“温泉を楽しむ基礎知識編”にて若干のみ触れたが、温泉の泉質は環境省が定める“鉱泉分析法指針”により10種類に分類されている。
その分類は療養泉である【単純温泉】【塩類泉(塩化物泉・炭酸水素塩泉・硫酸塩泉)】、そして【特殊成分を含む療養泉6種】である。
ここではこの“特殊成分を含む療養泉”についてお話させて頂こう。

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通常、温泉の効能とは万人にその効果が約束されたものではない。
単に湯に浸かるだけでも温浴効果により身体の改善は期待できる場合もあり、その効果が完全に泉質によるものかは個人によって異なる場合があるからだ。
しかし、この特殊成分を含む療養泉に関しては少々注目に値する。
その泉質とは“硫黄泉・酸性泉・二酸化炭素泉・含鉄泉・放射能泉・含ヨウ素泉”の6種類。
これらの温泉に含まれる成分は少量でも治癒効果を期待できるケースもあり、化学的にも理にかなった泉質でもあるのだ。

また、その成分によって各々が大変個性的な温泉となっている場合も多い。
湯治目的ではなく、単に温泉の多様性を楽しむだけでも存分に魅力を楽しめるのだ。
特殊成分を含む療養泉を探して巡るだけでも十分に温泉ツーリングを楽しめるに違いない。

では今回は6種類の特殊成分を含む療養泉とお勧めの一例についてお話させて頂こう。

福島県:沼尻元湯

安達太良山の麓より湧出する強酸性の温泉。
湧出量は何と1万3000l/分以上!単一源泉の湧出量としては日本一を誇る。
源泉は川となっておりその膨大さは一目瞭然。
しかし、完全な野湯であると共に火山ガスが随所より噴き出す危険地帯。
現在は立入禁止地域に指定されておりツアーでのみ入浴が楽しめる。

6種類の特殊成分を含む療養泉

硫黄泉

硫黄泉は硫黄成分が多く溶け込んだ温泉の事だ。
硫化水素型と硫黄型に分類され、硫化水素型は白濁、硫黄型は透明~緑色になるのが特徴的だ。
特に硫黄型は透明度の高いエメラルドグリーンの湯になる場合もあり、温泉ファンにも大人気の泉質。

硫黄分による殺菌力が強く、水虫・慢性湿疹といった皮膚病に効果が期待できる特性がある。
その反面、肌への攻撃性も強めで肌荒れの原因になる場合もある点にも注意が必要だ。

長野県:野沢温泉共同浴場 大湯

北信屈指の名湯として知られる。日本屈指の古湯でもあり、特徴的な温泉街を形成。
情緒抜群の景観も魅力的だ。
温泉街内の外湯が13ヶ所設置されており、外湯巡りで昔ながらの共同浴場温泉を楽しめる。
街路が狭いため駐車場に停め、徒歩で散策するのがお勧めだ。

酸性泉

多量の水素イオンを含んでおり、塩酸又は硫酸成分の温泉だ。
他の成分を複合的に含有している場合も多く、白濁の湯も多い。
酸ヶ湯温泉・草津温泉・雲仙温泉などpHが2を切る強酸性泉も多く、肌への攻撃性が高い少々狂暴な泉質でもある。
肌の弱い方は温泉成分を流してから拭き取った方が良いだろう。
反面、殺菌力に優れ、水虫などの慢性皮膚病に効果が期待できる。

群馬県:万座温泉 銅粉の湯

万座温泉街より外れた沢沿いに湧く野湯。
白濁の湯溜まりが随所にあり新鮮な源泉が足元より湧出するファン垂涎のロケーションが魅力だ。
しかし、徒歩約40分程度の藪漕ぎが必要な上、一帯は熊出没地域。
武装したガイド無しでは危険なためハードルも高い。

二酸化炭素泉

その名のように二酸化炭素が溶け込んだいわゆる“サイダーの湯”だ。
二酸化炭素が溶け込んでいるため泉温は低いケースが殆どだが、全身が泡に包まれる爽快感が魅力的。
さらに肌より吸収される二酸化炭素によって血管膨張の作用があり、血流改善の効果も期待できる泉質だ。
国内でも少ない泉質のため温泉ファン以外にも人気の高い泉質でもある。

岐阜県:湯屋温泉 ニコニコ荘

泉温は10℃未満の冷鉱泉だが国内屈指の濃度を誇る炭酸泉として穴場的人気を誇る温泉地。
泉温が低いため加温浴槽だが、堆積物の層は見もの。
加温してもシュワシュワ感の強い湯はファンならずとも感激間違いない。
飲泉場も整備されており持ち帰る事も可能だ。

 

含鉄泉

温泉中に鉄イオンを多く含む泉質。
浴槽が赤茶色に濁っているケースが多く、濁り湯の典型例とも言える。
実は湧出時は透明なのだが浴槽内で鉄分が酸化する事により濁りが発生するのが化学的メカニズムだ。
そのため、非常に希少ながら浴槽に大量投入されている場合は透明な湯である事もある(例:長野県/加賀井温泉 一陽館)。
飲泉により貧血に効果が期待でき湯治場として愛される浴場も多い。

長野県:小赤沢温泉 楽養館

秘境、秋山郷に湧く温泉施設。
真茶の濁り湯が特徴で浴槽堆積物も見事な温泉だ。
湧出量は膨大ではないが、泉温も丁度良く気軽に訪れやすい温泉だ。
含有する鉄分は療養泉規定値の約2倍という高濃度含鉄泉。
信州ツーリングではぜひ訪れておきたい温泉だろう。

 

放射能泉

その名が示すように放射性物質を含む温泉だ。
放射線…と聞くと恐ろしいイメージがあるだろうが、実は国内の温泉の約8%程度を占めており、決して珍しい泉質ではない。
また、含有する放射性物質はラドンやトロンといった半減期の短い成分である。
しかし、ホルミシス効果に関しては医師の間でも賛否分かれており、医学的に決定的ではない事にも注意が必要だ。
しかし、入浴・飲泉共に痛風に効果が期待できる唯一の泉質であり、医師の指導の元、温泉療法にも利用されている泉質でもあるのだ。

鳥取県:三朝温泉 河原風呂

平安期には文献にも登場する古湯。
付近一帯は日本最大規模のラドン温泉地域で、温泉街と共に温泉療法を目的とした医療機関も点在している。
情緒抜群の温泉街を形成しており、温泉ツーリングの目的地としても最適だ。
この河原風呂は三朝温泉の象徴とも言える外湯。
無料かつ24H入浴可能だが混浴のため気づかいと注意が必要だ。

含ヨウ素泉

平成24年に新たに認可された泉質でヨウ化イオンを多く含む泉質だ。
身近なヨウ素製品ではイソジンが代表例だが、極めて殺菌力に優れた温泉である。
源泉湧出時から茶色く着色があり、腐植質(モール成分)を同時に含むとより濃い黒湯となる。
殺菌性の他、飲用にて高コレステロール血症への適応が期待されている。関東一帯にも多い泉質だ。

北海道:豊富温泉 町営ふれあいセンター

大正期に開拓された北海道では歴史のある温泉。
重油のような特有の匂いが特徴的で、地元ではもちろん、ライダーの間でも人気の温泉施設だ。
特に湯治客用の浴場は源泉をそのまま引いており、独特の匂いと色がより印象的。
一大温泉地ではないが穴場感は抜群。

まとめ

以上がより深く温泉を楽しむ上で知っておきたい6種類の“特殊成分を含む療養泉”の詳細だ。
もちろん、あくまで効果を期待するレベルであり本格的な身体治療は医師の指導が必須となる。

しかし、この6種類は療養泉としては別格の泉質。
ツーリングへ行く地域より温泉を探すのもプランだが、自身の好みや身体症状に合った泉質を巡る湯治ツーリングも新しいプランニングとして検討してみるのも良いだろう。

古来より湯治は旅とセットで行われてきた日本の文化。
現代において、バイクで湯治旅へ出かける事は全く自然な事なのだ。
バイクと共に世界に誇る温泉大国の湯を存分に楽しんでみよう。

筆者プロフィール

神田 英俊

内外出版社発行、隔月刊ツーリング雑誌“MOTOツーリング”誌のコンセプター兼編集長。“旅人による旅人の為の雑誌”を基本コンセプトに、全国のDEEPな旅ネタを更に深く掘り下げて取材・掲載している。個人的なバイク趣向はオフロード。季節を問わず、主にキャンプを基軸とした旅が中心。冬季北海道ツーリングの常連でもある。バイクと共に温泉もこよなく愛しており、温泉ソムリエの資格を持つ秘湯巡礼ライダーでもある。