バイクの未来に切り込んでいくコンテンツを発信する『バイク未来総研』。
今回は、1953年にオーストリアでオートバイの生産を開始した、オレンジ色に墨色の文字が入ったロゴの、言わずと知れたオートバイメーカーKTMの日本法人KTM Japanの 西 光寿 ジェネラルマネージャーに就任からの振り返りやKTM車の特徴、今後のバイク業界などについて、宮城 光所長より話を伺いました。


左:西 光寿ジェネラルマネージャー 右:宮城 光所長

バイク未来総研とは

バイク業界のよりよい未来を考え、新しい価値を調査し、分析した内容を広く社会に発信することを目的に発足。国内外のレースで輝かしい成績を挙げ、現在も多方面で活躍する宮城光氏を所長に向かえ、バイクライフの楽しさやバイク王が持つバイクに関する独自データ分析などの情報発信に加え、ライダーやバイク業界がこれから描く「未来」に切り込んだコンテンツを順次発信します。

コロナ禍真っ只中でのジェネラルマネージャー就任

宮城所長(以下、宮城):ジェネラルマネージャーに就任して3年目という事ですが、就任当初はコロナ真っ只中でした。苦労されたことはありましたか。
西ジェネラルマネージャー(以下、西):就任時は2020年の8月で本当にコロナ真っ只中でした。

宮城:道路も閑散としている時期ですね。
西:そうです。首都高なんかも本当に車が通っていないような時期でこの先どうなるのか・・と世の中全体が先行きが見えない中でのスタートでした。
不安でしたが、ソーシャルディスタンスという人と離れて移動できる手段として徐々に二輪が注目を集めた時期でもありました。
本当に大変だったのですがチャンスと捉えるようになり、コロナの影響で物不足に苛まれるようになってきた流れになり、これはチャンスだと思いました。

宮城:チャンスですか。
西:はい。2020年の暮れに多めに車両の注文をしました。2021年を迎えた時に潤沢に在庫がありましたので「注文は来るのに車両がない」という事態にならず、乗り越えられたのが一番大きかったと思います。
それでも、物不足はずっと続いていましたので2022年になると徐々に仕入れたものが一部なくなって苦しい思いをしたというところがありました。

宮城:昨年は大変だったのですね。
西:そうですね、当社には生産拠点が複数ありまして、例えばインドだと400cc未満の車両の生産工場があったり、フィリピンにもコンプリートノックダウン(部品のセットを輸出し、組み立ては現地で行う輸出方式)の生産工場がありまして東南アジア全域に輸出しています。
当社でメインの仕入れ先は2つで、1つはオーストリアのオフロードおよび排気量の大きなストリートモデルの車両、もう一つがインドからの400cc未満のストリートモデルの車両ですが、一時期はどちらからも車両が入ってきませんでした。

宮城:そうでしたか。それは大変な時期でしたね。
西:仕入れを担当する購買部スタッフは本当に苦労していましたね。

宮城:日本から輸出するのも遅れるし、現地にもなかなか届かない、そんな時期でした。
西:そうですね。条件が厳しくてコンテナのブッキングが大変だったと聞いています。

宮城:昨年はロシア情勢の問題でコンテナ不足が大変でしたね。
2020年に話は戻るのですが、道路が閑散としている一方で峠のワインディングに行けばバイクは賑わっているという状況もありましたが。
西:そうですね、コロナ禍の2020~2022年と活況で、二輪の業界に携わる身として本当嬉しく感じていました。

日本で売れているKTMのバイクは?

宮城:KTMさんはヨーロッパブランドとしては珍しい400cc以下の車両も多くあります。
ブランドではKTMに加えてハスクバーナ・モーターサイクルズ、GASGASなど複数ブランド展開しています。どういうところが日本で反応が大きかったのでしょうか。
西:昨今、日本ではネオクラシックブームって起きていると思っていて、そういう状況下でハスクバーナ・モーターサイクルズのヴィットピレン、スヴァルトピレンというモデルが注目を集めました。日本のトレンドと合致して、よく売れました。

宮城:クラシックさがありながら、最新の技術と融合させたデザインってあまりないですよね。
西:新しいけどクラシカルで親近感が湧くような、そのラインを狙っています。

宮城:KTM、ハスクバーナ・モーターサイクルズ、GASGAS、3つのブランドを展開する強みというのはどのあたりでしょうか。
西:やはり幅広くお客様のニーズに対応できる事かと思っています。百人百様、バイクの好みは様々ですが、たとえばバイクの好みでパフォーマンスを優先されるお客様はKTM、
ヘリテイジ寄りの好みのお客様ならハスクバーナ・モーターサイクルズ、これからバイクを乗ってみたい、オフロードを乗ってみたいという方はGASGASといったように、お客様の好みや状況に応じてより幅広く対応できるようになったというのが強みだと思います。

コロナ前と今。バイク業界とライダーに感じる変化

宮城:コロナ前と比べて変わったと感じたことはありますか。
西:我々から見た時に感じる変化といえば、やはり販売台数がグッと上がったことですね。ライダーで言うとお客様がバイクを購入される動機に変化が出てきたと感じています。

宮城:どのように変わったのでしょう。
西:コロナ時代になっていわゆる「人とつるむ」というのが敬遠される状況で、バイクはソーシャルディスタンスが保たれる乗り物であるというのと、
SNSや動画で“映える”バイクを撮ってアップしたいという気持ちと、バイクが好きという気持ちが重なって購入される方が増えた感覚があります。

宮城:SNSでバイクの画像をアップする人は増えましたね。
西:さらに、購入される方はコロナ後も見据えていますよね。今は表立って仲間とツーリングとかはできないけど買ったバイクをSNS上にアップするなどして、バイク好き同士繋がっておいて、コロナが落ち着いたらツーリング行きましょうという事を話す訳ですね。

宮城:確かに世の中の流れとしても、ここ何年か会社もテレワークになったりオンライン上でうまく人と人が繋がる流れが加速した時期で、その中でバイクもその繋がるツールとして使われたということですね。バイクはなぜこんな注目される存在になったのかと思われますか。
西:うまくソーシャルディスタンスを保つという時勢に合ったという点、あとは行政の施策も大きいと思います。
たとえばなかなかバイクを停める場所がないという状況で東京都が駐輪場を多く作る動きも出てきて、不便なくバイクに乗れる環境になってきました。
あとは昔と比べてクリーンなイメージもついてきているというのもありますし、SNSでアップされるバイクの画像を見てカッコいいものだという認識が広まったというのもあるかもしれませんね。

宮城:KTM本社としてバイクの乗り方を教えるといったアプローチはされているのでしょうか。
西:はい。定期的にディーラー様向けにトレーニングを実施しています。例えば大型のアドベンチャー車両に特化した試乗トレーニングをして他社比較をした上で違いを知っていただいたり、機能や安全面などわかりやすくお客様にお伝えできるようアドバイスさせていただいたりします。

宮城:まずはディーラーにバイクの事をよく理解していただいて、お店からお客様にも正しく伝わるようリーチしていくという事ですね。
西:バイクって趣味性の高い物アイテムですから、お客様の興味・感情にどこまで訴える事ができるかが鍵だと思っています。お客様の感情に訴えるこだわりの部分をしっかりとディーラー様に伝えていく事は意識しています。ディーラー様もしっかりとお客様のニーズを汲んだ上で丁寧に販売をされていると感じています。

宮城:KTMのバイクは世界中のモータースポーツレースで本当によく見かけます。アメリカのスーパークロス、先日のダカールでも優勝しましたし、MotoGPでも結果を出しています。こういったレースでの結果というのはKTMとしてお客様には伝わっているのでしょうか。
西:特に日本ではMotoGPの影響が大きいですね。

宮城:そうなのですね。
西:日本でもかつてダカールは日本でもブームになっていたのが落ち着いていて、モータースポーツ全般が日本では注目されずらい時期が続きました。
ですが、MotoGPというのは一貫してバイク乗りの聖地みたいなものだと感じますね。ネイキッド、スーパースポーツ系のバイクに乗っている方がバイクで現地に行って観戦する、という感じでしょうか。
2017年からKTMはRed Bull KTM Factory RacingでMotoGPに参戦しています。参戦当時の戦績は芳しくなかったのですが、徐々に成績も上がっていきました。

宮城:そうですね、優勝もされていますし素晴らしいと思います。
西:ありがとうございます。昨年も結果が出て注目度も上がっていき、ファンも増えて反響も大きくなっていったと感じました。

宮城:MotoGPマシンの話になりますが、V4エンジンのグランプリマシンレプリカが出ないのかとスポーツバイクファンは皆心待ちにしていると思うのですが。
西:そうですね。我々KTMとしては中途半端なものは出さないようにしようと思っています。レースに勝つDNAを“READY TO RACE”のスローガンのもと、ファンの皆さまにお届けするというのが使命ですから、その名に恥じないものを、と思っておりますので今しばらくお待ちください。

宮城:楽しみにしています。“READY TO RACE”)というお話が出ましたが、KTMのマシンといえばシャープなハンドリング、エンジンのレスポンスも良いと、モータースポーツファンやバイクを乗り続けている人ならアグレッシブなパッションが車両を通して伝わっていると思うのですが。
西:そうですね、ただそれが乗っていただかないとどうしてもわからない部分があると思います。

宮城:乗れば虜になるという車両ばかりですよね。
西:そうですね。乗ればわかるし、乗らなければ派手な車両だなという印象で終わってしまうこともありますから。

KTMといえばオレンジ。ブラックやホワイトのニーズは?

宮城:KTMといえば、ブランドとしてオレンジが必ず全面に出てきますが、お客様からブラックやホワイトを求められることはないのでしょうか。
西:もちろん、そういうカラーをご希望の方もおられるのですが、我々KTMではオレンジというのは血の色も同然で、基本的には代えがたいものと思っていますが、
たとえば、オレンジを差し色にしてブラック・ホワイト系の車体というのはあります。
『KTM 1290 SUPER DUKE R EVO』ならブラックと紺色系の外装にオレンジの差し色を入れています。


KTM 1290 SUPER DUKE R EVO

宮城:あれもキレイですよね。KTMのラインナップの話になりますが、ロードのストリート系があって、オフロードは公道でも走れるストリートリーガル系の車両と競技用のマシンなど多くのカテゴリーがありますよね。他にどのようなカテゴリーがあるのでしょうか。
西:例えばオフロードはモトクロス系とエンデューロ系とありますが、日本国内だとあまり流通はしていませんがクロスカントリー系というのもあります。
エンジンはモトクロス専用に開発するモトクロッサーに近づけて、足回りはエンデューロに近づけている、という特徴があります。

宮城:幅広いですね。一番世間で反響があるのはどのジャンルなのでしょうか。
西:やはり日本国内だとどのメーカーさんでもそうだと思いますが、ストリートのネイキッドが一番反響がありますね。

宮城:扱いやすいですよね。私の大好きなビッグアドベンチャー系の反響はいかがでしょう。
西:一部には根強い人気ですが、まだまだこれから人気が出てくるといった印象ですね。
宮城:そうですか。もっと人気が出てほしいものですね。

790モデル復活の意図

宮城:アドベンチャー系は890という素晴らしいモデルがあるにも関わらず、
790をまたラインナップに復活させましたが、どういう意図があったのでしょうか。
西:これは日本では扱いやすく車重も軽くてお求めやすい価格帯のニーズが一定数あるという所で、790をラインナップに復活させたという部分があります。
宮城:そういう事でしたか。790はとても扱いやすいですよね。


KTM 790 ADVENTURE

西:重いバイクがだんだんきつくなってきたという方でもエンジンは素直で軽くて扱いやすいので、そういうお客様には合っていると思いますね。
宮城:今年も続々とラインナップが充実していますが、これはどういう意図でしょうか。

西:KTM、ハスクバーナ・モーターサイクルズ、そしてGASGASすべてそうなのですが、幅広いラインナップとし、お客様のあらゆるニーズにお応えしたいという気持ちがあります。
新型モデルも登場しますし、既存モデルのグラフィックを変更した2023年モデルも発売します。890 ADVENTUREは外装も変更して、よりシャープなルックスになっています。
また、細かな部分でパーツの強度をアップしたり、軽量化をする等、アップデートしています。


KTM 890 ADVENTURE R

宮城:性能とルックスを常にアップデートしていただけるのは、ファンも飽きないですし嬉しいですよね。
西:KTMは自社でファクトリーレーシングチームを抱えていますので、ライダーから直々にフィードバックがあり、それを直接製品づくりに生かせるのがKTMならではの強みだと思っています。

宮城:レースのDNAを直接バイクに流し込める訳ですね。日本国内でのお客様は、KTMというブランドにどのような印象を抱いているのでしょうか。
西:やはり外車という括りで、敷居が高そうだなというイメージがあると思います。乗りやすいバイクや買いやすい価格帯など沢山ありますし、ぜひお気軽にディーラーにお越しいただきたいですね。

宮城:全国でディーラーはどのくらいあるのでしょう。
西:KTMは37店舗、ハスクバーナ・モーターサイクルズが25店舗、GASGASが13店舗あります。(2023年2月22日現在)
宮城:バイク王もKTM小山を昨年10月に正規ディーラーとしてオープンしています。正規ディーラーに期待することがありましたらお願いします。


KTM小山

西:お客様がKTMのバイクに乗っている、乗っていないに関わらず、バイク好きが集まるような憩いの場になればよいなと思っています。
広々とした店内で好きなバイクを眺めて、コーヒー飲みながらバイクについてあれこれ雑談をするという、その地域のバイク好きが集まる所というのが理想ですね。
私もそうですが、バイク乗りは行く場所がほしいものですから(笑)
宮城:その通りですね。行く場所があれば乗っていくし、行く場所がなければ乗らない。わかります。

西:バイク乗りの目的地であり続けていただきたいですね。
宮城:本社からディーラー向けにイベントなど提案したりはするものなのでしょうか。
西:そうですね、テストライドキャラバン(試乗会)など既存のお客様に対して行うイベントのサポートなど行ったりしています。
ディーラー様からご要望があれば、サポートいたしますので力を合わせて運営できればと思っています。

KTMの強みとは

宮城:色々お伺いしてまいりましたが、まとめとして、KTMブランドの強み・特長を一言で言うと何になるでしょう。
西:先程お話に出ました、ファクトリーレーシングチームを持っている事によりライダーからのフィードバックを活かせる等、ありますが、バイクで言えば、「車重」と「操舵性」でしょうか。
とにかく扱いやすくて良くできています。

宮城:そうですね。
西:見ただけではわからないのですが、乗れば各部の作り込みが何故こうなっているのか、わかってくるものです。たとえば、何故この位置にハンドルがあるのかとか、ですね。

宮城:ハンドルが幅広いのも理由がありますよね。パイプフレームも楕円のものを使っていて、特徴的です。
西:鉄って粘り気と強度があるため、より細く作れるので意外とアルミでしっかり作るより軽くなるんです。
細かな加工をするのに鉄は向いていて、KTMの車体は緻密に計算されて作られています。

宮城:それであの秀逸なハンドリングが出来るわけですね。790 DUKEの国際メディア試乗会に参加させていただいた事があって、全く知らない道でも気持ちよく加速できるし、きちんと止まれてターンも軽やかで、初めて乗ってこれだけ扱いやすいのは感動的でしたよ。
西:ありがとうございます。

電動バイクへの取り組み

宮城:最後になりますが、KTMは電動バイクへの取り組みも早かったですよね。今後はどのようなプランをお持ちでしょうか。
西:KTMも参画していますが、2021年に共通のバッテリーを使い、電動バイクが普及に向けての地盤をつくっていく事が決められたコンソーシアムがありまして。今後、ますます力を入れていく事になります。開発段階ではあるものの、電動の車両の試作も視野に入れています。

宮城:スポーツバイク、オフロードバイク、ネイキッドなどもですか。
西:そうですね。そのプロトタイプも本社KTMのミュージアムに既に展示されています。
宮城:それらが乗れる日を本当に楽しみにしています。本日はありがとうございました。

筆者プロフィール

宮城光

1962年生まれ。2輪・4輪において輝かしい実績を持つレーサーとして名を馳せ、現在ではモータージャーナリストとしてMotoGPの解説など多方面で活躍中。2022年、バイク未来総研所長就任。