KAWASAKI 750RS (Z2) -「国内専用」こそがステータスに-
公開日:2025.09.15 / 最終更新日:2025.09.15
Z1というより排気量の大きな兄弟車種が存在しているにもかかわらず、揺るがない人気と高い市場価値を維持している「ゼッツー」。
今の目で見ると性能面では必ずしも突出したものがあったわけではないのだが、それでもこのポジションにいるのは絶版車界の価値観を象徴するものだろう。
KAWASAKI 750RS (Z2)
Z1に遅れること1年。国内にナナハンが降り立った
様々なモデルを紹介してきたこの近代バイク史に残る名車を語るシリーズにおいて、いまさら750RS/Z2について書くとなった時に少し戸惑った。
Z1、そしてCB750FOURと並んで近代の絶版車ムーブメントの中心的モデルであることは間違いないのだが、どこか神格化されてしまっていてどう扱っていいのかわからないような部分もある。
登場は1973年だ。輸出仕様のZ1の初期型が「ナナニー」などとあがめられる72年登場だから、そのナナハン版はわずか1年後に投入されるというスピーディさだった。
もちろん、そこには日本国内では排気量の上限を750ccにしましょうという自主規制に対応するためという理由があったわけだが、ルックスは世界を驚かせたZ1と全く共通なのだから当然人気モデルとなり、多くのライダーにとっての憧れのバイクだった。
この人気を後押ししたのは、当時まだ中型二輪免許、今の普通二輪免許という400ccを区切りとする免許区分が存在しなかったというのもあるだろう。
「チューメン」が導入されたのは1975年のことで、それまでバイクの免許といえば「自動二輪」免許を取得すれば排気量は無制限。
Z2だって経済力が許せば、少なくとも免許取得のハードルは低かったのである。
ただ、あまりの人気に販売店では一切値引きされなかったというから、新車購入できた人はハイエンドな一部な人たちだったと想像できる。
ナナハン専用設計
ゼッツーはゼットワンの縮小版、と言ってしまっては簡単だが、
「ボア・ストロークというものは、エンジンの性格を左右する重要な要素なんですな。したがって単なる小手先の細工だけで出すわけにはいかなかったんですわ」
と開発者の稲村暁一さんが語っていたように、Z2はボア・ストロークが専用に設定された。
Z1が66mm×66mmのスクエアなのに対し、Z2は64mm×58mmのショートストロークに設定された上、圧縮比も8.5から9.0へと高められた。
ただこの750cc設定のために変更されたのはクランクやピストンなど最小限。
シリンダーもスリーブの厚みを変えただけだし、カム、バルブ、クランクケース、ミッションなどもZ1と共通。
それでも性能は確保され当時の雑誌のテストでは矢田部のテストコースで202.25km/hをマークしたとされる。
排気量が150cc縮小されてもZの魅力は陰ることはなく、排気量こそ少ないものの「Z1をしのぐバランス」と評価する声も高かったという。
ちなみに最高出力はZ1が82PS/8500RPMなのに対してZ2は69PS/9000RPMである。
車体の方はZ1とほぼ共通だ。
Z1にはなかったシートのベルトがパッと見ての特徴だが、それ以外ではマニアでなければすぐに見分けはつかないだろう。
エンジンはしっかりと専用設計とされ国内の使用状況に過不足ない仕上がりとしていたのに、車体は900と同じ堂々としたもの。
このバランスこそが人気のきっかけともなったはずだ。
ロングセラーからの、80年代の再人気
Z2の後継はZ750FXなのだが、FXの登場は79年なのだからZ2は7年もフラッグシップとして走り抜けたロングセラーと言える。
発売当時は販売店も強気だった価格も、市場に溢れれば中古車も増えるわけで、FXが登場する頃には市場に十分に行き渡ったスタンダードモデルとなっていた。
FX登場以降はその価値も薄れ、過去のモデルになってしまったZ2。
しかし80年代も中盤以降になるとカスタムベースとして人気が再燃する。
オリジナルを大切にしようという動きが活発な今では考えられないが、当時は安価に入手できるベース車両であり、耐久性には定評があったため様々なカスタムやチューニングに耐えうるバイクとして再注目されたのだ。
極端な排気量アップやエンジンチューニングが施されたものもあれば、現代的な足周りに換装される事例も多かった。
一時は「過去のもの」になりかけていたZ2がカスタム文化と共に返り咲いたのだった。
Z1以上の希少車に
安価に手に入れることができ、カスタムが盛んになると、逆にフルノーマルの良質な個体が減っていってしまうのは世の常。
とはいえ、逆輸入車しかなかったZ1に比べれば国内にいくらでもあったZ2はそんな扱いを受けても当初あまり問題視されなかった。
Z1こそが歴史的価値であり、Z2は国内の普及版という認識もあったのかもしれない。
しかし世紀をまたぐ頃には絶対数が減り始め「Z2こそが日本市場にあった、本当のZじゃないか」という考えが高まってきた。
カスタムベースとしての扱いではなく、「僕らの青春はZ1ではなくあくまでZ2。あの漫画の主人公だってZ2に乗っていた」といった考えが出始め、フルノーマルを大切にしようという機運が高まると同時に絶版車価格も上昇。いつしかZ1を超えるようにすらなる。
同時にマニアも多くなり、初期型のみにあった240km/hメーターを求めたりするコアな楽しみ方も増えて行ったし、雑誌でも細部まで研究してZ1との違いを解説するような記事も増えて行った。
試乗を振り返る
Z1、Z2共に仕事としての試乗経験は豊富だ。
しかし新車当時はまだ生まれていなかったし、その後、Z1やZ2が市場の中心だった時代を実体験として知っているわけではない。
とはいえ、フルノーマル、2台の乗り比べ、カスタムマシンなど様々なZに乗ってきたのだから感想を書いておこう。
Z2がZ1を凌ぐトータルバランスを持っていて……という話はよく語られるが、実際に2台を乗り比べると、「それはどうだろう」という気がしないでもない。
というのも、現代の感覚で言えば900ccのZ1だって過ぎた性能と感じる部分はないし、豊かな実用域トルクはむしろ余裕を生んでいて大変に乗りやすい。
「男カワサキ」だとか「硬派」といったイメージがあるかもしれないが、実際にはそんなハードボイルドな印象はなく、Z1、Z2共に優等生バイクである。
車体は2台にほぼ共通であり、大きなハンドルと19インチの大径ホイール、そして殿様ポジションにより大柄に感じるのだが、堂々とした印象とは対照的にハンドリングはとても軽いのが印象的だ。
Zの運動性を語る時に90mmというトレール量が少なすぎるのではないかと言われることがあるが、そんなことはないと筆者は思う。
数値としては少なめだが、キャスターは26°と寝ているし、19インチの鉄リムホイールが大きなジャイロを生んでくれているおかげで接地感は豊富だ。
この豊かな接地感と少な目のトレール量が合わさり、切り返しが連続するような細かな峠道は大得意。
ヒラリヒラリと切り返しながら、時にはリーンアウト気味にコーナーの先を覗きながら走るのはとても爽快。
ブレーキ性能さえ確保できれば現代のバイクと遜色ないペースも十分可能だと思う。
車体や運動性という意味では2台はとても良く似ているのだが、それなのにZ2の方はどこかオフ車的な感覚があるのが不思議だ。
パワーも排気量も少ないにもかかわらずオフ車的瞬発力があるのは、リアスプロケットが7丁も増やされているからだろう。
アクセルを開ければどんどん回転数が上昇し、ギアチェンジ回数も多い。
結果としてより積極的に走らせている感覚になり、先述した細かなワインディングなどでは振り回して走らせたくなるし、自然と走りも生き生きとしてくる。
普通に信号からダッシュしても回転数の上下が大きい分「操っている感」が高く楽しい。ただ一方で高速道路など一定速で走り続ける場面では回転数が高めでせわしなく感じることも多いのだが……。
カスタム車でも2台の違いの印象は近い。
Z1ベースのカスタム車となると速度域が高くなり、公道で楽しむのが難しくなってくる部分はあるが、車体のカスタムと合わせてサーキット走行なども視野に入ってくる楽しさがある。
対するZ2カスタムだと、そもそも短いストロークをベースにボアアップするとさらにショートストローク比率のエンジンに仕上がる。
これがノーマルのZ2同様にビュンビュンとフケ上がる印象となり、Z1とはまた違った表情となるのが面白い。
カスタム全盛には「敢えて」Z2の方をベースにショートストロークのままエンジンチューニングに取り組むショップがあったことからも、こういった特性を楽しいと感じるショップさんやオーナーさんは多かったのだろう。
Z2の今の絶版車としての価値は、この時代の懐かしんでZに乗りたいと思う人にとってZ1よりも青春にリンクしていることと、そして絶対数が少なくなってしまっていることからだろう。
性能で言えばZ2ならではの楽しさはあるし、日常域や低速ワインディングではZ1以上に楽しみやすい部分もあるだろうが、しかしトータルでとらえればやはりZ1に軍配が上がると思う。
ただ、そんな性能面だけで語れないのだ絶版車の面白さではないか。
たとえ高価でも、青春をフラッシュバックさせながら、軽やかにZ2を走らせることには代えられない魅力が詰まっているはずだ。

見た目はZ1と同じだが、Z1の903ccに対してこちらは746cc。
排気量が少なくなった分はボアダウンだけではなくストロークもダウンさせることで、結果的にショートストロークエンジンとなっている。キャブはZ1のφ28mmに対してφ26mmを採用。
ファイナルがショートになったことと組み合わされ、各ギアを上手に使って限られたパワーを効果的に絞り出すような乗り方が楽しめた。
このエンジンは後継のFXにも引き継がれたが、FXもFX-2となるとエンジンがZ2ベースではなくZ650ザッパーベースとなる。
FXシリーズの中でFX-1が特に高値となっているのはこういった背景もある。

フロントフォークはφ36mmでブレーキはφ296mmのシングルディスク。キャリパーは片押し式のシングルポッドキャリパー。
当時はアスベストを使ったパッドだったが、今はノンアスベストでも良く効くパッドが多数リリースされている。
とはいえブレーキ能力は限られており、スポーティに走りたければディスクもキャリパーも交換を視野に入れたい。
ホイールは19インチのスポーク。鉄リムの重量と大径のジャイロ効果が相まって、少なめのトレール量でも安定して路面を捉えつつ軽快さも持っている。

リアは18インチでドラムブレーキ。
特別良く効くというわけでもないが、フロントブレーキと併用して使えば年式なりの減速は可能だ。
リアスプロケはZ2ではパワーに合わせて7丁も増やされ42丁に。特徴的な4本出しマフラーはZ1と共通とされる。













