HONDA CBR1100XX SUPER BLACKBIRD -打倒ZZR! ホンダの一つの頂点を極めたブラックバード-
公開日:2025.10.29 / 最終更新日:2025.10.29
リッターバイクが200km/h台後半のスピードが出せるようになってしばらく経っていたが、300km/hとなるともう一つ手が届かなかった90年代。
長らくそういったハイスピードツアラーの王座に君臨してきたZZRに対して、ホンダがとうとう本気を出した。
HONDA CBR1100XX SUPER BLACKBIRD
届かない300km/h
ブラックバードを語る前にはZZRについて触れねばならない。
世界最速へのこだわりはやはりカワサキが強く貫いてきた信念だ。
Z1からニンジャ(GPZ900R)、GPZ1000RX、ZX-10、そして1990年登場のZZR1100(C型)まで、一貫して世界最速性能を追求してきたのだ。
対するホンダはCB750FOURを起点とすると、その後CB750(900)Fでスポーティ路線へと進み、そしてCBRシリーズとなると「最高速よりも軽さとハンドリング」路線へと舵を切り、軽量なCBR900RRという大ヒットを飛ばす。
これは確かにエポックメイキングなモデルではあったものの、こと最高速という意味ではカワサキとは別路線を採っていた。
そんなホンダは、カワサキと同系列の大排気量ツアラーといえば1987年にCBR1000Fというモデルをリリースしていた。
新開発エンジンは135馬力を発していたし、軽さやスポーツ性よりも快適性やツーリング性能に比重を置いていたという意味ではカワサキのフラッグシップにも似たコンセプトだったのだが、どういうわけかカワサキほどの知名度や人気は得られていなかった。
そしてカワサキ同様に、200km/h台後半の速度域を現実とはしていたものの、300km/hには届かないでいたのだ。
積極的に逆輸入車という形で国内に入ってきていたのはカワサキZZR1100ばかりで、CBR1000Fのフルパワー仕様はかなりレアだったことを思えば、後に「メガスポーツ」などと呼ばれる最高速を狙ったこのカテゴリーはブラックバード登場まではカワサキZZRの一人勝ち。
競合相手がいなかったことで、各社とも300km/hを現実にしようというムーブメントは大きいものではなかったのだ。
ホンダが作りゃ…
カワサキも過去モデルの開発インタビューなどを読むと当然ながら強い気持ちと自信で各モデルをリリースしているわけだが、ホンダの技術者となるとどこかエキスパート気質というか、リーディングカンパニーとしてのプライドをチラリと見せてくるような場面に遭遇することがある。
ある場面では「(カワサキが作っている)新幹線だってホンダが作りゃ400キロ出せる」と静かに豪語しているのを聞いたことがある。
それが本気なのかどうか、ただカワサキに対するライバル心から出た空いばりなのかはわからないが、少なくともブラックバードにおいては同じような思いで取り組んだ技術者がいたのではないかと思える。
なんと言ってもZZRは1990年に初期型が出ており、そこから本当に様々なシーンを席巻しているのだ。
ホンダからしてみれば負けっぱなし。
「ホンダが作りゃ150馬力オーバーは楽勝、300km/hオーバーだって絶対できる!」と胸を張って取り組んだに違いない。
かくして1996年、ホンダCBRシリーズ初のリッターオーバーモデルが登場。
ZZRの147馬力を大きく上回る164馬力というハイパワーと、大柄なフォルムとそこそこの重量にもかかわらず軽快でスポーティなハンドリングも併せ持つブラックバードが世を驚かせたのである。
完全新設計という熱の入れ方
とっくにバブルは弾けて80年代に起きたバイクブームは急速にしぼんでいた最中、大型自動二輪免許が教習所でとれるようになったことや、バイク趣味が高齢化・高級化するなどの世相を見てホンダは「このカテゴリーは勝負するべきだ」と思ったのだろう。
ZZR一人勝ちに強力なライバルをぶつけて、さらに他社が続けばこれは盛り上がるぞ、と。
後出しじゃんけんで負けるわけにはいかない。
CBR1100XXはエンジンもフレームも完全新設計で、300km/h越えの最高速もしっかり意識した作りとしながらも、ホンダらしい切れ味も持たせたバイクとなった。
CBR1000Fではスチールだったフレームは目の字断面のアルミフレームに、エンジンはセンターカムチェーンをやめて、よりコンパクトなサイドカムチェーンを採用(もっとも、カワサキは83年登場のニンジャで既にこれをやっていたわけだが…)。
直列4気筒が抱える高回転域での微振動という問題にはデュアルバランサーシャフトで対応し、スムーズなハイパワーを実現した。
足回りはフロントにφ43㎜のカートリッヂタイプ成立フォーク、リアはアルミのスイングアームにプロリンクモノショック。
いずれも細かな調整を必要としないとされた、「ホンダマルチアクションサスペンション(H.M.A.S.)」を採用し、路面追従性と快適な乗り心地を両立するだけでなく、高剛性フレームと合わせて優れた旋回性と高い高速安定性も実現していた。
CBR1000Fから引き継いだといえるのは、ABS前夜の安全装備としてホンダが当時推していた前後連動のブレーキぐらいだろうか。
それ以外、エンジン、フレーム、エクステリア、すべてにおいて完全新設計としたのはいかにホンダがこのモデルに力を入れていたのかを感じさせてくれる。
しかしZZRを打倒できたかといえばどうだろうか。
スペックシートでは完全に凌駕していたはずだが、当時の各雑誌の記事ではホンダらしいオールラウンドさとスポーティさは高く評価されたものの、なにより「300km/h出るのか⁉」が注目されていたこともあり、最高速付近で意外とZZRと大きな差がなかったブラックバードは完全にZZRを撃墜したという感はなく、93年にD型に進化しアイコン的となっていたZZR人気は衰えることはなかったのだった。
なお各誌の最高速テストではメーター読みこそ楽々300km/hを振り切っていたものの、実測ではほんのわずかに届かなかった、という記事を当時青春時代だった筆者は記憶している。
国内仕様とツアラー化
ホンダはVFR系がそうであったように、当初スーパースポーツモデルとして作ったものが後にツアラー化していくということが多いように思える。
ブラックバードもまた、当初はZZRに勝つべく性能を追求していたが、1999年にスズキからハヤブサが登場しZZRもブラックバードもまとめて置き去りにしたこともあってか、その舞台での勝負を続けることなくツアラーへとシフトしていった。
国内仕様の導入は2001年。国内で展開するにあたり馬力の自主規制であった100馬力仕様に改められたのは惜しいが当時は仕方がなかった。
吸気はインジェクション化されたため、そういった変更にも対応しやすかった面もあるだろう。
ただそれだけでなく排気系やカムシャフトも専用とするなど、100馬力仕様でも国内環境でしっかりと楽しめるよう作り込んだのはさすがホンダと言うべきか。
また後期型はタンク容量を2L増やして24Lとしたり、メーターをデジタルにしたりとツアラー特性を追求。
最高出力が少し抑えられるなど、当初の究極のパフォーマンス追及の姿勢からツアラー路線へとなっていったのだった。
買うなら今か
登場時には世界最速なだけでなく、ホンダの本気を見せたエポックメイキングなバイクだったブラックバードだが、現在絶版車としてみるとお買い得な部類に入るだろうと筆者は思う。
ブラックバードに限らず、ZZRシリーズ、またハヤブサも含めて、かつてのメガツアラー系はわりとお手頃な価格で販売されていることが多い印象だ。
現在の目で見れば、電子制御はほとんどないし車重も重い。
当時は独特で最高速を強くイメージさせてくれたルックスも、今となってはちょっと時代を感じさせるかもしれない。
ほかにも理由はあるかもしれないが、平たく言えば「あまり人気が低い」のだ。
しかし、かつて最高だった性能は変わらず最高なのであるし、当時がアツかった現在40代のライダーたちにとっては変わらず憧れのバイクのはず。
よって、お買い得な今こそがブラックバードを入手するチャンスともいえるだろう。
国内仕様が出た当時はたとえ100馬力に抑えられていたとしても国内で安心して乗れるブラックバードは歓迎されたが、今や100馬力はミドルクラスのバイクでも達成する数値であり、いま改めてブラックバードを買うならフルパワー仕様がいいだろう。
初期型のキャブレター仕様はすべて逆輸入車となるため164馬力である。
インジェクションモデルも逆輸入車があるにはあるがタマは少なめ。
そして最後のインジェクションモデルで走行距離も少なく状態が良いとなるとかなり高価なことが多い。
一方で初期のキャブモデルならば比較的安価に入手できるチャンスもある。
ツアラー的存在ゆえに走行距離がかさんでいることも多いが、そもそもオドメーターが1万ではなく10万の位まであるほどホンダも耐久性には自信があるエンジン。
ブラックバードについては5万キロを超えたぐらいでは過走行とはいえず、7万キロごえ、10万キロが見えている個体もまだまだ元気に走っていることも多い。
ただ、車体の方はカウル類のガタピシに気を付けたい。
なまじ速度が出るモデルだけに、スピードが出ている時にカウルがガタガタし始めると非常に怖い。
エンジンは元気なことが多いため、むしろエクステリアのブッシュ類やグロメット類といったゴム部品のリフレッシュには気を使いたい。
あるいは逆に、カウルははぎ取ってしまうなどのカスタムベースととらえても面白いかもしれない。
安価に入手できそうな今だからこそそんな楽しみ方もアリだろう。
ちなみにブラックバードのネイキッド版であるX11というモデルもあったが、あちらはネイキッドモデルらしさを追求すべく5速ミッション化や、わざと一定の鼓動感を追求してバランサーシャフトを1本に減らすなどエンジン内部への変更も多いため、本来のブラックバードらしさは感じにくいかもしれない。
試乗を振り返る
発売当時はまだ二輪業界にいなかったためあくまで雑誌でZZR・ブラックバード、そしてハヤブサやZX-12Rのバトルを楽しんでいた筆者だが、後にZZRとハヤブサ含め、ブラックバードにも何度も試乗する機会を得た。
当時ZZRのライバルとして登場したキャブ車のフルパワー仕様は、実際にZZRと一緒に乗るとそのスポーティさに驚く。
車格はZZRと大差ないにもかかわらず、コーナーにアプローチするときの切れ味や切り返しの軽快さは、とても重量級のツアラー(ではないわけだが…)とは思えない。
この車体のすばらしさ≒スポーティさはZZRを完全に凌駕しており、CBR900RRにも似たような性格を見せてくれる。
しかし、純粋なパワーという意味ではスペックの差から想像するほどZZRと違わないというのが事実だ。
というのは、ZZRが常用域となる低回転域からズイズイとパワーが出てくるのに対し、ブラックバードは回してこそという性格。
よって、ツーリングシーンなどではZZRの方が速いというか、付き合いやすいと感じることもあるだろう。
そしてスピード域が上がってきても、例えば追い越しの際にZZRだったらそのまま開ければいい場面で、ブラックバードだと一速シフトダウンしてから加速したいようなフィーリングがある。
実際に300km/hに迫る速度域では違いが出るかもしれないが、公道での常識的な速度域においてはブラックバードが圧倒的に秀でているという感はなく、性格が違うと感じる程度ではないだろうか。
対してハヤブサだが、こと絶対性能についてはZZRやブラックバードを完全に超えているという印象を受けた。
常用域から高速域までハヤブサの動力性能は圧倒的だし、公道で使うことはないが特に200㎞後半からの違いは大きく、その余裕が常用域でも感じられる。車体も次世代感があり、ハヤブサの後にブラックバードに乗ると古く感じる人もいるかもしれない。
その反面、扱いやすさではブラックバードに分があると筆者は思う。
まだバイクがインジェクション化し始めて日が浅いときに出た初期型ハヤブサは、アクセル開け始めの反応や回転上昇の粗さが気になるところがあるのだ。
逆にブラックバードはキャブ時代の最後。
完全に研究し尽くしたキャブレターというものを完璧に仕上げたような素晴らしい出来で、速度域にかかわらずスムーズでとても付き合いやすいのだ。こういった部分で「さすがホンダ」と感心してしまう。
先ほどの段落で「買うならキャブモデル」と書いた。
フルパワーのインジェクションモデルは乗ったことがないが、時代が進んでいるしホンダだし、きっとちゃんと仕上げていることだろう。
ただ、今中古車としてのインジェクションモデルはFIコーションランプがついてしまうことが多く、この解決に苦慮することが多いという。
あえてFIモデルを選ぶならばアフターサービスも確実なショップで購入したいが、やはりあのキャブ車の仕上がりを知ると、その「キャブである」という部分も含めてキャブモデルを選ぶのが絶版車としてのブラックバードの楽しみ方のような気がする。
CBRブランドとしては唯一の1000㏄オーバーモデルであるブラックバード。
ホンダの名車CB1100Rの存在があることもあって、「1100」という数字にも何か意味を感じてしまうではないか。
ブラックバードがハヤブサや、1400へと進化したZZRに挑んでモデルチェンジしていかなかったのは惜しくも思えるが、少なくともブラックバード登場時のホンダには「ホンダが作りゃ!」の心意気があったはず。
いつかまた、ホンダの本気の1100㏄モデルを見てみたい。

ZZRも1100時代は正立フォークだったが、ブラックバードも最後まで正立を貫いた。
CBR900RRも929になるまでは正立だったことを思えば、ホンダは正立フォークのしなやかなハンドリングの良さが好きだったのだと思う。
事実こんなに大きな車体にもかかわらず細かな峠道でも硬質な感じが出ずに、ネイキッドモデルかのような豊富なインフォメーションを提供してくれる。

そんなに巨大には見えないが22Lを確保しロングツーリングの強い味方となったタンク。
後期型ではインジェクション化したにもかかわらず24Lへと増量した。

縦2灯のヘッドライトは前面投影面積を少なくするという意図があるが、デザインとしても特徴的。
ウインカーがミラーに埋め込まれたおかげでカウルは凹凸や突起物のないヌメッとした特徴的なルックスになった。
戦闘機をモチーフにしていることもあってカラーリングも極力シンプルにしてあるのがまたツウ好み。
この縦目2灯のヘッドライトは同時期に発売されたスクーターのフォーサイトにもよく似たデザインが採用されていて、当時はミラーに縦目2灯が移ると「ブラックバードか!」と譲るとフォーサイトだった…ということがよく起きた。

810㎜というシート高はZZRの780mmに対すると高い数値だが、サスペンションの初期作動が良いこともあって腰高感はなく足つきも良好な部類。
ただ走らせたときはZZRに対して腰高というか、全体的に重心が高くスポーティな乗り物感が高い。
タンデムシート部は広くかつ平らなためタンデムも荷物の積載も容易。荷かけフック類も用意採用している。
後期型になるとヘッドライトのように上下2階建てのテールランプに変更した。


左右2本出しのマフラーはエンドまでメッキがかかって高級感抜群。
超高速域では安定性にも寄与するだろうが、集合管へとカスタムすることも盛んであり、マフラーを変えることによる軽量化で得られる軽快感はとても大きかった。
またZZR同様にバーハンドルによるアップハン化やハーフカウル化もメジャーなカスタムだったが、カウル形状ゆえにZZRほどのアップハンは難しくカウルを一部切除する人もいた。
スイングアームはアルミ製、リアホイールは5.5インチ(フロント3.5インチ)で現代のタイヤも選び放題のサイズ。












