マグナはクルーザーではない! カットビアメリカンの草分けなのだ

ネイキッド全盛となっていた1990年代前半だったが、同時にエストレヤやGB250クラブマンといったテイスティモデルも多く存在し、250ccクラスは多様な選択肢があった。
そんな中でクルーザーはレブルやビラーゴという旧いブランドはあったものの、全体的には手薄だったかもしれない。1994年登場のVツインマグナは衝撃的だったのだ。

V-TWIN MAGNA

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スピリット オブ ザ フェニックス

ナナハンクラスを含めたマグナの歴史は、実は1982年に遡ることができる。
VF750セイバーの兄弟車として登場したVF750マグナはいわゆるロー&ロングなアメリカン、あるいはクルーザー系のスタイリングをしてはいたものの、スポーツモデルであるVF750F系のエンジンを搭載していたため決してノンビリ走るだけのモデルではなかった。

1987年には堂々と斜め上に向かって生えた4本出しマフラーを備えたV45マグナが登場。
アメリカのマッスルカーを連想させるようなスタイリングをしていることからもわかるように、どちらかというとドラッグマシン的な立ち位置だった。

ドラッグマシンと言えばエリミネーターやVMAXのイメージもあるかとは思うが、マグナブランドはホンダ版のドラッグマシンだったのだ。

マグナはクルーザーとしてのテイストではなく、アメリカのマッスルカーやカスタム文化に寄せたコンセプトで、1993年には改めてマグナ750をリリース。
アメリカのカスタム文化も意識した「スピリット オブ ザ フェニックス」のキーワードと共に、アメリカらしい堂々としたスタイリングやリラックスした乗車姿勢としながら、動力性能も決しておろそかにしないモデルとして展開され続けた、意外と息の長いモデルだったのだ。

VTをベースにした250マグナはVTRにもつながった

今回紹介するVツインマグナはこの「マグナ」ブランドの250cc版である。
既にアメリカン/クルーザータイプのモデルとしては400ccのスティードが人気となっていたが、ホンダは250ccではパラツインのレブルしかなく、もっと本格的なものを投入しようと思ったのだろう。
そこでナナハン版がスポーツモデルのVFエンジンを使ったと同じように、250cc版もスポーツモデルであるVT系のユニットを転用し1994年に発売。
このコンセプトがまさしく、性能を犠牲にしない「マグナ」ブランドである。

とはいえ、VTユニットはスポーツバイクのエンジンであり、いくらパフォーマンス重視のマグナブランドでもそのままというわけにはいかない。
クルーザーモデルらしい低回転域からの力強さや適度な鼓動感も演出すべく、高回転型のVTエンジンを3500回転ほどという低回転域でトルクフルな設定に作り直し、それでいて高回転域ではDOHCらしい伸びも両立。
このために吸気ポートを40%も絞ったというのだからかなりの大手術である。同時にクランクマスを増やし、ミッションは5速化。粘り強くかつ伸びやかな特性を得たエンジンはなんと、後にスポーツモデルであるVTR250に転用され直すという経緯を辿るほどに、完成度の高いものだったのだった。

徹底追及されたスタイリング

これまでのアメリカンスタイルモデルは、昔ながらの「鉄馬に乗るカウボーイ」スタイルが本流だったのに対し、マグナは1950~1960年代のパワフルなアメリカの四輪車をイメージ。全長は短いが巨大なエンジンを搭載するボンネットは長いという、四輪の「ロングノーズショートデッキ」スタイルを取り入れた。
これまではスリムで立体的だったタンクはフラット&ワイドに、そしてマフラーは右側に短い2本出しタイプを採用。ワイドハンドルやタンク上のメーター等、とにかくワイド&ワイルドを追求した。

加えて水冷のエンジンながらシリンダー部には空冷風のフィンを追加し、各部にバフ仕上げやクロームメッキを多用。
リアのディッシュホイールといった大きな部品から、ヘアライン仕上げのトップブリッヂなど目に入る細かな部品まで高品質仕上げとすることで、250ccクラスを超えた存在感を獲得したのだった。


大人気モデルとして駆け抜けた1990年代

こんなコンセプトは広く受け入れられ、Vツインマグナは大ヒットとなった。
1996年にはフロントにもディッシュホイールを採用した「S」モデルを追加。
1999年にはステップ位置を40mm前方に移動しよりリラックスしたポジションにするなどマイナーチェンジした。

マグナ250S

そして2004年にはハンドルロックの強化などさらに各部のブラッシュアップを図ったが、2006年の最後のカラー追加まで基本的な部分では大きなモデルチェンジをせずに駆け抜けたというのが特徴的だろう。
それだけ当初のコンセプトが明快でタイムレスなものだったということだし、性能的な部分でも妥協がなかった証明だ。

なお、1995年にはカブ系エンジンを搭載した50cc版、マグナフィフティもラインナップに追加されている。
50ccながら堂々としたスタイリングは兄弟車のJAZZとは別次元の存在感を持っており、こちらも大人気モデルとなった。


400ccにも劣らぬ性能

さて、実際にVツインマグナが現役だった当時を振り返ってみよう。

先述したようにアメリカンモデルとしてはビッグネームのスティードが人気だったが、しかしスティードは400ccゆえに車検があり、若者衆にとってはそれがハードルとなることもあった。

対するVツインマグナは軽二輪枠ということで、購入対象となることも多かったと思う。
事実筆者の周りにも何台もVツインマグナライダーはいたものだ。そして同時にスティードもいたわけだが、動力性能的には2台に差がなかったのも印象的だ。

当然、スティードには排気量分の余裕があったはずだが、ツーリング先での高速道路やワインディング含め、Vツインマグナはいつもとても元気な走りを見せてくれていた。

またバックレストをつけてタンデムする人も多かったが、二人乗りでもトルクフルで不足なく走れたのもよかった。ストリートでの使用にも重宝した。
あらゆる場面において、250ccというクルーザーとしては少なめの排気量がネックに感じる場面は感じられなかったのだった。

1990年代はスティードやSRが全盛だったこともあり、カスタム文化も盛んだった。Vツインマグナはホンダのコンセプトからしてアメリカンカスタムというものがあったわけだが、ユーザーレベルでもカスタムが楽しめるよう各社から様々なパーツがリリースされていた。
マフラー交換はもちろんのこと、ハンドルの交換やディープフェンダーなど、若者がDIYでカスタムを楽しんだのがこの時代。ずいぶんと怪しいカスタムも多く出回ったものだった。

しかしスティードはそうでもなかったのに対し、Vツインマグナは今振り返ると、カスタムしてもあまりカッコ良くなったためしがないように思う。
マフラーひとつとっても、純正のスタイリングの時点で完全に完成されており、ヘンに手を加えない方が素敵だった、と思うのだ。
ただ、様々な(時にはムチャな)カスタムが施される中、ひどく調子を崩したVツインマグナは少なかったのも印象的だ。
ホンダらしい完成度や信頼性は、多少の素人カスタムも受け止めてくれる包容力を持っていたとも感じる。

今、改めて乗ってみると

実はつい最近、撮影でVツインマグナに試乗している。1990~2000年代に乗った時の好印象が今でも残っているか心配にもなったが、しかし乗ってみるとVツインマグナは変わらずに非常に素敵なバイクだった。

250ccとは思えないような力強い低回転域や、それでいて高回転域でも元気に回っていくVT系エンジンに改めて感心するのはもちろんのこと、ハンドリングの素直さもまた見直した部分だった。
シートが低く重心も低いため常に安心感があるし、それでいてステップが意外と手前にある初期型ならばしっかりとステップへの入力からコーナリングのキッカケづくりもできてしまい、スポーティな気持ちで走らせることも十分可能。

寝かせていけばステップはそれなりに早めに接地はするものの、気持ちの良いコーナリングに水を注すほどバンク角が足りないわけでもなく、本当に心から「やっぱりいいバイクだったなぁ!」と良い思い出が上書きされたのだった。

なお、先ほど「ときにはムチャなカスタムにも懐深く対応した」と書いたが、この試乗車は走行前はちょっと調子を崩していた。
しかしキャブを簡単に掃除し、プラグを点検し、各部に注油したらいとも簡単に復調したのには驚いた。
神経質さがなく、どこか実用車的な頼れる性能だと改めて感じると共に、この時代のホンダ車は妥協なくコストをかけて作っていたのではないか、といったことも考えさせられる。

極上車を見つけて買うべき名車

Vツインマグナについて、過去を回想しても、歴史を調べても、そして今改めて試乗しても、とにかくどこにもマイナスな要素が出てこない。本当に名車なのである。
しかもありがたいことに、2024年現在中古車価格は少しずつ上がってきている傾向にはあるもののまだまだ絶版車的プレミア価格にはなっていないのだ。

当時、若者が時にはあまり大切にせずに乗ったり、あるいはDIYカスタムや整備をしてしまったがゆえに怪しい状態になっている中古車もあるのは事実。
しかし綺麗なノーマル車も残っていなくはないし、それでも十分購入を検討したくなる価格で取引もされている。

40代のライダーが当時を懐かしんで買い直しても決して後悔はしないだろうし、そしてこれからバイクに乗ろうというヤングライダーも絶対に楽しめる一台だ。
例えば現行のレブルと同じぐらいの価格で買えるならば、是非ともお薦めしておきたいVツインマグナである。

筆者プロフィール

ノア セレン

絶版車雑誌最大手「ミスターバイクBG」編集部員を経た、フリーランスジャーナリスト。現在も日々絶版車に触れ、現代の目で旧車の魅力を発信する。
青春は90~00年代で、最近になってXJR400カスタムに取り組んだことも! 現在の愛車は油冷バンディット1200。