ベテランほど「頭でっかちにならず、とにかく何でも自分でやってみるべき」「多少のミスはその後の糧になる」というライダーもいるようですが、危険な体験や痛い目を見る前に失敗例やミスしないための対応策を知っておけば、それに越したことはありません。
本記事ではバイクメンテ初心者にありがちなミスの実例を取り上げて、大きなトラブルを未然に防ぐために参考となる準備や心構えについて解説します。

初心者はもちろん経験豊富なベテランも犯しやすいミスのタネがいっぱい

バイクいじりやメンテナンスに興味がわいてくると「とにかく一度自分の手で作業してみたい」となるものです。
SNSやYouTubeを見れば、経験したことのない作業でもなんとなくできそうな気もしてくるかもしれません。

しかし、バイク各部の仕様や部品の組み付け手順は車種ごとに異なる部分も多く、作業を始めてから「ネットで見たのと違う!!」と行き詰まり、場合によってはそこからミスにつながることもあります。

またさまざまなバイクのメンテナンスを行ってきたベテランでも、慣れや慢心が原因でミスを犯すこともあるので、初心忘るべからずを念頭に作業することが大切です。

ありがちミス1・サービスマニュアルや取扱説明書を読まない

バイクメンテナンスにおける「ネンオシャチエブクトウバシメ」は、日常点検の必須項目である
ネン=燃料
オ=オイル
シャ=車輪(タイヤ)
チ=チェーン
エ=エンジン(オイル・冷却水)
ブ=ブレーキ
ク=クラッチ
トウ=灯火類
バ=バッテリー
シメ=締め付け
を合い言葉としたものです。

これらは原付バイクから大型車まですべてのバイクに当てはまる点検内容ですが、もう一歩踏み込んでメンテナンスを行う際には、車種ごとの個別情報を把握しなくてはなりません。

例えばタイヤの空気圧やエンジンオイルの容量は、車体に貼付されたコーションラベルで分かることもありますが「適当で」というわけにはいきません。

フィラーキャップのディップスティックやクランクケースの点検窓はエンジンオイル量確認の参考になりますが、そもそもの容量が分からなければバイクメーカーが定めた規定値通りにならない可能性もあります。

また冬季に弱りがちなバッテリーを補充電する際は、バッテリー端子へのアクセス方法やバッテリー本体の取り外し方が車種ごとに異なります。
バッテリー配線を外す際は、大半のバイクの電気回路は車体をマイナス回路として利用しているので、マイナスが先でプラスが後と常識的に決まっています。

しかしその常識を知らずにプラスを先に外すと、端子を緩める工具がフレームに接触した途端にショートして火花が飛び散るだけでなく、電気回路にダメージを与えることもあります。

こうした作業はさまざまなメンテナンス項目の入口部分に過ぎませんが「動画を見たりバイク友達の作業を見ていたらなんとなくできそうだから」という動機で始めるのはおすすめできません。

ミスを防ぐには、まずは自分の愛車の構造やメンテナンスの方法が記載された取扱説明書やサービスマニュアルを読むようにしましょう。
中古車として購入した車両に車載の取扱説明書が付属していない場合、バイクメーカーのホームページに掲載されていることも多いので確認してみると良いでしょう。

新車には必ず付属している取扱説明書にはバイクの基本的な取扱方法や点検内容が記載されている。一方サービスマニュアルには分解整備を伴う作業も記載されている。バイクショップや販売店以外なら、取扱説明書の内容を把握し実践することで愛車のコンディションを維持できる。
ディスクブレーキ車のパッド摩耗確認の一例。パッドの残量を確認するだけなら、キャリパーを取り外す必要のない車種が多いはずだ。
エアクリーナーケース(スクーターのドライブベルトケース用)を外す際にカウル類の着脱が必要な場合、その手順が記載されていることもある。

ありがちミス2・知識がないまま重要保安部品の整備や重整備を行う

「すり減ったタイヤの交換はバイクショップや用品店にお願いするしかないが、摩耗したブレーキパッドぐらいなら自分で交換できそうだ」
用品店の棚やネットショップで愛車用のブレーキパッドを売っているのを見て、そう考えたことのあるライダーもいるでしょう。

しかし初心者、ベテランを問わずブレーキ関係のDIYメンテナンスには最も慎重になるべきです。
ブレーキは重要保安部品であり、知識や経験が少ないまま安易に手を出すと重大事故に直結する可能性があります。

例えばディスクブレーキのブレーキパッド交換では、キャリパーがピンスライドタイプか対向タイプかによって作業手順が異なります。
またパッドとキャリパーボディの間にセットされるパッドスプリングやパッドの抜け止めとなるパッドピンの誤組はパッド脱落の原因となります。

キャリパー本体を車体から取り外す車種では、キャリパーマウントボルトの締め付けトルクも重要です。
緩いのは論外ですが、過大なトルクで締め付けることでボルトやキャリパー側の雌ネジを傷めてしまうこともあります。

加えて摩耗したブレーキパッドを取り外した後に不用意にキャリパーピストンを押し戻すと、ピストンに付着した汚れでダストシールやキャリパーシールが傷つき、ブレーキフルード漏れの原因にもなりかねません。

季節の変わり目になると、夏タイヤからスタッドレスタイヤへの交換時の作業ミスでタイヤが外れて事故になるニュースに触れて「ホイールナットぐらいちゃんと締めろよ」と思う人も多いでしょう。
それと同様に、初心者が「たかがパッド交換ぐらい」と軽い気持ちでブレーキまわりのメンテナンスをDIYで行うことでミスやトラブルが発生する確率は格段に高まるのは事実です。

それでも自分の手でやってみたいのなら、動画や友人からのアドバイスだけではなくバイク用品店やバイク販売店で整備のプロに任せ、アドバイスを受けながらメンテナンスの知識や経験を積んだ上でチャレンジするようにしましょう。

先に紹介した「ネンオシャチエブクトウバシメ」は、日常点検で不可欠な項目ばかりです。
たったこれだけの内容では物足りないと感じるかも知れませんが、実際にはそれらが疎かになっているバイクも少なくありません。
ディープなメンテナンスを行いたいなら、まず手始めに以下の関連記事リンクから日常点項目を実践してみましょう。

関連記事




 

車体からバッテリーを取り外す際はマイナスターミナルを先に外し、次にプラスを外す。取り付ける際はプラスが先でマイナスが後となる。これは原付からビッグバイクまで共通した重要な手順である。

 

ピンスライドタイプか対向ピストンタイプで大まかに区別できるが、ブレーキパッドの具体的な交換方法は車種によって異なる。そのため「何となくできそうだから」というだけで手を出すべきではない。

ありがちミス3・作業する場所に配慮しない

天候や昼夜に関わらず作業できる屋根付きガレージがあれば理想ですが、そんなライダーばかりではありません。
露天や集合住宅の駐輪場などの共用スペースしかない場合には、周囲への配慮が不可欠です。
作業している自分自身は没頭しているかも知れませんが、タイヤを外して移動できないバイクの隣の自転車ユーザーにとっては大迷惑の可能性もあり、休日のたびにバイクの部品を着脱していれば住民トラブルにつながるかもしれません。

自動車用に借りている月極駐車場でも、メンテナンス作業を禁止している場合があるので賃貸規約を確認することが重要です。
作業中に近くの車両に接触したり傷つけたりした場合、自ら申告して謝罪するのは当然ですが、たとえ身に覚えがなくても作業禁止の場所でメンテナンスをした事実があると心証が悪いのは確実だからです。

ありがちミス4・ネジやボルトを地面におく

上記の作業場所選びのミスとも関連しますが、砂利敷きの駐車場ではビスやナットが必ず行方不明になるといっても過言ではありません。
運良く発見しても、ネジ山に砂利が付着したままねじ込めば相手を傷めてしまうかも知れません。

どうしても土や砂利の上で作業せざるを得ない場合は、バイクの下に使い古しの毛布や作業用のシートを敷いて、外したネジ類は紛失防止に役立つ磁石内蔵タイプのトレイで管理するのがおすすめです。
また毛布やシートはカウルやサイドカバー、燃料タンクなどの外装パーツを外した際の傷つき防止にも有効なので、コンクリートやアスファルトの上で作業する際にも用意しておくと重宝します。

ありがちミス5・誤った工具の使い方をする

初心者でもベテランでも、サイズ違いや作業に適していない工具を使用するのはトラブルの原因となります。
具体的には二面幅が24mm、27mmと大きなサイズのアクスルシャフトやナットを回す際にスパナやモンキーレンチではなくメガネレンチを選択しましょう。
スパナやモンキーはボルトやナットの六角形の頭部に2点でしか接触しません。
一方メガネレンチは6点で接触するため、同じトルクを加えた際に応力が3倍に分散するため六角頭を傷めるリスクが低減します。

プラスビスの十字穴とプラスドライバーの組み合わせも重要です。
プラスドライバーには1~3番のサイズがあり、ビスの十字穴とフィットした際に最も効率よく力が伝達されます。
3番ドライバーで回すべき十字穴に2番ドライバーを差し込むことはできますが、この組み合わせではドライバーが滑って十字穴を傷めてしまいます。

また、固着したプラスビスを緩める際に、プラスドライバーのグリップ後部をハンマーで叩くことがありますが、その場合にはドライバーの軸がグリップ後部まで達している貫通型ドライバーを使用します。
非貫通型のドライバーをハンマーで叩くとグリップが割れることもあるので注意しましょう。

モンキーレンチは開口幅のサイズを自由に調整できて便利だが、メガネレンチによりボルトやナットとの接点が少ないため大きなトルクが加わる部分には使用しない方がよい。

ありがちミス6・締め付けミス

ボルトやナットやビスには、それぞれのサイズや使用場所によって適切な締め付けトルクが設定されており、トルクが高すぎても低すぎても本来の効果を発揮できません。
「緩むと事故になるから強めに締めておこう」という人も少なくないようですが、オーバートルクによってネジが破損することもあります。

また、かつてのヤマハ車の右ミラーのように左回りで締める逆ネジを理解せず、無理やり外そうとしてネジ山やミラーステーを破損してしまうこともあります。

トルク管理の重要性は以下の記事から理解できるでしょう。

関連記事


ありがちミス7・用途に合っていないケミカルを使用する

日常的なメンテナンスで最も頻繁に行う作業のひとつがドライブチェーンの清掃と注油です。
今では中型車以上の大半がシールチェーンを装着しており、クリーナーやチェーンルブはOリング対応のケミカルを使用することが重要です。

オイル汚れの除去に重宝するブレーキ&パーツクリーナーの中には、樹脂やゴム素材に対応した製品もありますが、清掃時はOリング対応チェーンクリーナーを使用するのが大前提です。同様に注油する際も機械用の潤滑スプレーではなく、Oリング対応のチェーンルブを使用しましょう。

エンジンオイルについても注意が必要です。
バイクと自動車エンジンの最大の相違点は、エンジンオイルでクラッチを潤滑するか否かです。
バイクのクラッチは湿式多板式が大多数なのに対して、自動車はエンジンとミッションが別体なのでクラッチの潤滑はありません。
そのため、オイルに含まれる添加剤成分もバイク用と自動車用で内容が異なり、自動車用オイルをバイクで使用すると湿式多板クラッチが滑るリスクがあります。
そのためバイクには必ずバイク用エンジンオイルを使用するようにしましょう。

バイク用と自動車用のエンジンオイルは含まれている添加剤の成分が異なり、自動車用に含まれる添加剤がバイクのクラッチに影響を与えることもある。そのため自動車用はバイクに使わないようにしよう。

ありがちミス8・メンテに適していない服装

走行後のエキゾーストパイプやマフラーはかなり高温で、素肌で触れると火傷をする恐れがあるため、長袖長ズボンで作業するのが理想です。
また、立ったりしゃがんだりすることも多いので動きやすいことも重要です。

足元は最低でもスニーカーを履き、セーフティシューズ(安全靴)ならなおさら理想的です。
サンダルは気軽ですが、外した部品が当たったりスタンドや車体に足を引っかけた際にケガをするため避けましょう。

また、指輪やアクセサリーは車体を傷つけるだけでなくアクセサリー自体に傷がつくこともあるので取り外し、手や指を保護する軍手やニトリルグローブを装着すると良いでしょう。

ありがちミス9・エンジンをかけたままメンテする

自動車のエンジンルームと違ってむき出しのファンベルトが回転することはありませんが、水冷エンジン車なら電動ファンが突然回り始めるかもしれません。
発電電圧測定やキャブレターの同調調整などエンジンをかけないとできないメンテナンス以外はエンジンを止めて行いましょう。

また、センタースタンドやメンテナンススタンドでリヤタイヤを浮かせてギヤを1速に入れてタイヤを空転させながらチェーンに注油するのは、特にメンテに慣れた頃にやりがちですが、これは最も危険なので絶対にやってはいけません。
回転するチェーンに軍手が触れれば一瞬にしてスプロケットに巻き込まれて、間違いなく重大な事故に直結します。

ドライブチェーンやリヤタイヤのメンテナンスを行う際に、リヤタイヤを浮かせてエンジンを始動してタイヤを空転させるのは厳禁。

ありがちミス10・メンテが終わってすぐに走り出す

メンテ作業が終盤に近づくと早く試乗したいと気がはやり、急いで作業しがちになります。
しかしそんな時こそミスが起こりがちです。

ブレーキメンテナンス後に右のキャリパーは規定トルクで締めたが左が仮締めだった、ミラーステーのロックナットが緩かったなど、メンテ作業で触れた箇所をもう一度指さし確認するぐらいの慎重さでチェックして、一呼吸置いてから走り出しましょう。

まさかと思うようなところにもミスがある

メンテナンスでのミスや失敗は初心者だけでなく、一定のキャリアを積んだベテランでも経験することがあります。
ここからは筆者が実際に経験したことのあるバイクメンテのミスを紹介します。

オイルドレンボルトの締め忘れ

エンジンオイル交換で古いオイルを抜く際に、クランクケース内のオイルを抜きながら新しいオイルを準備して、ドレンボルトを締める前に注油してしまった……というのはありがちなパターンです。

同様に、ドレンボルトが廃油受けに落下した際にボルトからワッシャーが外れたことに気付かずボルトだけを締めて、オイルパンからオイルが滴り落ちてミスに気付いたこともあります。
どちらも集中力が欠けた状態で作業していたのと、オイル交換時はドレンワッシャーを新品に交換する大原則を守らなかったことによるミスです。

ボルト締め付け時のかじり

ボルトやナットは手で回るうちは手で締めて、フランジ面が着座してから工具を使用して締め付けます。
しかし指先でボルトをつまんで回すのが面倒になると、横着してネジ山が掛かるか掛からないかのうちからラチェットハンドルやT型レンチで勢いよく回してしまうこともあります。

そんな時に限ってボルトが斜めに入って雌ネジをかじり、それでも工具で締め付けたことで被害を拡大してしまったことがあります。
指の力はたかが知れているのでボルトがスムーズに入らなければすぐに回せなくなりますが、工具を使うことで締め付けトルクが大きくなるため、かじりが確定するまで回ってしまうことがミスの原因でした。

オイルドレンボルトを外した際に、古いワッシャーが外れたことに気付かず締め付けてオイルが滲んできた……という失敗はベテランにもありがち。これはドレンボルトを外した際に必ずワッシャーを新品に取り替える習慣を身につければミスを防止できる。

最初から欲張ろうとせず、DIYメンテの楽しみを徐々に深めていこう

人生訓やビジネス書などに
「失敗は買ってでもしろ」
「転ばぬ先の知恵より転んで得る知恵」
というフレーズが出ることもあるように、何かを得たいと思えば多少のリスクが生じることもあるのは事実です。
特に機械類の分解組み立ての経験が少ない初心者がいきなりバイクのメンテナンスをするのは、簡単ではありません。

愛車の構造を知ってメンテナンスによりコンディションが良くなるのを実感できるのは、
バイクの楽しみ方が増えて適切に作業することで安全性が向上するという観点からも望ましいことです。

しかしその反面、中途半端な知識や技量で安易に作業することで、自分だけでなく周囲にも危険性や迷惑をかける恐れがあることも理解しておかなくてはなりません。

作業しなければ技量が身につかず、初めて作業を行う際にはリスクを伴うというのはジレンマを感じる部分でもありますが、自分で行う作業とプロに任せる作業を切り分けて初心者の間は「ネンオシャチエブクトウバシメ」を実践し、その上で徐々にディープな作業項目も自ら実践することで、さまざまな作業を安全に行えるようになることでしょう。

筆者プロフィール

栗田晃

バイク雑誌編集・制作・写真撮影・動画撮影・web媒体での記事執筆などを行うフリーランスライター。現在はサンデーメカニック向けのバイクいじり雑誌「モトメカニック」の編集スタッフとして活動中。1976年式カワサキKZ900LTDをはじめ絶版車を数台所有する一方で、現行車にも興味津々。