなることもあるので注意しよう。

 

レンチに関するQ&A

Q.スパナとレンチの違いは?

A.ボルトやナットとの接点が異なる
スパナもレンチもボルトやナットを緩める工具という点では同じです。
ただ前章で紹介したように、レンチの方がスパナよりバリエーションが豊富だと言えます。
形状的にはボルトやナットに接する部分の先端が開いているのがスパナで、円形状に閉じている工具をレンチと呼ぶのが一般的です。

スパナはボルトやナットの六角頭の側面からアクセスできるため、上部のクリアランスが小さい場面ではメガネレンチやソケットレンチより使いやすいのが特長です。
しかし六角頭との接点が2点しかないため、6点で接するレンチより一接点当たりに掛かる力が大きくなるため、大きなトルクを加えた際にボルトやナットにダメージを与えるリスクもあります。

そのため、物理的に使用できない場面を除けばレンチでの作業を優先した方が良いでしょう。

ボルトやナットを回す工具として最もポピュラーなスパナ。スパナもレンチの一種で、先端が開いているものがスパナと呼ばれている。

 

一般的なスパナの開口部は持ち手に対して15°傾いている。これは狭い場所にあるボルトやナットに対して、スパナを裏返すことで振り角を確保するため。

 

ボルトやナットとスパナの開口部には必ず一定の隙間(クリアランス)が必要で、両者の接触部分は面ではなく点になる。このためスパナに強い力を加えると六角頭の角部に力が集中するため、メガネレンチやソケットレンチが使える場面ではそちらを優先しよう。

 

パイプが通るナットなど、リング状のメガネレンチが使えない部分ではスパナを使用する。締め付けトルクが重要なブレーキのフレアナットなどは、6角メガネレンチの一部を切り開いたクロウフットレンチを使うのが良い。

 

ボルトやナットに対するスパナとメガネレンチの接触部比較。メガネレンチは六角頭の6カ所に接することで圧力を分散できる。またメガネ部分に面接触を採用するレンチは、六角頭の頂点から僅かに離れた部分で接触することで角部のダメージを防ぐ。

 

Q.ミリとインチの違いは?

A.二面幅の寸法が異なるので互換性はない
国産車や外国車の多くが採用するメトリック(ミリ系)に対して、ハーレーダビッドソンに代表されるアメリカ製のバイクにはインチサイズのネジが使われています(メトリックも併用)。
両者は全く異なる単位系なので、ボルトやナットについてもネジ部分、六角頭のどちらも互換性はありません。例えば1/2インチはメトリックではおよそ12.7mmとなりますが、12mmでも13mmでもありません。
13mmソケットで1/2インチのボルトを回したり、10mmソケットで3/8インチ(約9.5mm)のナットを回すことはできるかもしれませんが、ネジにとって良いことはありません。

1/2インチ(下)の開口幅は1/2インチ(約12.7mm)で、12mm(上)とは違い互換性はない。

 

Q.モンキーレンチはサイズ調整ができるから万能工具として使える?

A.汎用性は高いが万能とはいえない
モンキーレンチはウォームを回して任意の開口幅に調整できるのが便利ですが、ボルトやナットにぴったり合うように調整しないと六角頭を傷める原因となります。
またウォームと下アゴには必ず作動に必要なクリアランスがあるため、調整して回す際に僅かながらのガタが発生します。
出先で使用する車載工具などでレンチの数を減らしたいような時には有効ですが、日常的なメンテナンスはメガネレンチやソケットレンチで作業することをおすすめします。

リヤアクスルナットは二面幅が大きく(スズキGSX1100Sカタナの場合は27mm)、適合するメガネレンチやソケットレンチを持っていなければモンキーレンチで対応することになる。

 

モンキーレンチはスパナと同様ナットとの接触部分は2点となるため、6点で力を受けるメガネレンチの方がネジを傷めずトルクを加えることができる。

 

Q.メガネレンチのオフセットタイプとストレートタイプにはどんな違いがある?

A.力の加えやすさや干渉物の有無で使い分ける
オフセットタイプのメガネレンチは両端のリング部分から持ち手に対して角度がついており、その角度には15°・45°・60°の三種類があります。
角度が強くなるほどリング部分から持ち手が遠くなるため、回したいボルトやナットの周辺の干渉物を避けることができます。

一方のストレートタイプはリング部分と持ち手が同一平面上にあり、ボルトやナットの上部の隙間が小さい、干渉物がある場合の使い勝手に優れます。
また、大きなトルクを加える際に作用点であるボルトやナットの六角頭と持ち手である力点が同一面にあることでレンチが傾きづらい利点もあります。

メガネレンチは持ち手に対するリング部分の傾き具合が異なるものがある。オフセットタイプ(上)が一般的だが、作業場所によってはそれ以外の角度の方が使い勝手が良い場合もある。

 

ボルトやナットが取り付けられている部位によってはオフセットレンチしか使えない、逆にストレートタイプしか使えないこともある。つまりメガネレンチはオフセット量が異なる物が複数ある方が多様な場面に対応できる。

 

エキゾーストナットを回す際は一般的な45°オフセットタイプのメガネレンチが使いやすい。しかしこれが万能というわけではなく、ソケットレンチの方が使い勝手が良い場合もある。

 

Q.バイクの整備でよく使うレンチは?

A.行うメンテナンスによって大きく変わる
バイクのメンテナンスで使用する工具は作業内容や車種によって異なるため「これだけ用意しておけば大丈夫」ということは簡単ではなく、現実的でもありません。
メガネレンチやソケットレンチなら8、10、12、14、17、19mmは必須サイズと言われますが、年式が古いカワサキ車は13mmも多様し、リヤアクスルナットを回すには22、24、27mmのメガネレンチが必要になることもあります。

オイル交換を例に挙げれば、ドレンボルトを回すためのメガネレンチ、オイルフィルターレンチ、それを回すためのラチェットハンドルや場合によってはエクステンションバーが必要になる場合もあります。
またフィルターがエレメントタイプの機種であれば、フィルターカバーのボルトやナットを回すためのメガネレンチやソケットレンチも必要です。

オイル交換時に必要になるのがメガネレンチとオイルフィルターレンチ。エンジン底部に下から取り付けられたドレンボルトは、スパナやモンキーレンチよりメガネレンチやソケットレンチの方がフィットしてなめづらい。フィルターレンチは愛車のフィルターサイズに適合したものを購入すること。
ソケットレンチは差込角によってラチェットハンドルのサイズが大きく異なる。バイクのメンテナンスでは1/2インチ(上)を使うのはアクスルナットぐらいで、ほとんどは3/8インチか1/4インチで対応できる。特に狭い部分では1/4インチの使い勝手が良好だ。

 

レンチ類はあればあるほど作業の引き出しが増える

ボルトやナットを回すだけの作業に対して、実に数多くのレンチがあることに驚いた人もいるのではないでしょうか。
メガネレンチやスパナなはソケットレンチが入ったハンドツールセットを買えば、ひと通りのメンテナンスができるようになるのは確かです。

ところが実際に様々な作業を行うと、メガネレンチが長すぎたり短すぎたり、ラチェットハンドルのヘッドが邪魔だったり、ソケットの外径が僅かに太いなど、次から次へと想定外の事柄に直面します。

そのたびに仕様や形状が異なる工具を買い増すことで、工具箱には数多くのレンチが積み重なるかもしれませんが、工具が増えればその分できる整備の幅も広がります。
そして工具が増えることで解決が難しいと思える作業にも光明が見えるようになるはずです。

筆者プロフィール

栗田晃

バイク雑誌編集・制作・写真撮影・動画撮影・web媒体での記事執筆などを行うフリーランスライター。現在はサンデーメカニック向けのバイクいじり雑誌「モトメカニック」の編集スタッフとして活動中。1976年式カワサキKZ900LTDをはじめ絶版車を数台所有する一方で、現行車にも興味津々。