エンジンには様々なシリンダー配列があります。
そしてこれがエンジンのフィーリングや排気音のみならず、ハンドリングにも大きな影響を与えているのです。

今回はシリンダーの配列で、どのようにバイクの特性が変化するのかを説明することにしましょう。

シリンダーが前傾するとどうなる?


シリンダーとヘッドが前傾すると重心位置が変わり、バイクのハンドリングに影響します。
シリンダーが前傾するとフロント荷重が増すと同時に重心位置が低くなり、安定性が高まる方向になるのです。
ただし、前傾角度が大きくなるとブレーキング時にフロントホイールと干渉しやすくなるので限界があります。
また、シリンダーが適度に前傾している場合は、吸気ポートの曲がりを少なくできるので、吸入効率を向上させやすいというメリットもあります。

バイクは車体が小さいのでシリンダーの角度が変わるとパッケージング(どこにどのパーツを搭載するか)も変わってきます。
だからバイクを設計する時は吸気効率、ホイールベース、重心位置、パッケージング、デザインなどを総合的に考えて最も適切な前傾度合いを見つけ出しているのです。

ちなみにレトロイメージなバイクの場合は、シリンダーが直立(バーチカル)しているケースもあります。
これは見た目のイメージを重視しているからです。
多少前傾させる程度であればメリットがそれほど多いわけではないので、それだったらクラシックバイクと同じバーチカルにしてしまおうという考えです。
空冷エンジンの場合、直立させると風が当りやすくなるので放熱性に寄与するというメリットもあります。

並列エンジンのメリットとデメリットは?


並列エンジンはカムシャフトや、これを駆動するカムチェーンなどが一つで済むので、V型や水平対向に比べると部品点数を少なくすることができ、結果として軽くすることが可能です。
また、重いシリンダーが前に集中しているので、スポーツバイクで重要となってくるフロントの荷重を高めるのにも有効なレイアウトです。

一方でシリンダーが横並びになるので多気筒エンジンは横幅が広くなってしまいます。
特に空冷エンジンはシリンダーとシリンダーの間に空気を通さないと冷却できないので、この問題が顕著になってしまうのです。

この問題も水冷になってからは改善されました。
冷却を気にすることなくエンジンの幅を狭くすることができるようになり、ジェネレーター(発電機)をクランクシャフトの横ではなく、エンジンの背面に移動して横幅もコンパクトにしています。

フィーリングと排気音を大きく変える爆発間隔


並列エンジンはその排気音も魅力的なのですが、爆発間隔が異なっているとフィーリングや排気音がまったく違うものになります。
並列2気筒を代表する360度と180度で説明することにしましょう。

360度は2個のビストンが同時に上下します。
代表的なバイクはカワサキのW800。
4ストロークエンジンの場合は、1気筒が2回転に1回爆発するので、360度クランクなら左右交互に爆発させると爆発の感覚が等しくなり、スムーズな出力特性になります。
ただしピストンが2つとも同時に上下するので高回転では振動が多く出ることになり、パワーを追求するエンジンには向いていません。

対して左右のピストンが互い違いに動くのが180度クランク。
片方のピストンが上にある時、もう片方のビストンは下にあります。
重量的にバランスが取れるので360度よりも高回転での振動が少なくなる方向になり、スポーティーなマシンやミドルクラスのツインエンジンに多く採用されています。
爆発は不等間隔なので同じ排気量のツインでも360度とは排気音やフィーリングがまったく違うものになります。
ちなみに60年代に発売されていたホンダのCB72の場合は、360度クランクと180度クランクの両方のモデルが用意されていました。

独自のフィーリングを生み出す位相クランク


クランクピンの位置をずらす「位相」という方法で爆発間隔を変え、エンジンのフィーリングや排気音を意識的に変えているバイクもあります。
代表的なものとしては90年代から少しずつ増えてきた270度クランク。
V型エンジンのトラクション性能(リアタイヤをグリップさせる力)が並列よりも高いということから、同じ特性を並列エンジンで作り出すために生まれた方式です。
それまでのツインはクランクピンの位置が左右で同じ360度クランクか、位置が逆転している180度クランクでしたが、これを90度ずらしたのが270度クランク。
最近はエンジンのフィーリングや排気音を心地良くすることを考えて採用されることも多いレイアウトです。

ちなみにこの不等間隔爆発を並列4気筒で採用しているのがヤマハのクロスプレーン。
だからR1は、同じ並列4気筒なのに、ライバルとはまったく違った排気音とエンジンフィーリングになっています。

V型エンジンはスリムさと排気音が魅力


並列と並んで多いのがV型エンジンです。
有名なところではハーレーが伝統的にVツインを使い続けています。
ドゥカティのL型も前後バンクを90度にしたVツインということが出来るでしょう。
V型の場合、前後シリンダーの角度を90度にするとお互いに振動を打ち消し合うという大きなメリットがあります。
多くのマシンはバンクが90度よりも狭くなっているので、完全に打ち消し合うわけではありませんが、ホンダはクランクピンの位置を位相させ、見た目は狭角Vツインなのに爆発間隔を90度Vツインに近づけています。
不等間隔な爆発によってトラクション性能が高いというのもVツインの特徴。
また、同じ排気量でもエンジンの幅をコンパクトにすることができるので、エンジンの搭載位置を上げなくても十分なバンク角を確保して、空気抵抗を減らすことができます。
ハーレーやドゥカティのように独特の機能美と排気音を特徴としているバイクもあります。

ホンダも80年代から90年代は、V型の高性能エンジンに力を入れてきました。
ホンダのVは、並列4気筒に比べて中速から太いトルクを発生し、ライバル達を圧倒しました。

ただしV型の場合、前と後ろで別個にバルブを駆動しなければならないので、部品点数が増えてしまいます(ハーレーのようなOHVは別です)。
スポーツバイクで問題になるのはフロントタイヤの荷重を高めるのに限界があることでしょう。
並列と違って半分のシリンダーが後ろに傾いているので、同じ場所にエンジンを搭載してもフロント荷重が減少してしまうのです。
しかしこれも適切なレイアウトや搭載位置にすれば大きな問題にはなるわけではありません。
事実、海外メーカーの大排気量スポーツバイクはV型が主流になっています。

低重心でスムーズなフラットツイン


BMWが長年作り続けているのが水平対向エンジンです。
低重心でバランスが良く、熱的に厳しいシリンダーヘッドを効率よく冷やすことができます。
爆発間隔は360度でスムーズかつ滑らかなパワー特性。
シリンダーやヘッド、吸排気系のメンテナンスも簡単です。

ただし、張り出したシリンダーヘッドがバンク角を規制してしまうので、ハイグリップタイヤを装着するスポーツバイクの場合はエンジン搭載位置を高くする必要があり、他のエンジンに比べて極端に低重心ということにはなりません。
水平対向エンジンではホンダのゴールドウイングのように6気筒エンジンを搭載しているものもあります。
トルクフルで滑らかな吹け上がりと、水平対向6気筒独特の迫力ある排気音が魅力になっています。

いかがでしたでしょう?
エンジンレイアウトには色々な種類がありますが、どれもが特性とフィーリング、排気音が違うということがお分かりいただけたでしょうか?
それぞれのメーカーが、長年受け継がれてきたエンジンレイアウトに誇りを持っています。
特に海外メーカーの場合は、エンジンのレイアウトこそが自分達のアイデンティティだと考え、独自に進化させているのも興味深いところです。
そういう観点から見ると、バイクはまた面白くなるのではないでしょうか?

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