整備やメンテナンスでパーツの着脱を行う最中に「あれ?コレはどこに使うんだっけ??」となりがちなのがワッシャーです。
ボルトやナットやビスとセットで外したのに、気づけば作業の終盤で余っていた……という経験のある方もいるのではないでしょうか。
「ネジはしっかり締めたから、ワッシャーはキャンセルしてもいいよね」と安易に考えがちですが、設計段階で組み込まれている部品にはすべて必然性があります。
本記事では普段は目立たないが重要なパーツであるワッシャーについて解説します。

ワッシャーが入るのはどんな時? 改めて考えるワッシャーの役割

バイクを組み立てる際に使用するボルトやナットなどの締結部品とセットで用いられるワッシャーは金属製や樹脂製の薄い円盤で、座面と締め付け部の間に入れて使用します。
ただし、すべての締め付け部に組み込まれるわけではなく、ワッシャーなしで組み立てられている部分もたくさんあります。

そのためボルトやナットを外した際にワッシャーと分離すると、組み立て時に「ここには使うんだっけ?いらなかったのかな?」と迷う原因になることも少なくありません。

そこで、ここでは、ワッシャーの役割について解説します。

ボルトやナットに加わる力を分散する

ボルトやナットを締めるとネジ部分を強く引っ張る力が発生して、部品はその力によって締結されます。
締め付けトルクが大きくなるほどボルトやナットの座面が相手のパーツに食い込み、接触部分が凹んだり割れるリスクが高まります。
またボルトやナットが食い込むと、締め付けトルクがパーツに吸収されて必要な締結力が得られず、緩みやすくなる場合もあります。

ワッシャーの中で最も使用頻度が高い平ワッシャー(平座金)は、ボルトやナットの六角頭より外径を大きくすることでパーツとの接触面積を増やして食い込みを防ぎ、締め付け力を広く分散する役割があります。

締め付けトルクが高いホイールアクスルナットを単体で締め付けると、チェーンプラーやスイングアームに食い込んでしまう可能性がある。座面が広く厚みのある(強度の高い)平ワッシャーを入れることで力を分散でき摩擦も低減できる。
ガソリンタンクマウント部分のゴムダンパーの直径に合わせた大径の平ワッシャーを使用することで、ダンパーに加わる力を分散することができる。

摩擦を低減する

締め付け力の分散とも関連する役割として、ボルトやナットの座面に生じる摩擦を低減する役割もあります。
座面にフランジのない六角頭のボルトやナットを締めると、六角頭の頂部がパーツに食い込み摩擦を生じ、フリクションロスになると同時に相手を傷つけてしまいます。
平ワッシャーを使用することでボルトやナットの座面がワッシャー表面を滑るため摩擦軽減効果が得られます。

ボルトやナットの緩みを防止する

平ワッシャーとともによく使われるスプリングワッシャー(ばね座金)には、振動や衝撃によってボルトやナットが緩むのを防止する役割があります。
ただ、スプリングワッシャーの張力とネジのトルクでは後者の方が格段に強く、ボルトやナットを締め付けて平らに潰れたスプリングワッシャーの緩み止め機能はさほど大きくないとも言われています。

気密性を高める

オイルドレンボルトやブレーキバンジョーボルトと併用されるワッシャーには、オイルやフルード漏れを防止する役割があります。
これらは適正な締め付けトルクを加えた際にワッシャー自体が変形し(潰れて)、ボルトと座面の隙間を埋めるのが特徴です。
スパークプラグのワッシャーも同様で、締め付けた際に潰れることで圧縮漏れを防止します。

クランクケースとドレンボルトの座面に密着して漏れを防止するワッシャー。締め付けた際にワッシャー自体が変形して(潰れて)気密性を発揮するのが特徴。

バイクで使われることが多いワッシャーの種類とは?

左上から反時計回りに平ワッシャー、スプリングワッシャー、ロックワッシャー(歯付き座金)、ウェーブワッシャー(波形ばね座金)。

取り付け場所や目的によって使い分けられるワッシャーの役割を理解した上で、バイクで使用されることが多いワッシャーの種類を解説します。

平ワッシャー

締め付け力の分散や接触面の保護、締め付け時の摩擦低減などの目的で使用される最も一般的なワッシャーです。
円盤の内径はネジ径によって決まると同時に、同じ内径でも取り付け場所や目的によって外径が異なるものもあります。
また厚みを調整するスペーサー代わりに使用されることもあります。

スプリングワッシャー

円環の一部が切断され切り口が上下にねじれているのがスプリングワッシャーです。
スプリング=バネの一周分を切り出したような形状で、ボルトやナットを締めて潰された際にバネの反発力によって緩み止め効果を発揮するというのが一般的な認識です。

しかし、スプリングワッシャーの素材はバネ鋼ではなく、ネジと座面の隙間で潰れると平ワッシャーのように平らになるため、完全に緩まないというより緩みづらくなる程度であると認識しておいた方が良いでしょう。
とはいえ、ネジが緩んでバネ形状に戻る際にネジと座面のフリクションを増す効果はあるため、緩み止めとしての機能は期待できます。

ブレーキキャリパーボルトに平ワッシャーとスプリングワッシャーを併用した例。
平ワッシャーがボトムケースに加わる力を分散して、スプリングワッシャーを緩み止めとしている。

ロックワッシャー(歯付き座金)

平ワッシャーの外径または内径に鋭利なギザギザが付いており、歯車のような形状から歯付き座金と呼ばれているのがロックワッシャーです。
緩み防止や振動対策のためにパーツに歯を食い込ませるのが平ワッシャーやスプリングワッシャーとの大きな違いで、プラスチック製のカウルにヘッドライトを装着した原付スクーターの光軸調整ビスに組み込まれたり、フレーム塗装に食い込んで導通を確保する電気系統のボディアース端子で使用される場合もあります。

コニカルスプリングワッシャー(皿ばね座金)

スーパーカブやモンキーなどのホンダ製横型エンジンのクラッチにも使用されているのが、円錐形状が特徴的なコニカルスプリングワッシャーです。
これは皿ばね座金とも呼ばれており、ナットと座面で円錐が押しつぶされることで強い反発力が生じて緩み止め機能を発揮します。
ホンダ車のクラッチに使用されているコニカルスプリングワッシャーには片面にOUTSIDEの刻印があり、こちらをナット側に向けて組み付けます。

セムスネジ(座金組み込みネジ)

単純なワッシャーとは若干異なりますが、あらかじめワッシャーが組み込まれているネジもあります。
ネジ製造時に組み込まれるワッシャーは平ワッシャーやスプリングワッシャー、両者のセットなどさまざまで、いずれもワッシャーがネジから外れないのが特徴です。

セムスネジの例。2枚のワッシャーはネジから外れないので脱落紛失の心配がない。

純正部品に多い鉄製、汎用品で一般的なステンレス製。ワッシャーの素材に注目

ワッシャーの素材に使用される素材を大まかに分けると「金属」か「それ以外」となりますが、金属の中でも鉄か非鉄金属によって特徴や使用箇所が異なります。

スチール(鉄)製

市販車の金属製ワッシャーとして最も一般的なのが鉄製です。
強度が高くコストパフォーマンスも優れているのが特徴ですが生地のままでは腐食しやすいので表面処理が必須です。
エンジンマウントやサスペンションのリンクなど目立たない部分はユニクロメッキ、ハンドルやメーター周り外装パーツなどユーザーの目線に入る部分はクロームメッキを使い分けていることもあります。
そのため分解後のワッシャーをどこに使用すれば良いか迷ったときには、メッキの種類で装着箇所の目安をつけることもできます。

ステンレス製

鉄よりも格段に錆びづらいのがステンレス製ワッシャーの特徴です。
市販車に使用されることはほとんどない一方で、ホームセンターなどで容易に入手できるため活用しているライダーも少なくないかもしれません。
締め付け力の分散や摩擦軽減効果はスチール製と同等ですが、絶版車や旧車のレストア時には鉄とは異なる質感が気になる場合もあるので注意が必要です。

アルミ製

軽量で柔軟性があり、ネジを締め付けた際に潰れて気密性が高まることからブレーキホースやオイルホースのバンジョーボルトなどに使用されます。

銅製

アルミ製ワッシャーと同様に締め付け圧力により変形してシール性が高まる利点があり、ブレーキホースや燃料ホースで使用されます。
銅はアルミよりよく伸びる(展性が高い)ためシール性が高いとされており高圧系統に適していますが、アルミ製の方が軽量で廉価なため適宜使い分けられています。

正立式フロントフォークのボトムネース底のダンパーロッド固定ボルトには銅製ガスケットが組み込まれており、適正トルクで締め付けた際に変形することで気密性を発揮しフォークオイルの漏れを防止する。

樹脂製

主にナイロン製の樹脂ワッシャーはカウルスクリーンなど、締め付けトルクがさほど大きくなく傷が付きやすいパーツを固定する際に使用されます。
金属にくらべて適度な弾性があるため、振動吸収効果も期待できます。

使用すべきワッシャーをキャンセルするとどうなる?

バイクメーカーが元々ワッシャーを使っていた場所だから分解組み立て時にも使用する、というのは正しい判断です。
その一方で、分解時に外れたワッシャーをどこに戻せば良いのか分からない。だから見て見ぬフリをしてしまおうというのも、サンデーメカニックの心理としてはありがちです。
しかし、使用すべきワッシャーを安易な考えでキャンセルすると、思わぬ悪影響が生じることもあります。

締め付ける相手のパーツを傷つける

ワッシャーの役割で説明した通り、ボルトやナットの座面に掛かる力を分散する機能がなければ、六角頭がパーツに強く押しつけられて傷が付いたり破損する原因となります。
特に樹脂製のカウルでワッシャーを省略すると、振動によって割れやすくなることもあります。

締め付けトルクが不足する

ネジに掛かるトルクをワッシャーが分散しなければピンポイントで強い締め付け力が得られるように思うかもしれません。
しかし鉄のボルトをアルミパーツに締めつけるとボルトの頭が食い込んでしまい、ワッシャー併用時に比べてトルクが上がりません。
ぬかるんだ田んぼに長靴で入ると沈んで足を取られますが、半畳ほどのコンパネを敷けば沈まず立っていられることを想像すれば、ワッシャーなしでは踏ん張れない=トルクが掛からないことが理解できるでしょう。

ネジが緩みやすくなる

先にスプリングワッシャーには絶対的なロック能力は期待できないと説明しましたが、何も使わないより使った方が緩みづらいのは確かです。
メーカーがスプリングワッシャー併用で装着しているネジからワッシャーを取り除けば、振動や衝撃で緩みやすくなるリスクが高まります。

ワッシャーにまつわるQ&A

ボルトやナットとセットで使用するワッシャーは明確な役割があり重要なパーツであることはここまで説明したとおりですが、ここではメンテナンス作業などで直面する疑問や注意点などをいくつか実例を挙げて解説します。

Q.再使用してはいけないワッシャーがあるって本当?

A.気密性が重要なワッシャーは再使用せず新品交換する
パーツの締結部分に使用するワッシャーの多くはボルトやナットと共に再使用できますが、中には一度外したら新品に交換するよう指定されているものもあります。
具体的にはオイルドレンボルトやブレーキバンジョーボルトのワッシャーが該当します。
それらはアルミや銅などの柔らかい素材でできており、ボルトを締め付けるとワッシャー自体が潰れて気密性を発揮します。
そのため、一度使用したワッシャーにはボルトやパーツと接触した際の潰れ痕が段差として残り、再使用するとここから漏れる可能性があるため新品に交換しなければなりません。
また、スプロケットナットの回り止めで使用される折り曲げタイプのワッシャーも同様で、折り曲げられた爪を伸ばすと強度が著しく低下して、再使用しても充分なロック効果を得られません。
折り曲げ爪が複数ある場合は再使用できますが、一度曲げた爪は再使用できません。

エンジンオイルドレンボルトのワッシャー(ガスケット)。左が新品でボルトにセットして締め付けると右のように潰れる。潰れる過程で気密性が高まるため、一度潰れたワッシャーを再使用しても新品時のようなシール性は期待できないため新品交換が必要。
ディスクブレーキローターのナットを固定する特殊ワッシャー。適正トルクで締め付けたらナットの面に接する爪を折り曲げてロックする。ナットを取り外す際に爪を伸ばすと折れてしまう(折れなくても強度が低下する)ため、新品に交換する。

Q.ワッシャーを紛失したらどうする?

A.汎用品で代用できるかできないかで入手先が変わる
作業後にワッシャーが余るのも問題ですが、ボルトやナットを外した際にどこかに紛失してしまったということもあります。
この時、紛失したワッシャーがポピュラーな平ワッシャーやスプリングワッシャーで、ネジサイズや形状が一般的ならホームセンターで購入できる汎用品でも代用が可能です。
ワッシャーはネジ径と外径で決まっているので、紛失した部分のワッシャーサイズを把握して購入しましょう。
また、バイクで使われているサイズのワッシャーやネジを製品化しているバイク用品メーカーもあるので、バイク用品店でも購入可能です。
その一方でスプロケットの回り止めのような特殊形状や、アクスルシャフトやスイングアームピボットなど機種ごとで寸法が異なる部分に使用されているワッシャーは、純正部品番号で注文した方が確実なので、その場合はバイクディーラーや用品店で注文して入手することになります。

Q.ワッシャーには表と裏があるって本当?

A.プレスで打ち抜かれた平ワッシャーには表と裏がある
平ワッシャーは板状の素材をプレスで打ち抜いて製造しており、パンチの刃が入る面と抜ける面では縁部分の形状が若干異なります。
具体的には縁部分の角がなだらかに丸い方が表、角がシャープな方が裏となります。
ボルトやナットに加わる力を分散するのであれば、表面積が僅かに広い裏面がパーツに接するように使用するのが良いでしょう。
逆に、樹脂パーツに使用してワッシャーが強く押し当てられることで縁部分の痕が気になるような場合は、角がなだらかな表面がパーツに当たるようにすることで傷の軽減が期待できます。

同じサイズの平ワッシャーでも、表(右)と裏(左)では形状が異なる。トルクを分散させる目的なら、縁に丸みのある表面よりフラットな裏面をパーツに接触させた方が効果的だ。

Q.ワッシャーを使う部分と使わない部分があるのはなぜ?

A.ボルトやナットにフランジ面があればワッシャーは使わなくても大丈夫。
ボルトやナットを締める際にワッシャーを使用する理由は繰り返し述べてきた通りですが、逆にワッシャーが不要な場面や場合もあります。
その代表例がフランジボルトやフランジナット使用部分です。
六角頭の下にフランジ(ツバ)が付くことで通常のボルトやナットに対して座面が広くなるため締め付け力の分散に有利、フランジの外径と平ワッシャーの外径が同じなら平ワッシャーは不要となるのは明白です。

サイズは同じだが、フランジ付き(左)の方が通常の六角頭ボルト(右)より座面の面積が広く力が分散でき、ワッシャーは不要となる。
先のキャリパーボルトは通常の六角頭のため平ワッシャーとスプリングワッシャーを使用しているが、この車両の純正キャリパーボルトはフランジ付きなのでワッシャーを使用せず締め付けている。

Q.平ワッシャーとスプリングワッシャーを付ける順番は?

A.併用する場合はボルトやナットの座面側にスプリングワッシャーを入れる
平ワッシャーとスプリングワッシャーを併用する例はメーカー純正指定でもあり、その際はボルトやナットの座面側にスプリングワッシャーが接するように組み付けます。こうすればスプリングワッシャーの爪でパーツを傷つけないのが利点となります。

スプリングワッシャーと平ワッシャーを併用する場合、ボルトやナットの座面にスプリングワッシャーが接するように取り付ける。逆に付けても緩み止め効果はあるが、スプリングワッシャーが部品に直接当たると爪が食い込み傷がついてしまう。

ワッシャーを使うか否かはメーカーの指定に従うのが大原則

ボルトやナットを外した際の勢いで落下してしまい、ワッシャーをどこに戻せば良いか分からなくなってしまったことは、メンテナンスや整備をしていれば誰もが一度や二度は経験しているはずです。
バイクメーカーは開発を通じてワッシャーの利用方法を考えており、邪魔だからと言って勝手にキャンセルして良いわけではありません。
迷ったときにはパーツリストやサービスマニュアルで部品の組み立て順序を確認して、ワッシャー使用の有無や平ワッシャーなのかスプリングワッシャーなのかを明確にして作業を進めましょう。

ワッシャーを使用する目的は面圧の分散や緩み止め、摩擦の安定化など、機械設計において重要なものばかりです。
愛車のコンディションを良くするはずなのに締め付けトルク不足やパーツの損傷などがあれば作業の甲斐はありません。
何となく締まっていればいいというのではなく、なぜそのワッシャーが使われているのかまで考えながら作業できるようになると良いでしょう。

筆者プロフィール

栗田晃

バイク雑誌編集・制作・写真撮影・動画撮影・web媒体での記事執筆などを行うフリーランスライター。現在はサンデーメカニック向けのバイクいじり雑誌「モトメカニック」の編集スタッフとして活動中。1976年式カワサキKZ900LTDをはじめ絶版車を数台所有する一方で、現行車にも興味津々。