SUZUKI グラストラッカー -トラッカーブームへのスズキの回答-
公開日:2026.02.24 / 最終更新日:2026.02.24
90年代後半、TW200のカスタムが引き金となったストリートトラッカームーブメントが盛んな中、各社ともに新作投入に燃えていた。
ヤマハからはすでにブロンコという提案があり、そして2000年、ホンダのFTR223とスズキのグラストラッカーがデビューした。
※本記事に掲載されるバイクの画像はメーカーオリジナルの状態と異なる場合があります。
SUZUKI グラストラッカー
オシャレバイク→カッコいいバイク
空冷シングルというごくシンプルなエンジン形式を採用する、シンプルなバイクをカッコよく街乗りに使おうという向きは90年代前半からあったように思う。
FTRの250の方や、XRやセローといったオフ車をベースとしたストリートカスタム愛好家は確実に存在した。
しかしそんなムーブメントを本格的なブームに押し上げたのはTW200の存在だろう。
ストリートトラッカーなるブームは、「スカチューン」や「スーパートラップ」といったキーワードと共に、世紀をまたぐころに大いに盛り上がったのだった。
スズキは空冷シングルとしては95年登場のボルティを持っていた。
これはオフ車DR系の空冷SOHC4バルブシングルエンジンを搭載したモデルで、国内ではそのシンプルさと価格の安さが大いに注目された。なにせ29万8000円だったのだ。
堅実なつくりも手伝って確実にファンを獲得したが、しかしその安さばかりが注目されてしまったきらいもあるように思う。
堅実なファンに愛された代わり、若者にはもう一つ浸透しなかったようなイメージだ。
ただ欧州での反応はまた違って、「スズキの初めてのオシャレバイク!」と受け止められたそう。
タンク形状などなかなか特徴的ではあるが、なるほど95年としては確かにずいぶんスタイリッシュかつ個性もあり、今振り返ると国内でもヨーロッパのような評価があってもよかったバイクだ。
しかし先述のストリートトラッカーブームにおいてはボルティでは若干弱かった。
ダートトラックやオフロードイメージも伴う「トラッカー」というジャンルにカテゴライズするにはオシャレすぎたのかもしれないし、郵便局に採用されたりしたこともあって実用車的なイメージも強すぎたのかもしれない…
スズキは2000年にグラストラッカーを投入し、名前からしてトラッカーを強く意識した、スポーティでカッコいい、かつ若々しい路線を新たに提案した。
ボルティの良さはそのままに
忘れてはいけないのは、ボルティがそもそもとてもいいバイクだったということだ。
このエンジンは他にも多く使われた名ユニットで、筆者は同系列エンジンを搭載したGN250というクルーザーモデルでアメリカ横断16000㎞を走破した経験もある。
また今でもこのエンジンのコピー品が多く出回っている事実もあり、その是非はともかくとしてそれはシンプルで使いやすく壊れにくいユニットとして世界的に認識されている証拠ではないかとも思う。
そのボルティをベースに作られたグラストラッカーも悪いわけがない。
エンジンのスペックは全く同じでタイヤサイズも同じのフロント18インチ・リア17インチ。フレームもボルティをベースとしながら、流行のトラッカーカスタムを意識して各部品をミニマムに作り直し小型のタンク、細身のシートなどを採用してモダナイズした。
細身のシートは足つき性を確保したし、テール周りもすっきりとしつつタンデムも容易なシート形状とし、取り回しにも便利なタンデムグリップがついていたことも印象的だった。
乗り物としての確かさはボルティからしっかりと引き継ぎつつ、スズキはトラッカーブームに乗っかってきたのであった。
「ビッグボーイ」の登場で本格トラッカーへ
グラストラッカーのデビューは、このフロント18インチ、リア17インチのモデルだった。
TW200はそもそもバルーンタイヤが大きな個性だったし、FTR223もまたファットな前後18インチタイヤと堂々とした車格が特徴的だったのに対し、最初のグラストラッカーはオシャレではあったが若干小柄であり、女性ライダーからも支持されるという面があった。
それはそれで大変に良いことだったのだが、「トラッカー」としては、初代FTR(250)のようにフロント19インチ、リア18インチというのが本来の王道。
そこでスズキは2001年にはグラストラッカー「ビッグボーイ」を投入、基本はスタンダードモデルと共有しながらもフォークやスイングアームを延長し、フロント19インチ、リア18インチを採用し、そこにはダートトラックタイヤの定番、ダンロップのK180を組み合わせてイメージ強化を図ったのだった。
この変更がグラストラッカーの存在感を確実にしてくれたのだが、しかし各種ライバルも強力であり、他を圧倒するような人気とは言えなかったかもしれない。
特にFTR223は34万9000円とグラストラッカービッグボーイよりも5万円ほど安かったし、エストレヤのバリエーションモデルで個性的な「250TR」も2002年にデビュー。
こちらも34万9000円とFTR223と足並みを揃えていたため、グラストラッカーは価格設定という面でちょっとしたハードルがあったようなイメージだ。
4バルブ→2バルブ→インジェクション化
グラストラッカーシリーズは大きく分けて3タイプである。
最初のモデルはDR系の空冷SOHC4バルブエンジンを搭載。
信頼と実績の名ユニットであり、「過不足ない」という概念があるとすればまさにこのエンジン。トコトコと走り続けることもできれば、ビーンと回していけば元気な高回転域もあった。そういった点では低回転トルクや粘りにフォーカスしたFTR223よりもフレキシブルなエンジンだったともいえるし、FTRやセローに対して250㏄フルサイズという排気量のアドバンテージもあった。
2004年には早くもモデルチェンジ。
エンジンをこれまでの4バルブユニットから、ボルティの後継的位置づけの新型車ST250の2バルブユニットに変更した。
これは各種規制に対応しつつ、豊かな常用域トルクを求めてのこともあるだろうし、排気口が1つとなることでエキパイもこれまでの2本から1本になるなど、もともとシンプルな作りだったのをさらにシンプル化させるという目的もあっただろう。エンジンそのものもずんぐりと丸っこいデザインになって、当初のカッコいい路線から柔和なイメージとなった。
さらに2008年にはインジェクション化。
この時にグラストラッカーのウィークポイントであったわずか6リッターの燃料タンクが8.4リッターに増やされたのは嬉しい変更点だ。
またモデル末期になると当初ビッグボーイで求めたスポーティなトラッカーテイストから、再び初期の親しみやすく、お洒落な路線に回帰したようでもあった。
特にスタンダードモデルの方はファッショナブルなブラウンやメタリックグリーンといったカラーも展開し、アクティブというよりは「ファッショナブル」なモデルになっていた。
試乗を振り返る
新車価格はライバル勢よりもいくらか高い印象もあったが、新車値引きもあったのだろうし、そして中古となるとリーズナブルになるのはスズキの常。
おかげでグラストラッカーは登場してしばらくしてからは手に入れやすいモデルになっていたし、よく見かけた。
人気に拍車をかけた「ビッグボーイ」と、個人的にわかりやすく区別するため、そして愛情も込めて「スモールガール」と呼んでいるスタンダードモデルで、実はかなり乗った印象は違う。
ビッグボーイはスリムなシートとかなりワイドなハンドルでまさにダートトラッカーといったイメージ。
堂々と乗れるしタンデムも容易で、なるほどボーイズに好まれそうな体躯をしていた。
ストリートを走り回るにはハンドルがワイドすぎる感があったが、こういったモデルはカスタムありきといった風潮だったため、多くの人が好みに合わせてハンドルを変更していたように思う。
対するスモールガールはとてもコンパクトで気軽である。
ハンドルもとても近く感じるしシートも低く重心が地面に近いという安心感がある。
操作感はまさにボルティなのだが、筆者が自分で乗っているトリッカーにも近いぐらい、小さくて自信が持てる構成だ。
またオフ車ベースではないためかサスストロークも適度に抑えられていて、ストリートをゆっくり走っていても、郊外で気持ちよく飛ばしていてもフワフワする感じはなく、とても安定していた。
ルックスとしてはビッグボーイの方がカッコいいのかもしれないが、グラストラッカーらしさという意味ではスモールガールの方がライバルに対して確かな個性やアピールがあったようにも思う。
エンジンに関しては2車ともに共通のイメージだ。
ルーツはDRというオフ車ではあるものの、GNやボルティを経てグラストラッカーに搭載されたころにはスポーティさはかなり薄まり、実用車的イメージが強い。
常用域から頼もしいトルクがあり、積極的な操作を求めてこないのだ。回せばそれなりに力もあるのだが、トコトコ走りたいのならどこまでも付き合いますよ、といったやさしさがある。
モデルチェンジして2バルブになると、4バルブからバルブ数が減ったことで性能は落ちそうなイメージだが、実際に乗った感じではそんなことはない。
出力値も4バルブと同じで、トルク値は微増。またメッキシリンダーを採用するなど実は力の入ったモデルチェンジであり、燃費向上やオイル消費低減など確実な進化を果たしているのだ。
乗ったフィーリングもだいぶモダンな印象となっており、わりと無茶なカスタムや全体的なメンテ不足による不調車も多かったトラッカーブーム後半の時代において、かなり洗練された印象となっていた。
さらにモデル末期にはインジェクション化を果たすのだが、これもまた歓迎すべき点である。
キャブレターを愛する向きがあるのはわかるものの、グラストラッカーが採用していたミクニのキャブレターはしばらく乗らないとヘソを曲げることもあったため、インジェクション化によってそういった心配から解放されたのは大きく、さらに気軽さが高まった。
もう絶版となるころ、最後の2バルブ・インジェクションのスモールガールに乗った経験は今でも非常に良い思い出として残っている。
エンジンのかかり、フケ上がり、振動の少なさや扱いやすさは極上で、そしてスモールガールの小さな車体ながら185㎝の筆者でも窮屈さはなく、本当に気持ちよくストリートを駆け巡れた。
ソリッドのカラーリングもとてもオシャレで、当時本気で購入を考えたのを覚えている。というか、この記事を書いている今、改めて欲しくなってしまった…。
初期のグラストラッカーで、それこそ当時を懐かしんで改めて「スカチューン&スーパートラップ」を楽しんでもイイだろうし、最終型を買ってクリーンにオシャレにストリートを走るのもイイだろう。
グラストラッカー、改めてアレは良いバイクだった。

高めの位置に大きいヘッドライトがあったボルティに対して、ライトの位置を下げて小型化したことでスポーティなイメージとなったグラストラッカー。
スタンダード
ビッグボーイフロントフォークにはフォークブーツがついてトラッカーイメージを追求。文中では対比のために「スモールガール」と呼んでいるスタンダードモデルはボルティと同じフロント18インチホイール。後に登場した「ビッグボーイ」はフォークを延長してフロント19インチを採用。K180タイヤを組み合わせたことでダートトラックイメージを強化した。

DR系の空冷SOHCエンジンを転用。信頼と実績のエンジンだったが、後にST250というモデルが2バルブ化した同系列エンジンを採用したのをきっかけにグラストラッカーもこのユニットにスイッチ。メッキシリンダーを採用するなどアップデートされた。後半にはインジェクション化も果たした。

ミニマムな外装がトラッカーイメージを作り出すのに大切な要素だったとは思うし、オレンジのカラーリングなどアクティブなイメージを作り出していたタンク。しかし当初の6L容量はさすがに給油回数が多かったイメージ。インジェクション化を果たしたタイミングで8.4Lへと増量された。

スリムでロングなシートは足を降ろしやすく、グラストラッカーの自信をもって扱える性格に大切な役割を果たしていた。フラットでタンデムも容易、タンデムライダーと密着して楽しそうにストリートを走る若者をよく見かけたものだ。当初クッションは少なめだったが、インジェクション化&タンク容量増加のタイミングでクッションも増やされた。

ハンドルは極端にワイドな印象だったが、FTR223もそのようなハンドルを採用していたことがあったため、これもダートトラックイメージの当時の流行だったのだろう。最終型ではそんな印象はなかったためモデルチェンジするにしたがってハンドル幅は調整されたかもしれない。メーターは最小限でトリップメーターすらなく、社外品に交換する人も多かった。
スタンダード
ビッグボーイスタンダードモデルでは17インチ、スイングアームも延長されたビッグボーイでは18インチとなったリアホイール。決してオフロード車ではないものの、スタンダードもビッグボーイも、意外と不整地が得意で砂利林道などでは元気に走り切る実力を備えていた。















