R1-Zはカテゴライズがとても難しい。
ヤマハのアイコン的存在RZの完成形なのか、それともネイキッドブームの先取りなのか……。
レプリカ熱が収束を見せ始めていた1990年に登場した「新しいスポーツバイク」を考える。

YAMAHA R1-Z

2ストのヤマハ

絶版者が好きな当コラム読者の皆さんからすれば、ヤマハといえば2スト、ヤマハといえばRZというイメージもあるかと思う。
70年代後半に環境問題意識の高まりや各種規制により「2ストはもうムリだ」という風潮があった中、ヤマハが初代のRZ250/350を1980(350は81)年にリリースし、まだまだ2ストはこれからだ! と世に示した歴史があるからだろう。

事実その後、RZの大ヒットを受けて各社とも2ストモデルをリリースし、その後の壮大なレプリカブームへとつながるのだからRZの功績はとても大きい。

Zはその後、レプリカの火付け役ともいえる85年登場のTZRへと繋がっていくが、TZRが登場した後もRZRを同時にラインナップし続けた。
しかも86年型のRZRは従来型に対して7㎏も軽量化し、決してスポーツの楽しさをTZRに譲ったわけではないという意志を感じさせた。
レプリカとは別路線で、スタンダードな2ストスポーツモデルも展開していくべきだというその判断もまた「2ストのヤマハ」のイメージに沿う。

後継といっていいのか

TZRがレプリカブームを本格的にスタートさせた一方で、RZRはRZRで確実に販売を重ねていた。
そして1990年、今回のR1-Zの登場である。立場的にはRZRの後継機種ということになるだろうが、RZから引き継がれたイメージの強いRZRに対して、スタイリッシュなトラスフレームや前後17インチの足回りなど、R1-Zはとても「新し」かった。

おりしも400㏄クラスではゼファーがデビューし新しく「ネイキッド」というカテゴリーが生まれていたこともあり、R1-Zはその新設カテゴリーに分類されてしまいそうなものである。
しかし「ネイキッド」なるものが登場する以前からRZRはスタンダードなノンカウルスポーツをずっと続けていたのだから、いくらR1-Zがオシャレだからといってもネイキッドと呼ぶには違和感がある。
ましてやしっかりと45馬力を発揮するエンジン、決してテイスティさだけを求めたわけではなく、しっかりとスポーツバイクだったのだ。

RZRの後継機種というにはオシャレ&モダンすぎ、ネイキッドと呼ぶにはスポーツすぎる……。
登場時期もまだまだレプリカブームに勢いがあった時期。R1-Zはそんなはざまにおいて独特な存在感を持っていたといえよう。

中身はほぼTZRなのか

スタイリングがモダンなだけで実はホットなスポーツバイクであるR1-Z。
エンジンはTZR系をベースに中低速域にさらなるパンチを与えたTDR250系列とし、フルカウルスポーツとは違った公道での俊敏さを追求した。車体もそのディメンションはTZR250譲りでスポーツに対して妥協はなし。

足回りもRZRが最終モデルを除いてほぼずっと18インチを貫いたのに対し、TZRも採用しその後広く主流となる17インチを採用。
モデルチェンジ後はラジアルタイヤも採用するなどやはり常に走りに主眼を置いたバイクではあった。
R1-Zが登場した1990年にはTZRは後方排気の3MAへとモデルチェンジしてレプリカ路線を突き進むのに対し、R1-Zはよりスタンダードなスポーツバイクとして存在したのだった。

そんなイメージを強く表しているのがトラスフレームだろう。
ヤマハはSDRやのちのTRXなどでトラスフレームを採用しているが、ヤマハ開発者取材などでは結構な頻度でトラスフレームに対する自信を感じさせる発言が飛び出す。
それは性能的な部分という意味もあるだろうが、むしろヤマハらしいスタイリッシュなイメージという意味でも大きいと思う。

R1-Z登場と同じ1990年にはスズキがレプリカからカウルを取り払ったウルフ250というモデルも出していて、これも2ストネイキッドという意味ではR1-Zと似たカテゴリーとも思えるが、R1-Zはこの専用のフレームを採用したからこそ、レプリカでもない、ネイキッドでもない、独自の路線を確立できた。

もちろんそこには、フレーム以外にもクロスしてから右側に2本出しとされたサイレンサーっといった新しくも美しいスタイリングもあったのだった。

厳密には3モデル

ネイキッドブームが本格化して250㏄に波及する前にデビューしたR1-Zは、45馬力を誇る初期型、少しハンドリングがマイルドになったとされるマイナーチェンジの2型、そして40馬力になりラジアルタイヤを純正装着した3型に分けられる。
とはいえ2型はほとんど変わらないため45馬力の前期と40馬力ラジアルタイヤの後期と考えていいだろう。

ただ幸いにもこのエンジンはTZRの系譜。チューニングは確立されており出荷時の馬力の違いは気にすることはない。少しのチューニングで途端に元気になるし、排気量アップ含めてやり始めればとんでもない実力を発揮する。

R1-Zは1999年まで販売されたロングセラーモデル。純正で美しい姿を維持したい人はなるべく高年式のものを選んで愛でるといいだろうが、逆にヤマハの2ストでスポーツしたいという人ならば初期型をベース車として手に入れて極限までカスタムを追求するのも面白いかと思う。

試乗を振り返る

R1-Zに限らず、排気デバイスのYPVSがついてからのこのパラツインエンジンはみなとても扱いやすかった。
RZRもTZRもそれぞれ特性に違いはあれども、ボロンボロンという特徴的なアイドリングから低回転、意外と力強い実用域、そして元気な高回転域と、本当に扱いやすく速いエンジンだ。

R1-Zもしかり。何度か試乗経験もあるし自分で所有したこともあり、それのどれが45馬力仕様だったかも定かではないが、どれも乗ると「今のバイクに乗っている」という感覚が強かったのが印象的だ。

というのも、RZR系はやはり80年代の乗り物という雰囲気が強い。ホイール系が18インチ(最終型のみ17インチ)で細身であることや、フォークの細さや全体的なしなやかさと切れ味など、良くも悪くも古さが味わえてしまうのに対し、R1-Zはサスの作動性やブレーキの効きなどがどれも今風なのだ。
その中でエンジンだけが元気な2ストというのもどこかミスマッチなのだが、しかし逆にそのエンジンを安心できるパッケージで走らせられるというのがうれしい。ちゃんと止まれる、ちゃんと曲がれる、というのはエンジンが元気だからこそありがたい。

ただそんなR1-Zも今ではだいぶ現存数が少なくなってきているだろう。たまに見かけても適度にやれている個体も少なくない。
古さゆえのヤレやガタからは逃れられないため、今乗るのであればしっかりと整備をしたうえで、この最後のヤマハパラツイン2ストを存分に味わってほしいと思う。

フロント周り


φ38㎜へと大径化されたフロントフォークにダブルディスク。キャリパーは2ポッドとなった。3本スポークのキャストホイールはRZR最終型とも似ているが太さは2.75と今のYZF-R25などと同サイズ。丸目ヘッドライトと2連メーターはのちのネイキッドの定番スタイルだ。

エンジン


TZR系ではあるが、キャブはTZRのφ28㎜に対してφ26㎜と少し小さく、常用域のレスポンスを追求している。これをTZRのキャブに交換するというのは定番チューン。しかしそもそものエンジンの性格付けもTZRではなくマルチパーパスのTDRをベースにしているとされる。

フレーム


筆者の経験からは、どうやらヤマハではかなりのこだわりや自信を持っているトラス形状フレームこそが、R1-Zのアイデンティティだろう。レプリカとも違う、それでいてネイキッドでもない。RZRが歩んできたような、スタンダードなネイキッドスポーツにさらにモダンさやオシャレさをプラスしたのだ。

チャンバー


アフターマーケットでチャンバーがクロスするクロスチャンバーなるものも人気だったが、R1-Zでは純正の時点でクロスされたチャンバーを採用するだけでなく、カーボン調のサイレンサーは右側にまとめられるなどここでも新しいルックスを追求した。

リア回り


やぐらがついたスイングアームはフレームのトラス形状と共通のイメージ。17インチのリアホイールは3.5インチ幅。

筆者プロフィール

ノア セレン

絶版車雑誌最王手「ミスターバイクBG」編集部員を経たフリーランスジャーナリスト。現在も絶版車に接する機会は多く、現代の目で旧車の魅力を発信する。青春は90~00年代でビッグネイキッドブームど真ん中。そんな懐かしさを満たすバンディット1200を所有する一方で、最近はホンダの名車CB72を入手してご満悦。